第六十四話 思わぬ出会い
俺達はランマに会って欲しい人物がいると言われ、目的地を知らされないまま歩いている。メンバーは俺、アリア、エレナ、シャーロットの4名だ。この人選なのは、まず俺は一番信用できるから付いて来て欲しいということ、あとは大人数ではなく少数がいいとのことなので何か会った時のために回復役としてアリア、用心棒としてエレナ、判断できる権力者としてシャーロットということになった。もっともこの3人以外は立候補もしていなかったが。俺としては男手がないのは少し寂しいけど、両手に花どころじゃないがこれも役得と思うことにしよう。
「ここでござる。」
「ここってたしか…。」
「《遊郭》って場所だよね?」
誘拐事件の時に城と同じく外敵から姿を隠す魔法が掛けられており、かなり近づかないと見えない。キクさんは夜しかやっていないといったこと言っていたな。怪しい場所の候補として挙がってはいたが結局の所どういうところなのかというのは聞いていなかった気がする。
「こっちでござるよ。」
ランマが向かっていったのは正面の門ではなく壁伝いにあるボロボロの扉であった。扉を開けて中に入ると、そこには外と同じ様に建物が建てられている。だがかなり古びている。
「どうして正面じゃなくて裏から入るの?」
「ああ、あっちは夜しか通れないでござるよ。」
「そうなんですね。この《遊郭》ってそもそもどんな場所なんですか?」
「うーむ、そうござるな。皆の国で言うところの娼館でござる。遊女と呼ばれる人が夜になると宿から手招きして客を取るというのが特徴でござるかな。」
聞いたエレナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。《遊郭》とは大和国の娼館を表しているのか、だがセルベスタにある娼館とは随分違うようだ。夜しかやっていないということもないし、客寄せはもっと強引というか無理やり引っ張っていくような形に近いと聞いたことがある。
「でも俺達みたいな子供が入っていいの?いくらまだ夜じゃないからって言ってもさ。」
「そこは大丈夫でござる。ここには拙者達よりも幼い子供達も働いているでござるから。もちろん客を取るんじゃなくて雑用とかお手伝いでござるが。ここらはそういう子達の住居なんでござるよ。」
「どうしてそんな子たちがいるの?」
「ここに来る子は皆、親に捨てられたり居場所を失った子達ばかりでござるから。拙者も前将軍リューマ殿にここで拾ってもらったでござる。」
「それってここにいる子達は奴隷ということですか?」
「ははは、そうかも知れないでござるな。でも贅沢はできないけど衣食住の保証はあるし、大人になればここで働くか外に出ることも自分で選択できるから契約を結ばれるような奴隷よりは全然いいと思うでござるよ。」
エレナはすこし安心したような顔をしていた。奴隷という制度はなくなったけれど、子供を借金のカタ売ったりといった行為がなくなったわけではない。それに奴隷という制度があったからこそ雇用や命が守られていたという考えもあった。しかし契約魔法は効力が強すぎてやはり自由に生きる権利を剥奪しているというような話で結局、奴隷制度はなくなった。だけど一部では雇用や命を守っていた側面があるのもまた事実。その点この《遊郭》という場所は仕組みとして上手く機能しているように感じる。
「付いた。ここが拙者の家ござるよ。」
「ランマちゃんの家なの!?」
「ここに会って欲しい人がいるんですか。」
「そうでござる、遠慮なく入って欲しいでござる。」
そうランマに案内されて家に上がる。ここで待っていて欲しいとお茶を出されたので、俺達はお茶飲みながら待つことにした。この畳というのに地べたで座るスタイルもようやく慣れてきたな。シャーロットは慣れないようであたふたしている様子はとても可愛らしかった。
「それにしてもランマさんが会わせたい人ってどんな人なんでしょうか。」
「この家にいるのかな?」
「お待たせしたでござる。こっちに来てもらえるでござるか。」
ランマに案内され部屋の前に着く。扉に手をかけると声を掛ける。
