第七十七話 《聖剣》の覚醒
皆連戦になってしまっているせいか、かなり消耗している。もちろん俺もだが、もう一か八かあれをやってみるしかない。《剣の勇者》の魔力を開放する。…かなり身体は辛いがなんとか三連続《勇者》の魔力を使えそうだ。そして俺はピルクに貰った剣を抜く。どうしてだかわからないが無意識にこの剣を使うのを躊躇っていた。しかし《剣の勇者》の力を最大限に引き出すためにはやはり剣は必要だろう。
「次は剣ですか。ならば『悪魔の水剣』、こちらも剣でお相手いたしましょう。」
「ユーリ、私もまだ戦えます。囮ぐらいにはなりますよ…!」
「私も援護します…!」
「うん、二人共気をつけて。行くぞ!」
俺はリトスに斬りかかる。先程のシャーロットとカルロスの攻撃から連続で攻撃し続ければ水の薄い膜も破ることができるとわかった。手数ならこちらのほうが有利だから、俺達は一気に畳み掛ける。
「はぁぁぁぁぁ!」
「やぁぁぁぁぁ!」
「『魔法弾・貫通』!」
「どうした、その程度では私に届きませんよ!」
しかしリトスも負けじと俺達の攻撃を捌いている。さらに水を操りこちらに攻撃もしている、魔族で敵ではあるが素直に凄いと感じた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
「シャーロット!カルロス!」
シャーロットとカルロスの2人は吹き飛ばされる。俺はリトスと剣をぶつけ合う、だが近づきすぎると水の剣を操りこちらに攻撃を仕掛けてくる。それをギリギリで回避する、これでは水の薄い膜を破ることはできずリトスの身体には届かない。仮に届いてもダメージを与えることはできないが。
「無駄な足掻きをするな。もうお前達は終わりだ、せめて苦しまずに逝かせてやろう。」
「まだだ!俺は諦めない!」
「『悪魔の水槍』」
俺の身体に水の槍が脇腹に突き刺さる。リトスはそのまま俺を後方へと投げ飛ばした。俺は『治療魔法』で脇腹の傷をなんとか塞ぐ。しかしかなり深いダメージを受けたせいで立ち上がれない。
「諦めろ。その身体ではもう持つまい。」
「あ…諦めない…!!!」
「仲間を見てみろ。もう虫の息だ、これ以上苦しませる必要はあるまい。」
「お前は必ず俺が倒す。」
「そうか、ならば死ね。『悪魔の水槍』」
俺に向かって真っ直ぐに水の槍が飛んでくる。もう避けるほどの体力はない…俺は目を瞑った。しかし水の槍は俺には刺さらなかった、目の前にはシャーロットが立っていた。シャーロットは口から血を吐き出しその場に倒れ込んだ。
「シャーロット!『治療魔法』!!!どうして…そんな…。」
「あの…魔族は…ユーリにしか倒せません…だから…カルロスが魔法力を…分けてくれたのです…。」
「クソっ!傷が塞がらない!」
俺はここまでの連戦で魔力の消費が激しく《治療薬》もない今、シャーロットを回復させることができない。このままでは死んでしまう。
「先生がおっしゃられるように人間とは愉快な生物だ。なぜ死ぬことが分かっていながら抗うのか。私には理解できない。」
「お前たちには一生わからないことだ。それに死ぬと決まったわけじゃない!」
「あそこに転がっている男はもう魔力が尽き長くは持つまい、それに《勇者》の女は死にかけでお前はもう戦えない。後は死を待つ以外に何ができる?」
頼む、今だけでいい何か皆を救う方法はないのか。…すると手に握っていた剣が輝き出した。
「何だその光は?」
「これは…?」
「うぅ、眩しい!」
ピルクが作った剣が輝き出した。その光はどんどん大きくなるそれと同時に俺の身体の中に剣から魔力が流れてくるのを感じる。まさかこれは…
「《聖剣》…なのか?」
「《聖剣》だと?!うぅ…眩しい目障りだ。『悪魔の水流』」
俺は《聖剣》となった剣を握り、こちらに向かってくる大量の水を切り裂いた。そのまま斬撃はリトスに向かっていき片腕を落とした。
