第五十六話 成長と圧倒
デリラが門にたどり着く頃、イヴァンからの連絡ですでに九人剣客は四人倒されていることを聞いていた。
「あと半分、僕も急がなくちゃ。」
「お前が俺の相手か!」
「そうだよ。あなたが九人剣客だね。」
「俺は紅花のアカツキ!燃え上がるような熱い勝負をしよう!」
普段のデリラなら元気に返事をしていた所だが、九人剣客やドウマ・ゲンジの卑劣な行いに怒りを覚えている。そんな相手との戦いを楽しむことはできないのだ。
「どうしてあなた達はこんな酷いことができるの?」
「俺は戦いさえできれば周りがどうなろうと構わないからなぁ。ドウマ様は俺に戦う場所を与えてくれる!それだけで付いていくには十分だ!」
「そんな相手に負けられない!」
デリラとアカツキはお互いに剣と刀をぶつけ合う。大剣を振り回すデリラのパワーも大したものだが、それを刀で受け止めるアカツキのパワーも尋常ではない。デリラは刀を折るつもりで斬りかかったのにびくともしないのだ。
「パワーには自信があったんだけどな。」
「俺の能力は《堅牢の刀》、握っている限り俺の刀は折れないし、刃こぼれすることもない。まあ受け止める俺の方にもパワーは必要だけどな!」
「なるほど。それならもっと力を込めるだけ!」
デリラとアカツキはひたすらに斬り合う。だがデリラは考えなしにひたすら剣を振っているわけではない。自身の能力である《戦闘狂》は戦闘時間が長引けば身体能力や魔力が上がっていく。耐える一方であるアカツキには不利になるのだ。
「『押切』!!!」
「いいね!もっと来いよ!」
デリラのパワーもスピードも確実に上がっている。しかしアカツキも疲れるどころかどんどんパワーもスピードも上がっており、一向に差が開く気配がないのだ。
「どういうこと!どうして付いてこれるの!?」
「あぁ?俺は特異体質でな、近くにいる相手の魔力を少しだが奪うことができる。だから身体強化系の能力者や魔法は俺とは相性が悪いんだよ。常に上昇を遮られ俺に少しづつ魔力を奪われているわけだからな。大きな差はないのさ。」
「なるほど、僕にとって相性は最悪なわけだ。」
《戦闘狂》にも弱点がある。それは身体強化の上昇と魔力の上昇は自身の疲労度とは別であるということだ。『身体強化』のように発動した時点で上昇率が固定されているのであれば起こらない問題だが、《戦闘狂》の場合は上昇をし続ける、よって自分の身体が耐えられないほどの上昇もしてしまう。
(長時間は僕の身体が耐えられない。何か打開策を考えないと。)
「ハハハ!こんなに楽しい戦いはない!さぁ、もっと戦おう!」
「僕は戦いが好きだ、でもあなたの様な人との戦いは楽しめるはずがない!」
「そうか…名残惜しいがここで終わらせるか。」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
アカツキはデリラを上回るスピードとパワーで吹き飛ばす。自分もそれなりに上昇はしているがそもそもの実力が彼の方が一枚上手であり、こちらの魔力も奪われていることもありデリラの方がそもそも不利だったのだ。恐らく彼を倒せるまで上昇する前に自分の身体の方が耐えられないだろう。しかしデリラは諦めない、土壇場である方法を思いついた。
(やったことはないけど、やるしかない!)
