第七十三話 魔物召喚
エクスカリライト鉱石にどんな効果があるかはわからないが、それが奴らの狙いであることは間違いなさそうだ。
「じゃあ鉱山で待ち伏せするか。」
「そうですね。証拠が集まらない以上現場を抑えるしかありません。」
「結局こうなるんですね。」
「まあ仕方がないよ。それじゃあ早速鉱山に行こう。」
「ユーリさん待ってください!」
鉱山へと向かおうとする俺に声をかけて呼び止めたのはピルクだった。ムーバスさんの話じゃ昨日俺達と鉱山から帰ってきてすぐに鍛冶場に入ってから食事も風呂も睡眠も取っていないらしい。そろそろ丸一日籠もっているというとこだろう。
「ピルク!大丈夫なの?昨日から休憩もしていないんだろう。」
「えぇ、集中しちゃうとどうも…そんなことよりもできましたよ!ユーリさんのための剣!」
そう言ってピルクが見せてくれた剣はかなりの業物だと感じた。俺はあまり剣の知識がある方ではないがそんな素人が見てもこの剣は良いものだとわかる。しかもこれを熟練の鍛冶師ではなく自分とそう変わらない少年が一日で仕上げたということに驚きを隠せない。
「軽く振ってみてください。」
「よっ、ほっ!うん、凄く手に馴染むよ。」
「よかった。」
お世辞じゃなく本当にこの剣はよく馴染む。魔力を流すとまるで自分の身体の一部のように感じるほどだ。魔力効率がいいということは恐らく剣系の魔法を発動させるのに限りなく最小の魔力、早いスピードで発動させることができる。
「凄い剣じゃないか!」
「ユーリさんが鉱山でエクスカリライト鉱石を銅に変化させたでしょ?あれをベースに作ってみたんです。そうすることで鉱石にはユーリさんの魔力が含まれてるので馴染みやすいんですよ。」
「なるほど、それが魔力効率もよくなってる理由なんだね。」
「はい。」
俺はピクルから貰った剣を持ち皆で鉱山へと向かった。
「とりあえずここで勇者教の奴らが来るのを待ってよう。」
「ああ、そうだな。」
「噂をすれば早速来たようだぞ。」
白いローブを被った勇者教と思われる人物が2人鉱山へと入ってくる。俺達は息を潜めて二人の会話を聞いてみる。
「しかし、マンダム様も酷いことをなさるな。」
「ああ魔物を簡単に召喚できる魔法の代償が自分自身だなんて。それを本人達には知らせないんだからヒデェもんだよ。」
「マンダム様が一人で開発したわけではないらしいぞ、何でも外に科学者の知り合いがいるとか。」
「どちらにせよ、今更どうこうできねぇよ。俺達も魔物にならないように早いとこ目的の物を回収しちまおうぜ。」
俺達は勇者教の二人の会話を聞きお互いの顔を見合わせてしまった。魔物を召喚できる魔法の代償が自分自身だって、そんなことありえるのか?本来召喚魔法は誰にでも簡単できる魔法ではない。契約した生物や精霊を呼び出すことができるという魔法だが契約するには心通わせることやお互いを信頼しあうことなどが条件のはず。生命を掛けたからといって召喚できるというわけではないと思うのだが…。
「魔物を召喚するために命を交換ってか…ちくしょう胸クソ悪い趣味してやがるぜ!あのマンダムとかいう野郎はよぉ!」
「私も同感です。しかも発動させてる本人達は知らないようですし。」
「…見て…あれ…。」
勇者教の二人はエクスカリライト鉱石を触らずにピッケルで細かく砕きつつ、バケツに直接入れている。鉱石の色は変化せず輝きを保ったままである。あいつら性質を変化させずに鉱石を手に入れる方法を知っているのか、そのままだとどんな効果があるのだろうか。
「こんぐらいでいいだろ、行くぞ!」
「待ってくれよ。」
勇者教の2人はエクスカリライト鉱石の破片を持ちそのまま帰ろうとする。シャーロットが合図をし、カルロスは魔法を展開させる。
「『魔法弾・睡眠』」
「うっ!」
「急に眠気が…。」
「流石だね、カルロス。」
「やるなぁ兄ちゃん。それにすげぇ精度だ。」
「ありがとうございます。」
カルロスの『魔法弾・睡眠』その名の通り『魔法弾』に睡眠効果を付与させる魔法である。だが簡単に眠らせることは出来ない、興奮状態ではないとかこちらに気付いていないといった条件がいるのだ。それを一発で眠りに落とすとは流石カルロスである。
