第六十五話 新しい仲間
俺達はランマの家からハミルトンの屋敷へと戻ることにした。ハルさんはまだ病み上がりなのでそのまま家にいる、後で正式に医者を派遣するようにキクさんにお願いすることにした。
「もうすっかり夕方だね。」
「そろそろここから出ないと危ないでござる!」
「そうか!もう《遊郭》が始まっちゃうもんね。」
「急いで戻ろう!」
俺達は急いで《遊郭》を後にした。振り返って見るとすでに明かりがまばらに付き始めており、店と思われる建物から女性が出てきている。うちの師匠も露出度は高いが、こちらの女性もかなり露出度が高いようだ。俺が見ていることに気付いたアリアが俺の目を塞いできた。
「前が見えないよアリア。」
「見なくていいから。さぁ行くよ!」
「はいはい。」
「ユーリ君って本当に女性に目がないですよね。」
「そうなんでござるか?」
エレナそれは違うよ、男の子は皆無意識に見てしまうものなんだよ。って言いたかったが、余計面倒なことになるのは目に見えていたから俺は素直に受け入れた。
「それにしてもこの国もこれで見納めかな。」
「色々あったけどね。」
「でも本格的な異国の文化に触れたのはこれが初めてだったので刺激的でした。」
武器である刀はもちろん、建物も木で作ってある建物が多いし地べたに座る文化とか着物と呼ばれる服とか初めてみる物も多くて刺激的ではあったな。
「さて帰りましょうか。」
「そうですね。黒い甲冑の騎士のこと皆にも情報共有しておきましょう。」
「何はともあれ元気になってよかったですよ。」
俺達は《遊郭》を後にするのだった。屋敷に戻った俺達は疲れからすぐに休むことにした。次の日、重症組はまだ安静にしていないと行けないので大和国に残して動けるメンバーで帰ることにした。
「キクさん今度こそ本当にお別れですね。」
「ええ、寂しくなるわね。」
「今度はユキさんを連れて必ず会いに来ますから。」
「うふふ、楽しみにしてるわね。皆のことはちゃんと回復するまでちゃんと面倒見るから任せてね。」
「お願いします。」
「待ってほしいでござる!!!」
俺達が門の前で別れの挨拶をしているとランマがこちらに向かって走ってきた。てっきりハルさんに付きっきりで別れの挨拶はできないのかと思ったが…よく見てみると大きな荷物も抱えている。
「どうしたのランマ?」
「拙者も一緒に連れて行って欲しいでござる!」
「えっ?ハルさんはいいの?」
「もう心配ないでござるから、それにハル姉の敵を探したいのでござる。それには情報が必要、ユーリ殿達の近くに居る方が情報を集めやすいと思ったでござるよ。」
「俺達は別に構わないけど…。」
心配そうにこちらを見ているキクさんの後ろには黙り込んでいるツネヨシ将軍がいる。たしかツネヨシ将軍が前将軍の死後ランマの面倒を見ていたんだよな。自分からとはいえ、牢に捕まってたわけだしランマは犯罪者という扱いなんだろうか。わからないけどそんな人物を自由に他国に行かせていいのか考えているのだろう。
「ランマ!…お主自分の立場がわかっておるのか?」
「自覚がなかったとはいえ幼い頃から拙者がしてきたことは許されることではないでござる。そんな拙者は罪悪感から自ら牢に入ったでござる。だけど殿だけは違った、役人という職で贖罪の機会を与えてくれたこと非常に感謝しているでござる。しかし拙者はどうしてもたった一人の家族を傷つけられたことを許せないのでござる!」
「………。」
ツネヨシ将軍は再び黙る。きっとランマの気持ちもわかる反面、将軍の立場として思うところもあるのだろう。あるいは親心なのかも知れない。
「わかった。身体には気をつけるんじゃぞ、それと定期的に手紙でもよこせ。」
「拙者、必ず連絡するでござるよ!」
「それじゃあルミ、よろしく!」
「はーい、『龍化』!!!」
いつもどおりルミは龍の姿へと戻り、俺達は背中に乗り込んだ。キクさんとツネヨシ将軍、ランマは初めて見る龍に驚いていた。
「これが本物の龍なのね…。」
「凄いな…長生きはしてみるもんじゃな。」
「こ、これに乗るでござるか?」
「さあ、早くランマも乗って。」
ランマは恐る恐るルミの背中に乗る。
「それじゃあさよなら!また連絡します!」
「ええ!待ってるわよー!」
