賭博士は契約を取り消したい
祝福と呪いは紙一重なのかもしれません。
俺の名前はジン。勝負に負けない祝福(呪い)を受けている。真面目に対決すれば負けることはない。イカサマされると負けるんじゃと思うだろうが、祝福はそんなに甘いものじゃない。
【砂埃舞う場末の酒場にて】
ある日、日が傾き始めた酒場のなか。砂埃を少し被った古い木製の丸テーブルを挟んで、髭面のおっさんが俺にニヤリと嫌らしい笑みを浮かべながら叫んだ。
「何の神様か知らないが、俺様に素敵な贈り物を送り込んでくれた。7のフォーカード!」
俺は右手で少し長くなった前髪を撫で付けながら左手にホールドしていたカードを机の上に置いた。
「ほら、Kのファイブカード。俺の勝ちだな。掛け金はそっちが提示した1000ギナだ。1ヶ月分の食費ありがとうよ。」
──あの黒髪の野郎、またファイブカード?
──またかよ、どうなってるんだ?
髭おやじは唾が飛ぶような勢いで俺を怒鳴り付けてきた。
「ふざけるなよ!お前なにかイカサマしてるんじゃないのか?!!」
「俺は何もしてないぜ?どちらかというと、あんたの方が変なことしてた気がするけどね?」
「畜生!」
丸テーブルをひっくり返す男。その喧騒の中、周囲にフードを被った男達のシルエットが近づいてくるのに俺は気付いて居なかった。
突然、男の二人組が操るサイドカー付きのバイクが扉を撥ね飛ばしながら乱入、俺を強引にサイドカーに乗せると走り出した。
「俺の掛け金!なんだおまえら?!」
「軍がお前を狙って行動中だ。逃げるにしても足がないだろ?感謝して欲しいぐらいだ。」
──俺の知るところではなかったが、慌てる影達。バイクが走り抜けるなか、確かに街の外から軍の小隊が迫っていた。
「軍の通信を傍受してたら面白いこと聞いたんだ。軍のお偉いさんにイカサマ臭い勝負を持ち込んで価値逃げした男がここの街に居るってね。」
「俺とは限らないだろう?」
俺はサイドカーの中で身を捩りながら、大佐殿から巻き上げた金品を思い出していた。
「あれだけやらかしておいて、そりゃ無理があるな。──この辺りまで走ってこれば、そう簡単には見つからないだろう?」
「なにか見返りが欲しいのか?さっき掛け金を回収してないから、何にもないぜ?」
俺に関わる価値なんて無いと伝えるものの
「なぁに、面白半分、興味半分。──あんた、賭け事に負けたことが無いって噂だ。勝ち馬にのせて貰えないかって気持ちも無くはない。」
軍が諦めて撤収するのが何時になるかとか、雑談していると、数人のフードを被った奴等に取り囲まれた。
「行く宛はあるのか?無ければ是非我らの里に来てくれないだろうか。お願いがあるのだ。勿論、礼はさせていただく。」
フードを外しながら話す男の耳は長く伸びていて、エルフだということが理解できた。
【エルフの集落】
「ジン様。あなたは我々の救世主。あなたを連れてくるために行動しておりましたが、そこの二人に浚われてからというもの、追跡に苦労しました。里の星詠みがあなたが神のつかいだと。救世主であると伝えてきまして。我々は何としても里を守りたいのです。」
酒場で俺に接触を試みようとしていたが、このエルフと男二人の軍からの救出のタイミングがかち合って焦っていたらしい。
これからどうするか、か。
「俺に何を頼むっていうんだ?」
「憎たらしいオーク共が我々の里を狙っているのです。交渉でも闘争でも受けてたつとは言っておりますが、どちらにせよよい事態にはなりらないだろうと考えております。」
「じゃあ、エルフの首をベットして、サイコロでも転がすか!」
俺は提案(?)してやった。
【オークとの交渉テーブルにて】
里の近くに天幕を張っていたオークの陣地にエルフの代表と出向き、賭け事の提案をする。
