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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
王の領域《キングス・テリトリー》編

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第九十九話 【王の領域《キングス・テリトリー》】①

あれから2週間が経った。今日はいよいよクラス対抗戦の日である、ここまでやれることは全てやったはずだ。後はこちらの策が上手くハマることを願うしか無い。戦いの場所はランダムで決められることになっている。できれば森であると助かる。学園に着き教室に入るとすでに皆集まっており、俺が最後のようだった。


「今日はやけに早いね。」

「それはそうだよ。いよいよ本番なんだもん。」

「そんな緊張してたら力を発揮できないよ。いつも通りリラックスリラックス。」

「皆さん揃ってますね。」


俺がカイラと雑談をしているとリリス先生が教室に入ってきた。ここから【王の領域(キングス・テリトリー)】を行う会場の発表があり、移動することになっている。


「今回の会場は…野外演習場の森林です。皆さん速やかに移動してください。」


よし!野外演習場の森林といったら一番俺達の戦力差を埋めることができるいいステージだ。これで少しは勝機も見えてくる。あとは向こうのクラスが思惑通りに動いてくれることを願うばかりだ。野外演習場に移動すると《白》クラスの面々が揃っていた、すでに気合十分といった感じだ。特にデリラなんて目をギラギラさせている、まあいつものことだがちょっと怖いな。


「ユーリ君…。」

「大丈夫さ、皆もそんなに心配しなくても大丈夫。今日まで積み重ねたことをちゃんとやれば勝てる試合だ。」

「そうだよね…今日まで頑張ってきたもん。」

「よっしゃ、やってやる!」


そんな《白》クラスの様子を見たせいか不安そうな顔をしている皆を励ます。このクラス対抗戦を通してもっと皆自信を持ってくれるといいのだが…一応それが学園長の目的でもあるしな。そうこうしている内に準備が整ったようだ。


「それではこれより二学年度クラス対抗戦【王の領域(キングス・テリトリー)】を行います!まずは学園長の挨拶からお願いします!」

「えー諸君!今年もまたクラス対抗戦を行うことになった。去年は魔族の襲撃もあり、我々の心にもひどく重いものを残していった。しかし、またこうして競技を行うことに私は意味があると考えている。今年は全員参加ということもあり諸君ら全員が一年間で学んだ成果をぜひ見せて欲しい!以上だ。」

「学園長ありがとうございます。それでは【王の領域(キングス・テリトリー)】のルール確認をします。キングと呼ばれる人物を1人決めて、キングが倒されたら敗北。キングは自陣地内で魔法を使うことはできず、敵の陣地内のみ魔法を使用することができます。キング以外のナイトは陣地での魔法の制限はありません。ナイトが全員戦闘不能になるとその時点キングがいても敗北となります。殺傷性の高い魔法や武器の使用もちろん魔道具の使用も禁止です。陣地の境界は現在見えていると思いますが、あの結界を目印にしてください。」


学園長の挨拶もそこそこに、リリス先生がルールを説明する。それぞれの陣地をどうやって判別するのか謎であったが…なるほど、森を囲むように肉眼で見える魔力が溢れている。これはおそらく結界の類だろう。さらに中心にはそれを両断するように魔力が溢れ出ている、これでお互いの陣地を判別できるというわけか。そんなことを考えていると係の先生が全員にバッチを配り始めた。


「お互いの戦況を把握することはできませんので、どちらかの敗北が決まった時点で私がアナウンスさせていただきます。そして今皆さんに配られたバッチ型の魔道具は戦闘不能になった場合、それを目印に皆さんを回収しここまで運びますので身につけておいてください。それでは両クラス共キングの方を私に報告してください。」


リリス先生の説明が終わると空気が変わる、すでに勝負は始まっているのだ。ここで報告しに行く者がキングなのかそれともまったく関係ない人物なのかそういう心理戦である。《黒》クラスはもちろん俺が《白》クラスはシャーロットが報告をするようだ。


「はい、わかりました。今から5分後に開始しますので両クラス共配置に付いてください!」

「よし皆、作戦通りに頼むよ。カイラこっちの陣地での指揮を頼む。」

「うん、任せて。」


俺達はそれぞれ配置に付く。リリス先生の拡声魔法による声が響き渡る。


「時間になりましたので開始の合図をします。5!4!3!2!1!スタート!!!」


開始の合図が森全体に響き渡る。俺は敵陣地へと猛スピードで切り込んでいく、そんな俺から少し離れた所で数名の移動している気配を感じる。やはり考えていた通り、向こうの近接組だろう。《白》クラスの強みは近接、中距離、長距離といったそれぞれに合った能力者と魔法の使い手が揃っておりバランスが良い。弱点と呼べる部分はないと言っても過言ではない。


