第七十四話 教会の秘密
「マンダム!お前なんてことを!」
「ふふふ、はーっはっはっは!何と素晴らしい光景でしょうか!それでは私はここで失礼しますよ。」
「待て!」
マンダムは教徒を魔物召喚の供物にした光景を見て高笑いをしている。コイツだけは本当に許せない、マンダムは教会から逃げる。
「二人共、大丈夫かって何だこの状況は!」
「クレスト!やっぱり街に出た魔物は命と引換えに召喚した物だったんだ。」
「なんて奴らだ。これが勇者教ってやつなのか?」
「ユーリ、コーデリア!君たちはマンダムを追うんだ。ここは私とクレストに任せろ!」
「分かった、ヘクター、クレストここは頼んだ!」
「任せた…。」
「おうよ!」
「お任せください!」
教会の魔物はクレストとヘクターに任せて、俺とコーデリアはマンダムを追いかけて屋敷へと向かう。しかし《フレア・ウルフ》《キラー・エイプ》が道を塞ぐ、どうやら屋敷の中にも魔物がいるようだった。
「まさか、この魔物もあのペンダントで召喚されたのか?…クソ!」
「…大丈夫?」
心配そうなコーデリアが俺の手を握ってくれる。少しひんやりしていて感情的になって熱くなっている俺は少し落ち着くことが出来た。マンダムの所業は許せないだけどここで感情的になってはいけないのだ。魔物を倒して犠牲になってしまった人達の弔いをしたい。
「ありがとう、コーデリア。」
「…ん。」
「やろう!『炎の球』!」
「『水の球』!」
「ガァァァァァァァァ!!!」
屋敷の中の魔物を処理しつつ、先へと進む。しかしマンダムの姿が見えない一体どこに逃げたのだろうか。俺は『魔力探知』でマンダムの姿を探す。魔物以外の反応はない、だが地下に不可解な魔力を感じる。
「コーデリア、地下に不可解な魔力を感じる。」
「地下室が…あるってこと?」
「多分ね。どこからか入れる場所があるはずだ。探さないと。」
「任せて。『噴水』!」
コーデリアは魔法で噴水を作り水を出し続ける。徐々に水が床を水浸しになっていく、水の流れをよく見るとどこかへ流れている。
「あっち…。」
コーデリアに言われるまま付いていくとある部屋に辿り着いた。中に入るとこの部屋には水溜りができていない、よく見ると下に水が流れていっているつまりこの下には空間があるってことだ。
「この下…。」
「ありがとうコーデリア。『土振動』!」
俺は地下に続くがあると思われる部屋の地面を破壊する。すると部屋の下には階段が続いていた。『魔力探知』で再度マンダムの姿を探すが、やはり見つからない。これは見つからないのではなく、恐らくこの場所自体に認識阻害が何かが掛けられているのだろう。だがそれ以上にここからは何か邪悪な物を感じる。
「ユーリ…大胆。でもこの先…嫌な感じ…。」
「うん、何か邪悪な物を感じるよ。気をつけて先に進まもう。」
俺達は何かを感じつつも先に進む。地下へと続く階段を降りるとそこは何かの研究所と思われる施設が広がっていた。さらに奥へ進んでいくとそこには驚くべき光景が広がっていた。培養液に浸かっているたくさんの魔物、それに鉱石や資料などが乱雑に散らばっていた。どうやらあのペンダントはここで研究し作られた物のようだ。
「どうやらここで研究をしていたみたいだね。そしてあのペンダントを開発したと。」
「協力している…科学者もいる…。」
「そうだね。気をつけよう。」
俺達はさらに大きく開けた部屋に出る。どうやらここが最奥なようだ。
「おや、こんなところまで追いかけてきたんですか。」
「マンダム!お前の野望はここで止める。」
「止めるも何もすでに街にはたくさんの勇者教徒があのペンダントを持って潜んでいるんですよ。」
「なんだって!」
…だが街にはシャーロット達がいる、魔物の対処は向こうに任せよう。
「おや、止めに行かないのですか?」
「そっちは頼りになる仲間に任せる。俺はお前を倒す!」
「倒すとは、あなたにそれができますかな!『召喚』!」
マンダムはポケットから複数のペンダントを取り出し、魔物を召喚する。先程もそうだったが、どうしてマンダムは何のリスクもなく魔物が『召喚』できるのだろうか?
