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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
帰郷追憶編

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第九十二話 誘拐

決意を新たにしたところでそろそろ解散しようかと思っていたとき、ふとルミが放った言葉で俺の中で引っ掛かっていた部分が解消された。


「《勇者》って今もそうですけど、女性が多いんですねぇ。」

「…言われてみればたしかに。」

「なんとなくはそう思っていたけど、やっぱりそうだよね。ユーリがいるから確信は持てなかったんだけど。」

「そうですよね。ですが例外ということではないでしょうか?《7人目の勇者》そのものが例外ですから…。」


たしかに俺はともかくルミの言う通り、《勇者》は新旧含めて今の所全員女性である。現代の《勇者》であればエレナ、シャーロット、コーデリア。《6人の勇者》の世代はエルタさんの話から《慈愛の勇者》《時空の勇者》共に女性であるということ、《進化の勇者》は名前まではわからないが、記録された映像魔法で見たのはたしかに女性の姿だった。


「それじゃあ残りの《勇者》は女性の確率が高いってことだね。」

「かなり見つけやすくなるんじゃない?」

「いえ、ここまで探して全く情報がないとなると恐らく…。」


シャーロットが言い淀む。つまり上手くいかない理由はおそらくはっきりしているのだろう。ここまで捜索して見つからない理由で考えられるものは、同盟国ではない国にいて戦力として隠されているか、コーデリアのように《勇者》ということを自覚していないかのどちらかだろう。だが後者であれば時間はかかっても見つからないということはないだろう、片っ端から調べればいつかは見つかるはず。しかし前者の場合はそうではない。


「同盟国ではない国も調査はしているんだろ?」

「ええ、ですがやはり上手くいっていないというのが現状ですね。」

「やっぱり潜入調査って難しいの?」

「今の能力社会では諜報向きの能力じゃないと難しいですから。」

「ですが我が国は戦闘向けの能力者が多いために弱い部分ではあります。」


ただバレないようにするというだけでも難しい。普通の能力者は他人の能力を見ることができる能力者がいたら一発でバレてしまう。諜報向きの能力者は自分の能力を隠蔽したり偽装するという技術がないと難しいのだ。こればかりは鍛えてどうこうなるものではない。


「まあ、とりあえずそれも《勇者》が女性ってことを頭に入れておいてもらおう。」

「はい、情報共有させていただきますね。」

「それじゃあ今度こそ解散ってことで。」


俺達は城を後にしてそれぞれ帰路についた。朝から集まったが時刻はすでに昼を回っていた、どうりでお腹が空くはずだ。食事をして帰ろうかとも思ったがシロが用意してくれているかもしれないので帰ってから考えることにした。屋敷に着いた俺はなんとなく違和感を覚えた。


「…ユーリ?」

「どうかしたでござるか?」

「いや、なんか変な感じがしたと思ったけど気のせいかな。」

「早く中に入ろ。」

「そうだね。」


俺は違和感を覚えつつも、皆は何も感じなかったようなので気にせず屋敷へと入った。いつもならすぐにシロが出迎えてくれるはずだが出てこない。マルクさんもユキさんもまだ帰っていないので一人でやることが多く忙しいのだろうか?


