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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
帰郷追憶編

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第八十三話 お嫁さん候補

王都から村まではおよそ半日くらいだ。お昼くらいには着くだろう。こうしてゆっくり馬車に揺られているのも旅の良いところだろう。アリアとコーデリアは談笑をしている、シロも少し緊張しているが問題はランマだろう。なんだかそわそわして落ち着きがないようだった。


「どうかした?ランマ。」

「せ、拙者馬車に乗るのがとっても苦手なんでござるよ。しかもこんなに高級そうな馬車だと余計に緊張してなんだか気持ち悪くなるでござるよ。外を走ってもいいでござるか?」

「ははは、流石にそれはちょっと危ないかな。我儘言わないで我慢しなさい。」

「そ、そんなぁ…。」

「コーデリアとシロはどう?」

「私は…快適。」

「私も慣れていなくて緊張するけど大丈夫です!」

「何かあったらいつでもいってね。」


そんなこんなで俺達は村までの道中を楽しんでいた。この辺りは特に魔物なども出ないから安全ではあるが、他に街や村がないので同じ景色が続いてしまい、ある意味退屈な道のりになるかもしれない。はずだったのが…。


「ユーリ!魔物がこっちに向かってきてる!」

「魔物だって!?ここは魔物なんて出る所じゃないよ?どうしてこんな田舎に。」

「それはわからないけど…とにかく1体だけどこっちに向かってるの。」

「よし、ここは拙者に任せるでござる!」

「すいません、一旦止まってください!」


アリアが御者さんに止めてもらうよう言う前に、すでにランマは馬車から勢いよく飛び出していた。そのままランマは魔物に向かって駆け出した。俺は《副技能(サイドセンス)》で魔物を観察する。名前は《ブレイド・マンティス》、初めて見る魔物だがどうやら昆虫型で腕が剣のような鋭い刃になっているようだ。何気にランマの戦闘を見るのはこれが始めてかもしれない。ランマの能力はたしか《神速》、ありとあらゆる速度を上げることができるだったかな。


「『新山田流壱式・疾風迅雷』!!」

「『キィィィィィ!!!』」


ランマは素早い動きで左右に移動し《ブレイド・マンティス》をジグザグに切り裂いた。《ブレイド・マンティス》は斬られたことに気付いていない様子でこちらに向かってくる。しかしここに一歩進んだ所で身体がバラバラになった。ランマは馬車へと戻ってくる。


「実際に見ると凄い剣技だな。」

「全然大したことないでござるよ。」

「そんなことない…全然見えなかった。」


馬車は再び村に向かって進み始める。話は先程ランマの戦闘についてである。


「《神速》って本当に早いんだね。全然目で追えなかったよ。」

「常にというわけではなくて出力調整があるでござるよ。無防備になるでござるがもっと時間を掛けて集中すればさらに速く動けるでござるよ。」

「あれより速く!?凄いね!」

「でも弱点もあるでござるよ。」

「弱点?」

「《神速》の本来の能力は特定の動きを同時に2つ速さを上げることでござるから、例えば刀を振る速度と自分の動きを速くしたとして、自分が反応できない速さで攻撃されると避けれないでござるよ。」

「なんかわかるような、わからないような。」

「難しい…。」


つまりランマが言いたいのは自分の動きが早くなっても、反応速度を上げないと不意打ちの攻撃なら反応できず当たってしまう、かといって反応速度を上げると自分の動きか剣速が疎かになりそこを突かれると弱いということだろうか。しかも集中力によって速さが変わるとなると、シンプルに強いというよりは意外とピーキーな能力なのかもしれない。


「それに実は剣速、身体、反応速度の3つしか速さを上げれないでござる。能力的にはありとあらゆるということなんでござるが拙者の実力不足かもしれないでござる。」

「そうなんだ。じゃあ腕を振る速度を上げて石を投げるとかはできないわけだね。」

「そういうことでござるな。単純そうで意外と頭を使うでござるな。」

「もの凄く…疲れそう…。」

「私もそこまで考えれないかも。」

「だからこそ普段から鍛錬はかかさないでござるよ。」


しかし、どうしてこんなところに魔物が出たんだろうか?村の近くの森からセルベスタ側の道中に至るまで魔物が出ることなんて滅多にないのに。俺達を狙っているのか?いや仮に知っている者の犯行ならば、魔物一匹で倒せる相手じゃないのはわかっているだろう。たまたま迷い込んだだけなのか…?


