第七十話 勇者教
俺達とは別のルートからやってきた三人組は目の前の景色を見て同じ様に感動している様だった。背の高い男、細身の男、そして俺達と同年代くらいの子は共通の白いローブをしている。声から性別を判断したがおそらく認識阻害がかかっているローブだろう。見た目からの性別判断をすることができない、それに魔力量もまったくわからない。
「姉ちゃん達も観光かい?」
「えっ?えぇ、そうですよ。」
「ここは綺麗でいいよな!」
「クレスト…行こう…」
「ん?そうか、じゃあなお互いにいい旅を!」
背の高い男がシャーロットに話しかける。軽く会話を交わした後白いローブの三人組は来た道を戻っていったのであった。だが俺達はこの三人組がただ者ではないことがたしかにわかった。
「ねぇシャーロット、怪しくない?」
「えぇ、ですが敵意は感じられませんでした。何者でしょうか?」
「かなり小さい声でしたが、クレストと言っていましたね。残念ながら心当たりのない名前ですが。」
「えっと?」
ピクルは状況が読み込めていないようだ。こちらは認識阻害のローブを着ているし、あの三人までは結構な距離が空いていた。にも関わらずあのクレストと呼ばれた男はピクルではなくシャーロットに対して話しかけてきていた。つまり認識阻害のローブを見破っていたということになる。そんなことができる能力者はそういないだろう。《勇者》同士であっても軽い違和感があるくらいで下手をすれば気付かないのに彼はそれに気付いたのだ。
「あ、あのローブって勇者教の人達のものですよね?」
「勇者教?勇者教って何?」
「勇者教というのはその名の通り《勇者》を崇拝している団体です。まあそれだけなら別に問題はないのですが《勇者》を崇拝するあまり各地でちょっとしたいざこざを起こして回っているという団体です。」
「そうなんだ、被害は大きいいの?」
「いえ、そこまでではありませんよ。本当に軽い迷惑行為レベルですから。ですがどうしてピルクは彼らが勇者教の人々だと思うのですか?」
「最近ガルタニアの北の方に勇者教の教会が出来たんだよ。ガルタニアの街にもたまに来るんだ。いつもあれと同じ白いローブを着ているからそうなのかなって…。」
「そうでしたか。」
勇者教…か、あまり俺は詳しくないが話を聞いている限りでは厄介事は起こしているもののそこまで重大な被害とかを出していないようなので放っているということだろうか。まあともかくかなりの実力者であることには間違いないだろう。
「あの…さっきの人達が何か?」
「いや、何でも無いよ。俺達もそろそろ戻ろうか。」
「そうですね。」
少し疑問は残るが、何かこちらが被害にあったわけではないし俺達と同じ様にただ観光に来ただけかもしれないからな。
「ふぅ、とりあえずこれでレポートは書けそうだよありがとう。それとピルクに1つお願いしてもいいかな。」
「…うん。僕にできることならだけど…。」
「ここの鉱石を使って俺に剣を作ってもらえないかな?」
「…でも僕《聖剣》作れないんですよ?」
「《聖剣》じゃなくてもいいんだ。君が作った剣が欲しいんだよ。」
ここまで一緒に行動してわかった。ピルクはとても真面目で良い鍛冶師だ、鉱石の知識もあるし何より人柄も謙虚だし。そんな彼だからこそ剣を作ってもらいたいと思った。
「…わかりました。僕ができる最高の剣を作らせてもらいます。」
「うん!お願いします!」
「早速帰って取り掛かりますね。ユーリさんがこの国に滞在している間には必ず完成させます!」
「そんな急がなくても、最悪間に合わなければ取りに来るから。」
「いえ、必ず完成させます!」
やはりピルクも職人気質なんだろうか、一度やると言った以上は曲げる気がないらしい。それならば彼に任せることにしよう。俺達はムーバスの店へと帰っていった。帰るなりピルクは奥の工房へと入っていきムーバスも驚いた顔をしていた。
「一体どうしたんだ?」
「俺が剣を作ってもらえないか頼んだらすごくやる気になっちゃって。」
「そうか、あいつがあんなにやる気なのは珍しい。兄ちゃん気に入られたな。」
「ははは、だと良いんですけど。」
そんな会話をしていると一人の男がムーバスの店へと駆け込んできた。
「た、大変だ!ムーバスの旦那ぁ!」