「シロー?ただいまー!」

「…変でござるな。」

「うん、呼んでも出てこないなんておかしい。」


名前を呼んでも出てこない、俺達はそれぞれ屋敷の中を探す。台所には切られた野菜と火のついた鍋が今にも吹き出しそうである。だがシロの姿はない、俺は火を消す。


「皆これ見て!」

「どうしたでござるか?」

「手紙が置いてあるみたいなの。」

「中を開けてみよう。」


どうやらアリアが机の上に置いてある手紙を見つけたらしい。シロの書き置きだろうか?アリアは手紙を開き読み始める。


「始めまして《勇者》とその仲間達。君の家にいた獣人の女の子は預かった。返してほしければ《勇者》と《大賢者》だけでここまで来い…って書いてある。」

「つまりシロは攫われたってことか。宛先は…なしか、一体誰が何のために。」

「目的は…《勇者》の私達…それにアリア…。」


コーデリアの言う通りだ、目的は俺達《勇者》とそう書いてあるじゃないか。落ち着け、


「急いでシロ殿を助けに行くでござるよ!」

「下手に約束を破ると危ないかもしれない、とりあえずエレナとシャーロットに連絡しよう。」


俺は通信機でエレナとシャーロットに連絡をした。状況を説明するとすぐに駆けつけてくれた。


「犯人に心当たりは…ありませんよね。」

「とにかく手紙に書かれている場所までいってみよう。」

「ここって何かあるの?」

「王都近くの森ですが、そんなに大きくはありません。」

「急ごう!」

「うん!」


手紙に書かれている場所は王都から出てすぐの森の中、特に何かがあるような場所ではない。だからこそ怪しまれないとも言える。


「ランマはここで待機してて。もし《勇者》と《大賢者》以外がいるとわかったらどうなるかわからない。」

「わかったでござる。何かあればすぐに呼んで欲しいでござる。」

「うん、頼むよ。」


少し離れた所でランマに待機してもらい俺達は5人で森の中へと進んでいく。歩いている途中にアリアが急に立ち止まる。何かに気付いたようだ。


「ここ結界が貼られてる。」

「結界ですか?」

「うん、多分隠蔽だと思う。でも隠蔽なら破らなくても大丈夫だよね。」

「そうだね。アリアのおかげで認識できたわけだからこの先には進めるし、でも何でだろう?」

「自分たちの所まで辿り着けるか試してるのでしょうか?」

「他の人を…入れないため…?」

「どちらの可能性もあり得るね。ここからは慎重に進んでいこう。」


アリアを先頭に結界の中を進んでいく。結界の中に足を踏み入れた瞬間に空気が変わる、この感じ…確実に魔族がいる。それも並の魔族の魔力ではない、間違いなく《序列》魔族がいる。コーデリアは初めて魔族の魔力を直で感じたせいだろうか震えている。


「コーデリア大丈夫?」

「なんとか…これが魔族?」

「ええ、しかもこの感じ間違いなく《序列》魔族ですね。」

「しかも複数いる。」


この戦力だけで果たして相手ができるだろうか、でもシロを助けに行かなかればならないのだ。引き返すという選択肢はあり得ない。俺達は進む、すると牢屋に捉えられたシロの姿。そのすぐ横には子供のような背丈で似た顔立ちの男女

の魔族と大和国でエレナとアリアが相手をしていた《序列》魔族が待ち構えていた。


「おや、5人なのか。」

「《勇者》は4人も集まっていたんだね。兄さん。」

「んなこたぁどうでもいい!久し振りだなぁ!クソ女ぁ!」

「あれはバースト…!」

「シロを返しにもらいに来た!」


遠目からシロを見る。倒れてはいるがどうやら息はある、目立ったケガもないようだ。早く救出しなければ。


「それじゃあ僕達を倒してもらおうかな。」

「前回の続きといこうぜ。」

「やるしかないようですね。」

「うん、私とエレナでバーストの相手をする。すぐに倒して戻ってくるからそれまで三人で持ちこたえて。」


エレナとアリアは移動する、それを追いかけるようにバーストもいなくなる。分は悪いように見えるが三体の魔族の内一番魔力が強いのはバーストだ。それに一度戦っている、二人に任せるのが適任だろう幸い向こうも目当ては二人のようだ。


「どうしてシロを誘拐した!」

「その前に自己紹介をしよう。僕は魔王軍《序列九位》“双璧”のプロク。」

「そして僕は魔王軍《序列十位》“双璧”のメスタ。」

「彼女を誘拐した理由は《勇者》である君達を殺すためさ。大和国でのことは知っているよ。まさかあのワンダーが仕留め損ねるとは思わなかったけどね。まあ彼にも甘いところがあるのかもね、付き合い長いわけじゃないし。」


プロクは目的を語りだす。ワンダーは四天王の席を狙うために魔族殺しである人間を《勇者》として認定し俺達に襲いかかってきた。二人は大和国での一件で俺達が《勇者》である可能性が高いと判断してシロを誘拐し、呼び出したということだろう。


「それでお前らも四天王狙いか?」

「まあそういうことだよ。まあ《魔王》様に判断してもらおうにもまだ蘇ってな…」

「プロク喋りすぎ。」

「おっとっと僕はおしゃべりが好きでね、少し喋りすぎたようだ。さてそろそろ始めようか…殺し合いを。」


プロクとメスタの魔力はそこまで強いものに感じない。今までの《序列》魔族との戦いから恐らくこの二人も有効的なダメージを与えるのは難しいだろうが今の俺には《聖剣クラレント》がある。焦らず対処すればそうそうやられることはないはずだ。


「楽しませてくれよぉ!」

「シャーロット一人任せる!コーデリアは俺達のフォローを!」

「はい!」

「了解…!」

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