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【第四幕 開幕】 鬼狐ノ月 ~キコノツキ~  作者: 椋鳥
第一幕 ~星影~
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第四章 転校生 ⑤


 六時間目。

 今日一日を締めくくる最後の授業。

 科目は、『総合的な学習』。いわゆる『総合』と言われる授業。

 授業の担当はこのクラスの担任。その担任が、ある課題を出してくる。


「えー、グループワークをします」


 担任は気だるそうに生徒に向けて告げた。


 なにやら六時間目の時間と、時間オーバーすると踏んでか、持ち帰りの課題として今回の内容を行うこととなるみたいだ。


 なんだか時間が掛かりそうで面倒くさそうな課題が出たことにクラス内からはブーイングの嵐が起きるが、先生が言うには、「お前らの自主性や協調性を育むためだ」と説明される。おそらくは学校の方針なのだろう。内申点にも大きく影響するらしく覆すことはできなさそうだ。クラスメイトたちはしぶしぶ受け入れていく。


 グループワークは五人一組のグループとなって、それぞれ自由にテーマを決めて発表するというものだった。発表の仕方もプロジェクターでスクリーンに映し出して発表するもよし、大きな画用紙などに手書きやイラストを張り付けて発表するもよし、wordなど書類にまとめてクラスメイト全員に配布し、プレゼンみたいに発表するもよし。とにかくなんでもありだった。


 自由度が高すぎます、と抗議の声が上がるも、先生は落ち着いた面持ちで「お前らの好きな漫画の考察とかでもいいんだぞ」と説いていく。すると、次第に抗議の声が弱まり、ざわついていく。確かにテーマの枠組みが無く、自由度がありすぎではあるが、裏を返せば自分たちの好きなもの、興味のあるものをテーマにあげて自由に調べて発表ができると言うことだ。もしかしたら面白い課題なのかもしれないと、クラスの全員が理解したら、抗議の声が無くなり、席の前後や隣同士で、楽しそうに自分の調べたいテーマについて会話が広がっていく。


「よし、とりあえずグループメンバーを決めるぞ」


 授業を進めるべく、ドンっと教卓にくじ引きの箱が置かれる。学校側は用意周到のようだ。


 ひとりずつ順番にくじを引いていき、グループメンバーが決定する。

 魁斗を含めるグループのメンバーは、男子は友作、暁斗。女子は河野、山際。合わせて五人ひと組のグループ。


 ちなみに累はというと、好と同グループ。累はぶっきらぼうだけど、好がグループ内にいるのならどうにかしてくれるだろう。気にはなるし心配ではあるが、累の人間関係には口を挟まないことに決めてある。だから、余計なおせっかいはやめておく。自分は決まったこのグループで全力で課題に取り組むのみだ。せっかくなら楽しもうと、意気込みつつ、同グループの人たちと机を合わせて作戦会議。


 議題はこの授業が終わった後、どこで課題に取り組むかについて。つまりは放課後にメンバーが集まる場所決めの話し合いだ。


 担任の先生が伝え忘れていたことを今さらながらに口にする。


「ちなみに明日のこの時間に発表だから、頑張ってくれー」


 まさかの期限は一日のみ。一日でテーマを決めて、調べ上げ、まとめて、発表しろなど、どこのブラック企業だ。


 再びブーイングや抗議の声が教室内に響き渡る。


「発表で順位をつけるから、一位のグループは学食でなんでも奢ってやるから、声を静めてくれ」


 ざわ……ざわ……と、どよめきだす。


 「な、なんでもだって!?」「おれデラックスツインハンバーグ定食食べたい」「おれはハンバーグ&チキン南蛮定食」「わたしは韓定食!」と口々に欲の声が上がる。

 

 この学校の学食は非常に旨いらしい。しかし、ボリューミーな定食は大概が500円をオーバーしている。学生の身分である高校生たちにとって500円オーバーは高い。お金持ち以外は。


「さらに一位になったグループには、一か月持ち回りの共用部分の掃除を免除する」


 担任はさらに報酬をぶら下げてくる。

「便所掃除したくなくね?」と、ひそひそと声が上がる。


「さらにさらに一週間だけ一日一本、自動販売機でジュースを買ってやる」


 担任はとどめの報酬を引き上げる。


 「ジュース!!!!」と、クラスメイトは、もはや術中にはまっている。完全にブーイングや抗議の声を取り下げた。


 なんともいやらしいやり方だが、生徒のモチベーションは上がる。もちろん自分も。


 魁斗は弁当持参組であるため、美味しいと噂の学食は食べたことがない。是非とも頂きたい。


 抗議している時間ももったいないので、とりあえず場所決めをしようと、魁斗含むメンバーは周知すると、友作が真っ先に提案する。


「魁斗んちに集まってやろうぜ」


「えっ、おれんち!?」


「魁斗んち、一軒家だし広いだろ?」


 唐突に自分の家で課題を取り組もうと提案され戸惑う。内心は焦りに焦っていた。

 自分はもうあの家に住んでいない。今、現在の住居は皆継家だ。でも、それを誰にも伝えていないし、この学校の憧れの的と一緒に住んでいるなんてバレたら、学校での居場所が無くなってしまう。高校生活くらいは平和に楽しく日々を送りたいと強く思っているため、どうにかして提案を避けなければ、と焦りながら、あたふたしていると、暁斗が手を上げてみんなの注目を集めてくれた。


