第八十七話 追憶の彼方へ
まさかクロノス・メイカーさんが《時空の勇者》という所で繋がってくるとは。ブリジットさんの時もそうだったが《6人の勇者伝説》に関する記述は魔王によって消されようとしている。きっとそこに何か魔王を倒すための秘密があるのではないかと俺は考えている。ここは得られるだけ情報が欲しいところだ。
「その魔王との戦いについて何か知っていることはありますか?」
《僕は戦いには参加していないから詳しいことはわからない。だけど魔王を殺すことができたとは聞いているよ。そして封印をすることにしたという風に聞いた。でもその戦いで《勇者》は全員亡くなった…。》
「そんな…それじゃあ…パティさんはその…。」
《うん、戦いの後彼女たちは誰一人帰って来なかった。クロノスが死の間際に手紙をくれてね。それで知ったのさ。》
魔王を殺すことができたけれど封印することにしたという部分には少し引っかかるな。殺したにも関わらず封印しなければいけなかったというのはどういうことなのだろうか。そしてクロノスさんはそれを後世に残したということだ。やはりここに何か魔王を倒すための秘密があるはずだ。
《ごめん、そろそろこの《魔法人形》も限界みたいだ。僕が制御できる内に破壊して欲しい。》
「そうですか、もう少しお話を聞ければと思ったんですが…。」
《いや、僕はもう長い時間を生きたそろそろ引退するよ。あの島のことを知っているのはもう君達だけだ、襲われることはないだろう。きっとパティも許してくれるはずだよ。》
「ブリジットさんと同じことを言いますね…。」
《ブリジットにも会ったのかい?ということは彼女は役目を終えることが出来たのか…。》
「知り合いだったんですか。」
《彼女はクロノスの友人でね。何を頼まれたのかは知っているよ、彼女が亡霊になる前に一度だけ会ったからね。ブリジットも僕もあまり戦闘向きの能力じゃないけれど後世に何かを残すには凄く都合の良い能力だったのが幸いだった。大切な人の役に立てたのだから。》
ブリジットさんは《勇者の秘密》を守っていた。その秘密とは《魔王》が転移者で元《勇者》であるということ。誰に頼まれたということは教えてくれなかったが、クロノスさんだったのか。なればこそやはり《魔王》の出自に何か謎を解くヒントがあるということなのだろう。一度帰って皆の意見を聞かなければいけない所だ。
《さて、そろそろ本当に限界の…ようだ。僕もブリジットも君達に会えたのはきっと偶然じゃない、運命だったんだ。》
「はい、皆さんと出会えたこと教えていただいたこと必ず《魔王》討伐のために役立てます。安心してください!」
「私も…《勇者》として…頑張る。」
「拙者も《勇者》ではござらんがユーリ殿達のサポートをさせていただくでござるよ!」
「私も必ず《魔王》を倒します。」
《皆ありがとう…僕も君達と会えてよかったよ。跡形もなく消し飛ばしてくれ。》
「「「はい!!!」」」
俺達は遺跡の外へと出る。エルタさんのためにもここを跡形もなく消す必要がある。とはいえこの遺跡だけを一撃で吹き飛ばせるほどの魔法は俺達には使えない。俺の中で最大範囲が出せるのは《剣の勇者》の『断罪する巨人の剣』だがそれでも一撃は無理だ。まずは全体的に鳴らす必要がある。
「皆、俺が大魔法で最後に消し飛ばす。でもそのためにはもう少し遺跡を崩す必要がある、頼めるか?」
「任せるでござるよ!」
「それなら…大丈夫。」
「私もサポートするよ!」
「ありがとう皆、それじゃあやるぞ!」
俺達はそれぞれ遺跡の四方に散り、破壊するために各々魔法を発動させる。
「『新山田流伍式・泰山砕き』!」
ランマの剣技、新山田流は全部で漆式までありそれぞれ状況に合った剣技を使い分けている。その中でも『新山田流伍式・泰山砕き』はその名の通り山をも砕く技である。対象にぶつかる直前に剣速を上げて、その勢いで破壊力を生む。ランマの技の中で最も剛剣な部類である。
「『水の球・二重』!!」