「こっちの提案はエルフどもの命を掛けてサイコロ勝負だ。単純に大きな目が出たら勝ち。負けたら素直にエルフのことは諦めて10万ゴールド渡して引き上げること。こっちが負けたらエルフやその里は好きにしたらいいさ。契約成立でいいか?破ったら神様が許さないからな?」
「受けてたとうじゃないか!(負けたらこいつを殺して仕切り直せばいい。)」
俺はサイコロを3つ持つとテーブルの上に転がした。
「合計24。」
オークは負けを覚悟したのか顔を紅潮させながら、腰の剣に手を伸ばした。。
「こうなったら力ずくだ!お前を殺して進軍すれば良いことだ!」
オークの隊長が剣を抜こうとする。
俺は言ってやった。
「契約は破られた。神様が怒るぜ?」
「なんの神だっていうんだ。直接出てくるのか?ははは!」
「貧乏神だよ。」
「馬鹿か!死ね。」
オークが勢い良く抜いた剣は、突如折れて隊長の喉元に突き刺さり自滅した。
そう、『契約』に抵触する行為は全て悲劇を巻き起こすのだ。
この戦い自体が『契約』に抵触するため、エルフは苦労せず大勝をおさめた。
俺たちはエルフから多くの金を貰うと、元居た街に戻ることにした。
──そして、まだ軍は俺のことを諦めていなかった。俺は軍の基地に『招待』された。
【軍の基地にて】
『招待』された先で俺は素敵な足輪をプレゼントされ、足にはめられた。
「ジンくん、君はやり過ぎた。この部屋で溺れるがいい。なにもしなくても君が溺れるのをまつだけ。不幸を招くような行為をしなければ何も起きはしないだろ?私も学習したのだよ。銃が暴発しては堪らないからな。ははは。」
水門のような扉を閉めて俺を閉じ込めた大佐は笑いながらパイプのバルブを開いた。
「契約破棄だな?一度、纏まった契約を後から反故にするんだ、覚悟はできてるんだろうな?」
契約違反。なら、俺を殺そうとする、この計画自体が失敗するさ。契約は守らないとな!!
胸の辺りまで増えてきた水に嫌気を感じながら鉄の扉を蹴りつけてみると、水圧の性なのか吹き飛んだ。
『バカな!ちゃんと構造計算された水門だぞ!人が殴ったぐらいで機能しなくなるものか!!』
バカはあんたたち、軍隊だ。契約は破られた。自滅の時間だ。神様は怒らせると祟るんだぜ?
以前、神様と勝負して勝った俺は神様と再対決して負けるその日まで、勝負に負けない祝福(呪い)を受けている。以前は好きだった勝負事はもう楽しめないんだ。
【神様と対面】
ある日のこと
──さあ、久しぶりに私と勝負ですよ?!
脳内に響く声と共に、周囲の景色が入れ替わる。神様が俺を呼び出したようだった。
「挑まれた側が勝負の内容を決めて良いですよね?じゃあ、神様、勝負です。じゃんけんにしましょう。私はグーをだします。」
「パーをだしたら私の勝ちよ?お前の思考を読むとたしかにグーらしいが?本当に?」
「あなたとの勝負は五分の勝負。真面目に勝負です。」
「「じゃんけん」」
「チョキ?!左手はグーにしてるって?!また、負けたの?こんな勝負なしよ!」
「神様は嘘ついたりしちゃだめなんですよ?
あなたの存在の否定と同じですよ?では、また戦えるまで、再契約しますか?では、今回は俺が契約書を用意しておきました。内容に同意して契約していただけますか?また勝負するまで、私に祝福を!あなた以外に負けたことのない私で在り続けるために!」
「なに?あの負けない祝福がそんなに気に入ったの?同意してあげるわよ。」
神様はろくに内容を見もせずに契約を受け入れた。
「ところで、契約内容が同じだなんて誰が言いました?」
「え?!」
ポンコツな神様は私のものになりました。
契約内容はちゃんと確かめましょう、ね?
「ちょっと酷くない?こんな契約無しよ!!」
(了)
ふわふわですが雰囲気を楽しんでいただけたなら幸いです。