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106話 西側の秘密兵器

 

 GAの西部にライガルリリーとシルワールの連合軍が侵入した事から始まった戦争は、初めての会戦でまさかの連合軍の勝利となった。


 勝因となったのはレイダーでも鉄獣でもない新兵器だった。


「例の武器……想定通りの威力を発揮してくれましたね」


 ライガルリリーのトップであるパミラ・ミストリアは初戦を勝ったことでまずは一安心といった表情を見せていた。もちろん兵たちの前ではそんな顔はしないが、国の上層部の中でも不安があったことは確かだ。


 彼女らの新兵器は元ナイトレイダーからヒントを得て開発された新機軸の小銃だった。通常の銃弾ではレイダーの体を打ち抜くことはできない。協力関係にあったフブルトハフマン・ゴーストが自らのメタリアルから作った銃弾で戦いに勝利してきたことを参考にして新しい銃と銃弾を作ったのだ。


 さらに独自規格を採用しているためGA軍が銃や銃弾を単独で入手しても使用することはできない。新型小銃にもメタリアルが使われており、強度が大幅に上がっている。そのような小銃の製造が行われている場所は、国の上層部を除いて誰も知られておらず、密かにそして大量に生産されていた。


 では原料となるメタリアルはどこで入手しているのか。


 それはライガルリリーと隣接するシルワールの森に他ならない。そこで獣人たちが密かに家畜にした鉄獣を繁殖させることでメタリアルを確保していたのだ。獣人たちのテリトリーで生産する事で誰にも知られることなく、それでいて安全に増やせる。


 GAから独立するよりもずっと前から計画的に増やしてきた。以前から鉄獣の被害を大きく報告しており、そんな土地にわざわざ人をやって調べる者はいなかった。そのため連合軍としては、密かに生産するのにうってつけの土地であった。


 そして両国の結びつきを強くしたのがパミラと獣人の婚姻である。彼女の娘が生まれたことで両者の結びつきは強くなり、両国は運命を共にするに至った。


 娘の名はリタ・ミストリア。


 以前にマルドーソでレイヴンたちと対峙した2世のレイダーである。見た目は他の人間と変わらないが獣人との混血児である。元々この世界の人間は獣人を祖としているので問題なく交配できる。


 そして西側両国が秘匿・独占した技術を用いた小銃を通常配備し、一兵卒にまで持たせることで広範囲に渡り、レイダーに対しても有効な面制圧射撃を行う事が可能になった。その威力は絶大で、戦力に自信を持っていたGA軍のナイトレイダーを打ち破っていった。


 そして撃ち漏らしたレイダーや、散り散りになって逃げだした兵士を鉄獣とコンビを組んだシルワールの獣人たちが襲っていく。これにより初戦でありながらもGA軍は大きなダメージを受ける事となった。


「まだまだ行くわよ。あの宇宙船を制圧して未来を勝ち取るのです」


 レイダー同士での戦力ならばまだGAが勝ってはいるものの、これによって勝敗の行方は分からなくなってきた。なにしろ一般兵がナイトレイダーに対抗する術を得たのだ。


 だが彼女たちに油断など微塵もない。ナイトレイダーの間にも緊張感が増し、これまで以上に危機感を持って戦いに出てくるのは間違いない。彼女たちの間でもそういった認識が共有されていた。


 宇宙船のあるグローリアにたどり着くまではまだ時間がかかるし、自軍にも問題点があるは分かっている。連合軍には前線指揮官の不足という弱点があった。多くのレイダーを味方につけることには成功したが、軍を指揮できるような人材の引き抜きは上手くいかず、育成もそれほどではない。そのため軍全体の士気が高いうちはいいが、足踏みしてしまえば現場を立て直せずに瓦解する恐れもある。


 パミラ・ミストリアの頼みは独立色を強める獣人たちのモチベーションの高さだ。


 そのアイコンとしてリタ・ミストリアは優秀だった。血気盛んな若者で、闘争本能が高く勇猛果敢な彼女の存在は獣人たちを大いに刺激した。


 とはいえ、猪突猛進型の娘に軍を預けるわけにはいかない。獣人たちへの象徴としては優秀だが、戦闘力・指揮能力は魔法王国との戦いを潜り抜けてきた戦士たちへ誇れるような代物ではない。なのに本人が乗り気なのだから困ったものだった。


 そこで比較的危険度の少ない東側での工作活動という任務を与えたのだが、レイヴンの活躍もあり、これに失敗。意気消沈して国に帰還することになった。結果、戻ってきてはいるものの表舞台に出せず、現在は訓練兵相手に鼓舞するにとどまっていた。

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