「入るでござるよ。」
扉を開けるとそこには女性が布団に横たわっていた。年齢は俺達よりも年上だろう、驚いたのが全身に禍々しい魔力を纏っていることと、整った顔であるのにそれを邪魔するようにある黒い痣だった。
「か、彼女は一体?」
「拙者の姉上でござる。」
「ランマのお姉さん?」
「彼女の名前はハル、拙者達は血が繋がっていないから本当の姉ではないでござる。拙者が前将軍に拾ってもらう前この《遊郭》に居た話はさっきしたと思うでござるが、小さかった拙者を育ててくれたのがこのハル姉でござる。拙者が前将軍に引き取られてからもずっと心配をしてくれて、拙者も働いた賃金はハル姉に渡して少しでも生活が楽になればと恩返しをしていたでござる。」
きっとこのハルさんもここに売り飛ばされただろうに、自分よりも幼いランマを拾ってお世話していたというわけか、凄い人だ。だけど…
「この痣はどうしたんだ?」
「わからない、拙者が見つけたときにはもうこの状態で。これは“呪い”というらしいのでござるが、薬や『|治療魔法』では治せないらしく…もう打つ手が…。そこでユーリ殿達であれば何か解決策を知っていると思ったのでござるが…。」
「うん、私ならなんとかできるかも!」
「本当でござるか!!!」
そう言ったのはアリアだった。俺やシャーロットはこの“呪い”についてあまり詳しくなかったがどうやらアリアとエレナは解決策を知っているらしい。
「一体どうやって治すの?」
「私が戦った九人剣客が“呪い”使いだったんだけど、戦いの中で光《聖》属性魔法を覚えることが出来たんだ。《聖》はありとあらゆる厄災から守ってくれるもちろん“呪い”もね。」
「私も《序列》魔族との戦闘でダメージを与えるところを見ました。効果は間違いないと思います。」
「聞いたことないけどじゃあ犯人はその人ってころ?」
「うーん、似てるけど違うと思う。ここまで酷く苦しむ感じじゃなかったし。」
そうなのか、“呪い”というものがあまり知られていないなら使い手も限られるはず、犯人は限られていると思うのだが…。何はともあれその《聖》属性魔法ならば試す価値はありそうだ。
「じゃあいくよ、『聖なる光』!」
アリアが発動した『聖なる光』によってハルさんの黒い痣がどんどん引いていく。どうやら効果はあったようだ。シャーロットがハルさんの身体を確認する。
「もう身体に痣は残ってないようですね。これならすぐに良くなるでしょう。ユーリ一応『治療魔法』をお願いします。」
「任せて。『治療魔法』!」
ハルさんの顔色がどんどん良くなってきた。これならすぐに目を覚ますだろう。しかし誰が“呪い”をハルさんにかけたのだろうか。
「うっ…うーん。ランマ…?」
「ハル姉!よかった、よかったよぉ…。」
ランマはハルさんに抱きつき涙を流す。その光景を見て皆涙ぐんでいた。ハルさんは不思議そうにこちらを見ていた。
「あら、そちらの方達は?」
「拙者の…いやこの国の恩人たちでござるよ。」
「?」
ランマはハルさんが眠っていた間のことを話す。まさか自分が寝ている間にクーデターが起きたとは思わないだろう。かなり驚いた様子だった。
「それでこのユーリ殿達がこの国を救いとハル姉の“呪い”を解いてくれた恩人でござる。」
「それはそれは…どうもありがとうございました。」
「いいえ、大したことでは。」
「それよりも起きたばかりで申し訳ございませんが、その“呪い”についてお聞かせ願えますか?」
誰かに恨みを買われたのか、それともただの場当たり的な犯行なのかはわからないがかなり悪質だ。命の危険もあったんだから。何か手かがりになるようなことを覚えていないだろうか。
「あの日、お世話になってるお店から帰っている途中で黒い甲冑を来た騎士さんとぶつかったの。それで家に帰ってきたら急に苦しくなっちゃって。」
「そこに拙者が帰ってきて見つけたということでござるな。」
黒い甲冑の騎士か…。まったく聞き覚えがない。皆も心当たりは無いようだ。俺は波乱の予感を感じ取っていた。
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