第七十九話 別れの時
ガルタニアでの6日間の出来事は短いようで長かった。明日は進級試験だからその前日に帰ることにした。ピルクとムーバスとはここでお別れだ。
「ピルク本当にありがとう。」
「はい、《聖剣クラレント》に何かあればすぐに来てください!」
「うん、頼むよ。」
俺はピルクと握手を交わし別れの挨拶をする。ディーテさん、コーデリアは俺達とこのままセルベスタへと行くことになっている。クレストとヘクターもここでお別れである。最初二人はセルベスタに送り届けるまでは着いていくと言っていたがシャーロットがセルベスタ国の第一王女でそのままコーデリアを預けても構わないという話をしたらかなり驚いていた。そういえば二人にシャーロットがお姫様だということを言っていなかった。
「じゃあ、クレストもヘクターも気をつけて。」
「おう!皆も気をつけてな!今度はソレイナ国にも来てくれ歓迎するぜ!」
「ありがとう、遊びに行かせてもらうよ。」
「またお会いしましょう。」
俺達はそれぞれの方向へと出発し始めるのであった。セルベスタまではそう時間はかからない。俺達は場所に揺られること数時間無事にセルベスタに着くことができた。まずは城へと今回のことを報告に行く。コーデリアのことも説明しないといけないしな。
「大きい…」
「そうね、ソレイナ国の城はこんなに大きくないから驚いてしまったかしら?」
「そうなんですね。」
俺も最初に城を見た時は驚いたがしょっちゅう来る内になんだか慣れてしまっていた。よく考えたらあんまり他の国の城見たこと無いんだよな。ヴェルス帝国の城は壊れてたし、大和国は城といっても根本的に見た目が違う感じだった、ガルタニア国には城がそもそもなかったからだ。
「さぁ、中に入りましょう。」
「…うん。」
コーデリアは恐る恐る進んでいく。城の中を見ながらいちいち驚いていたら身が持たないのではないかと考えていたら王の間へと着いていたようだ。
「王よ、ただいま戻りました。」
「うむ、待っていたぞシャーロット。そしてユーリお目当てのものは手に入れられたかな?」
「はい、お陰様で。」
「うん?そなたはディーテ・メシオアか。そしてそちらの娘は?」
「えぇ、お久しぶりです。彼女は《溟海の勇者》です。」
「《溟海の勇者》?」
「その辺りは今から報告させていただきます。」
シャーロットが今回の出来事を報告する。魔族が勇者教を利用し卑劣な実験を行っていたこと、現地でセルベスタに向かう途中の同盟国ソレイナの騎士二名と《溟海の勇者》コーデリアと解決したこと。ユーリが《聖剣》を覚醒させることで魔族を打ち倒せたこと。ディーテさんに助けてもらったことをわかりやすく報告してくれた。
「そうだったか勇者教及び魔族の討伐大儀であった。そしてお主が《溟海の勇者》か。」
「はい…コーデリア・ブラウ…です。」
「うむ、その力世界のために貸してもらいたい。」
「お任せ…ください。」
コーデリアは家の屋敷で面倒を見ることになった。すでに居候がいる一人二人増えた所でそう変わらないだろう。するといつの間にか王の間に、入ってきていた人物が口を開いた。
「でそれが《聖剣》なのか。ちゃんとレポートは書いてきたんだろうな?」
「学園長!もちろん書いてきましたけど、どうして学園長がここに?」
「私が呼んでおいたのだ。《聖剣》について知りたいと思ってな。」
「まあ《聖剣》についてもそうだが、お前が《7人目の勇者》ということについてもよーく聞こうと思ってな。」
「あれ?言ってませんでしたっけ。」
言われてみればたしかに俺から申告した覚えはないが、てっきりシャーロットが説明してくれているものだと思っていた。でなければ俺が今まで授業に参加せず補習で済ましていたことをどうやって学園長に説明していたのだろうか?なんだか聞いちゃいけないような気がする。
「まあこれで個人的な謎は解けたがね。」
「謎ですか?」
「私は他人の能力が見える能力だが、今まで生きてきて能力が見えなかったのは君が初めてだよ。」
「そうだったんですか。そういえば《女神の天恵》の時も修道女にはわからなかったんだよなぁ。」
「それだけ君の《7人目の勇者》の特別だってことがわかるな。だけど特別扱いはしないちゃんと試験は受けてもらうぞ。」
「もちろん、わかってますよ。」
そのためにレポートだってちゃんと書いてきたんだし、むしろきちんと評価してもらいたいところだ。そんな話をしたところで今回は報告は終わった。急いで帰って明日の試験の準備をしなければいけないのだ。城を出て屋敷へと真っ直ぐに向かう。途中コーデリアが少しふらついてしまった。
「コーデリア大丈夫?」
「人が…多い…。」
