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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
帰郷追憶編

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第八十六話 残された思い

島を一周した俺達は魔物の気配を感じる森へと足を進める。


「待って、魔物だ。」

「あれは村にいた魔物と同じでござる。」

「あっちには村までの道であった魔物もいるよ。」

「やっぱり…ここから来た…。」


森の中で見つけた魔物は《ブレイド・マンティス》と《ブラスト・クロウ》だ、どちらも空間魔法によって移動してきた魔物である。やはりここから移動してきたのは間違いないようだが、問題はどうやって移動してきたのかということだ。


「誰かがここから送ってきたってこと?」

「でも人の気配は感じないでござるよ。」

「もしかしたらどこかに行っているのかもしれないし、もう少し森の中を探索してみよう。」


俺達は魔物から隠れつつ、森を探索する。島自体が小さいため森もそんなに大きくなく、すぐに全てを調べることが出来た。だがこれといって特別変わった点はなかった。《ブレイド・マンティス》と《ブラスト・クロウ》の他にも数種類の魔物がいたくらいだ。それでも数は8体で数はそんなに多くない。


「結局何かおかしいところはなかったけどどうする?」

「『空間魔法』の謎も解けなかったでござるな。」

「全部…倒す?」

「うーん、でもここの魔物結構大人しい気もするんだよね。隠れているとはいえ魔力には気付いていると思うけど襲ってこないでしょ?」

「言われてみればそうでござるな。」


俺とアリアは多少魔力を抑えているからバレていなくても不思議じゃないが、ランマとコーデリアはそうではない。二人共魔力がだだ漏れなのだ、そういった修行をしていないから仕方のないことではあるのだけど。ランマは魔力量が元々少ないからまだわかるがコーデリアは《溟海の勇者》だけあって魔力量も質もかなりの物だ。魔物は見えていなくても魔力に反応して襲いかかってくることも多いから、二人に向かってきてもおかしくはない。しかしここの魔物はそうではない、気付いていないのかわかった上で襲ってこないのか。


「俺はなんとか『空間魔法』の謎を解けないかなって思うけど…」

「でもまた魔物が来たら大変じゃない?」

「数も少ない…ここで処分する方が…早い。」

「拙者はどちらの意見もわかるでござる。ユーリ殿に判断は任せるでござるよ。」

《できれば殺さないで欲しい。》


俺達が魔物を処分するかしないかという話をしていると男の声が聞こえた。声から察するにかなり若いような気がする。周りを見渡すが誰もおらず、どこから声の主が喋っているかわからなかった。


「あなたは?」

《とりあえず遺跡まで戻ってもらえないかな。そこで話したい。》

「どうするでござるか?」

「怪しい…。」

「ユーリ、どうするの?」

「わかりました、一度戻ります。」

《ありがとう。》


怪しいところはあるが何かの手がかりになるかもしれないし、そこまで悪意がないように感じた。俺は声の主にしたがって一度門を通り森の中の遺跡へと戻った。


「それで戻ってきたはいいけど一体誰が私達に話しかけてきたんだろう。」

「誰もいないようでござるが…」

《こっちだよ。》


声がする方を振り返ってみてみると、そこには俺達よりも少し年上の男が立っていた。だが身体になんとなく違和感がある、まるで生物じゃないみたいだ。まじまじと男を見ている俺達を不思議そうに見つめていたが、何かわかったのか笑顔になり口を開いた。


《そうか、君達は本来の《魔法人形(ゴーレム)》を見たことがないのか。》

「本来の《魔法人形(ゴーレム)》?」

《膨大な魔力を込めると、まるで生きてる人間かのように振る舞える《魔導人形(ゴーレム)》さ。ただし魔力が切れたら動かなくなるし、メンテナンスもしなければいつかは壊れてしまうけどね。》

「よくわからないけど凄いでござるな。」

「同感…。」


魔法人形(ゴーレム)》か、普通の土人形(ゴーレム)とは訳が違うらしい。ようするに本体ではないということはわかった、それはなんとなく見た目からもわかるが。どこかで本体は隠れているのだろうか?