「皆、そろそろ村が見えてきたよ!」

「ここが二人の出身村でござるか!」

「私の故郷に…ちょっと似てる…。」

「緊張します!」


考えてもしかたないか。とりあえず村に異変が起きていないか後で母さんに聞いてみよう。村に着くと村長や村の門番が出てくる。門番といっても王都のように厳しい審査があるわけではなく、初めて来る冒険者などを案内するだけだからそこまで戦闘能力は求められない。門番をやってるのも村の出身者だしな。


「なんか凄い人が集まってきてない?」

「それはこんな馬車が村に来たら驚くんじゃないかな?まるで貴族か騎士団が来たときのような対応だよ。」

「たしかに…この馬車は…目立つ。」

「シャーロット殿に借りた物でござるからな。」


まさか俺達がこんな高級そうな馬車に乗って帰ってくるなんて思ってもいないんだろう。そして村に着きランマが一番乗りでござるといって降りた。この中で一番年上なのだからもう少ししっかりしてほしいところだ。しかもこんな高そうな馬車から変わった服装の女の子が降りてきたせいか村長はものすごく困惑している。どこから突っ込んで良いのかわからないのだろう。続いて俺達も降りていく。


「えっと、皆ただいま。」

「ユーリ!それにアリアまで、これは一体どういうことじゃ!?」

「ごめん村長。なんか大事になっちゃって、俺達家に帰ってきただけなんだよ。この馬車はその借りているやつだから特に貴族がいるとかそういうんじゃないんだ。ここにいる5人だけだよ。」

「なんじゃ、そうだったのか。」


村人たちは俺達しか来ていないことを村長から説明されると皆各々散っていくのだった。馬車と御者さんだけ宿を借りて持て成すように村長に頼んでおいた、もちろん報酬は弾んでいる。そしてここからは歩きで自宅へと向かう。


「ただいまー!」

「あらユーリ、アリアちゃんおかえりなさい!」

「ただいま!」


母さんは笑顔で俺達を迎えてくれたかと思うとすぐに後ろの皆に気付いた。手を頬に当てて不思議そうな顔をしている。


「ああ、母さん紹介するよ。こっちの皆は…」

「あらあらあら。とても可愛らしいお嬢さん達ね!皆ユーリのお嫁さん候補なのかしら?私としては何人でもOKよ!」

「ちょっと母さん!」


何を言い出すかと思えば何がお嫁さん候補なんだか。大体ランマやコーデリアは百歩譲ってもシロなんてまだ子供なんだからあまりそういうことは言わないで欲しいものだ。


「拙者は…その…ユーリ殿が良いのであれば…全然構わないというか…何というか…。」

「私は…全然OK。何番目の…お嫁さんでも大丈夫。」

「わ、私はまだそういうには早いっていうか…ご主人様のことは好きですけど…。」

「あら、彼女たちは満更でもないみたいだけど?これはライバルが多いわねアリアちゃん。」

「何で私に言うの!」


ランマとシロは下を俯いてもじもじしている。コーデリアは堂々としている。この状況は一体何なのだろうか、それもこれも母さんが変なこというからだ。大体俺は今も昔もずっとアリアのことが…


「はいはい。もういいから家に入ろう。」

「さぁ、皆上がって。自分の家だと思ってくつろいでくれていいから。」

「お邪魔するでござる。」

「お邪魔します。」

「お邪魔いたします!」


ちなみにこのあとアリアがまだ他にも女性がいると口を滑らせてくれたおかげで、母さんはずっと盛り上がっていた。俺は久し振りに自分の部屋に入ると思っていたよりも綺麗であった。きっと母さんがいつ帰ってきてもいいように掃除をしておいてくれたんだろう。そういうところはやっぱり頭が上がらないと俺は思った。


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