第五十四話 覚醒と才能
コータはレシア砂漠の迷宮で怪我を負ったが、異常な回復力をみせていた。いくら『治療魔法』で回復しても魔力や体力はすぐに戻るものではない。本人は気付いていないが、コータの身体に異変が起こっているのは確かだった。
「ここが僕の担当場所だね。」
コータが担当になった出入り口は森の中、イシュカへ向かう道がある門とそんなに変わらない場所であった。
「さぁ!出てきたまえ九人剣客!僕が相手になろう!」
「………。」
「どうした!僕に恐れをなしたのか!」
「………さっきから目の前にいるんですけど…。」
「うわぁ!ビックリした。もっとアピールしたまえよ。」
コータに説教を食らった男はおどおどしており背も曲がっている。片目は髪で隠れていて戦えるのか、大丈夫なのかと敵ながらコータは気になってしまった。
「俺は…九人剣客が一人…猫柳のキョウスケ。自由な剣を…お見せします…。」
「猫柳?なるほど二つ名みたいなものだね!僕はコータ・イマイ!《英雄》だ!」
コータは誰にも呼ばれたことは無いが意気揚々と自分は《英雄》だと言い放った。これには敵であるキョウスケも少し引いている。《英雄》と呼ばれる人間が自らを《英雄》と名乗ることはないと考えていたからだ。世界中を探せばいるかもしれない、現に目の前にいるしなと自分を納得させた。
「それでは…参ります!」
「来い!」
キョウスケは背中を丸めたままコータに突っ込んでくる。その動きは先程までの彼の見た目からは想像もできないほど素早かった。だがコータは怯まない、人を見た目で判断するようなことを彼はしないからだ。キョウスケは刀を振り下ろす。しかしコータは後ろへ飛び、容易く避ける。
「甘いよ!」
「なら…これで…どうですか!」
キョウスケはその場で刀を振り下ろす。だがコータまでの距離は3mほどある。避けるまでもなく当たるわけがない。しかし野生の勘が危険だと感じ取っていた、剣を前に構える。だが何かを防ぐことはできずコータの腕に痛みが走った。
「くっ!今のはまさか…斬撃を飛ばしたのか?」
「それがわかるとは…中々できますね…。」
「僕の世界にもこういう技はあったよ、まあフィクションだけど。かまいたちというやつかな。」
「…?そうですね…僕の刀は自由だ。型に縛られない、だから斬撃も飛ばせる。」
変則的な動きから繰り出される攻撃とかまいたち、たしかに強力な相手だ。しかし…
「カラクリがわかれば対処は難しくない!『風の牙』!」
「ぐっ!」
コータも負けじと剣で攻撃する、飛ぶ斬撃ぐらいじゃコータは驚かない、彼は《迷い人》でありこちらの世界に来た当初は驚いてばかりだった。特に魔法というのはフィクションの中での物であり実際に使えるとなると大興奮したものだが、不思議と慣れてしまった。この世界に馴染んだせいか記憶が徐々に薄れており、前の世界について思い出せないことも増えた。だが時々こうして思い出すこともあるのだ。
「考え事ですか…舐められてますね…もっと上げます!」
「思い出せないことを唐突に思い出したりする性分でね!」
キョウスケが刀を振り下ろしそれを防ぐ、しかし鳩尾に向かって蹴りを入れられる。コータは後ろにふっ飛ばされる。そこにかまいたちが襲いかかる。
「『風の壁』!よしこれで…ぐっ、ごはぁ…」
『風の壁』によってかまいたち防いだ。しかし刀がコータの腹部を貫いており吐血してしまう。キョウスケはかまいたちを放ったあとに刀を投擲していたのだ。指をクイとやると刀はキョウスケの元へと戻っていく。
「油断…したね…」
「刀を投げるなんて…そんなのありかい?」
「最初に言ったはず…俺の剣は自由な剣、能力は《自在の刀》…俺の戦うスタイルにも合っている…。投げれば戻ってくるし、自由に操ることができる。」
「なるほど…。これは一本取られたな…。」
コータはかなりの出血をしている、このままでは間違いなく死ぬ、意識が遠のいていく。
(ごめん…皆…《英雄》にはなれなかったよ…)
キョウスケが確実に止めを刺すために動けないコータに近づく。そして刀を振り下ろす。
「さよなら…《英雄》さん…」
そのときキョウスケは異変に気付いた。刀が刺さったはずの腹部の出血が止まっている。よく見ると傷がふさがっている、おかしい?すぐに後方へと下がる。
「どういう…こと…」
「思い出したんだ。僕の本当の能力をね。」
「本当の…能力…?」
コータは死にかけてこの世界に来る前のことを思い出す。気がつくと女神を名乗る人物に自分は病気で死んだことを伝えられた。そして生まれ変わるのに願いを一つだけ叶えてくれるという。そこで自分は健康な身体を手に入れたいということを願ったことを思い出した。
