第四十八話 砂竜
俺達はレシア砂漠へと抜ける森の中を全力で駆け抜けていた。そろそろ砂漠に到着する頃だ。カルロスの話ではこの砂漠と森の間くらいに砂竜の管理などをしているジンタという老人がいるらしいが…。
「この辺に小屋がないか探そう。」
「あそこに何か見えますよ!」
「本当だ!行ってみよう!」
俺達は小屋を見つけそこに向かっていった。しかし中には誰もいない。
「留守ってことかな。」
「急いでいるのに!」
俺は苛立ちを隠せない。早くイシュカに向かわないと、皆が心配で落ち着かない。するとエレナが耳に手を当て出した。
「二人共静かに!…何か聞こえませんせんか?」
「…?」
「本当だ、砂漠の方だ。」
「見て!何かこっちに向かってきてるよ。」
砂漠の方に目を向けると3っつの砂埃がこちらに向かってきていることがわかる。その中心には人影が見える。このままではこちらにぶつかるほどの勢いだ。
「このままじゃぶつかっちゃう!」
「何か魔法で…」
「大丈夫だー!黙って見ていろー!」
砂埃の人影から声が聞こえる。こちらが何かしようとしたのを察してか何もするなと叫んできた。俺は上げた手を下ろした。そのままぶつかるギリギリの所で砂埃から3つの影が飛び出してきた。その生物は薄い黄色をしており砂漠の色とほぼ同化している、尾びれと背びれが付いているまるで魚のようだ。3匹とも俺達の頭の上を飛び越え森の陸地に着地した。
「な!大丈夫だって言っただろ?ところでお前たち誰だ?」
「えっと、ジンタという人を探しに来たんですが…」
「ああ、そいつは俺のことだ!」
この人が目的のジンタという人らしい。恐らく砂竜と思われる魔物を軽く乗りこなし、とても老人とは思えない筋骨隆々な身体付きをしている。一体いくつなんだろうか。俺はカルロスから貰った手紙をジンタさんに渡す。
「なるほど、緊急事態のようだな。たしかに砂竜は砂漠の魔力の影響も受けないし、素早さもピカイチだからいい選択だな、喜んで貸してやる。だが俺はよくてもこいつらはそうかな。」
「どういうことですか?」
「こいつらはそこらの馬とかとは勝手が違う、誰でも簡単に乗りこなすことはできないんだ。見た目は魚みたいだが、腐っても竜種だ。プライドが高くてな、乗りこなす以前にそもそも誰でも簡単に乗せてくれるわけじゃないんだ。」
「そうなんですね。」
竜種というのはプライドが高い生物らしい。知らなかったな、だって俺達の知っている竜種といえば本物のドラゴンであるルミだけである。だがルミはプライドが高いとかそういう性格ではない。どちらかというとのほほんとしている。もしかしたら他にドラゴンの仲間がいないから本来の気性や性格とは違う風に育っているのかもしれない。砂竜は竜種らしくプライドが高いようだが乗せてもらわなければ困る。一刻も早くイシュカに向かいたい今、他に選択肢はないのだ。アリアは砂竜にゆっくりと近づいていく。
「私達どうしても砂漠を越えたいの…お願い。」
「キュイー!!!」
砂竜は叫び声を上げたと思ったらアリアに向かって頭を擦り付ける。どうやら敵意はない、むしろ懐いているように見える。その光景を見てジンタは驚いていた。
「こりゃ珍しいこともあるもんだ。砂竜がいきなり懐くなんてことは滅多にない。」
「そうなんですか。ですがアリアさんかなり懐かれてますけど。」
「うん。なんかベロベロ舐められているし。」
「ふふ、くすぐったいよ。」
まるでペットのように懐いている、プライドが高いというのは何だったんだろうか。まあいいとにかく乗れるのであれば問題ない、俺とエレナも砂竜に乗る。最初は少し嫌がっていたが、アリアが声をかけるとすぐに大人しくなった。これで砂漠を越えることができそうだ。
「それじゃあジンタさん。砂竜借りていきますね。」
「ああ、向こうに着いたら勝手に放しておいてくれ。コイツらはここまで自分で帰ってこれるからな。」
「わかりました。ありがとうございます!」
「じゃあ皆お願い!」
「「「キュイー!!!」」」
砂竜は俺達が乗っている背中だけ砂の上に出し、泳ぐように進んでいく。
「凄く早いね!これなら一時間もかからなさそうだよ!」
「急がないと!皆が心配だ!」
俺達はさらにスピードを上げて砂漠を進む、しばらくすると目的の地であるイシュカが見えてきた。門の近くで止まり砂竜にお礼を言って別れる。名残惜しそうにしていたがまた改めてお礼に行くとアリアが言うと喜んで帰っていった。さてまずは皆がいるはずの屋敷に行こう。
「皆!大丈夫か?!」
「無事ですか?」
「誰かー!」
返事はない。屋敷の中は特に荒らされたりしているわけではなく、ベットの布団はめくられた跡がある。だが特別おかしな部分は見つからない。
