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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
戦華九人剣客編

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第五十二話 九人の剣客

このままここで立ち止まっていても埒が明かない。今どういう状況なのかキクさんなら何かわかるかもしれないと考えた俺達はキクさんの屋敷に向かうことにした。屋敷に着くとすでに多くの人がキクさんの屋敷へと集まっているようだった。


「キクさーん!これは一体どうなってるんだい!」

「このままじゃ仕事ができなくて困っちまうよ!」

「子供が病気で外の薬がいるんだよ、助けておくれよキクさん!」


キクさんはその中心に立ち皆を励まし、部下に指示を出し冷静に対処している。俺達は人混みをかき分け中心にいるキクさんの元へと急いだ。


「キクさん!」

「あなた達、やはりあなた達も出られなかったのね。」

「はい、残念ながら。どうやら国の出入り口全てを霧が包み込んでいるようで、外に出ようと思っても出られないそうです。」

「一体何が起こっているのかしら?」


すると突然城が現れる。普段は外敵対策として近づかなければ見えないはずなのに、はっきりと見えていた。さらにかなり大きな映像魔法が城の上空に映し出される。そこに移ったのは歯が抜け落ち、腰は曲がっておりいかにも悪人面という男の顔だった。


「ドウマ!」

「じゃあ、あれがドウマ・ゲンジ!」

「あー、聞こえているか愚民ども!ワシの名前はドウマ・ゲンジ!ここにいる愚かな男に変わってこの国の新たな将軍になる男じゃ!」

「あいつは一体何を言っているんだ?あれはツネヨシ将軍!」


映像に映し出されたのは血だらけになったツネヨシ将軍だった。両手足には枷をつけられ逃げられないようになっている。すでにかなりダメージを受けている、一刻も早く治療しなければ命に関わる。その場にいる皆はツネヨシ将軍のあまりの悲惨さに悲鳴も上げられなかった。その場に倒れ込む者、涙を流す者様々だった。


「もう気づいていると思うが、この国の休暇所の出入り口は全てを結界で塞いである。そしてそこには九人剣客を配置して結界の守護をさせておる!外に出たければ全て倒すことじゃ!だがワシは弱い者いじめは好きじゃない、愚民どもにチャンスをやるためにお前たちの味方になるゲストを用意してある!」

「九人剣客?それにゲストって…」

「まさか…。」

「そのゲストとは…なんと《勇者》だ!聞いておるか《勇者》よ!将軍や愚民どもを助けたくば、九人剣客を倒しワシの元まで辿り着くんじゃな!そして愚民どもは精々足掻くことだ!わーはっはっはっは!」


そこで映像は終わった。映像が終わると皆思い出したかのように叫び声を上げたり、家族と抱きしめ合い涙を流している。将軍のあんな姿を見せられては動揺しないほうがおかしい。キクさんはその場を部下に任せると俺達を屋敷の中へと案内してくれた。



