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114話 ナナの想い

 

 サラたちがリードロイアに向けて旅立った後、ナナはほとんど廃墟となったバレロで迎えを待った。


 そこに現れたのはアルタカト方面から飛んできた小型航空機。ナナはメタリア人の戦闘機よりも一回り小さい機体にレイヴンと共に乗り込んだ。


 小型航空機は音速を越えて南東に向かっていく。行先はもちろんアルタカト。入ってこようとする者は人間だろうと動物だろうと拒絶する不思議な地域。宇宙船を守るように攻撃ドローンが配備されていた。


 それでもレイヴンとナナの2人ならば問題ない。何故ならば2人こそアルタカトの宇宙船が待ち望んでいた存在だからだ。


 ナナはレイヴンの体にあったデータチップから情報を取得。惑星アーレの衛星軌道に配置された人口衛星を経由してアルタカトにある宇宙船と交信していた。そして小型航空機を呼び出した。


 2人で乗るには狭いが、充電済みの機体はこれしかない。ナナはレイヴンの体を最優先に、自身は窮屈な体勢で空を旅した。まもなくヒューマロンドに入り、森に隠された大地の裂け目が見えてきた。


 そして2人を出迎える様に宇宙船のハッチが開いた。


 小型航空機は自動操縦により着陸。すぐさまレイヴンを救護室に運ぶための担架がやってくる。ナナはレイヴンを担架に乗せると後ろを付いて行った。周りを囲むのは自動で動く機械だけ。誰一人いない通路を進んでいった。これ以上自分ができることは何もない。ナナはレイヴンが手術を受ける様子を眺めていた。


 それから数時間が経過した。


 現在レイヴンの体は『アーレの光』に焼かれた部分が後遺症が残らないように丁寧に閉じられている。失われた左右の腕や右足は戻ることなく、そのままの状態。未来の技術によりレイヴンは生命の危機は乗り越えた。


「さて、どうしましょうか……」


 ナナはレイヴンの体をどうするべきか悩んだ。

 彼女が受けた命令はレイヴンを宇宙船に運んだ時点で完了している。

 後はナナ自身がどうしたいかだ。


 ナナに残っていたのは12年以上一緒に過ごしたレイヴンへの想いだった。


 …………


 25年前、ナナは宇宙船で産まれたばかりの男の子を連れて外の世界に飛び出した。それからわずか数日で磁気嵐に遭い、機能を停止してしまう。


 その直前に、偶然出会ったジル・ソルバーノに男の子を託せたものの、自身は異常な電流を受けてフリーズ。再起動時にも完全に復旧することはなく、重要なデータを失ってしまった。彼女に残ったのは母として男の子の側にいることだけだった。


 南大陸東部を歩きまわり、それから時が経つこと12年、ナナは(ようや)く男の子を預けたジルを発見した。男の子はレイヴンと名づけられたことも分かった。ところが彼のいるグローリアには入ることができないという。


 ナナの戦闘力は高くないし、そもそも人類への攻撃も制限されている。勝手に会いに行っても城壁を越えられずにひと目見ることすらできない。ジルに頼み込むと政府に母親として登録してくれた。すると幸運にもすぐに政府からレイヴンと暮らせる許可が下りた。自分のファミリーネームなんてたいした問題ではない。


 そして逞しく成長したレイヴンと出会った。


 少し照れくさそうにしている男の子。

 手に触れた時本人であることは確認できた。

 体の構成が変化しているのもすぐに分かった。

 ナイトレイダーとして改造手術を受けた肉体だ。

 そんなことナナには関係なかった。

 ナナは12年間離れていた想いで溢れていた。


 レイヴンを宇宙船に連れ戻すことが自分の仕事だった。

 だが宇宙船の場所や衛星との交信コードは失われてしまった。

 命令を貫徹することはもうできない。

 それでもレイヴンと共にいれることが嬉しかった。

 一緒のベッドで眠れることに安らいだ。


 孤児院で他の子供の世話をするのも勉強になった。

 情報じゃない生のデータは貴重だった。

 レイヴンとの生活に活かそうと思った。


 それからレイヴンと少しづつ打ち解けていった。

 苦しんでいる時もあった。

 大事な時期を一緒にいれなかった自分にどうすればわからない。

 だから後ろからそっと見守ることしかできなかった。

 それでもレイヴンは受け入れてくれた。


 それからずっとレイヴンの成長を見守ってきた。

 身長も高くなり、大人っぽくなった。

 なんとなく誇らしい気分になった。


 時が経ち、レイヴンは騒がしい少女を連れてきた。

 他の子供と違って賢しい子供。

 レイヴンが何か気にかけているのも分かる。

 少しだけ気に入らない。

 でも話してみると自分と似ていると感じた。

 自分に足りない何かをレイヴンに求めている。

 後に彼女はよき理解者になった。


 それからのレイヴンは随分苦しんでいた。

 戦争が終わったと思ったら、別の戦いが始まろうとしている。

 所属が変わり、住む場所も変わった。

 それでも自分のやることは変わらない。


 いや、一つだけ変わったかもしれない。


 側にいるだけじゃなく、支えたいと思った。


 それなら、今の自分はどうすればいいのだろうか。

 少しだけ分かった気がした。


「レイヴン、早く起きて下さいね」

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