第七十一話 《溟海の勇者》
ムーバスに事情を離して2階の部屋を貸してもらう。白いローブの三人組は今回の魔物出現について何か知っているらしい。信用してもらえてよかったが一体どういうことなんだろうか。
「さて、まずは自己紹介からしよう。俺はクレスト・アクス、ソレイナ騎士団に所属している。」
「ソレイナ国?」
「ガルタニアの北側に位置する国ですね。セルベスタ王国との間にはガルタニアの鉱山や大きな山々があって交流は少ないですが同盟国ですよ。ただ情報の伝達にやはり時間がかかってしまって中々交流は取れていませんが。」
「なんだ兄ちゃん達はセルベスタから来たのか。俺達もセルベスタに行く所だったんだよ。なら話は早い実は…」
クレストが話そうとするのを細身の男が止める。
「クレストまずは私達の自己紹介をしてからです。私はヘクター・ケイバル、同じくソレイナ騎士団に所属しています。そしてここにいらっしゃる方が…」
「コーデリア・ブラウ…よろしく。」
コーデリア・ブラウと名乗った青髪の少女が白いローブを脱いだ時に何かを感じた。これはもしかして…シャーロットも驚いている様子だ、多分間違いない。俺達も認識阻害のローブを脱ぐとコーデリアは俺とシャーロットのことを交互に見ていた。
「あなた達…とても…気になる…。」
「そうだろうね。僕達も同じ気持ちだ。」
「はい。コーデリアさんあなたもしかして《勇者》じゃないですか?」
シャーロットがコーデリアに対して《勇者》なのかと質問した瞬間、クレストとヘクターは立ち上がり武器を手に取っていた。カルロスもそんな二人の頭に向かって指を向け魔法陣を展開させている。
「カルロス、辞めなさい。この方達はきっと驚いているのでしょう。」
「二人共…抑えて…悪い人じゃないと思う…。」
2人は武器をしまい、カルロスは魔法陣を破棄しそれぞれ座り直した。
「どうして…私が《勇者》だと…?」
「ここにいるユーリと私も《勇者》だからですよ。」
「それは…驚き…。」
「コーデリアさんが気になるのは私達が《勇者》同士だからなんです。」
「どういうこと…?」
「実は…」
俺達の自己紹介をし、俺達が《勇者》であること、他にもセルベスタに《勇者》がいること《勇者》同士は何故かお互いに意識すると何かを感じることができ《勇者》であることがわかるということを説明した。鉱山で会った時は距離もあったしお互いに認識阻害のローブをしていたからわからなかったことを説明した。
「なるほど。そういうことだったのか、済まないことをした。」
「早まってしまった申し訳ない。」
「いやこちらも失礼いたしました。」
「わかってもらえたらいいんですよ。」
「よかった…私は《溟海の勇者》、水魔法が得意。」
「そうなんだ、《溟海の勇者》ね。」
《溟海の勇者》で水魔法が得意か…俺達《勇者》の共通点みたいな物がわかればと思ったが、これといっては無い気がする。
「でも《勇者》だって知ったのは最近…。」
「…?どういうこと?」
「それは俺から説明しよう。コーデリア嬢は捨て子でな、教会で育てられていたんだが《女神の天恵》を受ける10歳の年になった時に教会が魔物に襲わたんだ。」
《女神の天恵》の時に魔物に襲われたのか…俺やアリアと少し似ているな。だけどエレナやシャーロットは魔物に襲われていない。この違いはなんだろうか?警備の厳重さなのか。
「その時コーデリア嬢は行方不明になってな。《女神の天恵》を受けずに魔物から逃げた後はずっと海の近くの洞窟で一年間一人で生きていた。たまたまソレイナ騎士団が海の近くに遠征しなかったら発見はもっと遅れていたかもしれない。そして改めて《女神の天恵》をしたら《溟海の勇者》の力があることが判明し、セルベスタ王国に報告に向かう途中だったというわけだ。」
「なるほど、そんなことがあったんですか。でもそれならわざわざ出てこなくても通信すればよかったのでは?」
「先程も言いましたが、ソレイナとセルベスタには鉱山の他にも大きな山々があるせいで通信が上手くできないんですよ。動物などに文書を運んでもらう方法もありますが、《調教師》の能力者はどこの国でも重宝されますから中々確保が難しいんですよ。」
「へぇー、そうなんだ。」
