第五十五話 聖なる光と炎の監獄
アリアが門に付く少し前にイヴァンから連絡があった。ウール、フルーの二人が九人剣客を倒したことだが二人共、戦闘不能であること。勾玉と鍵を所持しておりそれを相手から奪ってほしいこと。
「二人共、やったんだね。私も頑張らなくちゃ。」
「随分可愛いお嬢さんだこと。」
「誰!」
アリアが門に付くと目の前に女性が立っていた。顔立ちは整っており、キレイな黒髪服装も真っ黒である。キクさんと同じように着物と呼ばれる服を着ており、帯の色が赤いのがとても妖しい雰囲気を感じた。
「あなたが九人剣客ですか。」
「私は九人剣客が一人、黒百合のチヨヒメ。私の呪いに耐えられるかしら?」
「倒させてもらいます!『魔法弾・三重』!!!」
アリアは得意の『魔法弾』を放つ。チヨヒメはそれを避けることなく真正面から受ける。しかし、いつの間にか出している小刀で防がれてたようだった。だがアリアは少し疑問に思っていた。いくら強い魔法ではないといっても威力はそこそこ合ったはず、にも関わらずチヨヒメは無傷、それどころか服に汚れも付いていない。
「ふふ、驚いているようね。今度はこっちから行かせてもらうわ!」
「くっ…『身体強化』!」
チヨヒメは小刀で襲いかかってくる。アリアはなんとなくこの小刀には触れてはいけないと感じていた。なので『身体強化』を発動し回避に集中する。しかし、チヨヒメの方が一枚上手であった。
「甘いわよ!」
「くっ!」
アリアは小刀に集中するあまり、チヨヒメの動きを見ておらず蹴りを食らってしまう。アリアはあまり対人戦闘経験がなく未熟だった。そこに追い打ちをかけるよう小刀を振り下ろす。回避するが、左足に掠ってしまう。すると傷つけられた部分が黒く変色する、足に力が入らずその場に座り込んでしまう。
「うぅ…な、何これ…毒?『解毒魔法』!」
「治らないでしょ、それは毒じゃないわ。“呪い”よ。私の能力は刀が触れたものに“呪い”をかける《呪いの刀》。」
「呪い?」
「そうね、説明するなら願うと他人に災厄や不幸を起こすといったところかしら。私の力はそこまで強くないけどあなたの左腕動きが鈍くなって思うように動かせないでしょ?私を殺さない限り二度とそれが元に戻ることはないわ。」
「そんな…。」
呪いという物の効果が何なのか、はっきりとはわからないが毒や傷とは違い、ダメージではないが思うように動かせない。それにチヨヒメの言うことが本当であれば彼女を殺さなければ二度と戻らないらしい。だがそれを聞かされたアリアは不思議と落ち着いていた。以前マークと話していたことを思い出していたのだ。曰く光属性の魔法の中には《聖》という特殊な魔法があり、それはありとあらゆる厄災から身を守ってくれるらしいこと、しかしマークは使えないと言っていた。使用者にはある条件がいるとか、だがそれがどんな条件かはわからないと言っていた。
(《聖》の魔法を使うことができれば、これをなんとかできるかも。)
「何か考えてそうな顔をしているわね。でも無駄よ、最初に魔法を防いだのも呪いで魔法の威力を抑えたの。だからどんな魔法も私には弱体化できる。命が惜しければ諦めて引き返すことね。」
「引き返すことは絶対にありません。私は必ずあなたに勝ちます!」
「なら、ここで終わりよ!」
「『防御・五重』!!!」
アリアはこの状況で自身の限界を越え、多重展開を五重まで増やした。だがそれでも最初の魔法が防がれたことを鑑みるとチヨヒメが『防御』を破るのにおそらく一分もかからないだろう。この短い時間でアリアの思考回路を限界まで稼働させる。《聖》の魔法とは何なのか、ありとあらゆる厄災から守ってくれる光とはなんなのか。
「いくら、防御をしても紙切れ同然ね。これであなたを守るものは何もないわ、さよなら。」
「いえ、守る必要はありません。」
アリアは再び小刀で切りつけられる。その傷口は黒く変色せず、傷もすぐに塞がった。左足の黒い変色も元の肌に戻っていた。
「な、何が起こったの?」
「『聖なる光』。もうあなたの呪いは効きません。」
「がぁぁぁぁぁ焼けるぅ…この痛みはぁぁぁぁ!!!」
使い手であるチヨヒメも知らなかったことだが、“呪い”とは闇魔法の一種である。使い手は強力な分、自身も“呪い”と化しているため、アリアの光魔法の《聖》属性にやられてしまったのだ。アリアは《聖》の魔法について一つの結論を出すことで使えるようになった。《聖》とは女神の様な神聖な力ということを思い描いた。それだけで魔法を使えることが出来たのはやはりアリアが《大賢者》だったという部分が大きいだろう。
「これであなたが今までに掛けた呪いもなくなったことでしょう。死ななくてよかったですね。」
アリアは気絶したチヨヒメから勾玉と鍵を取り出す。イヴァンから連絡があった通り、勾玉を破壊し鍵を持って屋敷へと戻るのであった。
「皆、やったよ。」
黒百合のチヨヒメ 撃破