《さて、まずは自己紹介から僕はエルタ・トータス。ここの遺跡と島の管理をしている。》

「俺はユーリ・ヴァイオレットです。」

《そうか、君がそうなのか。》

「どういうことですか?」

《そうだね。どこから話をすればいいのか…。》


エルタと名乗った青年は俺の名前を聞いて何やら心当たりがあるらしい。俺の方はエルタという名前に聞き覚えはないのだが。


「それじゃあここは何なんですか?」

《この遺跡はあの島まで行き来するためのワープゲートなんだ。》

「ワープゲート?」

《門に『空間魔法』を施して特定の場所まで移動できるというものだよ。》

「なるほど、魔法袋(マジックポーチ)に原理は近い感じなのか。」


あれも普通の袋に空間魔法によって袋の大きさよりもたくさんの物を入れれるようになっているからな。空間魔法便利すぎないか?非常に汎用性が高いな。使い手が少ないということを除けばかなり便利な能力であることは間違いない。


「エルタさんはどうしてここの管理を?」

《僕の大切な人の頼みでね。彼女は生き物を愛していた、能力もまた魔物を使役するというものだった。だけど人々からすれば魔物は恐れてしまう。だから無人島で管理することにして、彼女の友人である《時空の勇者》に頼んで遺跡と島を行き来できるワープゲートを作ってもらったんだ。もう数百年くらい前の話だよ。》

「なるほどだから島の魔物は大人しいんですね、人に慣れているから。って今《時空の勇者》って言いました!?」

「初めて聞く《勇者》でござるな。」

「私達、今とんでもないこと聞いてるんじゃ…。」

「かなり…やばい…。」


俺達は初めて聞く《勇者》に驚いてしまう。それもそうだ、数百年くらい前の話ということは《時空の勇者》とは魔王を倒すために女神様が人間族に与えた伝説の《6人の勇者》の内の一人ということだろう。《6人の勇者》についての情報が出たのはこれが初めてだろう。


《だけど、人間は永遠には生きれないからね。幸い僕は生産系の能力者で《魔法人形(ゴーレム)》を作る技術と膨大な魔力だけはあったから、死ぬ前にここを守るためにこの遺跡の結界と《魔法人形(ゴーレム)》作ったというわけさ。魔物を自然の摂理にまかせて育てるために、それでも限界はある。》

「あの、少し言いにくいことと、聞いて欲しいことがあるんですが…」

《なんだい?》


俺はもしかしたら何かわかるかもと思い、自分が《勇者》であることや空間魔法によって遺跡の外に魔物が出ていることをエルタさんに説明した。すると少し考えた後、口を開いて語り始めた。


《なるほど、でも僕はあまり《勇者》について詳しくないんだ、知ってるのも二人だけ。だから君のことはわからない。『空間魔法』の方はおそらく僕の力が弱まっているせいだ。この《魔法人形(ゴーレム)》に魔力が切れそうでもう限界が近い。だから『空間魔法』、ワープゲートの制御ができなくて入り口と出口が色々な所に出てしまっているんだろう。魔物を逃してしまった僕に責任がある、君達が対処してくれたことを咎めはしないよ、大きな被害がでなくてよかった。》

「そう言っていただけて安心しました。でもワープゲートの件はどうすればいいですか?」

《なに難しい話じゃない。この門を遺跡ごと壊せばいいんだ。門だけ壊しても制御できなくて暴走してしまい恐らくランダムにワープゲートが発生してしまうだろうから。この周辺ごと吹き飛ばさないと。》

「でも…壁の絵とか文字が…壊れる。」

《ああこれか。これはいいんだ、僕が思い出を書いた日記みたいな物だむしろ残しておくほうが恥ずかしい。》


そういって頭を掻く姿はとても照れくさそうだ。《魔法人形(ゴーレム)》だから表情が豊かというわけではないがそれでも伝わってくる。きっと大切な人という生き物を愛した女性との思い出が綴られているのだろう。俺はふと思った、その女性が《時空の勇者》と知り合いということはもしかして…


「もしかしてですがその大切な方が、もう一人の知り合いっていう《勇者》じゃないですか?」

《そうだよ、彼女は《慈愛の勇者》。魔物と心を通わせることができ、人間でも彼女に対して悪意を持てないという能力だった。唯一魔族には効かないけどね。》

「《慈愛の勇者》に《時空の勇者》か…。」


どちらの《勇者》も今の所俺達は遭遇していない。だが数百年前の《勇者》と現代の《勇者》が同じ能力なのかどうかはわからない。もしかしたらまったく別の能力かもしれないが情報はあって悪いことではない、他に何かわかることはないだろうか。


「二人の名前をお聞きしてもいいですか?」

《《慈愛の勇者》はパティ・テイクス、《時空の勇者》の彼女はクロノス・メイカーだ。》

「クロノス・メイカー?どこかで聞いたような…」

「あれだ!レシア砂漠でセドリック団長が持ってた迷宮遺物(アーティファクト)。たしかルミの魔力に反応して出てきた文章を書いた人がクロノス・メイカーさんだよ!」


思い出した、クロノス・メイカーさんはルミの魔力によって反応した石版型の迷宮遺物(アーティファクト)に書いてあった龍族の友人宛の文章を書いた人物だ。少しづつではあるが確実に色々な部分が繋がってきていることを俺は実感するのであった。


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