110話 とりあえずの終戦
「嘘でしょ? あの兵器を使ったっていうの? それも2度も」
ウルバスマインではGAの大勝利が大きく報じられていた。GAは初戦の敗北から立ち直り、逆に連合軍を完膚なきまで打ちのめした。その原動力となったのはもちろん『アーレの光』である。2度の発射で連合軍は壊滅状態となり、生き残った兵士たちも散り散りになって敗走していった。
ライガルリリーの代表であるパミラ・ミストリアは降伏を宣言。彼女はGAの指示に従い、捕らわれの身となった。いずれは責任を取らされて殺害されることは誰の目にも明らか。しかしながら反抗できるような存在はもうどこにもない。
これによりGAとライガルリリー、共生国家シルワールの戦争は終結を迎えた。連合軍の宣戦布告から始まった戦争は、一時的な混乱を経て、あっという間に収束することになった。GAが発射した戦略兵器の威力は大きく取り上げられ、新時代を目指すGAの象徴として宣伝されることになる。
だがそれはGA国内の話であり、たった一撃で多くの兵士たちを打ち倒し、山をも削りとった兵器は周辺国の人々を震え上がらせた。
時期を同じくして東部の町リードロイアにあるもう一つの『アーレの光』の存在も発表された。これにより東側3国はGAに首根っこを掴まれたも同然となった。動かせるのはリブナ1人だけなので東西同時に起動する事はできないが、既に西側国家は壊滅的なダメージを負っているので実質的には東側国家は常に狙われている状況になったといっていい。
大勝利の報を聞き、ウルバスマインはすぐさまGAに大使を派遣して勝利を祝福。改めて恭順の意を示した。既に交渉がどうとかのレベルは超えており、GAの望むままの条件に従うことになるだろう。
「でもこれで戦争は終わったんだよね?」
「ああ、そうだな……」
確かに西側国家の被害は大きい。想像よりも遥かに。それでも優先順位はあくまで自分や仲間たちのこと。自分の周囲に被害がでなかったことは喜ぶべきことだ。少しだけホッとしている気持ちもある。
「これからどうなるんだろうね……」
5年前、GAが魔法王国を打倒した時レイヴンは勝利の立役者だった。表舞台に出ることはなかったが、突出したレイダーの存在が勝利の決め手になった。それが現在はどうだろうか。
連合軍の小銃は鋼鉄の肉体を貫いたし、『アーレの光』に至っては全てを焼き尽くしてしまった。戦争はレイダー個人の力ではどうにもならないレベルまで来てしまった感がある。レイヴンが必死になって修行して得た力も全て無駄になったのかもしれないし、仮に戦場に出たとしても無残にやられるだけかもしれない。
だが、それでいいのだという思いもある。
レイダーの存在価値が小さくなったのはこれからの人生を考えればいい事なのかもしれない。戦いに赴くことはなくなり、誰も殺さずにすむ。生まれ故郷で警備の仕事に就くのもいいだろう。
物思いにふけるレイヴンたちの元にジルが訪れた。
「レイヴン、上からの命令が届いた。お前にはこれからクシャラで勤務してほしいってよ」
「クシャラ? いったい何故?」
「さあな。でも恐らくはGAの差し金じゃねーかな。お前にはとってここは……その……特別な場所だろ? だから引き離して、ある意味俺たちを人質にしようって思ってんじゃねーか?」
これまでの政府との関係を考えれば政府がこのような命令をしてくるとは思えない。レイヴンはジルの推測に信憑性を感じていた。
「それって私もついていっていいんだよね?」
すかさずサラが食いついた。せっかく戦争は終わったのだ。自由に暮らしたい。サラはまだレイヴンと共にいることを望んだ。
「ああ、問題ないみたいだぜ。それにナナもどうせついて行くんだろ? 寂しくなるが3人一緒の方がしっくりくるぜ。まっ元気でな」
それからレイヴンたち3人はクシャラでの生活に向けて準備を始めた。以前出掛けた時のように一時的な用事ではない。しっかりと準備を整えていく。もちろん世話になった人々への挨拶も忘れない。恐らく今後はずっとGAの命令で居場所は決められるのだろう。2度と故郷に戻ってこれないかもしれない。レイヴンは故郷の風景を目に焼き付けた。
「私も付いて行きますよ~」
準備の途中でリリが寄ってきた。
「(ナナの飯が狙いか?)」
そう思ったが、特に拒否する理由は無い。敵対するつもりはないだろうし、好きにすればいい。レイヴンは同行を許可した。ただし一言付け加えるのは忘れなかった。
「飯代は自分で稼げよ」
4人は荷物をトラックの荷台に乗せて走り出した。目的地はクシャラの中でも最北に位置する町バレロ。そこで現地レイダーから仕事を引き継ぐことになっている。
「(これからどんな生活になるんだろうな……)」
苦しい生活になるかもしれない。GAの監視下に置かれてしまう恐れもある。それでも皆と一緒ならやっていけると信じていた。




