第六十八話 旅は道連れ
俺が学園の門へと急ぐと入り口の前に見覚えのある馬車が止まっていた。俺は何のためらいもなく中に乗り込む。不機嫌な俺の顔と対象に笑顔で座るシャーロットとこちらに頭を下げるカルロス。こうして三人の《聖剣》伝説調査もとい《聖剣》探しは始まった。
「それでまずは説明してもらえるんだよね?」
「説明とは何でしょう?」
「とぼけないでよ!俺だけ何も聞かされていないんだから!」
「そうですね。ユーリは《聖剣》が作れる鍛冶師の情報を欲しがっていたでしょう?それで一番《聖剣》に詳しいレリクス学園長にお願いしたんです。最初はいつものように学園を休んで行ってもらおうと思ったのですがユーリは学園を休み過ぎで流石に補習授業だけでは…となっていました。そこで進級試験という名目なら学園から離れてもいいとのことだったのでちょうどいいという話になったんです。」
なるほど、一応納得はできるな。元を辿れば俺が学園を休んでいるのが悪いということなんだから。他の生徒の事を考えたらいくらシャーロットが手を回してくれるからといって特別扱いはできないだろう。
「だけどシャーロット達が付いてきたのはどうして?」
「私達が付いてきたのはユーリのサポートと進級試験も兼ねているからですよ。さすがに一人で《聖剣》を手に入れてこいっていうほど学園長も鬼じゃないですよ。」
「難易度だけでいったら人数いても簡単にはならないと思うけど…。」
まあ進級試験の名目だけなら《聖剣》伝説の調査ということだから、詳しくレポートにでも纏めて提出すればなんとかなるか。問題は手に入るかどうかだが、こればっかりはわかるものでもないから仕方がない。ぶっちゃけあればいいなと思うがなくても仕方がない。その時はもっと修行でもして強くなればいいのだ。馬車に揺られること2時間半くらい、そろそろガルタニアに着くだろうか。
「そろそろガルタニアに着きますよ。」
「結構道がガタガタしてきたね。」
「話は聞いたと思いますが《聖剣エクスカリバー》が作ったとされる鉱山が近くにあるので、このあたりは長い時間をかけて土地が盛り上がったようです。なので山が多いんですよ。」
「そうなんだ。」
だけどこんなに山がたくさんあったらどのあたりが《聖剣》が作った鉱山か見分けが付くのだろうか。まあこの国の人ならわかるのかな。守衛で冒険者ライセンスを見せ入国をする。この国にいる間の宿に馬車を止め、まずはこの国を回ることにした。
「ちなみに《聖剣》の情報に何かアテはあるの?」
「ええ。父の古い友人がいるそうなのでその方を頼ります。ただ約束をしているのは明日なので今日はもう遅いですし、軽くこの国を回ってみましょう。」
「OK。っていうかシャーロットもこの国には来たことないんだ。」
「そうですね。物心付く前に訪れたことはありますが、覚えていません。」
ガルタニアはドワーフは意外はほとんど住んでいないだけあってそこまで活気があるわけではない。冒険者もちらほら見かけるがその殆どは武器を求めてのことだろう。《聖剣》伝説だって有名ではあるがだからといってわざわざこの国まで来る物好きはそうそういないのだ。
「シャーロット様あまり離れぬように。」
「わかってますよ。もう子供じゃないんですから!」
たしかにいつものシャーロットと違って今日は妙に浮足立っているというかはしゃいでいるという感じはするな。こんな姿を見るのは初めてだ。
「ねぇ、カルロス。シャーロットなんかあった?」
「ここのところ忙しくされておりましたから。こうやって気を許せるメンバーだけというのもあるかもしれません。」
「なるほど、お姫様は大変だよね。カルロスもいつもお疲れ様、そんなにかしこまらなくていいから。」
「…っ、ありがとう。」
一瞬凄く驚いたような顔をしていたがすぐに笑顔になった。カルロスもいつも大変だろううから今回くらいは気を使わず休んでほしいものだ。
「しかし武器屋が多いね。」
「そうですねドワーフ族は鍛冶が得意ですから、ベテランの冒険者の方にはわざわざここまで足を運んで修復してもらいに来たりするそうですよ。」
「武器は命を預ける物ですから。」
「たしかにね。そういえばシャーロットは《聖剣》欲しくないの?いや、欲しいからって手に入るものでもないんだけどさ。」
