第八十九話 新たな迷宮?
俺達はシャーロットの後に続いて城の中を歩いていく、一体どこに連れて行かれるのだろうか。歩いている最中の話題は先程の話になる。
「そういえばさっき、ユーリはどうして魔族ってはっきり言わなかったの?」
「ああ、それは最近ちょうど魔族って疑ってかからないようにって言われたばかりだったからだよ。まあ魔族の可能性は高いとは思ってるけど、実際に死体を盗んだのは違うかも知れないからね。ガルタニアの時みたいに。」
そう言ってランマの方をちらっと見ると頷く。実際今回の実家であった騒動も蓋を開けてみれば魔族の仕業ではなかった。悪い方でなかったから良かったように思えるが先入観は危険を招く可能性もあるのだ。
「なるほど、たしかに魔族が出現したら気付きそうな気もするもんね。ローラン騎士団長の遺体ってどこにあるの?」
「たしかモータル家は王都の北の方に位置していたはずです。そうですよねシャーロット?」
「ええ、敷地内に代々埋葬する墓があるようですよ。」
「屋敷からは遠いのかな?」
「まあその辺りは調べてくれるでしょ。」
そうやって雑談をしながら歩いていると城の後ろにある庭についた。ここの庭は広く芝生になっていて、ここで鍛錬をしたり魔法の練習をしたりできる。以前俺もシャーロットに言って使わせてもらったことがあるから覚えていた。だがしかし、そこに見覚えのないここには似つかわしくない洞窟の入り口ができていた。
「あれ、前来た時こんなのあったっけ?」
「これができたのは…いえ正確には出現したという方が正しいでしょう。3日ほど前、突如としてここの城の庭に出現しました。」
「それまでに何か異変は?」
「ありませんでした。」
「ちなみに中に誰か入ったの?」
「ええ、私だけ入ったのですが中はとてつもなく広くまるで迷宮なのです。」
なるほど、全然わからない。意味もわからず突如として出現した?それではまるでというか、まさしく迷宮なのではないだろうか。世界各地にある迷宮も何の前触れもなく突然出現すると聞いたことがあるから今回のことにも当てはまる。
「どうしてシャーロットしか入ってないの?カルロスも一緒に行けばいいのに。」
「実はそこが皆さんを呼んだ理由でもあるんです。それでは試しにフルー入ってみてください。」
「…?うん、わかったよ。」
そう言ってフルーは迷宮の中に向かう、すると何故か突然入り口の前で歩くのを辞める。一体どうしたんだろうか?
「どうしたのフルー?急に立ち止まって。」
「いや、何でだろうここから先に進めないんだよ。」
「そんなわけないでしょ、目の前に見えてるのに。僕が行くよ。」
そういってフルー同様にウールが迷宮へと向かっていく、だが入り口にはいる前にやはり突然歩くのを辞めてしまう。これは間違いなく何かあるな。
「えっ、どうして?」
「次はエレナが行ってくれませんか?」
「はい?構いませんけど…。」
続いてシャーロットはエレナに迷宮に入るように言った。エレナは真っ直ぐに入り口へと向かっていく。するとフルーとウールの様に立ち止まることなく迷宮の中へと入ることができた。
「一体どうなってるんだ?」
「この迷宮は入るのに何か条件があるようなんです。」
「迷宮に入るのに条件が必要な場合もあるでござるか?」
「いや現存する迷宮は誰でも入れるはずだったはずだが…。」
どうやらこの迷宮は誰でも入れるというわけではないらしい。フルーとマークは入れなくてエレナやシャーロットは入れるこの4人には何の違いがあるのだろうか…うん?もしかして…。俺は迷宮に向かって歩いていく、すると俺も入ることができた。なるほどそういうことか。
「ユーリも入れるんだ。」
「やはりそういうことですか…恐らくですがこの迷宮は《勇者》しか入ることができないのでしょう。」
「《勇者》しか入れない?そんなことあるの?」
「いえ、先程ディランが言ったように現存する迷宮でこういった制限がある場所はありません。初めての事態だと思います。」
