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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
戦華九人剣客編

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第六十一話 《勇者》の死

ユーリとランマはついに城の最上階へと辿り着いた。この先に今回の元凶であるドウマ・ゲンジがいる。気を引き締めなければ。


「ドウマ!」

「よくここまで来たな。ユーリ・ヴァイオレット。」


やはり以前に映像魔法で見たドウマ・ゲンジとは雰囲気が違う。いやドウマ・ゲンジになりすましている誰かと言った方がいいだろうか。正体はわからないが恐らく本人ではない。


「お前、やっぱりドウマじゃないな!」

「流石にそこまで馬鹿ではないか。」


偽ドウマはみるみる骨格が変わり、老人の姿から背の高い魔族へと変貌した。その姿を見て俺とランマは息を飲む。


「下手な変装だな。途中から違和感しかなかったよ。」

「人間族の真似事はしたことがないのでな。見てくれだけ変えてもやはり気付かれるか。私は魔王軍《序列七位》“風塵”のワンダー。」

「ドウマはどうした。」

「すでに始末した。」

「何だって!?どうして殺したんだ!」

「こちらの目的を達成するために利用していただけのこと、真実を伝えたら向かってきたから返り討ちにしたまでだ。」


結局の所、ドウマもジュウベエ率いる九人剣客も全てはこいつら魔族によって仕組まれていたことだったのだ。そしてその目的は恐らく…


「目的は何だ!」

「我の目的は…《勇者》の排除だ。」


やはり目的は俺達…《勇者》のようだ。でもそれならどうしてエレナを真っ先に狙わない。シャーロットが《勇者》なのはごく一部しか知らず、情報が手に入れられないのはわかる。しかしエレナは公表こそしていないが噂程度にはなっているはずだ。


「だが、《勇者》の詳細な情報は手に入れられていない。四天王、あるいはその配下なら知っているかもしれないが我々の様な四天王の席を狙う《序列》持ちには情報共有されることはない。四天王というポジションを奪われたくないからな。そこで我は今回の作戦を考え、同族がやられた情報を元にその場その状況にいた者を全て調査し、《勇者》の条件に当てはまりそうな人物を探しこの国へ招待したのだ。」

「なるほど、それが俺達を呼び寄せた理由か。魔族も一枚岩ではないんだな。」

「そして我の中で最も《勇者》である可能性が高いと思われるのが、貴様だユーリ・ヴァイオレット。」

「どうして俺なんだ。他にも魔族を倒している者は居るんじゃないか?」

「そうだな。《大賢者》アリア・リーズベルト、《勇者》と疑わしきエレオノーラ・スカーレット。この2人も対象ではある、だが情報が露骨すぎると考えている。わざわざ《大賢者》や《勇者》であることを広めるメリットはないだろう。それにレベルの低い魔族なら子供でも倒すことができる。どちらにせよバーストにあの2人が勝てるとは思わないがな。」


知恵が回る分、逆に深読みをしすぎて勘違いをしているのか。しかし俺が《勇者》ということを見破った点を考えると案外するどいのかもしれない。とはいえ二人のことは心配だ。


「残念だけど俺は《勇者》でも何でも無い。」

「お前はここに来た連中で一番強い。それに《勇者》であろうとなかろうとその年で魔族を倒しているお前はここで殺しておくべきだと我は判断した。」

「簡単に殺されるつもりはない!『身体強化(フィジカル・ブースト)四重(クアドラプル)』!!!!」

「『悪魔の風球ディアボリカル・ウィンドボール』」


ランマは二人が話している内容はよくわからなかった。しかしユーリはあることを自分に頼んでいることはわかった。あのワンダーとかいう魔族と会話をしながら、少し後ろにいる自分に向かって指示を出していた。ユーリはワンダーに気付かれないように背中で隠しながらある方向を指していた。ランマは視線をそちらに向けると横たわっているツネヨシ将軍を見つけた。凄く弱ってはいるが生きているようだ。


(わかったでござるユーリ殿!)


ユーリがワンダーに向かっていくのと同時にランマはツネヨシ将軍の方に向かって駆ける。近くにドウマもいたがこちらはもう死んでいる。ランマはツネヨシ将軍の身体を背負うとそのまま走って部屋から飛び出した。


(これでとりあえずツネヨシ将軍は大丈夫だ。)


「ふっ。二人でかかってこればよかったものを。」

「元々将軍救出の方がメインなんでね。まさか魔族と戦うことになるとは、それに《序列》なんてのがあったのも初めて知ったよ。」

「まあ魔族の中でも比較的新しくできた物だからな。若い魔族には優秀で力を持った者も多い、長く生きている者が強くて偉いというわけではないという考えがその者達を中心に広がっていった結果《序列》ができたのだ。強い者に弱い者が従うのは当然のことだろう?」