「さぁ、始めましょう。」
「『炎の矢・二重』!」
俺は『炎の矢』でマンダムが『召喚』した魔物を一撃で倒す。どれだけ出てこようとこのレベルの魔物であれば簡単に倒すことができる。
「ほぅ、なるほど。この程度の魔物では足止めにもならないということですか。あなた何者ですか?」
「ふん。お前のような悪党に教える気はない。」
「私と来る気はありませんか?」
「ない!」
「これはあなたのためでもあるんですよ?私と来ればあなたは後世に《英雄》と語り継がれることになるでしょう。」
ほんの一瞬だが《英雄》というワードにドキッとした。残念だったな、すでに俺は《英雄》と呼ばれている。まあ自分から言うような恥ずかしい奴ではないが。
「それも興味ないね。」
「そうですかでしたら、やはりここで死んでもらうしかないようですね。」
そう言うとマンダムはさらにペンダントを取り出し魔物を呼び出した。コイツ一体いくつペンダントを隠し持っているのだろうか。
「これで魔物は全てです。私も命は取られないとはいえ代償がないわけではないですからね。魔力には限界があります。」
「何体出そうと同じことだ!『炎の矢・三重』!!!」
「私も…『水の弾丸』!」
2人で魔物を倒す。しかしマンダムの姿がどこにもない。
「きゃあ!」
「コーデリア!」
急にコーデリアが吹き飛ばされる。俺の後ろにはすでに人間の姿ではないマンダムが立っていた。
◇◆◇◆
シャーロットとカルロスの2人はユーリ達と別れた後、街に戻り衛兵に勇者教の身柄を引き渡していた。ただの一般人であれば話を聞いてもらえなかったかも知れないが、シャーロットはセルベスタ王国の第一王女だ。衛兵はシャーロット達の話を聞いてすぐに尋問を始めてくれた。
「これで何かわかるといいんですが…。」
「そうですね。我々もユーリ殿のサポートに回りますか?」
「ええ…ですが何か嫌な予感がします。」
シャーロットは漠然と感じ取っていた、この街で何か大きな事件が起ころうとしていることを。そしてそれは以前にも感じたことがあった。あれは聖騎士祭の時のことだ、あの時もはっきりとはわからなかったが漠然と大きなことが起こりそうだと感じていた。だからこそ《紫》クラスの代表として聖騎士祭に出場したという背景もあった。そしてシャーロットは確信した、これは自分の《副技能》だということ。となると…
「大変です!」
「どうされたのですか?」
二人のもとに駆け寄ってきたのは、先程勇者教の2人を引き渡したガルタニアの衛兵だった。尋常ではない慌てぶりだ。
「先程の2人を尋問したところ、大変なことが。すでにこの街に30人ほどの勇者教徒が潜んでおり、いつでも魔物を出現できる用意ができているとのことことです!」
「なんということ!すぐに動かせる兵力はどれくらいですか?」
「そうですね、50名くらいなら…ですがお恥ずかしい話魔物に勝てる実力ともなるともっと数は少ないのです。実は今主力メンバーが隣国のソレイナ国に王の護衛として付いていってしまっているのです。」
「そうですか。では私共も加勢いたします。」
「ありがとうござい…」
「グォォォォォォォォォォォ!!!!!」
その時、街の中から魔物と思われる叫び声が聞こえた。
「どうやらもうすでにことは起こっているようですね。カルロス!」
「はい、先に処理して参ります。」
「任せました。私は兵の指揮を取ります。」
カルロスは魔物の声が聞こえた方へと掛けていく。シャーロットはその後姿を見ながら、皆の無事を祈るのであった。
「ユーリ、皆さん気をつけてください。」
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