その後も納得行かないとデリラがチャレンジするもやはり入ることができず、一応この場にいる全員が試してみたが結局この迷宮に入ることができたのは俺、エレナ、シャーロット、コーデリアの《勇者》4人だけであった。《勇者》しか入れないというのはどうやら本当のようだ。
「それでどうする、誰が攻略しに行く?」
「皆で行くんじゃないの?」
「それだと何かあった時に助けに入れないから困ってしまうだろう。」
「じゃあ、俺とシャーロットで行こう。エレナとコーデリアの二人は俺達に何かあったときのためにここで待機しておいて。」
「…わかった。」
「二人共お気をつけて。」
俺はシャーロットと二人で中に入っていく、当たり前だが他の迷宮と違い中は整備されていないため道や壁はデコボコしている。
「なんだか迷宮というよりも洞穴って感じだね。」
「そうですね。魔物の気配も感じないですし、一体何があるんでしょうか?」
「道は一本しかないみたいだし、とりあえもっと奥まで行ってみよう。」
入り口部分は少し開けていたが、先へ進むとどんどん狭くなっていった。そしてついには人一人分くらいの大きさしかなくなってしまい俺が前でシャーロットは後ろの一直線に並んで歩いた。魔物が出なくてよかったな、こんな狭い所で出たら戦いにくいだろうし。
「それにしてもここは迷宮なのでしょうか?」
「《勇者》しか入れない点と魔物が出ないという点を考えると迷宮ではないかもね。ただの遺跡かも。」
遺跡…?俺は最近同じ様な雰囲気を味わったことを思い出す、村での一件のことだ。結界によって守られており遺跡の様な見た目をしていた、さらに奥にはワープゲートと呼ばれる空間魔法を封じ込めた物があり長距離を一瞬で移動できるというものだった。《勇者》しか入れないということや急に出現したという点、もしかしてこの場所も…。
「ユーリどうかしましたか?」
「いや実は…」
俺はシャーロットに村での出来事を話した。結界によって守られた遺跡、そこではワープゲートを守る《6人の勇者》の内の一人であるパティ・テイクスと恋仲であったエルタ・トータスがいたということ。彼はパティに頼まれどこかの海に浮かぶ孤島で人としての姿を変え、魔物の世話をしていたこと。
「なるほど、それはたしかに新しい情報ばかりですね。百年ほどわからなかったことが今になってこう明るみになっていくということはやはり《勇者》が揃ったことか《魔王》の復活が関係あるのでしょうか。」
「関係がある可能性は高そうだね。」
《7人目の勇者》という俺の存在が出てきたからなのか、《魔王》復活の影響なのか、はたまた偶然なのかどっちにしろ情報はたくさんあって困ることはない。《魔王》をどうして封印することしかできなかったのか、それが分かれば倒すためのヒントになる。どんな些細なことでも当時のことがわかるのはアドバンテージに繋がる。
「そろそろ部屋にでるみたいだよ。」
「ここは…。凄いですね。」
「うん、どうやって作ったんだろう。」
狭い道をくぐり抜けて辿り着いた部屋には石でできた彫刻がたくさん並んでいた。人間や魔物の彫刻がたくさん並んでいる。こういった作品を作る能力もあるとは聞いたことがあるが、これは素人から見てもかなりクオリティが高いと言える。一体誰が作ったのだろう。
「ですがこのような物があるということは、元々あったこの場所が何かの条件が満たされたことで庭に出現したということでしょうか。」
「でも条件ってなんだろう。たしか3日前って言ってたよね、心当たりはある?」
「いえ、残念ながらありません。」
もしかしたら村の遺跡のせいかと思ったけれどあれは二日前のことだから関係はないだろう。うーむ、まあ考えても仕方ない、俺達はさらに奥へと足を進めていく。
「シャーロットあれみて。」
「あれは…本でしょうか?」
彫刻の中を抜けるとその奥には台座があり一冊の本が置かれていた。
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