アリア・リーズベルト 無傷
◇◆◇◆
エレナもアリア同様門に付く前にイヴァンからの連絡で現時点での状況は把握していた。すでに戦闘は始まっているのだ。自分も急がなければ。
「ここが私の担当する門ですか。一刻も早く、勾玉を破壊し鍵を手に入れなければ。」
「そう簡単には渡せませんよ。」
エレナが門に付くと一人の女性が待ち構えていた。年齢はかなり若く見えた、腰には刀をさし前髪は切り揃えられている。
「あなたが九人剣客ですか?」
「九人剣客が一人含羞草のサヨ。あなたの攻撃が私に当たることはありません。」
「自信たっぷりですね。では試してみましょうか。」
サヨは刀を構える。特別変わった点はないが、油断は禁物だ。まずは遠距離からの魔法で様子を見ようとエレナは考えた。
「『炎の槍・二重』!」
「その程度ですか!」
サヨは『炎の槍』を避け、こちらへと向かってくる。少し違和感を感じていたが、エレナは刀を受けるために自身も剣を作りだし受ける。
「『炎の剣』!」
「甘いですね!」
『炎の剣』で刀を受けるが、サヨよりもエレナの方が剣術では負けている。このままでは防戦一方だ。
「『炎の壁』!」
「そんな魔法では止まりませんよ!」
サヨは『炎の壁』を斬り伏せ、エレナの姿を斬りつける。しかしそれはエレナではなく炎によってできた分身だった。
「『陽炎』、ここ!ぐっ…。」
「わかっていました。炎の分身だということもあなたが背後にいることも。」
エレナは分身を作り、確実に気付かれずに背後を取ったはずだったが、サチの脇から背中に向けて刀が伸びていた。エレナは脇腹を刀が掠める。先程も違和感があった、『炎の槍』が放たれる前にすでに移動をしていたのだ。たまたま先に動き出したのかと思ったがどうやらそうではなさそうだとエレナは思った。
「確実に背後を取ったと思いましたが、先程といいすごい反応速度ですね。」
「いえ、反応速度がいいのではありません。私の能力は《予見の刀》、刀に触れている限り魔法の類は発動される少し前にわかります。それに遠距離からの魔法ならなおさら当てることは困難でしょう。」
なるほど。つまりフェイントの様な攻撃は使えないし、遠距離からの魔法じゃくるタイミングもわかっているから当たらない位置に簡単に移動ができ躱せてしまうというわけだ。
「ですがあなたには決定的な有効打は無いように見えますが?」
「ええ、たしかにそうですね。私には特別な刀の腕はありませんし、魔法もありませんん。ですが攻撃に当たらなければダメージを負うこともありませんし、負けることもありません。」
「持久戦には自信がある、ということですか。」
「はい。大抵の方は魔力が切れる方が早いですから、特にあなたのような魔法をメインとしている方には相性がいいといえます。」
魔力は無尽蔵ではない。どんな魔法でも使えばもちろん魔力は減るし、回復するにも時間がかかる。1対1で特に魔法をメインにして戦う者であればサヨはかなり苦戦する相手だろう。だからこそマルクさんやディアナさんはいざという時のために肉体を鍛えておくように指導してくれていたのだ。しかしそれは相手が並の魔法系能力者ならという話しに過ぎない。
「そうですか、では『炎の監獄』!これなら予見しても意味はありませんね。」
「どういうつもりですか。これではあなた自身もやられてしまいますよ。」
「どちらが先に倒れるか持久戦といたしましょう。」
エレナは『炎の監獄』で自分とサチを取り囲む。サチのみを狙えば予見され逃げられると思ったエレナは自分でもサチでもなくこの周辺全体を狙い囲ったのだ。これで閉じ込めることに成功した。後はお互いにどちらが先に暑さにダウンするかである。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うぅ…あなたはどうして…。」
エレナはサチに動かれる前に温度を上昇させる。聖騎士祭のアリアから着想を経て、一度放った魔法を後から操作することを鍛錬した。そのために自ら炎に飛び込み、焼ける覚悟で修行を積んでいた。そんなエレナにとって炎に囲まれるということは慣れたことであった。
「もっと…もっと上げますよ!」
「はぁ…はぁ…」
すでに熱で周囲の空気は温まり息をするだけでも痛みが襲う。サチは暑さに耐えられなくなり、気絶そして倒れ込んだ。温度にして100度、耐えられないほどではないが、急激に上げられ暑さに慣れていないサチには堪えたようだ。エレナは『炎の監獄』を解く。
「ふぅー。あら、意外と持久戦に弱いんですね。熱めの湯船に浸かることをおすすめしますよ。」
エレナはサチの懐から勾玉と鍵を取り出す。勾玉を破壊し鍵を持って屋敷へと戻る。
「急いで戻らなければ。」
含羞草のサヨ 撃破
エレオノーラ・スカーレット 軽度な脱水症
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