第五十三話 『蜃気楼・物語』『風の見切り』
「お前みたいな隠れてコソコソ攻撃してくる外道にはぴったりの花言葉だよ。」
「くっくっく。粋がっていられるのも今の内だけさお坊ちゃん。」
そう言うとギンは後ろに飛び退き、ウールの目の前から姿を消した。気配が完全に消えている、魔力も感じない。これがこの男の能力なのだろうか。
「だけど、これならどうだ『水の壁』!!!」
ウールは自分の四方に『水の壁』を発動させる。これでうかつには近付けないだろうと考えたのだ、仮に近付けたとしてもウールと『水の壁』までの距離は1mもない近付けば必ず水に触れることになる、触れればどの方向から来るのかがわかる。しかし、ギンの刀は急に正面から現れた。
「甘いねぇ。そら!」
「何!?ぐわぁ!!!」
ウールは回避をするも完全に避けることはできず、ギンの刀は右腕を掠める。しかし四方を『水の壁』で囲んだはずなのに、ギンは水に触れることなくさらにその内側から刀が伸びてきた。
「そんなんじゃ俺の刀は防げないぜ?」
「なるほど、口だけじゃなさそうだ。」
流石は九人剣客とも言うべきか、その能力はかなり厄介であるとウールは思った。だが何か必ず突破口はあるはずだ。ウールの魔法は魔力を多く使ってしまうものが多い、特に『蜃気楼』はかなり魔力の消費が激しいのだ。それ故に乱発はできない、使うタイミングは慎重にならなければいけないのだ。
「俺は攻撃を当てる寸前まで完全に気配を遮断できる、おまけに消えている最中は攻撃も当たらない。《不可視の刀》これが俺の能力さ。」
「そんなこと教えていいのか?」
「わかったところで、攻撃を当てることはできないからねぇ。」
またギンの姿は消え去る。『蜃気楼』を使えば刀は回避はできるが、魔力がすぐになくなってしまう。長引くのはこちらが不利になる、早めに決着をつけたいところである。
(刀を出す瞬間は必ず実体化するはず。そこを狙って先に攻撃を当てる。)
今度はウールの真横から刀が伸びてきた。そちらに手を向け、最も素早く発動できる魔法を放つ。
「『水の弾』!!!」
「おっとっと危ない危ない。」
ギンはウールが放った『水の弾』を刀で斬り落とす。『水の弾』は素早く発動はできるが、正面からではギンに簡単に止められてしまう。
「狙いは悪くないが、その程度の攻撃じゃあ俺には効かないよ。」
「くそっ!『水の弾』!『水の弾』!『水の球』!」
「何だ、お坊ちゃんヤケになっちまったか?だが無闇に攻撃しても意味はないぞ。」
そう言うとギンは再び姿を消し、攻撃を避ける。ウールは魔法を発動したが全て避けられる、もう魔力はほとんど残っていない。諦めたように目を閉じ、その場でただ立ち尽くすだけだった。
(諦めたのか?所詮はお坊ちゃんだったってことか。これで終いだ!)
ギンはウールの背後に現れ止めを刺す。避ける気配がない、先程見せた幻影の魔法か?それなら斬り伏せて本体が出てきた所を攻撃するだけだ。
「ぐっ!」
「もう幻影の魔法は使えなかったのか?さっきの無駄打ちが仇になったな。このまま斬られな!」
「…いや、これで終わりだよ。」
「な…ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ギンに向かって先程ウールが放った魔法が飛んでくる。回避できずにまともに食らったギンはその場に倒れ込む。
「ど、どうしてさっきの魔法が…」
「さっきの魔法はただ適当に攻撃したわけじゃない、本当の狙いは魔法陣の展開だ。魔法陣を『蜃気楼』でお前に攻撃をしているように見せかけて隠し、出てきたところを先程の魔法陣から放った魔法で攻撃した。『蜃気楼・物語』実戦で使うのは初めてだけどなんとかできたよ。魔法陣を『蜃気楼』で隠している時は他に魔法は使えないからね。」
「まさに肉を斬らせて骨を断つってことか…見事だ…。」
ギンはその場で気絶する。ウールは懐から勾玉と鍵を見つけ、魔道具を使ってイヴァンに連絡する。
「こちらウール。九人剣客を一人倒しました、それと懐から勾玉と鍵を手に入れることが出来ましたよ。」
「そうかよくやった!その勾玉が恐らくこの結界の依代になっている物だ。それを全て壊せば結界は壊れるだろう。」
「わかりました、破壊します。」
ウールは勾玉を破壊する。心なしかこの辺りの霧が薄くなったような気がする。
「それとできたら救援お願いします。もう限界です…。」
「わかったすぐに向かわせる!」
「お願いします…。」
命の危機があるほどではないが、少し血を流しすぎてしまったウールはその場で倒れ込むのであった。
紫陽花のギン 撃破
ウール・レディ 戦闘不能
◇◆◇◆
フルーが向かった出入り口は比較的街に近い所だった。ウールが門に着いたのとほとんど同タイミングであった。
「ここが門だよね。」
フルーは辺りは見回す。門の先は霧が蔓延しており、イシュカに向かう道同様に進んでも帰ってきてしまうのだろう。
「早く解放しないとね。」