「この2人をどうするんですか?」
「とりあえず衛兵に身柄を引き渡して聞き取りをしてもらいましょう。その間にこの2人が戻らないと怪しまれる危険がありますが…。」
「それじゃあ俺とヘクターさんで今度はこの2人に変装して潜入しよう。」
「なるほど、それなら屋敷の方にも潜入できるかもしれませんね。」
シャーロットとカルロスに勇者教の2人を任せて、俺とヘクターで潜入クレストとコーデリアが何かあったときのためにいつでも潜入できるよう外で待機ということになった。
「あの話が本当ならこれ以上被害者を出すわけにはいかない。一刻も早くマンダムの悪行を止めないと!」
「急ぎましょう。そちらは任せます。」
俺とヘクターは変装をし、勇者教の教会へと向かう。昨日とは違い、俺達がバケツを持って教会に近づくと自然と扉が開く。中から複数名の白いローブを被った連中が出てきた。
「おい!急げそろそろマンダム様の講演会が始まるぞ!」
「すいません!」
マンダムの講演会だって?一体何が始まるっていうんだ。教会にはすでに20人ほど集まっていた。これだけの人員一体どこに隠れていたのだろうか。
「同志諸君!また尊き犠牲が出てしまったようだ。街に降りた6人全員が魔物にやられてしまったようだうっ…。」
「なんということなんだ…うっ…。」
「だが我々は戦い続けなければいけないのだ!《勇者》様のために我々も魔王軍と戦わなければいけないのだ!!!」
「「「うぉー!!!」」」
「そのためにこのペンダントを握って勇者様に祈るのです!」
マンダムがポケットから輝くペンダントを取り出した。あの光はエクスカリライト鉱石の輝きに間違いない。恐らくさっきの奴らが言ってた魔物を召喚するという魔法があのペンダントに刻印されていて鉱石に込められた《聖剣エクスカリバー》の魔力でそれを補っているということだろう。
「さぁ、皆さんこれを持って街に居る魔王の手先を滅ぼすのです!」
「「「うぉー!!!」」」
ここにいる全員が街に降りて魔物を召喚されたら甚大な被害が出る、それにここに居る人達も死ぬということを意味している。ここで食い止めるしかない。
「そうはさせない!」
「おや、あなた誰ですか?」
「俺が誰ということはどうでもいい。だがそんな非人道的なことをさせるわけにはいかない!」
「何が非人道的なのですか?私は《勇者》様のご移行に沿って魔王軍と戦っているだけに過ぎません。」
「白々しい、そのペンダントを使うと魔物を召喚するのと同時に使った人間は死ぬんだろ!」
「皆さん!騙されちゃいけませんよ!このマンダムという男はあなた達の信仰心を利用しているんです!」
俺は前に出てマンダムに対して詰め寄る。だが本人はとぼけたリアクションをしている。ヘクターも皆を説得してくれている。だが急に出てきた見知らぬ俺達の言うことを信用できないのか皆は動揺している。
「では私が使って見ましょう!『召喚』!!!」
「ガァァァァァァァァ!!!!!」
マンダムがペンダントを握り、『召喚』と叫ぶと《フレア・ウルフ》が出現する。しかしマンダムはその場に立っていた。
「これのどこが生命を犠牲にすると言うんですか!さてはあなた達が街で騒ぎをお越している魔王軍の手先ですね!皆さんペンダントを握って『召喚』と叫んでください!この者たちを倒す魔物を召喚するのです!」
「皆辞めてくれ、騙されちゃいけない!」
「命が犠牲にならなくても魔物なんて召喚したら危険だ!」
俺とヘクターは必死に皆に必死に訴えかけるしかし、俺達の声は届かなかった。皆、マンダムの言う通りペンダントを取り出し強く握りしめている。
「それでは皆さんせーの!」
「「「『召喚!!!」」」
教会にいた俺達とマンダムを除いた全員の姿が魔法陣の展開されるとともに消え去り、代わりに20体の魔物が出現したのだった。
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