第六話 勇者の末裔
「お前新入生代表だからって、調子に乗ってるんじゃないぞ!」
「私は別に調子になど乗っていませんよ。」
「ガイウス様に平伏すんだ!」
どうやらスカーレットさんがガイウスという少々身体の大きい少年の取り巻きに絡まれているようだった。二人共、身なりは制服だからあれだが立ち姿はどこか気品が溢れている。そこそこ良い身分の者なんだろうか。だがいくら良い身分であろうと男子数人で女子を責め立てるというのはいただけないな。俺は男子生徒と女子生徒の間に割って入った。
「その君たち、寄ってたかって女性一人に詰めるのはどうなんだい?」
「なんだぁ、お前は?ガイウス様に逆らうってのかぁ?」
「悪いね。田舎の村出身だからガイウス君とやらがどう偉いのかわからないんだ。」
「ふん。田舎者が!だったら教えてやろうガイウス様の功績をな!」
なるべく刺激しないように話をする。だがこちらの意図とは違い、今から解説される流れになってしまった。話を止めるために入ったのに余計面倒な感じになってしまった。そしてこのおかっぱ頭の男子生徒は意気揚々と語りだす。
「ここにいらっしゃるガイウス様はな偉大なるドレッド子爵家の長男で最も勇者に近いお方なんだ!」
「そうだったんだ。それは凄いね。」
「お前の様な田舎者にはこの凄さはわかるまい!」
精一杯の作り笑顔で褒めておく。それなりに立場はあるかと思ったが、いやまさか貴族だったとはな。それならあの横柄な態度も納得がいく。今は能力主義社会だから平民でも人間族以外でも優秀であれば騎士団にも入れるし、仮に入れなくても冒険者として活躍していくことができる。一部の貴族は自分達のみが優れていると考えているらしい。だがそれはあながち間違いではないのかもしれない、というのも貴族は【勇者の末裔】だと言われているからだ。その証拠に能力も珍しい物だったり強力な力を持つ場合が多いらしいとマルクさんから教えてもらった。まあ所詮らしい程度の話であって、実際能力に血縁は関係ないとされている。一般の家庭出身や親がそういう能力でなくても活躍している人はたくさんいる。
「そんな凄いガイウス君だったら新入生代表を彼女に取られたからといって躍起になることはないんじゃないかな?君の凄さはその内皆が知ることじゃないか。」
「なんだと貴様バカにしているのか!」
「もういいザイル、行くぞ。」
「はい…。ちっ覚えてろよ!田舎者!」
ふぅ。取り巻きのザイルとやらは物凄くこちらを睨みつけていたが、ガイウス君は思ったより話のわかるいい人じゃないか。とりあえず何事もなくてよかったな。
「はいはい皆、席について!ミーティングを始めるわよ!」
「ユーリ、私達も席に着こう。」
「そうだね。」
担任と思われる女性が号令をかけると先程まで野次馬をしていたクラスメイトの皆も全員席についた。
「私がこの紅クラスの担任を任されたリリス・マイルズです、皆さんよろしくお願いします。まず今日のミーティングでは学園の施設について案内します。」
リリス先生は学園の設備について細かく説明してくれた。教室、食堂、さらに屋外と屋内にそれぞれ演習場があるらしい。たしかにそれなら学園のこの大きさにも納得だ。一日で全て回ることはできなさそうだ。
「それでは今日はここまでにします。授業は明日から本格的に始まるので皆さん準備しておいてくださいね。」
「ふぅー初日はこれで終わりかな。アリア、帰ろうか。」
「うん、そうだね!」
「すいません、ちょっとよろしいですか?」
「えっと…スカーレットさんだよね?俺達に何か用かい?」
俺とアリアが帰ろうと教室を出た時、新入生代表のエレオノーラ・スカーレットが話しかけてきた。もしかして先程の出来事のことだろうか。それとも朝校門でぶつかったことだろうか?