「グワァァァァァ!!!!…何なのだその剣は?!」
「これはお前を倒すための力だ。『治療魔法・二重』!!」
完全に魔力が回復した俺はシャーロットとカルロスの二人に『治療魔法』を発動する。傷は完全に塞がり顔色も良くなった、これで命の心配はないだろう。リトスは斬られた腕が再生しないことに驚いていた。《聖》の属性が付与された斬撃だ、まさしく《聖剣》なのだ。
「《聖》属性の剣…まさか《聖剣》とは。とんだ秘密兵器を隠していたのだな。」
「いや、皆を守りたいという気持ちが応えてくれたんだ。決着を付けようリトス。」
「人間如きが思い上がるな!」
俺は《聖剣》をリトスは腕を前へと構える。次の一撃で勝負は付く。先に動いたのはリトスだった。
「『悪魔の水槍』」
水の槍が俺の身体に刺さる。リトスは勝ちを確信し笑うがそれは『陽炎』によって作られた残像だった。俺はすでにリトスの懐に入り込んでいる。
「『雷撃一閃』!!!はぁぁぁぁぁ!!!」
「グガァァァァァ!!!!!」
リトスの身体は《聖》属性の力と『雷撃一閃』によって跡形もなく吹き飛んだ。
「やった…勝ったんだ《序列》の魔族に…。」
前回は手も足も出ずにただ殺されるだけだった。だけど今回はシャーロットやカルロスという仲間の力とピルクの作った剣、いや《聖剣》のおかげで倒すことができた。ワンダーよりも《序列》が低いから強さはリトスの方が下だろうがそれでもこの勝利は大きいだろう。
「早く皆を運ばなきゃ…。」
俺はその場で倒れ込む。流石にもう限界を迎えているこれ以上は動けない。俺は意識を失う寸前に誰かの姿を見た、だが敵意は感じられなかったのでそのまま目を閉じたのだった。
◇◆◇◆
ユーリ達がリトスと戦う少し前、教会にいるコーデリア達は少しづつ街に向かって歩いていた。
「そうかユーリはそんなに強いんだな。」
「うん…《勇者》の力って凄い…。」
「コーデリアもその一人なんですよ。」
「わかってる…。」
コーデリアはまだ自身が《勇者》だということを知ってから日が浅い。だから実際にユーリの《勇者》の力を目の当たりにして驚いていたのだ。自分もあんな風に戦えるのだろうか不安や期待が入り混じっている不思議な感情であった。そんなことを考えている道中街の方から大きな魔力を感じた。
「こ、これは…?」
「一体何なんだ!こんな魔力感じたことねぇぞ!」
「魔物…いやそれ以上の邪悪さを感じます!」
「ユーリ…急ごう…!」
「おう!」
「ええ!」
三人は急いで街へと向かった。街につく頃には邪悪な魔力は消えていたが急いでユーリ達を探す。
「ユーリ!」
「皆さーん!」
「…あそこ…!」
コーデリアが指を指した場所にはユーリ、シャーロット、カルロスが倒れていた。その側には見知らぬ女性がいた。かなりの魔力を使用して何かをしている。恐らく治療なのだろうがその魔力量からしてみても実力者であるということはコーデリア達にも理解できた。だが敵意は感じない。
「あの…。」
「おい!姉ちゃん、俺達の連れに何かようか?」
「こらクレスト、失礼ですよ!女性にはもっと丁寧な言葉を使いなさい。」
「うふふふふ、いいのよ。ごめんなさいね、私はあなた達を助けに来たのよ。」
「助けに来たぁ?」
クレストはいまいち納得をしていなかった。だけど敵意は感じないので割り切ることにした。
「あら?あなた達も回復が必要みたいね。『豊穣の恵み』」
「おお!」
「何だこれ!?凄ぇ!」
「身体が…温かい…。」
「うふふ。よかったわ。」
「あんた一体…?」
「私はディーテ・メシオア。《真夜中の魔女》のメンバーでAランク冒険者なのよ。」
三人は《真夜中の魔女》に聞き覚えがなかったが、自分達を一瞬で回復させたことからただ者ではないことを再認識するのであった。
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