シャーロットが使っている剣は業物ではあるが《聖剣》クラスではない。《剣の勇者》なのだから俺と同じ様に《聖剣》を求めてもおかしくはないと思うのだが。
「これはなんとなくですが私は《聖剣》に選ばれないと思います。」
「どうしてそう思うの?」
「直感です。《剣の勇者》はどんな剣を使ってもそこそこ扱えると思いますが、だからこそ《聖剣》には選ばれないというのがわかるのです。」
「そうなんだ。」
でも仮にそうだとしたら俺が元々考えていた《剣の勇者》の力を借りた状態で《聖剣》の力を使うということはもしかしたら出来ないのかも知れない。俺達は店を回りながら歩いていると目の前の少年が袋を落とした。俺はそれを拾って少年に声を掛ける。
「そこの君!これ落としたよ。」
「…ありがとう。これ大事な物なんだ。」
「それならよかったよ。でも大事な物なら気をつけないと。」
「うん。本当にありがとう!それじゃ!」
「行ってしまいましたね。」
「俺達もそろそろ宿に戻ろうか。」
「そうですね。」
その日はガルタニアを軽く周り宿へと戻ってきた。次の日、王様の知り合いがいるという武器屋に向かっていた。
「ここがそうですね。ごめんくださーい!」
「…誰もいないね。」
「そんなはずはないと思いますが…」
「奥から音がしない?」
店の奥からカン!という甲高い音が響いている。もしかして誰かが何かやっているのだろうか。俺達は店の奥に入る。するとドワーフ族の男性が剣を打っていた。俺は初めて見るその光景に息を呑んだ。
「もう少しで終わる…外で待っててくれ。」
俺達は無言で外へ出た。10分くらい経った後男が店の奥から出てきた。
「嬢ちゃんがルドルフの娘か。」
「はい、シャーロットと申します。ムーバスさんで間違いないですか?」
「ああ、俺がムーバスだ。」
どうやらこのムーバスという男が王様の知り合いで間違いないようだ。それにしてもセルベスタ王って名前ルドルフって言うのか、初めて知ったな。エレナが居なくてよかったー、絶対えっ?何言ってるんですか?みたいな顔をされていただろう。
「でこんな何も無い国まで何しに来たんだ?」
「俺達《聖剣》を探しに来たんです。何か《聖剣》について知っていることはありませんか?」
「…どうして《聖剣》を探してる?」
「俺達はこれまで何体かの魔族と戦ってきました。でも実力不足、死にかけたりもしました。だから《聖剣》を手にしてもっと激しくなる戦いに備えたいんです!」
「なるほどな。だが《聖剣》がそれに必ず応えてくれるかどうかはわからないぞ。それでもいいのか?」
「そうですね。選ばれなければ素直に諦めて帰ります。」
ムーバスは少し考えた後、うなずき口を開く。
「わかった《聖剣》の情報を教える。」
「本当ですか!ありがとうございます。」
「俺が知っていることは伝説とそう変わらないが、1つだけ有力な情報を知っている。《聖剣》はなとある能力者の一族しか作ることができないんだ。」
「とある能力者の一族ですか?」
それは初耳だ。たしかに誰でも作れるんだったらもっと数が出ていそうなものだしな。さらに選ばれなければ使えないって《聖剣》の使い手は本当に珍しいんだな。
「ああ、その一族はほぼ滅びたがな。」
「滅びた!?ってことはもう《聖剣》を作れる鍛冶士はいないってことですか?」
「ほぼって言っただろ。確実に生きているのは一人だけもう一人は行方不明だ。」
「それで生きている一人って言うのは?」
「それは…」
「ただいまー、おやっさん、今日もいい鉱物が取れたよ。」
ムーバスが言葉を言いかけた直後誰かが帰ってきた。振り返ってみるとそこには昨日落とし物を拾ってあげた少年がたくさんの鉱物を抱えて立っていた。
「あれ?君は昨日の…。」
「あっはい、昨日はありがとうございました。」
「何だ面識があったのか。ちょうどよかったそいつがさっき言ってた《聖剣》を作れる一族の生きてる方だ。」
「えっ、この子がですか?」
「ああ、そうだ。」
その少年は何とも言えない表情でこちらを見ていた。
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