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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
帰郷追憶編

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第九十五話 最後の悪あがき

「やった…倒したぞ…。」


ユーリはその場で膝を突く。ジェミニの魔力は感じられない、完全に消滅したのだろう。コーデリアも気が完全に抜け落ちその場で座り込む。シャーロットも気絶していた。


「いやぁ。今のは危なかったよ。」

「なっ…。」


顔を上げるとそこには倒したはずのジェミニ…いや合体する前のプロクの姿があった。たしかに手応えは感じたにも関わらずプロクは無傷同然の姿で目の前で立っているのだ。


「…倒したはずじゃ…。」

「僕達は二人で一人の存在だからね。生命も2つあるのさ、一人を犠牲にすればこういう風に蘇ることもできるのさ。まあ魔力はほとんど残らないけど。」


たしかにプロクからは魔力はほとんど感じない、だけど今こいつを倒せるだけの力がもう誰にも残っていない。このままでは殺されてしまう。


「それじゃあ、まずは一番厄介な君から殺そうかな。」

「やれるもんならやってみろ!」


俺はプロクを挑発する。だがこの行為に意味はない。プロクは大きく手を振り被り、俺へと振り下ろす。


「死ねぇ!」

「くっここまでか…!」


するとどこからか爆発音のような物が聞こえたかと思うとプロクの腕が吹き飛ばされ、地面に落ちていた。プロクも何が起きたか理解できていないようだ。


「ガァァァァァ!!!!!」

「な、何が起こったんだ?」

「どこのどいつだぁ!」


俺は何が起こったのかわからなかったがこれはチャンスだ。俺は残った数少ない魔力をかき集めて手元の通信機に込める。


「ランマァァァァァ!!!!!」

「『新山田流壱式・疾風迅雷』!!!」


ランマの名前を叫ぶと、目にも止まらぬ速さで俺の横を駆け抜けていく。そしてシロの元へと一直線に向かっていき保護をする。プロクはランマのあまりの速さに追えていなかったが、それよりも自分の腕を吹き飛ばした相手に意識が向いている。


「ちっ…だがもう人質なんてどうでもいい!よくも僕の腕をふっ飛ばしてくれたな、出てこい!」

「出てこいと言われて出てくる奴はいないよ。」

「お前も早く、くたばれ!」


すると再びプロクの腕が吹き飛ぶ、今度は立て続けに腕・足・胴体そして最後に首が吹き飛んだ。叫び声を上げることすらできなかったようで静かな決着となった。もはや再生するほどの魔力も残っていまい。これで完全に倒すことができただろう。しかしこの攻撃は一体誰がやったんだろうか…?


「なんとか間に合って良かったです。」

「この声は…カルロス!」


復活したプロクから俺たちを助けてくれたのはカルロスだった。だからこそ姿は見えないが攻撃することができたのだろう。カルロスの能力と魔法は遠距離攻撃が得意でだからな、とはいえプロクの魔力は残っていたはずだ。『魔法弾(マジック・ショット)』であそこまでのダメージを与えることができるのだろうか?それにここまで響いてきたあの爆発音は一体…?カルロスは俺達を救助し病院へと運んでくれた。幸いそこまで大きな怪我を負った者はいなかったのでよかった。俺たちは同じ病室になったので先程の戦いについて話すことにした。ちなみにランマは俺達を連れてきた後、先に帰ったらしい。


「しかし、奴らは本当に俺達《勇者》だけが目的だったんだろうか?」

「そうじゃないですか?他に何かを考えていたにしては雑なやり方だと思いますよ。」

「前にユーリが殺された《序列》魔族みたいな少数派閥なんじゃない?」


たしかに大きな目的があったにしてはシロを狙ったあたりピンポイントに《勇者》を狙い過ぎている気がする。だからこそ他に何か大きな目的がありそうだが、それならシャーロットの《副技能サイドセンス》で気付きそうな気もする。実際今の所他に何か事件が起こったというわけではないようだ。


「ところでカルロスさっきのあれは一体なんだったの?ただの『魔法弾(マジック・ショット)』には見えなかったんだけど。」

「ああ、あれは《狙撃銃》と呼ばれる武器ですよ。」

「《狙撃銃》?」


初めて聞く名前だ。そういえば以前《聖騎士祭》【S・S】でカルロスの『魔法弾(マジック・ショット)』を放つ構えは《拳銃》と呼ばれる武器の構えだってエレナに教えてもらったな。同じ《銃》という言葉が付くし何か関係があるんだろうか。


