第五十九話 雷の親子
アレストール親子はあまり交流のない親子であった。ディランが幼い頃から父親であるイヴァンは宮廷魔道士団副団長という立場もあり、仕事が忙しく家に居ないことも多かった。だがイヴァンはそんな父親を尊敬していた。セルベスタ王国のために身を粉にして働く姿はむしろ誇らしいとすら感じていた。自分もいつか父のような騎士になるのだと。しかしいつしか自分は思い通りにならないことから荒れてしまい、父は力や名声を求め魔族の誘いに乗ってしまった、結果的に大きな被害にはならなかったが犯した過ちは消えるわけではない。それから親子は再出発をしたが、お互いにどう接してよいかわかっていなかった。
「『雷の矢』!」
「『悪魔の雷撃』」
「ディラン!」
「大丈夫だ!」
ボルナが放った雷撃は『雷の矢』を弾き飛ばし、そのままディランの方へと向かっていく。それをギリギリの所で回避する。
「スピードもパワーも桁違いだ。流石は魔族といった所だろうか。」
「それにクリス団長の報告通り、やはり魔族の魔法は我々の物とは違う感じがする。油断するなよ。」
「わかっている。」
魔王軍四天王“信仰”のグレモリーと戦ったクリス団長の話によれば、魔族が使う魔法はこちらの使う魔法とは何かが違うようだ。実際に目にしてわかる、やはり自分たちの使う雷属性の魔法と相手の使う雷属性の魔法は同じ雷なのに何かが違うとイヴァンは感じていた。だがそれを上手く説明することはできない。
「どうやらそれなりにはできるようですね。ですがこれならどうですか。『悪魔の雷斧』」
「『土の壁・三重』!ぐっ…がぁ!」
「うわぁぁぁぁ!」
イヴァンはボルナの魔法を『土の壁』で防ごうとするも防ぎきれず、ダメージを受けてしまう。
「くそっ…」
「あなた達がこのような実力で本当に四天王“剛腕”のバリオン様を倒したとは思えませんね。」
「何だと?」
「我々のような《序列》を持つ者の中の最高峰が四天王だ。いくらバリオン様が四天王の中で最弱とはいえ、この程度の相手にはやられないと思うのですが。」
「なるほどな、だが実際奴は我々が倒した。四天王とやらも大したこと無いな。」
そう言ってディランは煽り動揺を誘ってみる。しかしディランはまだ魔族という種族の性質をわかっていない。
「そうですね。バリオンは取るに足らない存在だったというだけの話、今は我々《序列》を持つ一位〜十三位の魔族間で次の四天王争いが行われている。」
「《序列》とは何だ?」
「四天王の下に位置する魔族のことだ。私を含め十三位までの《序列》があり、それぞれが得意とする魔法を冠する異名があります。」
「なるほど。それぞれどんな能力なんだ?」
「教えませんよ。まあどの道ここで死ぬのですから、知ったところで意味はないでしょうが。」
魔族は相変わらず仲間意識といった物は持っていない。自分さえよければそれでいいというのが魔族だ。だがそれなりに情報は引き出せたようだ。《序列》を持つ魔族がこのボルナを含めて後十三もいるということ。だが四天王の他にそんな連中がいるというのはあまり良い情報ではないな。
「最後に一つだけ聞かせろ。そんな魔族が何の目的でこの国にいるんだ!」
「我々の目的はただ一つ…《勇者》の抹殺。」
「なんだと?」
「全ては《勇者》を抹殺するためにこの国を使って計画を実行しただけのことなのですよ。さぁ続きを始めましょう!『悪魔の雷矢』」
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
防御が間に合わず『悪魔の雷矢』が直撃してしまう。だがイヴァンがディランを庇ったことでディランの方は軽症済んだ。
「親父!」
「私に構うな集中しろ…。」
「どうして俺を庇ったんだ…。」
イヴァンの方は重症だ、早く治療しなければ命に関わるかもしれない。ディランはどうしてイヴァンが自分を庇ったのかわからなかった。自分たちは普通の親子関係ではない、父は自分に関心がないのだと思っていた。だがイヴァンの方はそうではなかった。
「決まっている…お前が大事な俺の息子だからだ…。」
「親父…。」
「お前なら魔族を倒せる。俺の魔力を使え…お前が倒すんだ!」
「ああ、任せろ!」
