第五十七話 最後の一人
ユーリが向かった門はもっとも遠い場所であった。イヴァンからの連絡によると九人剣客は八人すでに皆が倒してくれたようだ。残るはこれから向かう先にいるあと一人。
「ここに最後の一人がいるはず…」
「ギン、ソウイチロウ、キョウスケ、ツカサ、チヨヒメ、サヨ、アカツキ、シズカ。皆やられてしまったようだな。」
その男は門の前に立っていた。年齢は50〜60代といったところだろうか。その立ち姿から感じる威圧感にユーリは軽く震えた。出で立ちはマルクさんを思い出させる。
「あなたが九人剣客最後の一人ですね。」
「いかにも。私が九人剣客最後の一人石楠花のジュウベエ。」
ユーリは敵であるはずのこの男に敬意と怒りを同時に覚えていた。どんなに強い能力であってもここまでの実力になるには相当な努力や鍛錬が必要なはずだ。剣士として尊敬を覚える、だがそれだけの力を持っているにも関わらずどうして彼はドウマ・ゲンジなどという輩に仕えているのかが理解できなかった。
「貴方の強さは並大抵の物ではない。そこまで鍛え上げるのに相当努力したはずだ、そんな貴方の様な方がどうしてドウマ・ゲンジに手を貸してこんなことをしてるんです?」
俺がジュウベエに尋ねると、一息つき語るように話し始めた。
「少し昔話をしよう。その昔、大和国は《迷い人》によって作られた、その後大和国と他国との間で戦争が起こりこの国は滅びかけた。運良く生き残った私の先祖達は二度と戦争が起こらないように、この国は他国と親交を深めていった。しかし数十年前事件は起こった。とある親交国の魔法使い達が突如、大和国の人々を虐殺し始めたのだ。」
「そんな…どうして…。」
「彼らの言い分はこの国は魔族と繋がっており、だから戦争を起こされたのだと、その調査と称して無理やり押し込んできた。戦争を嫌った我々は抵抗をしなかった、無抵抗でいればきっと無実であるとわかってもらえるそう信じて。しかしそれは考えが甘かった、彼らは理由などどうでもよかった。ただ魔法の実験体が欲しかっただけなのだ。この国には人間族だけでなく亜人族をルーツにした者も多い、奴らにとってそんな国は実験をするには都合がよかったのだろう。私の家族や仲間、まだ年端も行かない子供にまで被害は及んだのだ。」
ジュウベエから語られる衝撃の事実に俺は息を飲む。俺は一つ疑問が出てきた。
「だけどそんなことがあったなんて聞いたことがない…。そんな出来事、知らないはずないじゃないか。」
「奴らは最後に大魔法によって人々の記憶から全てを消し去ったのだ。私とドウマも長い間この屈辱を忘れてしまっていた。前将軍、リューマだけはこのことを覚えていた、だから奴は魔法使いをこの国から排除していたのだ。」
「リューマ前将軍やあなた達はどうしてそれを思い出せたのに、皆に説明しなかったんだ?そうすれば何か別の解決策を考えれたかもしれないじゃないか。」
「無論話はした。しかしこの話をしても大魔法の影響によって、すぐにその出来事を忘れてしまうのだ。リューマはずっと孤独な戦いをしていた。何もわからない我々を使って、それがどれだけ辛いことだっただろうか…。現将軍はそのことを忘れて積極的に他国と交流する、それではまた悲劇が繰り返されてしまう!だから我々は再びこの国を閉じ、戦力を増強させ他国に戦争を仕掛けるのだ!…さて長話をしすぎたな。この話を聞いても尚お前はワシを止めるだろう。」
「うん。この国にそんなことがあったとは知らなかったよ。でもやり方が間違っている、それじゃあ復讐の連鎖を断ち切ることはできない。」
「若いな。はぁ!!!」
ジュウベエは再び威圧を掛けてくる。空気がビリビリと震えている。俺は『創造・贋聖剣』を発動し剣を構える。
「参る!」
「『身体強化・四重』!!!」
ジュウベエは一気に間合いを詰め、ユーリの身体に斬りかかる。咄嗟に『身体強化』を発動し回避する。ジュウベエからは魔力を感じない、素の能力でこのスピードを出しているのだ。
「くっ!『炎の槍・三重』!!!」
「その程度の魔法では意味がない。」
ジュウベエは『炎の槍』を刀で軽く斬り伏せる。これ以上魔法を放つのは無駄であるとユーリは思った。おそらく簡単に往なされてしまうだろう。魔力を無駄に減らすよりも、『身体強化』を維持することに集中したほうが良さそうだ。しかし四重まで多重展開させているにも関わらず、何もしていないジュウベエには追いつけない。
「そう簡単にはいかないですね。それにその剣技見事です。」
「私の能力は《剣豪》、研鑽した年月が長ければそれだけ剣技や身体が磨かれ蓄積される。」
デリラの《戦闘狂》に少し似ているが、向こうと違いこちらの場合は一時的なパワーアップではなく積み重ねた鍛錬や努力を発揮するようだ。言うなれば絶対に無駄にならない努力ということだろうか、修行した分を必ず積み重ねることができるということだ。年齢的に40年は積み重ねている、この強さはそれだけの年月の重さというわけだ。
(これに対抗するには使うしかない、シャーロット使わせてもらうよ!)