迷宮で修行したデリラは《戦闘狂》の上昇率にはバラツキがあることを知った。これを意識できたことで一部分に強化を集めることができるのではないかと考えたのだ。デリラは上昇した魔力や身体強化を両腕に集める。それと反応速度も強化させる。次の一撃に全てをかける。
「これで止めだ!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
「先よりスピードが遅くなってるぜ!」
デリラは極限まで高めた反応速度でアカツキの攻撃をスレスレで躱し、脇腹に大剣の剣身でアカツキの身体を叩いた。
「ぐはぁ!!!」
「うっ…。」
アカツキは吹っ飛ばされ気絶してしまう。デリラはその姿を確認し、大剣を落とす。無理もない両腕に集めた力は全身を強化していた力の全てだ。身体が強化の負荷に耐えきれず両腕の骨が折れてしまっていた。
「両腕の骨は折れちゃったけど、なんとか倒せた。新技の『部分強化』も成功してよかった。」
勾玉は大剣で殴りつけたときに破壊されているようだった。腕が折れているので鍵を拾うことができないのでイヴァンに応援を頼み、救援を待った。
(皆、僕やれたよ…。)
紅花のアカツキ 撃破
デリラ・バルムンク 戦闘不能
◇◆◇◆
ランマが向かった門は街から一本道になっていて周りに建物はなく、ただ壁が続いている門だった。慣れない魔道具とやらからイヴァンの声を聞いた時はかなり驚いた。どうやら九人剣客を順調に倒しているという連絡らしい。やはり彼らを信用してよかった、キクと一緒にいる所を目撃した時からただの同年代の子供ではないと感じていたがその直感は当たっていたようだ。自分も役目を全うしなければとランマは考えていた。
「まだ、九人剣客はいないようでござるな。」
シャリン、シャリン、シャリン
ランマが門に着くと遠くから鈴の音が聞こえて来た。音の方に目をやるとシャリンと鈴の音が聞こえてくる。こちらに歩いて来る凛とした佇まいの女性は、同性の自分でも見惚れてしまうほどの美女だった。
「あなた“人斬り乱麻”ですね。どうしてあなたがここに居るんでしょう。」
「そうでござる。そういうお主は九人剣客でござるな。お主らを倒してこの結界の解除と殿の救出をするためでござるよ。」
「なるほどそうでしたか。九人剣客が一人、月下美人のシズカ。あなたも美しく散らせて差し上げます。」
「望むところでござる。」
シズカは刀に手を起き居合の体制を取る。
「なるほど。それなら。」
ランマもシズカ同様に居合の体制を取る。シズカの能力は《必殺の刀》、納刀されている状態で刀に魔力を集中させそれが最高点に達した時、最速且つ最大威力が発揮されるという能力である。シズカの美貌とその美しい切れ味から月下美人の華を与えられた。しかし《必殺の刀》は一度使うと刀が砕け散ってしまう、そのため一度の戦いで一度しか使うことが出来ない。回避されたり防がれた場合、敗北となる。
「ふぅー。」
「………。」
「………。」
二人が居合の体勢を取って膠着状態になってから、経過した時間はまだほんの数秒程度である。しかしランマはこの数秒が数分にも数時間にも感じていた。シズカの能力が何なのかはこの時点でわからなかったが、ランマが居合状態のシズカに攻撃を仕掛けずに同じように居合の体勢をとったのには理由がある。ランマの能力もまた抜刀術であるからであった。幼い頃より前将軍に鍛えられた彼女は処刑人としての剣技である一瞬で相手を仕留めるという物だった。
「今!」
「ここ!」
勝負は一瞬で決着した。シズカの刀は砕け、彼女の首元にはランマの刀が突きつけられていた。刃が少し触れ少し血が滴っている。シズカの《必殺の刀》は外した時点で全ての魔力を使い切るので、戦うことはできず、戦闘不能になってしまうのだ。
「どうしてあなたの方が勝てたのかしら?」
「拙者の能力は《神速》。ありとあらゆる速度を上げることができる。お主が剣を抜く瞬間に反応することができるし、刀を抜く速度も拙者の方が早い。」
「速さには私も自信があったけど、見てから追いつかれるようでは最初から勝ち目はなかったようね。」
ランマはシズカを気絶させる。
「唯一の弱点は拙者もお主同様集中する時間が必要だということでござる。お主が同じ様な能力ではなければ拙者が勝てたかどうかはわからぬよ。」
シズカの懐を探り、勾玉を見つけ破壊。鍵を持ってキクの屋敷へと帰るのであった。
月下美人のシズカ 撃破
ランマ・ヤマダ 無傷
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