「そう簡単にはやらせないよ。」
「誰!」
「僕は九人剣客が一人、梔子のソウイチロウ。優雅で洗練された僕の攻撃に君は耐えられるかな?」
「上等だよ!先手必勝!」
梔子のソウイチロウと名乗った男はあまり強そうには見えなかった。フルーはソウイチロウに向かって真っ直ぐ突っ込む。
「『風の拳』!」
「くっ、中々やるね。」
「まだまだ『風の弾丸』!」
「ぐっ。今度はこちらの番だ。」
攻撃を畳み掛ける。スピードではこちらが勝っている、このまま押せば勝てるだろうとフルーは考えていた。ソウイチロウの刀を振る速度はそこまで早くないこれなら避けれるだろう、フルーは右に身体を移動させ躱す。その瞬間フルーの右腕は斬られていた。
「つっ!?」
「君に僕の優雅な刀捌きが見切れるかい?」
フルーは困惑した。今の刀は確実に避けたはず、にも関わらず自分の腕が斬られた。幸い致命傷というほどではないが、ダメージを受ける。
「『風の鎧』!これで…」
「それで防御力を上げたつもりかい?」
「きゃっ!」
またも見えない刃に斬られる。『風の鎧』のおかげで先程よりダメージは少ないがそれでもこのままではやられてしまう。見えない刃の謎を解かなければ。
「ふふふ。僕は弱い相手をいたぶるのが大好きでね。特に君みたいな元気な女の子はいいよ!」
「ふん!何が優雅で洗練よ!趣味の悪い!」
「いいねぇ。まだまだ元気そうだ、楽しませてくれよ!」
ソウイチロウはフルーに向かって刀を振り下ろす。だがフルーは大きく後ろに飛び回避する、すると見えない刃による攻撃はなかった。
(今の攻撃には刃がなかった?もしかして…)
フルーは敢えて刀の間合いまで入り込む。振り下ろされた刀をもう一度後ろへと大きく飛び回避する。少しだが見えない刃のからくりがわかってきた。
「わかったよ、見えない刃の正体。その刀を振り下ろすとその横にもう一本見えない刀が出るんだ、だから後ろに回避すれば二本とも当たることはない!」
「やはり君は素晴らしいよ!僕の能力は《見えざる刃》自分が持つ刀の周りに見えない刃を出し斬ることができる。つまり刀を振り下ろせば二本の刀を振り下ろしているのと同じことになるってわけ。だけど!」
ソウイチロウが再び刃を振り下ろし、フルーは大きく後ろに避ける。だが当たらないはずの見えない刃で右肩を貫かれる。
「きゃぁぁぁ!…ど、どうして?」
「横にっていうのは間違いだ。この見えない刃は刀から1m以内ならどこでも自在に出すことができる。だから後ろに回避しようが近づいた時点で当たるんだよ。残念だったねぇ、さっきまではわざと出していなかったんだよ。君のその絶望する顔が見たかったから!」
「くっ…本当に趣味の悪い。」
最初に斬られ、今肩を貫かれた右腕はもう使えない。あの見えない刃をどうにかして避けなければ。フルーは砂漠での修行を思い出す。傷は痛むが身体中の魔力に意識を集中させる。フルーは身体前進に薄い魔力を纏う。
「なんだもう限界なのかい?これから楽しいところだったのに…。」
ソウイチロウは刀を振り下ろす。フルーはそれを避ける。だが見えない刃が振り下ろされる。
(これで終わりだぁ!)
確実に当たったと思った、だが気づいたときにはソウイチロウは空を眺めていた。自分が殴られたことに気づくのに時間がかかった。今確実にあの女を斬ったにも関わらず逆にカウンターを受けたのだ。
「ぎ、ぎさまぁぁぁぁ、何をしたぁぁぁぁぁ!!!」
「余裕がなくなったね。わからないならもう一度斬りかかってくるといいよ。」
「死ねぇぇぇぇ!!!」
もう一度刀を振り下ろす。フルーはそれを避けるそして見えない刃が襲う。だがフルーは見えない刃を避け左の拳をソウイチロウの顔面に叩き込む。
「『風の拳』!!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!!…ど…どうじてぇ…。」
「私は砂漠で魔力調整の修行をして最初は魔法の持続時間を伸ばすことを考えていたけど、あなたとの戦いの中で『風の鎧』を使って思ったの。刀を受ける瞬間なんとなく自分の魔法に干渉されたことがわかることに。でも普通の状態だとほとんどわからない、だから私は魔力調整で極限まで薄くした『風の鎧』を纏うことでそこに触れた瞬間攻撃がきたことがわかるんじゃないかと思ってね。それに気づいて反応できるかは微妙だったけどね。名付けて『風の見切り』!…ってもう気絶してるか。」
ソウイチロウは鼻の骨が折れた痛みと歯が折れた痛みですでに気絶していた、フルーの話を半分も聞いていない。フルーは気絶したソウイチロウの懐から勾玉と鍵を取り出す。魔道具でイヴァンに連絡を取ると、勾玉を破壊し救援を呼びその場で座り込む。
(ごめん、一人倒すので精一杯だったよ…あとはよろしく…)
梔子のソウイチロウ 撃破
フルー・フルーラ 戦闘不能
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