(こちらY部隊。A部隊の皆、思っていた通り近接組が何名かそっちに向かっていった。3作戦の準備を。)

(こちらA部隊、3作戦了解です、急ぎ準備に取り掛かります。)


だがこちらも《白》クラスに負けず劣らず良い能力者が揃っている。こうやって頭の中で会話ができる『念話(テレパシー)』を使えるのは間違いなくこちらが有利な点だろう。魔道具が使えないせいで通信を取ることが難しい、その上声を出して行う通信は盗み聞きされる危険もあるのだ。しかし『念話(テレパシー)』であれば頭の中で会話ができるので心を読まれでもしない限りは盗み聞きされることはない。加えて本来『念話(テレパシー)』は一対一でしか連絡ができない魔法だが、ライン・ガンツェルトの《精神同調》という能力は複数の人間同士で『念話(テレパシー)』を共有できるというものである。それは今回初めてわかったことだった。皆は能力や魔法をまだ完全に理解しきっていないのだ、もちろん俺も。今回のことで色々わかった生徒も多いが、これが実戦で使えることがわかれば自信を持ってくれるかもしれない。


(こちらY部隊、目標を補足これより様子見に入る。)

(A部隊了解です。)

(B部隊了解!)

(C部隊了解。)


俺達は大まかに4つの部隊に分けている。それぞれの適性を考えて部隊を編成し配置した。俺だけは一人独立しておりY部隊となっている。俺は木の陰からこっそりと様子を伺う、そして目標であるアリア、エレナ、ディランを見つける。思ったとおり三人は陣地の一番奥にいた、俺はこの3人の誰かがキングだと考えているのだ。リリス先生へのキングの報告はシャーロットが行っていたがおそらくシャーロットはキングではない。今回武器は使用できないし、汎用的な魔法が使えないのでキング向きではある。だが相手陣地に入ることだって状況によっては考えられ、そこで魔法が使えず自衛できない者をキングにするのはリスクが高い。だからある程度戦闘力があり使用できる魔法のバランスが良いのはこの三人であると考えたからだ。


「皆気をつけてくれよ。」


俺はポツリとそう呟いたのだった…。


◇◆◇◆


時は少し遡り―――。


(こちらY部隊。A部隊の皆、思っていた通り近接組が何名かそっちに向かっていった。3作戦の準備を。)

(こちらA部隊、3作戦了解です、急ぎ準備に取り掛かます。)


ユーリからの連絡を受け取ったA部隊隊長トリップ・ボーンは緊張のあまり今にも吐きそうであった。彼の能力は《忍び寄る罠》というもので『罠魔法(トラップ・マジック)』が得意である。しかし彼は自信がなかった。元々臆病な性格もあってか、中々自分の力を上手く扱えず成績もあまり良いものではなかった。加えて去年のあの事件があってから、自分は騎士団に所属できないのではないかと不安になった。仮に入団できたとしても自分の力が通用するとも思えず進学を選択した。


「皆、れ、練習通りに!」

「落ち着けトリップ、隊長のお前が落ち着かないと。」

「そうだったね、ごめん。」


だが進学して同じクラスになったユーリに会い彼は少しずつ自信を取り戻すようになった。初めてユーリに会って自分の能力や魔法について話したとき彼は凄いと驚いていた。自分は大した能力でも魔法でもないと思っていたし、何よりあの魔族と勇敢に戦ったという彼が褒めてくれるということが信じられず驚いたのだ。


「ユーリ君。必ずやり遂げて見せるよ。」

「そうですね。頑張りましょう!」

「トリップ!来たぞ!」


ユーリはどんな能力や魔法でも使い方によっては自分よりも上の相手でも倒すことができると言っていた。実際に彼は体術だけで自分を含めて、クラスの皆を倒していた。今回は体術を鍛えるのは期間が短く間に合わないが、強さというのは能力や魔法だけではないということを彼は目の前で見せてくれた。それだけで彼を信用するに値する人間だとトリップは思ったのだ。そんな彼が僕達ならできるとここを任せてくれたのだ、トリップは覚悟を決めて戦いに身を投じるのであった。

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