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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
《聖剣》伝説異聞編

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第七十五話 事件の真相

俺の後ろに立っていたマンダムはすでに人間の姿ではなかった。ザイルが魔人になった時と似ているが向こうが魔族よりの姿に対して、こちらは魔物という方が近い。牙や爪そして身体を覆う毛これはまるで魔物の特徴である。マンダムが先程まで立っていた場所には薬瓶が転がっていた、恐らくあれを服用したのだろう。


「コレがぁ、ワタシの最高傑作デスよぉ。」

「人間の姿を辞める薬がか?」

「ハハハ、姿形などは大したコトではナイのデスよ!!!」


マンダムは俺に向かって右手を振り下ろす、俺はそれを回避して飛ばされたコーデリアの元へと駆け寄る。かなりのダメージを受けているようだ。俺はコーデリアを『治療魔法(ヒール)』で回復させる。そこまでマンダムの力は驚異ではないが、コーデリアは戦闘に慣れていないこともあり、回避や受け身をとることができなかったのだ。


「コーデリア、大丈夫?」

「大…丈夫…。」

「あいつは俺が相手にする、だからコーデリアはここにいて。」

「待って…。」


そう言うとコーデリアは俺の手を握り、魔力を流してくる。コーデリアは恐らく意識的にやっているわけではない、『魔力供給(マジック・フィード)』は使えないし俺が《勇者》の力を使えるということも知らないはずだ。だが彼女は俺に《溟海の勇者》の魔力を受け渡してくれたのだ。


「ありがとうコーデリア。」

「うん…一緒に戦う…。」

「少し魔力を受け渡したクライで一体何ができるというのデスか。」


俺は《溟海の勇者》の魔力を使う、髪の色が青色に変わり魔力は深く落ち着いたように変わった。


「絶対にお前を倒せるようになった。」

「ワタシの完璧な肉体に隙ナドありまセンよ!!!」


マンダムはさらに身体を変化させ足の筋肉が肥大する。先程コーデリアを殴り飛ばした時は腕が《土人形(ゴーレム)》系の魔物に変化していたが、今回はこちらに跳躍する前に《ラビット》系の魔物のように太腿の辺りが変化していた。


「『海神の圧ポセイドン・プレッシャー』!!!」

「その程度…ぐっ…ナンですかコレは…。」


俺は手を前に出し魔法陣を展開させる。そこから大量の水を流しマンダムを閉じ込める、水の中の圧力はこちらに近付けば近づくほど強くなる。だがもう水の中から出ることはできないからこのまま気絶するかだ、どちらにせよ終わりだ。


「それ以上近付けば自分で自分の身体を潰すことになる。勝負はもう付いた諦めろ。」

「ガア…ガアア…。」


マンダムは無理やりこちらに近づき自分の身体を潰してしまった。普通の人間ならそもそも近づくことが出来ないだろうから、ある意味魔物の姿に変化し力が強化された所為とも言えるだろう。本来は潰れる前に捕まえて自身の魔物化やあのペンダントについて吐かせたかったところだが失敗してしまった。だがどの道あれしか選択肢はなかった、倒せるとは思っていたが生け捕りとなるとやはり難しい、そこで《溟海の勇者》の力を使ってみたが結果はこれだ。無意識なのか意地なのかはわからないがマンダムのパワーの方が上だったということだ。


「ユーリ…凄い…。」

「いや、これはコーデリアの力でもあるんだよ。俺はほんの少し借りただけさ。それにできるなら生け捕りをして情報を吐かせたかったし。」

「それでも…凄い…!」

「さて一旦ここを離れよう。クレストとヘクターも心配だし、街の方も心配だ。コーデリアもちゃんと手当しないと。」


俺はコーデリアを背中におぶり、『身体強化(フィジカル・ブースト)』を発動してクレストとヘクターのいる教会まで戻った。するとすでに魔物は倒されており、2人は教会の中心で座り込んでいた。


「クレスト!ヘクター!」

「おぅ…なんとか倒せたぜ!」

「そちらはどうでしたか?」

「ユーリが…マンダムを倒した…!」

「そうか!流石だな!」

「でも生け捕りはできなかった。この事件の目的や協力者を吐かせたかったけど…。」

「真相は闇の中か…まあ生きてる勇者教の奴に吐かせるだけ吐かせれば何か出てくるだろ。」


どうもこれだけでは終わらない気がする。あの研究所をマンダムや勇者教の教徒だけで本当に用意できるのかが疑問だ。それにあの魔物の様な姿になる薬、ザイルが飲んで魔人になってしまった《魔人薬》に似ているきがする。そう考えるとやはり協力者というのは魔族…というのが俺の推測だ。ともかく早く街に駆けつけないとシャーロット達が心配だ。