ディランは父の見せる初めての表情になんともいえない感情を抱いていた。今まで普通の親子の様な関係ではなかったが父は自分を信じてくれていることを知った。この期待に自分も子供として答えたい、イヴァンからの魔力を受け取る。
「待たせたな。第二ラウンドといこう。」
「構いません。少し魔力が回復したくらいでは倒されませんから。」
「舐めるなよ!『雷身体強化』!!!」
「早い!?」
「こっちだ!」
「グッ!!!」
ボルナの顔面に蹴りを入れる。『雷身体強化』によってスピードも威力もかなり上がっているはずだがボルナは平然と立ち上がってくる。魔族は打たれ強いとユーリから聞いていたがこれほどとは。だがそれならば倒れるまで何度も倒すだけである。
「少しはできるようになりましたね。ですが私には勝てませんよ。『悪魔の雷撃』」
「くらえ!『雷帝の一撃』!!!」
「何!馬鹿なグワァァァァァァァァァ!!!」
ディランの放ったイヴァンのオリジナル魔法にして得意魔法である『雷帝の一撃』は『悪魔の雷撃』を突き抜けボルナの身体へと向かっていく。『雷身体強化』を発動していることと親子の魔力が込められた魔法は通常よりも高い威力を発揮したのだ。魔法を受けたボルナの身体は黒焦げになり、その場で立ち尽くしていた。
「やったか…?」
「…くも、よくもやってくれたなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「くっ…。」
ボルナは黒焦げになりながらも生きている様子で、怒りに満ちた叫び声を上げる。叫び声に魔力が込められているのかディランは怯んでしまう。しかし先程までと雰囲気が変わったということはどうやらダメージは入っているようだ。
「余裕がなくなってきたんじゃないか?」
「お前ら人間如きが私の雷を破れるはずがない!………ふぅ。」
「…?」
先程まで激高していたボルナだったが急に静かになり魔力の上昇も治まったのを感じた。身体を回復させ全身黒焦げの火傷状態から元の綺麗な状態に戻ってしまった。
「あなた名前は?」
「ディラン・アレストール。どうしてそんなことを聞く。」
「覚えておきましょう。目的は達成されたので今日はここで引くことにします。次に会った時必ず殺します、それまで死なないように。では。」
「なんだと?待て!」
ボルナは姿を消した。目的を達成したと言っていたが…まさか《勇者》の抹殺?急いで先に行ったユーリを追いかけなければ。しかし…。
「うぅ…。」
「親父!大丈夫か?」
父の傷もかなり深い、このまま手当をしなければ命に関わる。ディランは迷ったが、ユーリ達を信じ自分は一度、父を連れてハミルトンの屋敷に戻ることにした。
(ユーリ、皆どうか無事でいてくれ…!)
◇◆◇◆
時は少し戻り、ディラン達と別れてすぐのこと―――。
「まさか魔族がいるとは。」
「二人共、大丈夫ですかね。」
「あの二人なら心配ない。それより俺達もこの先気をつけないと。何が待っているかわからない。」
「それって…」
アリアが言葉を言いかけた時、また開けた空間に出た。今度は部屋に明かりは付いているが、部屋の真ん中に横になって寝転んでいる男が居た。
「あなたは誰ですか!」
「俺は魔王軍《序列十三位》“炎火”のバースト。そうだなそこの白金髪と紅髪の女、お前たちが俺の相手をしろ。」
バーストと名乗った魔族の男は何故かアリアとエレナを指定してきた。
「お前いきなり何だ!どうして彼女達なんだ。」
「………。」
「何か理由があるのでしょうか?」
「それは俺が女としか戦いたくないからだよ。」
「自分より弱そうな女としか戦いたくないってことか?」
「………。」
さっきからこいつ俺が聞くと返事しないのに、エレナが聞くと返事するな。
「ユーリ君ここは私達に任せて先に進んでください。」
「でも…」
「急がないと行けないのは事実ですし。私達なら大丈夫です。」
「ランマさん、ユーリのことお願いします。」
「心得た。」
「わかった気をつけて。」
ユーリとランマは先に進む。バーストはそれを止めようともせずただ黙って見送っていた。
「どうして私達を指名したんですか?」
「それは俺が女が大嫌いだからだよ!」
「………は?」
「何言ってるのこいつ。」
アリアとエレナは困惑していた。
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