「おれんちもけっこう広いよ。大人数が来ても問題ない」


「えーっ! 暁斗くんち行けるのー!?」


「わたし、暁斗くんち行ってみたぁ~い」


 メンバーの女子二人が暁斗の発言にノリノリでのっかってくる。暁斗に賛同するように手も大きく挙手。


 空気の流れが暁斗の一言で変わった。


「うん、いいよ。おれんち来なよ」


 暁斗はニコッと笑って光の粒子を飛ばす。女子二人はキャーキャー盛り上がる。


 これは、完全に空気が変わった……。


 魁斗も賛同するように大きく頷いていると、


「じゃあ、暁斗んちにするか……。邪魔していいか、暁斗?」


「もちろん」


 暁斗の承諾もあり、課題をする場所は暁斗の家に決定した。


 助かった……と、胸をなでおろし、流れを変えた三人を見た。


 ありがとう、暁斗。ありがとう、女子ーズ。


 心の中で三人に礼をしていると暁斗と目が合った。暁斗は、ピコリンッ、とまるでアイドルがするようなウインクをして、こちらに星を飛ばしてきた。


 だから、そういうのは女子にやれ。




 

 ※※※





 結局、六限目の授業では場所決めだけで終わってしまった。

 ホームルームが終わって放課後。

 魁斗たちは暁斗に案内されて、暁斗邸へと足を運ぶ。

 暁斗の家は街の方にあるらしい。すでに周りには高級住宅が並んでいる。

 

 魁斗は歩きながら、校舎を出た時のことを思いだしていた。


 校舎を出ると、累が、ちゃんと好が率いるグループについていっていた。

 おー、えらいえらいっ! と、周りにバレないように手を叩き、まるで兄のような気分で見送った。


 上手くみんなと打ち解けていればいいな……。


 思っていたら、どうやら着いたらしい。

 暁斗の自宅前。

 自分を含む暁斗以外の御一行は口を大きく開けたまま固まった。自然と口が開いて、そして塞がらないのだ。その理由は目の前に広がる豪華な邸宅のせい。


 自宅前には門があり、厳重なオートロックを完備。暁斗がカードキーのようなものをかざしオートロックを解除すると、ガラガラと自動で門が開く。その様子を見ている間も口が閉じない。門をくぐると、海外かと錯覚するような見事な洋風の庭園。


 噴水がある……。


 玄関前に辿り着くが、その建物の大きさから見降ろされているのではないかと錯覚するほど見事な豪邸。玄関ももちろんオートロック式で、開かれた先には白い大理石で造られたエントランスが広がり、外気よりもひんやりとした空気に満たされていた。皆継家もすごいが、こちらも違う種類ですごい。開いた口はずっと塞がらなかった。


「じゃあ、リビングでしようか」


 そう言って案内されたのは少人数ならダンスパーティーができるんじゃないかと思うほど広いリビングルーム。シックな革のソファーが並び、何インチあるんだとツッコミを入れたくなるような大きなテレビ。天井は吹き抜けでシーリングファンが優雅に回っている。お店でしか見たことが無い立派なダーツボードまである。何人も腰掛けられそうなダイニングテーブルにリビングからも顔が見える洒落たアイランドキッチン。こんな大型のシンク見たことないと目をまん丸くさせた。しかも、ピッカピカだ。魁斗が呆けていると、女子ーズの二人が口を開く。


「暁斗くんち、ほんとに大きいね……。わたしこういうところに住んでみたい」


 河野が目をうっとりさせて、さりげなく暁斗にアピール。


 おお、攻めたね、河野。


「わたしも住む~」


 河野の言葉にのっかる山際。


 うんうん。叶うといいね、山際。


「ハハッ、ありがと。とりあえず適当なところに座ってて。飲み物持ってくるから」


 暁斗は爽やかに受け流し、アイランドキッチンの方へ向かう。


 女子ーズたちは、あ~んと悶えながらも、暁斗の言いつけ通りに高そうなソファーに二人並んで腰掛ける。魁斗と友作もとりあえず適当なところに座るが、家が広すぎて落ち着かない。


 魁斗は椅子に腰掛けて、天井を見やる。


 あのシーリングファンはなんのために回っているんだろう?

 

 シュルシュルと回るその物体を眺めながら、そんなどうでもいいことを考えていると、キッチンの方から暁斗が戻ってくる。手にはカチャカチャと高級そうなトレーの上に高級そうなガラスのコップを乗せて、そして高級そうなジュースを持っていた。


 こいつ、ほんとに金持ちなんだなぁ、とアホみたいな顔で眺めていると、暁斗がみんなの顔を見渡す。


「みんななに飲む? とりあえず、お茶とオレンジジュースに、ブラックダイヤモンドチェリージュース持ってきたけど……」


「「「「ブラックダイヤモンドチェリージュースで!」」」」


 とりあえず、みんなは普段気軽に飲めなさそうなジュースを選択した。

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