「マンダムの話じゃ街にもすでに勇者教徒が紛れ込んでるらしい、シャーロット達が心配だから俺は急いで街に戻ります!コーデリアをよろしく!傷は塞がってますけど体力はまだ回復していないのでそれじゃ!」

「ああ、気をつけてな!…行っちまった。」

「彼は凄いですね。本当に子供なのでしょうか…いえこういう言い方は失礼ですね。」

「ユーリ…頑張って…。」


俺は教会を後にして急いで街へと向かう。街の至る所で戦闘音が聞こえる、すでに魔物はあのペンダントで『召喚(サモン)』されているようだ。


「『炎の矢(フレイム・アロー)三重トリプル』!!!」

「グギャァァァァァァ!!!」

「ありがとう、助かったよ。」

「状況はどうなっていますか?」

「シャーロット様が兵を指揮してくれたおかげでなんとか戦えてはいるが…。魔物を全て倒しきる前に犠牲者が出てしまうだろう。」

「わかりました。皆さん気をつけてください!」


俺は『索敵(サーチ)』で魔物の居場所を突き止めつつ、倒していく。後は100m先にいる3体だけだ、だがその3体はすぐに倒されるだろう。なぜなら…


「二人共無事?」

「ユーリ!」

「ユーリ様!」


シャーロットとカルロスが居ることがわかったからだ。この2人が魔物に遅れを取ることはない。俺はマンダムがペンダントや魔物の力を借りる薬を使っていたことそしてコーデリアの《溟海の勇者》の力でマンダムを倒したこと、クレスト達が教会の魔物を倒して今は休息していること、街の魔物はこれで全てだということを説明した。


「これ以上、ペンダントを持っている勇者教徒がこの街にいなければだけどね。」

「それは大丈夫でしょう。すでにこの街に潜んでいた勇者教徒は全て捕らえることが出来ました。もっともペンダントを使った者以外にはなりますが。」

「勇者教徒の中にはマンダムに疑問を持つ者も居たそうです。ですがそういう人達は消されていたようですね。」

「多分ペンダントを持たせてたんだろうね、魔物も『召喚(サモン)』できれば一石二鳥とでも?とんでもない奴だったんだな。」


だが腐ってもマンダムは大司教だったわけだ。勇者教そのものが腐っているという線もあり得るが、シャーロットの話を聞いている限りではこれまでの勇者教はそこまでではないように感じる。ということはやはりマンダムも協力者とやらに操られていた可能性がある。そしてそれは恐らく魔族だろう。


「私はまだ何か大きなことが起こるような気がしてならないのです。」

「そうだね。マンダムの協力者がいるはずだ。それに俺の予想では多分魔族だと思う。」

「何か根拠があるのですか?」

「マンダムが使ってた薬、クラスメイトが魔人になったときと雰囲気が似ていたんだ。」

「たしか、ソーン家の方ですね。あのときも魔族に渡された《魔人薬》を飲んだことで魔族の様な姿になったんですよね?」

「そうだよ。マンダムは魔物だったけど人間の身体が根本から変わる感じ、かなり類似してた。」


《魔人薬》がどうやって作られるものかはわからないけど、魔族側に制作者がいるのは間違いない。そしてそれは勇者教を使って実験していた者でもある。


「あとは捕まえた勇者教徒が協力者の何か情報を持ってると良いんだけど…。」

「期待はできませんね…。」


そうカルロスが言い終えたあと街の上空に黒い穴が空いた。俺達はあの穴に見覚えがある。


「あれは…。」

「ええ…来ます!」


黒い穴から出てきたのは細身な身体つきをした男の魔族だった。その魔族は地面に立ち回りを見渡した後、こちらに気付いたようだった。


「あなたがシャーロット・セルベスタか?」

「ええ、そういうあなたは?」

「私は魔王軍《序列十二位》“導水”のリトス。先生の後始末とあなたを殺しに来ました。」

「…!!!」


魔族はシャーロットを名指しで呼ぶと殺害する宣言をするのであった。

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