「ここには何もありませんね。」
「手がかりは何もなさそうだ。やっぱりイヴァンさんが言ってたヤマト国に行くしかないか。」
「でもここからどうやってヤマト国に行くの?」
「ギルドに行って聞いてみよう。」
「そうですね、急ぎましょう!」
俺達はイシュカのギルドに向かうと受付で複数の男女が騒いでいた。何かトラブルがあったのか必死に訴えている。
「絶対あれは人攫いだって!」
「そうよ!あんな朝から大丈夫なんでしょうね!」
「お、落ち着いてください!」
人攫いだって?もしかして皆と何か関係があるかもしれない。彼らに詳細を聞いてみることにした。
「すみません!その人攫いについて詳しく教えてください!」
「ああ、いいけど。俺はいつも朝は配達をしているんだが、今朝は妙に人が少なく感じてな霧も出ているし不気味だったんだ。」
「おかしいですね、イシュカで霧なんて…。」
「だからさっきからそう言ってるだろ!」
ギルドの受付嬢にいちいち絡んでいては話が進まない。俺は受付嬢に目配せする、察してくれたのか軽く会釈をする。
「それで何を見たんです?」
「あぁ、不気味だなと思っていたらちょうど街角に大きい屋敷があるだろ?あそこに黒ずくめの怪しい連中が出入りしてたんだよ。木箱をたくさん運んでてよ。しばらくしたら気が遠くなって眠っちまってたんだ。」
「私もそれを見たのよ。私も同じ様に眠くなったんだけど、眠る前に微かに木箱の中から声が聞こえたの!だから木箱の中に人を入れて攫ったんじゃないかって!」
街角にある大きい屋敷とは俺達が拠点にしていた屋敷で間違いない。発生することのない霧に突然眠くなってしまったということ、そして黒ずくめの怪しい連中が出入りしていたということ。これらから考えられることはやはり人攫いだろう。
「皆を攫った目的はわからないけど、少なくともまだ生きてる可能性は高いってことだね。」
「どうしてそう思うの?」
「殺害目的なら木箱にわざわざ死体をいれる必要はありませんし、その中から声が聞こえたというのであれば生きてる可能性は高いってことですね。」
「それに朝方を選ばなくてももっと人目のない真夜中にでもすればいいんだよ。現にこの人達には見られているわけだし、何か狙いがあったのか若しくはイレギュラーでも起こったかだね。」
真相はわからないが、ヤマト国の連中に皆が攫われたというのは間違いないだろう。急いでヤマト国に向かわなければ。ギルドの受付嬢にヤマトへの生き方を尋ねる。
「ヤマト国へですか?それならここから東の門を潜っていただいて道なりに進めばいいのですが…」
「何か問題が?」
「ヤマト国は入国審査がかなり厳しくて普通の冒険者では簡単に入ることはできないんです。」
「そうなんですか?でもどうしても俺達行かないといけないんです。何か方法はありませんか?」
カルロスに頼めば国の許可証を発行することができるかも知れないがいちいち取りに戻っている場合ではない。
「行商人であれば通行することができるかもしれません。ヤマト国は数年前まで完全に外国との貿易をしておりませんでした。なので外国の商品は向こうでは珍しく重宝されるようですので、門番に認めてもらえればその場で通行許可証を発行していただけると聞きました。」
「ありがとうお姉さん!」
俺達はギルドを後にして、ヤマト国へと向かった。それにしても行商人の振りをするのか…上手くできるだろうか。
「私達、行商人に見えるでしょうか?」
「見た目はシャーロットに貰った認識阻害のローブがあるから怪しまれないと思う、でも肝心な商品が…」
当たり障りのないものでは数がないし、行商人とは見られず怪しまれてしまう可能性がある。何かないか…俺は魔法袋を漁るととある物を見つけた。
「これならいけるかもしれない!」
「本当ですか?」
「それ何?」
「これは前にコータと作った玩具なんだ。多分《迷い人》の世界、異世界にしかない物かも!」
以前コータに貰った万華鏡なる玩具の存在を思い出した。万華鏡とは筒の中に小さな鏡を三角柱状に仕組み、色のついた紙の小片などを封入したものである。のぞきながら回すと、色紙が動いて模様の変化が楽しめるのだ。
「これなら俺の『創造』で作れる。これを量産して持っていこう。魔法袋があれば荷車がなくても怪しまれないと思う。」
「そうですね。その作戦でいきましょう。」
「皆、もうすぐだから待っててね。」
万華鏡で行商人として認めてもらい通行許可証が貰えるかわからない。だけどやるしかない、俺達はヤマト国へと馬を走らせる。だが大きな陰謀に巻き込まれていることにこの時はまだ気づいていなかった。
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