(記憶は断片だけど…少し思い出してきた。僕の本当の能力は《風精霊の加護》だ。)
コータが自覚をすると魔力が身体をめぐり自然に治癒し始めた。故に傷は塞がったのだ。コータは立ち上がる。
「さて、回復に魔力を使ってしまってもうほとんど残ってない。一撃で決める。」
「やられません…!」
「『風精霊の竜巻』!!!」
「うわぁぁぁ!!!」
キョウスケの身体は無数の風に切り刻まれ上空へと巻き上げられ、地面へと叩きつけられる。その拍子に勾玉と鍵を落とした。イヴァンに魔道具で連絡を取り勾玉を破壊する。コータは回復したことで無傷なので鍵を持って屋敷に戻る。
「皆、気をつけてくれよ…。」
猫柳のキョウスケ 撃破
コータ・イマイ 記憶の混濁があるも無傷
◇◆◇◆
ディランの担当する出入り口は遮蔽物のない平野だった。よく見てみると霧はかなりの高い位置まで伸びておりまるで壁のようだった。
「飛び越えれる可能性もあるかと思ったが、やはりそんな甘くはないらしいな。」
「作用、我ら九人剣客を全て倒す以外では結界は出られぬよ。」
気付かない内に背後に男が立っていた、見た目は程よく鍛えられた肉体で年は30代くらいだろうか。先程までは何も感じていなかったのに、この男の姿を認識してから物凄い魔力を感じる。ディランはそこまで探知が得意ではないが、そんな自分でも感じるこの魔力の圧。恐らくだが九人剣客のリーダーか若しくは中でも上位に入る実力だろうと思った。
「お前は九人剣客のリーダーか?」
「いや、我は二番目だ。九人剣客が一人、竜胆のツカサ、正義の刀とは何かをお見せしよう。」
「お前で二番なのか。なるほど、簡単には倒せなさそうだ。」
ディランは相手に合わせ『雷の剣』を出す。
「参る!」
「来い!」
ツカサはディランに向かって真っ直ぐに飛び込み刀を振り下ろす。ディランはそれを受ける、しかしそのあまりの刀の重さに膝を付いてしまった。
「魔法で作った剣にしてはいい出来だ。だが我の刀には正義を貫く“思い”が乗っている。お主の力では受けきれまい。」
「ぐっ…思いだと?」
「我の能力は《重心力刀》心の強さによって刀の重さは変わる。我の正義の“思い”が“重さ”になるのだ。」
「くっ…随分と…ふざけた能力だ。」
「だがそのふざけた能力に、私の思いに負けているのはどちらかな。ふん!」
「ぐがぁ!」
ディランは『雷の剣』を砕かれ、刃には当たらなかったが刀を振った圧で地面に叩きつけられた。
「ぐっ…何が正義だ…こんなことをしておいて…。」
「私は正しいことをしている。」
「将軍を甚振り、人々を傷つけておいて何が正義だ!」
「我らの悲願を果たすためには必要な犠牲だ。」
ディランは激怒した。自分勝手な言い分を並べるこのツカサという男に、絶対に負けるわけにはいかない。
「お前の歪んだ正義、砕いてやる。」
「我の“思い”を砕くだと?笑止千万。やれるものならやってみろ!」
ディランは空に向かって手を伸ばす。空には黒い雲が集まり雷が鳴っている。すると大きな落雷がディランに向かって襲いかかる。
「血迷ったか?」
「いや、これでいい。」
ディランの身体には電気が纏わりついている。ツカサが瞬きをした瞬間ディランの姿が見えなくなる。すると顔面にディランの蹴りがまともに入りぶっ飛ばされる。
「な、何が起こった…?」
「もうお前は俺に追いつけない。」
「がはぁ!」
ツカサの腹部に拳が入る。だがツカサは立ち上がり刀を構える。
「この程度で…我はやられるわけにはいかないのだ!くらえ!」
「来い。お前の正義を正してやる。」
ツカサは刀を振り下ろしディランはそれをあえてそれを真正面から『雷の剣』で受ける。
「我らが正しい!この重さがわかるか!」
「お前の歪んだ正義じゃ俺の本気の思いには、仲間のために戦う思いが負けることはない!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ツカサの刀は砕け、雷が全身を駆け巡り気絶する。ディランが使ったのは全身に雷を流すことで身体強化を行うものである。普通の『身体強化』よりも速さと攻撃力に特化している。まだ未完成ではあるが、なんとか形にすることが出来た。『雷身体強化』とでも仮称しておこう。まだまだ極めることができるとディランは感じている。
「俺もどうやら熱くなれるようだ。それにしてもこの魔法にはまだ調整が必要だな。さて…」
ツカサの懐から勾玉と鍵を取り出す。イヴァンに連絡をし、勾玉を破壊する。ディランも多少のダメージを受けたもののまだ戦闘は行える。
「急いで戻らなければ。」
竜胆のツカサ 撃破
ディラン・アレストール 軽症
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