第九十六話 新学期の始まり
「それじゃあ行ってきます!」
「お気をつけていってらっしゃいませ。」
俺達は三人に見送られながら屋敷を出る。今日から新学期が始まる、とはいえ特に何か特別変わるわけではない、強いて言うなら人数が減ったということである。ほとんどの生徒は学園ではなく各騎士団に見習い騎士として入団していることもあり、人数がかなり減っているため2年のクラスは2クラスしかないのだ。それでも例年1クラスにしかならないことを考えると多い方である。
「一人になったらどうしよう…。」
「流石に大丈夫だよ。クラスの人数的に一人になるのなんて本当に凄い確率だから。」
今回騎士団に進学?した人数を引いても全部で50人くらいにはなる。1クラス25人であれば、俺達全員が誰とも同じクラスにならないというのはかなり低い確率だろう。というかほぼあり得ない、意図的に行わない限りはという条件付きだが。しかしそんなことをわざわざする輩もいないだろう。
「おはようございます。ユーリ君、アリアさん。」
「おはようエレナ。」
「おはよう!」
俺達が学園に到着するとすでにエレナが着いていた。その後いつものメンバーも到着し各々挨拶をする。どうやら入り口で新しいクラスが発表されるらしい。3年生は1クラスしかないので発表はないし、一年生は入学式の時になので進学する2学年だけがここに集まっている。
「そろそろ新しいクラスが発表されるようですよ。」
「俺達の中で誰と誰が一緒なるか楽しみだね。」
「できたら皆一緒がいいけどね。流石に無理かなぁ。」
俺達が雑談に華を咲かせているとリリス先生がやってきた。リリス先生は懐から紙を取り出すと掲示板に貼り付ける。…いや小さくないですか?たしかにそんなに大きい必要はないんだけどかといってそんなメモ書きのような紙に書くのはどうなのだろうか。皆その小さい紙にごった返してしまっている、少しずつ生徒が移動してから俺は紙を見る。
「えっーと、俺の名前はと…」
紙には《白》クラス《黒》クラスと書かれており、その下に生徒の名前が書いてあるようだった。皆も自分の名前を探している。
「やった!《白》クラス、エレナと一緒だ!」
「本当ですね!よかったです!」
「私達も一緒だよ!」
「僕達もだ。」
アリア、エレナ、フルー、デリラ、コータ、ウールはどうやら同じクラスらしい。まあ流石にこの人数がいればこれくらいは同じクラスになるだろう。そして残りの皆も自分の名前を見つけたらしい。
「私とカルロスも《白》クラスのようですね。」
「俺も《白》だ。」
シャーロットとカルロス、ディランもどうやら皆と同じ《白》クラスのようだ。どうやらいつものメンバーは皆と同じクラスみたいだ。《白》クラスの方を見るとドレッドの名前もある本当にオールスターという感じだ。…だがいくら探しても俺の名前はない。《黒》クラスの方の名前を見ると一番下に俺の名前が書いてあった。
「俺だけ…《黒》クラスみたい…。」
「えぇ!ユーリだけ違うクラスなの?」
「本当ですね。まさかこんなことになるなんて。」
「ある意味凄い運が良いというか悪いというか…。」
あれだけそんなことはないだろうと偉そうに言っていた手前ちょっと恥ずかしくなってきたな。まさか自分だけ一人になるとは思いもしなかった。とはいえ元《紅》クラスの生徒もいるし、まったくの孤立というわけでもない。あんまり喋ったことはないけど。
「俺はあっちだから…それじゃあ…。」
「うん…頑張ってね。」
「寂しかったらいつでも言ってくださいね。」
俺はエレナとアリアに励まされながら皆と別れて、俺は《黒》クラスの教室へと向かう。知り合いがいないからなんだというのだ新しく友人を作ればいいだけの話なのだ。俺は教室の扉を開ける、するとすでに何人かで集まりグループができていた。まあ1年生で同じクラスだったという人達も当然いることだろう。俺が座ってしばらくするとリリス先生が教室に入ってきた。
「皆さん揃っていますね。今日からこの《黒》クラスの担任になります、リリス・マイルズです。1年生の時は《紅》クラスの担任をしていました。引き続き2学年も担当することになったのでよろしくお願いします。」
どうやらこの《黒》クラスの担任はリリス先生のようだ、俺としては知っている先生が担任をしてくれる方が嬉しい。ただでさえ知らない生徒の多い環境だからな。先生くらいは知っている人がいいのだ。
「さてそれでは早速授業を始めていきたいと思います。今日は系統外の魔術についてです。これは…」