「たしかに長く生きていれば強くて偉いわけではないっていうのには賛成だけど、強い者が弱い者に従うってところは納得できない。」


世の中は力が全てじゃない。それぞれに能力があって皆一生懸命生きている。統治は必要だけど支配は必要ではない。


「ふん。人間族如きと分かり合えると思っておらぬ。『悪魔の風矢ディアボリカル・ウィンドアロー』」

「『土の壁(アース・ウォール)三重(トリプル)』」

「その程度では防げまい!」

「目的は防御じゃないからね!『炎神の一撃(アグニ・ブロウ)』!!!」


俺はワンダーの視界いっぱいに『土の壁(アース・ウォール)』を発動し、背後に回り込みながら《紅蓮の勇者》の力を発動。死角からの『炎神の一撃(アグニ・ブロウ)』を放つがワンダーの身体には傷一つ付いていない。よく見るとワンダーの身体と拳の合間に薄い風の層が出来ている。


「今のお前では私の身体に直接触れることもできないか。」

「クソッ…!」


《紅蓮の勇者》の力を使ってもこれだ。最後の頼みである『煉獄門(パーガトリー・ゲート)』でも倒せるかどうかはわからない。


「どういう仕組なんだよそれ。」

「ただ私の魔力を纏わせているだけだが。どうやら根本的に人間族と我々の“魔法”という概念は違うようだな。」

「そうみたいだな。」

「そちらの魔法は随分と貧弱なようだな。『悪魔の風槍ディアボリカル・ウィンドランス』」


ワンダーの『悪魔の風槍ディアボリカル・ウィンドランス』を回避する。『身体強化(フィジカル・ブースト)』を発動していれば回避はできるがこのままでは…と油断した好きにワンダーの姿が消えた。気付いたら背後に回っていた。


「さらばだ。《勇者》」

「がぁ………。」


俺は身体が熱くなるのを感じる。視線を下に向けるとワンダーの腕が俺の胸を貫いていた。そのままその場で倒れ込む。自分の身体が熱いせいか地面がとても冷たく感じた。今まで死にかけてきた感じとは違う明らかに死へと向かっていることがわかった。


「…ぅ……ぅ…。」

「声も出せないか、お前はここで死ぬ。眠れ《勇者》よ。」


身体からは大量の血が流れる、言葉を発することも出来ない。俺はワンダーの姿が見えなくなったのと同時に意識をなくした。


◇◆◇◆


コータは屋敷で皆と別れた後、順調に門へと辿り着き霧を払っていた。


「『風の刃(エア・カッター)』!!!ふぅ、残るはあと1つ。」


コータはすでに八箇所の門にあった霧を払っていた。残る門はレシア砂漠へと変える道だけだ。急いで移動する、コータは魔法能力だけでなく身体能力も劇的に上がっている。これも真の能力の恩恵である。最後の門へと移動するのにもそう時間はかからなかった。


「ここで最後『風の刃(エア・カッター)』!!!よし!」


これで全ての霧を払うことができた。急いでユーリ達に加勢しなければと思ったその時、森の向こうから猛スピードでこちらに向かってきている何かを見つけた。よく見るとそれはドラゴン、ルミだった。背中には二人誰かが乗っている。コータは大声を上げて呼びかけた。


「おーい!!!」


コータの声に気付いたルミは徐々に減速をし地上へと降りてきた。背中に乗っていたのはシャーロットとカルロスだった。


「コータ!無事だったのですね!…何か雰囲気が変わりましたね?」

「そうだね、それはまた後で。それよりも大変なことが起こっているんだ。」

「誘拐の方ではなくてですか?」

「実は…」


コータはここまでの出来事を説明する。自分たちが誘拐されたのはこの国の現将軍に対するクーデターによって引き起こされたこと。霧の結界により閉じ込められ、出るためには九人剣客と呼ばれる人物達と戦い依代を壊す必要があったこと。それによってウール、フルー、デリラは命に別状はないが重症であること。


「それで今は残った霧を僕が払って、ユーリ達動けるメンバーは城に今回の元凶を追って突入しているんだ。」

「なるほど、そういうことでしたか。ではカルロス、このあと来る治療班を屋敷へと向かわせてください。ルミは私とコータと一緒に急いでユーリ達の救援に向かいます。」

「はっ!」

「了解です!」

「では参りま…ぐっ…。」

「シャーロット様!」

「シャーロット!」


シャーロットは急に頭を抑えてその場に跪く。酷い頭痛がしたのだ。だけどこの感覚は恐らく《勇者》特有の物だと直感でわかった。エレナかユーリに何かあったのだろうと予測が付いた。


「私は大丈夫です…。どうやらエレナかユーリに何かあったようです。急がなければ…。」

「ああ、そうだね。僕も何か妙な胸騒ぎがする。急ごう!」


シャーロット、ルミ、コータの三人はユーリ達を追いかけて城へと急ぐのであった。


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