どうやらコーデリアはこの国の人の多さにやられているようだった。ソレイナ国はどうかはわからないが、ガルタニアもそんなに人は居ない方だったからな。慣れていないのだろう、俺はコーデリアの手を握ってやる。
「もしきつかったら俺に捕まってくれていいから。」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。さぁ俺達の家に帰ろう。」
「…うん。」
皆はもう学園から帰ってきている頃だろうか、ランマにも紹介したいし今日は帰ってきてくれてるといんだが。そう考えているとちょうど見覚えのある後ろ姿が屋根の上を飛び回っているのが見えた。
「おーいランマ!」
「ユーリ殿!一週間もどこいってたでござるか?皆心配してたでござるよ。」
「あれ、学園長かシャーロットから聞いてなかったの?」
「アリア殿の話だと心配するなとだけ言われてどこに言ったか聞かされてなかったようでござるよ。」
「そうだったのか、まったくあの二人は。」
説明もなしに連れて行かれたあたり、まあわかっていたことではあったがどうやら俺が何をしにどこへ行っていたのかは聞かされてないようだ。これは説明するのも面倒そうだ。
「ところでそちらのお嬢さんはどなたでござるか?随分と仲が良さそうでござるけど。」
「彼女のことは家に帰ってから説明するよ。」
「了解したでござる…これは荒れそうでござるな…。」
「何のこと?」
「屋敷に帰ればわかるでござるよ。」
この時俺は何が荒れるのか、ランマの言葉の意味はわからなかったがすぐにそれ知ることになるのだった。屋敷に帰ると庭でアリアそれエレナがマルクさんに稽古してもらっていた。ちょうどユキさんとシロがお茶を持って屋敷から出てくる。
「おーい、ユーリ殿が帰ったでござるよー!」
「おかえりランマ!それにユーリと女の子!?」
「しかも随分と仲がよろしそうですね。私達にはどこに行っていたのかも教えてくれなかったのに。」
これは荒れそうですね。だけどいい加減覚えてほしい、いつものことだけど俺から何かやらかすことはないのだ…多分。珍しく熱い視線を送ってくるマルクさんはどうやら俺が携えている物に興味津々なようだ。
「流石ですねマルクさん、やっぱりわかりますか?」
「まさかその剣は《聖剣》ですか?」
「はい、これは《聖剣》です。」
「《聖剣》を手に入れることができたんですか!?それに彼女…。」
俺はエレナの疑問に黙って頷く。とりあえずいつまでも外で話すのも落ち着かないので皆と屋敷の中に移動する。そして俺は今回の出来事を軽く皆に説明する。
「そして《聖剣クラレント》が覚醒して《序列》魔族を倒すことができたってわけ。」
「なるほどそうだったんですか。」
「《聖剣》、ですが以前私が見たものとは違うようですね。」
「そこそこでまた深い訳があるんですよ。マルクさん。」
俺はピルクやその祖父のように《聖剣》が作れる一族がいるということ。俺の《聖剣クラレント》は少々成り立ちが違うことも説明する。皆は驚いていたが俺が関わっているならそうだろうというリアクションで落ち着いていた。なんか気分悪いんだよなぁ。
「まあそれはさておき、ここにいる彼女が《溟海の勇者》コーデリア・ブラウ。今回は彼女の協力もあって事件を解決することができたんだよ。」
コーデリアは皆に自己紹介し、皆も順番に自己紹介をする。そして自身の今までの経験を皆に話した。それを聞いてアリアは涙ぐんでいた。
「そうだったんだね…今まで辛かったよね。」
「…うん、でも今は皆がいる…私も《勇者》だから…頑張りたい。」
「ええ、同じ《勇者》同士ですから何でも言ってくださいね。」
「…ありがとう。」
「拙者もまた新しい妹が増えたみたいでうれしいでござる!」
「ここも大分賑やかになってきましたね。」
最初にこの屋敷に来た時は部屋は広くて大きく感じたけれど、今はこうして皆がいることを考えると王都に来てからは随分時間が経ったような感じがする。
「しまった!明日の試験の勉強しないと!」
「もう、ユーリ君ガルタニア国では勉強しなかったんですか?」
「だって急に連れて行かれたんだもん。準備する時間なかったよ。」
「しょうがないなぁ、私が教えてあげるよ。」
「そういうアリアだって、どうせ勉強していないんでしょ?」
「ちゃんとエレナに教えてもらいましたー!」
「はいはい、二人共そこまでで今から付き合いますから。」
「…ふふふ。」
こうして今回の騒動は幕を閉じた。《聖剣クラレント》を手にいれることができ《序列》魔族を倒すことができた。だが今回の様に水面下で魔族の計画が進められているということを俺は改めて思った。もっと修行をしないと、まあその前に進級試験の勉強に集中することにしよう。
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