コーデリアはユキとの修行で多重展開を覚えていた。ユキはコーデリアに多重展開を教えるのはもっと後になると考えていた。しかしコーデリアの成長速度は凄まじくすぐに多重展開を覚えてしまうほどであった。もちろん彼女が《溟海の勇者》であるということもあるだろうが、それ以上に潜在能力が高かったのだ。
「『魔法弾・三重』!!!」
三人によって遺跡はほとんどが破壊された、後はバラバラになったこの瓦礫毎吹き飛ばすだけだ。俺は《剣の勇者》の魔力を引き出す。
「『召喚・巨人の剣』」
俺は遺跡の上空に大きな魔法陣を展開し、遺跡くらいの大きさの魔法剣を作り出す。エルタさんさようなら。あなたのことは忘れません、必ず魔王を倒して《6人の勇者》の…大切な人の敵を俺達が取ります。
「『断罪する巨人の剣』!!!」
俺は皆が砕いた瓦礫を『断罪する巨人の剣』によって全てを消し去った。魔力を使い果たした俺はその場で倒れ込む。やはり《剣の勇者》では魔力量が少ないせいかすぐにダウンしてしまう。
「ユーリ!大丈夫?」
「これがユーリ殿の力でござるか…。」
「こないだ見たときより…凄い。」
ランマは話には聞いていたものの実際にユーリの《勇者》の力を見るのはこれが初めてだったので驚いていた。もちろん魔族を倒すということはそれなりなのは分かったいたがここまでとは思っていなかったのだ。コーデリアも以前見たのは自分のまだ未完成な魔力譲渡による《溟海の勇者》の力だったためかなり驚いていた。ただ単純な力比べだったらマンダムなんて相手ではなかったのだと改めて思うのであった。
《ありがとう。これで…僕も皆の…パティの所に行ける…。》
「安らかに眠ってください。エルタさん。」
森から遺跡は消えた、アリアは魔法の痕跡を調べる。どうやらワープゲートも完全に消失したようだ。これでもうあの島から魔物がこちらに来ることはないだろう。三人はユーリを連れて家へと帰宅するのであった。翌日すっかり回復した俺は村長の元へもう魔物の脅威はないことをを伝えにいくことにした。
「そうじゃったか。助かった。」
「ここは俺達が育った村でもありますから。」
「また何か困ったことがあればいつでも言ってください!」
「二人共、立派になったのぉ。ついこの前までこんなに小さいと思っていたのに。」
そういって村長は手で小さな輪っかを作ってこちらに見せる。流石にそこまでは小さくはないと思うけどという突っ込みはしないでおこう。実際、俺とアリアは母さん以外にも村長やこの村にいるたくさんの人に育てられたという自覚はある。
「ははは、そうですね。今までお世話になった分お返しさせてもらいます。」
「私も、これから恩返しします!」
「楽しみにしておるよ。」
俺達は村長の元を後にし、予定を早めて王都へと帰る準備を初めていた。今回のことは腕輪を通してシャーロットに連絡をした所、向こうでも何やら新しい情報を手に入れたらしいので一度帰ってきて欲しいということであった。
「もういっちゃうのね。寂しくなるわね。」
「もう少し帰る様にするよ。」
「今度は他の皆も連れてくるね!」
「あら、ユーリのお嫁さん候補ね。あと何人くらい増えちゃうのかしら。」
「そんなにたくさんいないから!というかお嫁さん候補じゃないからね!」
別に女性だけしか知り合いがいないわけじゃないんだけどなぁ。ディラン、コータ、カルロス、ウール、マークほら同級生だけでもこれだけいるじゃないか。まあ割合で言ったら女性の方が多いけど…。
「短い間ですがお世話になりましたでござる。」
「ありがとう…ございました。」
「二人もまた遊びに来てね。」
「それじゃあ俺達は行くよ。」
「はい、気をつけて行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
俺達は来た時同様に馬車に乗り込み、王都へと向かった。短い間ではあったが母さんにも会えたし十分に休息を取ることができたのでよかった。今回の件に加えて、新しくわかったということが何かはわからないが《勇者》探しや《魔王》を倒す手がかりになればいいなと考えながら俺は馬車に揺られるのであった。
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