「なんだそれは。」
「お守りみたいなものかな。」
俺はシャーロットから貰ったペンダントを取り出し、《剣の勇者》の魔力が込められた石を砕く。身体にシャーロットの魔力を感じる。髪の色は淡紫に変化し、魔力は鋭く変化した。《紅蓮の勇者》の力では倒すというより殺してしまう可能性の方が高い。ユーリは彼を殺害したいわけではない、だから《剣の勇者》の力にしたのだ。
「ただ姿が変わっただけではないな、魔力の質そのものが変わっている。ただの子供ではないと思っていたがこれほどとは。」
「ここからは本気でいきます!」
「止めれるものなら止めてみろ!」
《紅蓮の勇者》ではなく《剣の勇者》の力にした理由はもう一つある。《剣の勇者》は魔力が少ない特性があるため、大技や魔法を連発出来ない。しかし身体強化の上昇率や魔力を効率よく使うことができるし、剣の能力も上がる。それでもジュウベエに確実に勝てるとは言えないが、ユーリには策があった。そのためには一瞬でもいいから隙を作らなければ。
「くっ!うぉぉぉぉぉぉ!」
「はぁぁぁぁぁ!!!」
ユーリとジュウベエは目にも止まらぬ速さで剣を合わせる。これでは隙なんてできない。するとジュウベエは剣を交えながら話しかけて来た。
「何か企んでいるな。」
「ええ、貴方を殺さずに倒せるかもしれない唯一の方法ですから。」
「はっはっは!正直だな。私を殺すときたか!」
「あなた達の下ことは許されないが根っからの悪人とは思えない、できれば殺したくない。」
「なるほど、まるで殺そうと思えば殺せるような口ぶりだ。だがあながち嘘でも無いようだな。」
ジュウベエは距離を取り剣を構える。隙だらけである、だがこれは恐らく誘われているのだろう。
「よかろうならばやってみろ。その策、真正面から打ち破ってみせよう。」
「後で後悔してもしりませんよ。」
実際これに乗らなければ勝機はない。ジュウベエはあえて隙を見せることで俺がする策に対応できるようにするという考えなのだろう。俺は極限まで脱力して集中する。視界が狭まり、目の前の敵にのみ意識を向ける。色も音も必要ない、ただ相手にこの技をぶつける。…それは一瞬だった。ユーリの剣はジュウベエの腹部に突き刺さり、ジュウベエの刀はユーリの顔面に掠っていた。
「この私が見えなかったとは…それに懐に飛び込む度胸、天晴だ…。」
「この技は速さに特化しています。どんな強い能力者でも唯一弱点になり得るのが老化による反応速度の低下だ、そこを狙うのがこの技です、それでもあなたは並の人よりも圧倒的に素早いですけどね。それでも俺の速度の方が上回ることができました。」
マルクさんとの修行の中で唯一の弱点と言える部分を俺は見つけた。それが反応速度である。恐らく攻撃を来ることが頭では理解できていても身体が追いつかないのだ。それでもそこを付くには隙を狙った上で同時に攻撃を叩き込む必要がある。俺は《剣の勇者》状態で出せる最速且つ同時に攻撃できる限界の三度の突き『剣技・三段突き』を覚えた。それでもマルクさんには勝てないが。
「『治療魔法』!、貴方には通用してよかったです。」
俺はジュウベエの腹部の傷を塞ぎ、最後の勾玉を破壊した。これで霧の結界は消える。鍵を握りしめ、急いで屋敷へと戻るのであった。
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