「先程、助けていただいたお礼をと思いまして。お二人共この後お時間ありますか?」
「そんな気にしなくてもいいのに、俺はこの後特に予定もないから大丈夫だよ。」
「私も大丈夫です。」
「ではおすすめのカフェがあるのでそこでお礼をさせてください。」
彼女は俺とアリアを先程のお礼にとカフェに連れて行ってくれるようだ。冷めていると思っていたが結構律儀なんだな、特にこの後の予定もないので彼女の提案に乗ることにした。まだ王都のお店には行ったことがないのでちょうどいいかもしれない。学園を出て大通りをしばらく歩くと、横道に入り彼女がおすすめだというカフェに着いた。そのカフェはとてもカジュアルでいい感じのお店であった、隠れ家的なお店だろうか。村にはこういったお店はなかったので少し緊張したが、アリアは何故か手慣れておりケーキを食べ喜んでいたのでよかった。
「先程は助けていただきありがとうございました。自己紹介がまだでしたね。私はエレオノーラ・スカーレットと申します。私のことはエレナと呼んでいただいて構いません。」
「俺はユーリ・ヴァイオレット。ユーリでいいよ。助けるだなんてそんな、俺は何もしていないよ。」
「私はアリア・リーズベルトです。アリアと呼んでください。私は見てることしかできなかったから…。」
「いえ。お二人が来てくれてとても頼もしかったですよ。学園に来るまではあまり同世代の方と関わる機会がなかったものですから。」
それからエレナのことを教えてもらった。スカーレット家は男爵家で王都の西側に領地を持っているらしい。なんでもエレナの祖父が有名な冒険者らしくその武勲によって男爵家になったそうだ。冒険者から貴族になるとは相当な実力者だったことがわかる。でなければ結果を残して貴族になどなれないだろうからな。そういえば朝ぶつかった時や新入生代表の挨拶の時のように変な感じがしない。同じ様にエレナを見ているがさっきのは気の所為だったのだろうか。
「今日はありがとう。楽しかったよ。」
「私も楽しかったです。美味しいケーキもありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。また明日学園でお会いしましょう。それでは。」
カフェを出た後、エレナは学園の寮に帰っていった。俺達も真っ直ぐに屋敷に帰った。俺は今日学園であった出来事をマルクさんとユキさんに話していた。
「なるほど…ドレッド家ですか。」
「マルクさん何かご存知なんですか?」
「ドレッド家は貴族の中でも特に偏った考え方をしていまして、貴族以外の者は騎士団に入るべきではないと考えているようで、あまりいい噂はありません。」
「なるほど。実際にドレッド家から《勇者》の能力者って出てるんですか?」
「歴代の当主にはいないようですが、ガイウスという生徒はわかりませんね。」
現時点では《6人の勇者》は5名まで判明していると噂レベルではあるが、マルクさんに教えてもらった。真偽のほどはともかくその中にすらドレッド家の人間はいないということだろう。それに今年6人目が学園に入学したという話しもある。だがザイルの口ぶりから察するにガイウスもその可能性はないだろうな。《勇者》であれば俺のことも何かわかったかもしれないのに、手がかりがなくなってしまった。学園にいればいずれ出会う機会もあることだろう。翌日からは本格的に学園の授業が始まった。
「まずは基本的な魔法の原則から学びましょう。魔法には炎、風、水、雷、土、光、闇それと無の属性があります。能力にもよりますが3つ以上使える能力を持っている者は騎士団の中でも数少ないですね。また光と闇、無は使える能力を持った人物自体がかなり少ないとされています。なのでそれらを抜いた属性が基本の五属性と呼ばれているのです。」
なるほどな。つまり、すでに俺とアリアは属性だけ見ればかなり希少な存在ということになるのだろう。まあ実力はまだまだだろうけど。
「今日の授業はこれまでにします。最後にですがクラス対抗戦のメンバーを決めてもらいたいと思います。」
「クラス対抗戦?」
「最近魔物の活発化が進んでいることを受けて、今年から生徒の個人の能力を伸ばす目的で暮らすクラス対抗戦を行うことになりました。1クラス3人の代表者を選んでトーナメント形式で優勝クラスを決められます。クラスの代表は自由に決めていいそうなのでまずは立候補したい人いますか?」
代表になることには興味ないというか、あまり目立つのも俺の能力上良くないだろう。だが色々な能力を見ることができるいい機会だし、観戦は行こうかな。まあ心配しなくても《紅》クラスには必ず立候補したい奴がいるだろうしな。
「そんなものは当然ドレッド様に決まっている!そしてもう1枠はこの僕だ!」
「他に立候補する方はいませんか?」
「ねぇ…どうする?」
「あの二人じゃねぇ…。」
「やっぱりスカーレットさんじゃない?」
ほら、どうせ立候補するとは思ったよ。しかし、三人か…あの二人と組みたい生徒は誰もいないだろうな。初日にあんなことがあったし、上手くやれる気がしない。だが順当にいくなら新入生代表のエレナだろうか?というか今更ながら新入生代表ってどうやってなるんだろう、後で聞いてみよう。
「では私が立候補します。」
「ありがとう、スカーレットさん!では紅クラスの代表はこの3人で決定…「ちょっと待ってください。」…?どうかしましたかスカーレットさん。」
「私は彼らとは組みたくはありません。」
「な、何だとぉ!」
「せ、先生困っちゃうなぁ…。」
スムーズにクラスの代表が決まると思ったが、また一波乱ありそうな感じがするな…。落ち着いた学園生活は一体いつになったらできるようになるのだろうか。
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