「《銃》と呼ばれる武器にはいくつか種類があって、今回使用した《狙撃銃》はその中でも長距離に特化した物ですね。」

「へぇーそうなんだ。」

「実は私が以前からコータに頼んでいたんですよ。《拳銃》というのは大和国発祥の武器と聞いていたので、もしかしてもっとカルロスの能力に合う武器があるんじゃないかと思って。」

「なるほど大和国の文化はコータの国、つまり異世界の文化に近いって言ってたもんね。あれ?でも大和国で見かけなかったよね。」


アリアの言う通り俺達は大和国で一度も《銃》という武器を見かけていない。だからこそ今まで存在を忘れていたのだ。


「それは製造の難しさにあるんです。《銃》そのものと打ち出す《弾丸》を作るのが難しく時間がかかってしまい多くは出回っていないというのが現状です。」

「なるほどね。たしかに転生者はほとんどが成長とともに前世のことを忘れるって言ってたし。」


転生者はコータのように、この世界で生まれ育つ過程で前世の知識を段々と忘れてしまうらしい。それでもここまで発展しているのは数多くの転生者がいたからだろうがな。コータの話を聞く限りでは、あちらの世界では魔物や魔族といった種族はいないようだから《銃》という武器の製造知識まで知っている人物が少ないのかもしれないな。


「コータも前世の記憶を思い出したとはいえ《銃》そのものに詳しいということではないようですし、なにより向こうとこちらでは素材や技術が違うので時間がかかってしまったんですよ。ですがその分効果はかなりありましたね。」

「ええ、シャーロット様に頂いたこの《K&C-S》で放たれた《弾丸》は《序列》魔族の身体を吹き飛ばすことができました。」

「うん、弱っていたとはいえ魔力の通った身体を吹き飛ばせるなんて凄いよ。これを量産…は難しいんだったね。」

「そうですね。それに今回使用して見てある程度理解できましたが、恐らくコレはまだまだ万人に扱える物ではないですね。私の《魔弾の射手》の能力がなければ難しいかと。」


この《銃》というのが量産できれば《序列》魔族に大してかなり有効的な手段になるし他の魔族や魔物との戦いにも使えると思ったが、やはりそう簡単にはいかないか。カルロスの様な能力者はあまり聞いたことがないし、むしろ《銃》を上手く扱うための能力だったのかもしれないと思うほどだ。


「さてこの辺りで失礼します、まだ後処理が残っていますので。のちほど使いの者に家まで送らせていただきます。」

「ありがとう。助かったよ。」


カルロスは俺達に一礼すると病室を後にした。


「そういえばランマは?」

「私達を運んだ後、先に帰ったようですよ。」

「後でお礼言っとかないと。でも待機させておいてよかったね、まさか復活するとは思わなかったよ。」

「そうだね。シャーロットもカルロスを呼んでおいてくれて助かったよ。」

「皆さんと合流する前にもしものために準備するように言っておいたんです。タイミングはギリギリでしたがおかげで助かりましたね。」


カルロスが来てくれたタイミングは本当にベストだったな。あのままじゃ確実に殺されていただろうし、もう魔力もほとんど残っていなかったからな。しかし、倒せたとはいえまだまだ苦戦してしまうな。今回のように人質を取られてしまうこともあるかもしれないと思うともっと修行をするべきだろう。俺達は回復するまで病院にいた後カルロスが呼んでくれた使いの人にそれぞれ送ってもらった。


「ただいまー。」

「皆様おかえりなさいませ。私達が留守にしてしまっていたばかりにご迷惑をおかけしてしまったみたいで…。」


家に帰るとマルクさんとユキさんが出迎えてくれた。二人共休暇から帰ってきたのだろう。そういえば朝、散らかしたまま家を出てきてしまったな。


「いえいえ、そんなことないですよ。というかもう知っていたんですね。」

「ええ、私達が帰ってきてすぐに騎士の方がお知らせしてくださいました。皆さん無事だと聞いていたので片付けと夕食の準備をしておきました。」

「そういえば朝から何も食べてないもんね。お腹すいたよ〜。」

「もうすでにランマ様が待ち切れないご様子なので、お急ぎください。」

「それは早くしないとね。」


こうして俺達は長期休暇は終了した。俺がこの《7人目の勇者》という能力を手に入れてから一年も経つのか…早いような短いようなとにかく濃い一年であったと思う。最初はアリアを守るために望んだ力だったけど、今は違う。魔族や魔物に苦しめられている人達、それに家の皆や学園の友人という大切な人がたくさんできた。俺はその大切な人を守れるようになりたい、そのためにもっと頑張らなくちゃいけないと改めて決意をするのだった。

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