《女神の天恵》を10歳の時に受けなくても能力は授かるらしいが、改めて《女神の天恵》を受けることができるんだな知らなかった。それにしてもやはり長距離だと連絡できないのが難点だな。各国の連携を強めるためにはなんとかできればいいんだろうが、イヴァンの魔道具でも森や砂漠を越えてセルベスタとレシア砂漠の街ロンドまではギリギリ繋がるレベルだ。もちろんそれでもかなり頑張っている方だとは思うが、贅沢言うならどこにいても繋がるくらいになるといいな。ルミやマークにも頑張ってもらいたい所だ。
「それでどうして勇者教みたいな格好を?」
「旅の途中で勇者教に潰された街を見てな。コーデリア嬢が放ってはおけないっていうから一番近くにあったガルタニアにできたっていう勇者教のアジトまで乗り込んでやろうと思って。幸いにも俺達のローブは白色で似てるしな。」
つまりこの現場に落ちていた白いローブは本物の勇者教が身に付けているもので、コーデリア達が来ている白いローブはたまたま色合いが似ているだけということだ。一国の騎士団員と《勇者》を送り届けるという任務ならば認識阻害があるのも納得だ。
「でユーリ達はどうしてこのガルタニアに?」
「俺達は《聖剣》の伝説に関するレポートを書きにここまで来たんだ。途中でこの魔物騒動に巻き込まれてね、原因を探ってるってわけ。勇者教が関わっていることは間違いなさそうだけど。」
「でも変ですね。勇者教が街を潰したというのは。彼らはいつも迷惑行為くらいのもので、例えば勇者教へのしつこい勧誘とか勝手に演説を行ったりとかその程度のものです。危害を加えたというのは初めて聞きました。」
「俺達も最初はそう思ってたんだけどよ、そこの村の奴が言うには白いローブを着た連中が魔物を連れて村を襲ったって言うんだよ。おかげで俺達も疑われて大変だったぜ。」
うーむ、俺には勇者教がどういう連中かわからないから何とも言えないが、別の村でも事件を起こしていたとなるとやはり現場にたまたまこの勇者教の白いローブが落ちていたというわけではないだろう。
「じゃあ行きますか!」
「クレスト行くってどこ?」
「決まってるだろヘクター勇者教のアジトだよ。」
「いやいやもう少し情報を集めてからでもいいのでは?」
「いや、クレストの言う通りここは思い切って潜入してみよう。」
「ユーリ君まで!?」
ここで話していても埒が明かない。ピルクの話じゃ時々買い物に来るくらいのようだし街での聞き込みはこれ以上何かわかるとは思えない。ここは思い切って勇者教の教会に行くのがいいだろう。ヘクター以外はその案に賛成だったので説得は諦め彼も行くことに賛成してくれた。
「だがどうやって潜入する?」
「この白いローブを届ける体で行こう。俺と…ヘクターさんお願いしてもいいですか?」
「わ、私ですか?構いませんが…どうして私を。」
「それは…ヘクターさんが一番優しそうですし、俺のような子供だけでは怪しまれるかも知れません。」
「なるほど。わかりました。」
「あとの皆は教会の周りを囲っててくれ、何かあったらすぐに突入できる準備をしておいて。」
「「「わかった!」」」
本当はヘクターが一番弱そうだったからというのは黙っておこう。だけどクレストじゃ威圧感があるし、他は子供というのもある。まあカルロスでもよかったが、シャーロットの側に置いたほうがいいだろうと判断した。コーデリアも同じ理由だ、《勇者》にそれぞれ護衛を付けておくためにバランスが良いだろうと判断した
。俺達はムーバスに勇者教の教会がある場所を聞き向かうことにした。
「ここまで特に怪しい所はなかったけど…。」
「まあ堂々と悪いことしてる奴はいねぇだろうからな。」
「いや…あれ見て…。」
コーデリアが指を指した方を見てみると景観を破壊するように派手な看板が道に突き刺さっていた。看板には「勇者教教会ガルタニア支部こちら→」と書いてあった。
「これは…凄いですね。」
「悪いことをしてようがしてまいがあまり関わりたいとは思えないな。」
「だけど行かなきゃわかんねぇからな。案外面白い奴らかもそれないぞ。」
「まあ進みましょう。」
奇抜な看板に俺達は頭が重くなっていたが、看板に従って矢印の方へと進んでいくのであった。
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