「ドウマの言っていたゲストってあなた達のこと?」

「はい、俺達のことです。すみません俺達のせいでこんなことに。」

「あなた達のせいじゃないわ。でも早くツネさんを助けないと。」


キクさんにはまだ俺達の詳しい素性は喋っていなかったので説明をする。俺達がドウマの言っていたゲストで《勇者》だということを。


「ドウマ・ゲンジはどうして私達を狙ったのでしょう?」

「この国には《勇者》がいないから戦力として手に入れたかったということかしら。」

「それは直接本人に聞くしかないだろうな。どちらにせよツネ将軍やこの国の人を助けるには九人剣客とやらを倒さないといけないようだからな。」

「ちょうどこっちには九人いるからね!」


そう張り切るデリラの言葉を聞いてキクさんは不安そうな表情になる。九人剣客とはそんなに強いのだろうか。


「キクさん九人剣客ってどんな奴らなんですか?」

「九人剣客は前将軍に仕えていた九人の侍のことよ、当時その強さは別格であったと聞いているわ。そんな危険な戦いにあなた達みたいな子供を行かせることはできない。」

「キクさん、ありがとうございます。でも俺達は困っている人を見捨てることはできません。」

「ハミルトンさん、この子達は強い子達です。それこそ国の騎士団副団長をやっている私よりもね。だから信じてあげてください。」

「…わかりました、私はここで皆さんのサポートに回ります。リュウ!皆さんを出入り口に案内してあげなさい!」

「はっ!皆さんこちらへ。」


そういうとリュウさんは出入り口までの行き方を説明してくれた。イヴァンが懐から魔道具を取り出し皆に配る。だが俺のとは違い色が緑色である。


「簡易版の連絡用魔道具だ、赤い方は誘拐のときに壊されてしまったようだから今はこれで我慢してくれ。」

「何が違うんですか?」

「これは親機を持っている私だけにしか連絡できないんだ。だから何かあればまず私に連絡をすることになる。」

「そういうことですか。ではイヴァンさんが皆の状況把握と指示をお願いします。」

「ああ…。皆、たしかに君達は並の冒険者よりも強いが、勝てないと思ったらすぐに逃げろ。命を投げ出す必要はない。」

「はい!」

「それじゃ皆…」


そうイヴァンが掛け声を言かけた所で一人の男がキクさんの元へと走ってきた。服はボロボロで出血もしている、ただごとではない様子だ。


「大変です。キクさん!街で魔物が暴れています!」

「何ですって!」


駆け込んできた男によれば突如魔物が複数現れ、街で暴れており人々を襲っているとのことだった。この国の役人が戦っているが全く刃が立たないらしい。


「急いでけが人を運んで頂戴!でも弱ったわね、役人で魔物に対処できないとなるとこの国には他に戦える戦力はないわ。」

「忍はダメなんですか?」

「彼らは戦闘能力だけでいったら役人とそう変わらないの。それにツネさんがあの状態ってことはそらくもう…。」


つまり現状動ける戦力は俺達だけということだ。他にもいる可能性はあるが、並の実力者では九人剣客には勝てないだろう。さらに魔物の対処もしなければいけないということだ。どうする、俺達はちょうど九人しかいない。だが急がないと被害者がどんどん増えていってしまう。


「イヴァンさん!街の魔物の方を対応してもらえないですか?この中だったらあなたが一番の戦力だ、倒して皆を助けることができるのもあなたしかいない。」

「そうだな。だが九人剣客の方はどうする?」

「俺が二人…」

「それは拙者に任せてもらえないでござるか?」


俺の言葉に被せて声が背後から聞こえた。そちらに振り返ってみると、そこには黒い髪を後ろで束ねた少女が佇んでいた。年齢は俺達より少し上だろうか腰には刀と呼ばれる大和国の剣が二本携えられている。


「あなたはランマ!」

「ランマ?キクさん知り合いですか?」

「ええ、ランマ・ヤマダ。人呼んで“人斬り乱麻”。」

「“人斬り乱麻”?」

「彼女は前将軍の命で幼い頃から処刑人として厳しく育てられ、今まで100人斬り殺した。そして将軍の死後自ら牢に入っていたんだけど、ツネさんはずっと気にかけていてね。最近牢から出所させて今は犯罪者を捉える役人の様なことをしているわ。」

「なるほど。それで君が協力してくれるって?」

「九人剣客の話しを聞かせていただいた。殿を助けたいのは拙者も同じこと。協力させてもらえないでござるか?」


俺達の前に突如表れたランマ・ヤマダと名乗った少女は九人剣客の一人を相手したいということだった。ありがたい話だがこの少女にそれだけの実力はあるのか、信用はできるのか。俺はエレナに目配せをする、エレナの《副技能(サイドセンス)》でランマの魔力の流れを見てもらうためだ。


「彼女の魔力はかなりゆったりとして落ち着いています。それでいてどことなく芯がある。信用してもいいと思います。」

「わかった、エレナの判断を信じるよ。俺はユーリ・ヴァイオレットだ、ランマよろしく頼む。」

「任されたでござる。」

「よし、これで九人揃った。魔物とサポートはディランさんとキクさんに任せて俺達は九人剣客を倒すことに専念しよう!皆、必ず無事に帰って来てくれ行くぞ!」

「「「おう(はい)!」」」


俺達はそれぞれの方向へと散らばっていく。


「ここで結界を守っているってことだよな?さっきは居なかったと思ったが。」


一番最初に門へと着いたのはウールだった。彼が向かった出入り口はイシュカへ帰るために皆で通った道である。だがあの時は特に人の気配を感じなかった、それは今も一緒である。


「少し探してみるか。」


ウールは門の周辺を歩く。すると背後からいきなり刀が出てきて切りつけられる。だが刀が切ったウールのそれは彼の得意魔法である『蜃気楼(ミラージュ)』で作った幻であった。


「俺の一撃を交わすとは大した坊っちゃんだねぇ。」

「警戒するのは基本だろ。あんたが九人剣客か?」

「俺は九人剣客が一人、紫陽花(あじさい)のギンだ。」

紫陽花(あじさい)だと?」

「俺達はそれぞれ自分を表す“華”を名乗ることを許されている。紫陽花(あじさい)には冷酷って意味があってなぁ俺にぴったりだろ?」


そう言って痩せ細った男の笑顔は少し不気味だとウールは感じたのだった。


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