「ランマー!しっかりやるんじゃぞー!」
「わかってるでござるよー!」
俺達は今度こそ本当に大和国を後にするのだった。だがこれからやることは山積みだ、《勇者》探しはもちろん《序列》魔族に備えての修行、黒い甲冑の騎士など問題は多い。それでも俺達は止まることはできないのだ。
「そういえば皆さんそろそろ進学の事、考えられましたか?」
「…進学?」
「はい、進学です。一応私の方で授業単位の調整はしていますから留年はしませんが進路は自分で決めていただかないと…。」
俺は頭に疑問符が浮かぶ。騎士学校って進学と進路とかあったのか、いや学校だから当たり前だけど全然知らなかった。ほとんど学校に通っていないせいだろうか。
「俺はこのまま進学しようと思う。学校に通いながら冒険者として修行を続けたい。」
「僕はまだ決めかねてるよ。フルーは騎士団見習いになるって言ってたかな。でも今回のことがあったし変わるかも知れないね。」
「私もこのまま進学でいいと思っています。《勇者》の捜索や魔族との戦いを考えれば学生のままの方が身動きしやすいでしょうし。ね、ユーリ君。」
「そ、そうだね…い、いいと思うよ。うん。」
進学しようとか見習い騎士とかって何のことなんだ?やばい、全然わからないどうしよう。ふとアリアの方に目をやるとアリアも驚いた顔をしていた。あの顔は絶対わかっていない、よかった仲間が居た。
「ユーリ君、もしかして知らないんですか?」
「だって誰も教えてくれなかったじゃないか!」
「ユーリとアリアは元々学園に来る予定ではなかったんですから知らなくても無理はないでしょう。」
シャーロットがすかさずフォローに入ってくれる。エレナはそれにしたって知らないはないでしょうとでも言いたげな顔をしている。まあ反論はできない。
「我々が通う聖リディス学園は一年生の時に基礎的な魔法や戦術などを学びます。二年生に上がる頃にはそのまま学園に残るか希望する騎士団に見習いとして入団するか選択することができるのです。」
「へぇー。その2つは何が違うの?」
「二年生の時点で騎士団に入れれば、そのまま学園の在籍にはなりますが卒業後は騎士団にそのまま配属されます。まだ騎士になるか決めかねている場合や冒険者や家業を継ぐなど卒業後に他の選択肢を選ぶ場合は進学になりますね。」
「そうだったんだね。全然知らなかったよ。」
「まあ九割は見習い騎士の道を選ぶがな。進学する奴は有名な親がいるとか後は…その…。」
言われてみれば学園で先輩というか俺達の学年の人間以外見たこと無いもんな。敷地がデカいだけかと思っていたが。ディランは補足で説明してくれたが、進学の方の説明は言いにくそうであった。
「何?」
「頭のおかしい奴だと言われている。」
「まあ騎士になりに来ているのにその道をあえていかない理由もないもんね。」
俺達はある意味特別だから冒険者としてもそこそこ結果を残せるわけだが、普通に学園に通っていたらまず冒険者ランクは上がらないし、そちらを目指すのであれば学園を辞めるだろうしな。
「どちらにせよ進学のための試験はあるのでお忘れなきように。」
「試験あるの!?」
「それはもちろん。」
「ユーリ君もアリアさんも帰ったら勉強しましょうね。」
「「…はい。」」
これはしばらく俺とアリアは勉強漬けの日々になりそうだ。そうこう話している内にセルベスタへと帰ってきた。各々自宅や寮、城へと帰っていく。皆を順番に見送って俺とアリアそしてランマが残った。
「そういえばランマ行く宛あるの?」
「ないでござる。そこらで適当に野宿しようかと。」
「そうだと思ったよ。家の屋敷においで、部屋はたくさん余ってるから。」
「いいんでござるか?」
「女の子を放置するほど俺達も鬼じゃないよ。ねっ、アリア。」
「うん!賑やかな方が楽しいからね!」
「かたじけないでござる!」
ランマは意外と勢いだっけで行動するタイプだなと俺は思った。ランマを連れて屋敷へと帰ると皆が出迎えてくれた。新しい居候人を連れ帰り今回の大和国騒動の幕は下ろされたのだった。これでしばらくは平穏な日々が続くだろう。
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