「どうした、騒々しい。」
「街で、街で魔物が暴れてるんでさぁ!」
「魔物だと!兵はどうした?」
「それが魔物が強くて皆やられちまって…。」
どうやら街で魔物が暴れているらしい。それに兵士もやられてしまったとなると簡単には対応できないだろう、一刻も早くなんとかしないと。
「ユーリ!カルロス!」
「うん!」
「はい!」
「俺達を魔物の所まで案内してください!」
「兄ちゃん達は一体…?」
「俺のお客さんだ。かなりの実力者だ信用できる。」
「わかりました!こっちだ付いてきてくれ!」
俺達は魔物が出たというところまで案内してもらった。すると魔物が3体暴れていたあれは《フレア・ウルフ》だ。《フレア・ウルフ》を見ると初めて魔物と戦った時の事を思い出す。あの時は名前しかわからなかったが今なら能力も見える。《フレア・ウルフ》は身体が燃え盛るように暑く直接触れることは出来ないのと口から火を吐く魔物らしい。最近になって気付いたが俺の《副技能》はこの能力を見ることができるという物だ。だから魔物の名前や能力を見ることができるのだと気付いた。
「『創造・剣』!『風の牙』!」
「『魔法弾・貫通』!」
「『千の突き』!」
俺達は三匹の《フレア・ウルフ》をそれぞれ対処する。簡単に制圧することができた、死者はいない様なのでとりあえず被害は少なくてよかった。それにしてもなぜ急にこんな町中に魔物が現れたんだろうか?『治療魔法』を掛けがてら聞き込みをしてみるか。
「『治療魔法』!もう大丈夫ですよ。」
「ありがとう助かったよ。」
「いえいえ、ところで魔物がどこから現れたかわかりますか?」
「歩いてたら急にそこの路地から魔物が現れて。」
「路地?」
「ああ、そこの路地だよ。」
俺は魔物が現れたという路地に向かう。特に怪しい所はないが…側に白いローブを見つけた。これはさっき鉱山であった奴らが着ていた物に似ているが、こちらは認識阻害はないようだ。どういうことなんだ?勇者教が関係しているのだろうか。そこにシャーロットとカルロスが合流する。
「ユーリ、それは…」
「うん、勇者教の物かもしれない。でもさっき鉱山であった奴らの物と違って認識阻害はないみたいなんだ。」
「どういうことでしょう?」
「わからない、でも無関係ってことはないよね多分。」
魔物が出てきた現場から勇者教の物かもしれない白いローブが出てきた、これは事実だ。たまたまこれが現場に落ちていたということはないだろう。何かしら関係はあるはず。
「きゃー!」
「聞いた!?今の悲鳴!」
「まさかまた魔物でしょうか!?」
「急いで行ってみよう!」
俺達が悲鳴が聞こえた方面に行くとまた魔物が出現しているようだった。数は同じく3体である。ただ、先程と同じ《フレア・ウルフ》ではなく今回は《キラー・エイプ》である。だがなんだか様子がおかしい、《キラー・エイプ》の動きが鈍いのだ。あれは恐らく麻痺状態だろうか。
「よっしゃぁ!おらぁ!」
「私の剣を味あわせますよ!」
「『水の球』」
「「「キェェェェェェェ!!!」」」
「あれはさっきの。」
「鉱山であった勇者教の人達だ。」
先程鉱山であった勇者教?の三人が魔物と戦っている。クレストという男は斧で細身男は剣で一番華奢な子は魔法を使ってそれぞれ3体の《キラー・エイプ》を倒した。俺達は3人の元へ駆け寄り声を掛ける。
「ありがとう、助かったよ。」
「構わねぇさ。それよりこの状況何か知ってるのか?」
「いや、俺達もそれを今調べているところなんだ。君たち勇者教の人なんだよね?さっき別の場所でも魔物が出現したんだ。そこで魔物が出現した場所から君達と似たようなローブを見つけたんだ。何かわからないかな?」
一番話しがしやすそうな大きな男に俺は思い切って先程のことを突っ込んでみた。男は少し考え込んだ後に2人と目配せし、頷いた。
「お前達は信用できそうだ。悪いがどこか話せる場所はねぇか?できればあまり知られたくないんだ。」
「わかった。俺達がお世話になっている武器屋に行こう。そこなら邪魔されないよ。」
「了解だ。」
俺達は三人を連れてムーバスの店へと戻るのであった。
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