リリス先生は授業を進める。系統外の魔術というのは火、水、風、土、雷、光、闇という基本以外の魔術のことだ。無属性とか氷属性とか、ただ氷は基本系統に入れてもいいのではという話があったり、逆に光と闇は外した方がいいのではという話も出てるらしい。他にも無属性なんかは使える人物が少ないという話はあるがこれは複数の魔法がということである。例えば能力にもよるが、『治療魔法』が使える人は同じ回復系の魔法は使えるが『創造』の様な別系統を使うのは難しいということである。このように複雑化されているため系統というのはある程度基準が決まっており決められている。まあ基準というのはいつの時代も曖昧な物で、変わっていくのが普通のことであると俺は考えている。俺は基準に当てはまって無いことの方が多いしな。
「さて今日の授業はここまでです。さてここからはクラス対抗戦について説明します。」
「ちょっと待ってください先生。今年もクラス対抗戦ってやるんですか?」
授業が終わり、続けて出てきたリリス先生の言葉に驚いたのは俺だけではなかったようだ。前の方の席に座っている真面目そうな女子生徒が疑問を投げかける。
「もちろんやりますよ〜。ちなみにこれは成績に関わるので、負けたら大変なことになると思ってくださいね。」
「ちょ、ちょっと待ってください。2クラスしかないですよ?」
「はい。ですので実質VS《白》クラスということですね。今年は代表等はなく全員参加なので、皆さん気合入れてくださいね!」
成績に関わると言われると真面目にやらないといけないな、なんてったって全員参加なんだから。ん?…おいおいつまり皆と戦うってことだよな?これ大丈夫なんだろうか。魔族と戦って生き残ってるような連中だぞ、流石に不利すぎると思うんだけど。
「ではルールの説明を行いますね。今年のクラス対抗戦で行われるのは【王の領域】と呼ばれる過去に騎士団で行われていた演習を元にした競技です。ルールはお互いの陣地に潜むキングと呼ばれるリーダーを1人決めて、キングが倒されたら敗北です。キングは自陣地内で魔法を使うことはできず、敵の陣地内のみ魔法を使用することができます。キング以外はナイトと呼ばれ陣地での魔法の制限はありません、ですがナイトが全員戦闘不能になるとその時点キングがいても敗北となりますので注意してください。殺傷性の高い魔法や武器の使用は禁止です。」
初めて聞く競技だな。つまりキングがやられるかナイトが全滅したら終わりであるということはわかった。そのくらいの方がシンプルでわかりやすい。しかしキングは相手の陣地では魔法が使えるが自陣地では使えない、つまり自衛ができずナイトに守ってもらわなければいけない。誰をキングにするのかがポイントになってきそうだ。
「それではまず誰をキングにするか決めましょう。やりたい方はいらっしゃいますか?」
「えーどうする?」
「お前やれよ…。」
「嫌だよ。」
皆ざわざわしている。間違いなく重大な役回りだからなやりたくないのも当然のことだろう。仕方がないここは俺が立候補することにしよう。
「先生リーダーは俺がやります。」
「ありがとうございますヴァイオレット君。他に立候補者はいないようなので決定にしますね。それでは競技までの2週間は野外演習場を借りれることになっているのでご自由にどうぞ。後はお任せしますね。」
そういってリリス先生は教室から出ていく。さてここからは作戦会議と行こう。まずはクラスの皆がどんなことをできるのか知らないといけないな。
「俺はユーリ・ヴァイオレット。単刀直入に言うとこのままだとボロ負けすると思う。」
「どうしてそんなことがわかる?」
「やってみないとわからないんじゃない?」
勝ち気な生徒が反対意見をぶつけてくる。こういう生徒は騎士団に行ったと思っていたけどまだまだ捨てたものじゃないかもしれない。
「良い質問だね、去年のことを思い出して見て欲しい。《聖騎士祭》で代表になったメンバーはほとんど《白》クラスに集まっている。これだけでも十分に脅威だということがわかると思う。」
「たしかに…。」
「でもユーリ君もそうじゃない?」
「俺もそうだった。他の皆とは個人的に交流があるんだけど正直学園の生徒のレベルを軽く超えている。」
俺の話を聞いて皆は息を呑む。去年のことと言えば魔族に襲われた事件がある、その中で戦った生徒がいるということを思い出したのかもしれない。まさしく向こうのクラスの皆のことである。しかしそう悲観的にならなくてもいい、これは純粋な競技なのだから。
「だけど逆にそこがいい。向こうは絶対に勝てると油断しているから、そこを突けば勝機は必ずある!皆頑張ろう!」
「よっしゃやってやるぜ!」
「私も頑張るよ!」
「おー!」
どうやら一致団結できたようだ。あとは皆の能力と作戦を考えないといけないな。しかし向こうは誰がキングをやるんだろうか?何にせよ心して望まないといけないな。それとこんなことを仕組んだであろう人物ににも会いにいかないといけないな。
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