第四十七話 救援
イヴァンから貰った魔道具から聞こえてきた声は俺に助けを求める声だった。レシア砂漠にいる皆に何かがあったのかもしれない、心配だ。
「とりあえず急いでシャーロットに報告しに行きましょう。どちらにせよ砂漠を越えるにはルミの力も必要ですから。」
「そうだね。急ごう。」
「皆無事で居て…。」
城へと向かう。いつもなら軽く門番に挨拶をするところだが、今回はスルーする。門番も俺達のただよらぬ顔に状況を察してくれたようで、チェックはなしだった。城に入るのに偽装や変装の類は魔法によって見抜かれてしまうので、仮に俺達が強盗や盗人だとしてもそもそも入ることが出来ないがな。俺達が犯罪を行為をするなら別だけど。
「カルロス!シャーロットは?」
「シャーロット様なら、昨日ヴェルス帝国に向かわれたが、何かあったのですか?」
俺はカルロスに軽く状況を説明する。レシア砂漠にいるイヴァン、それに皆が何かトラブルに巻き込まれており、助けを求めていること。
「だからセドリック団長達もいるなら呼んでほしいんだけど。」
「実はセドリック団長達は昨日報告書をまとめた後、すぐに滝の迷宮へと向かわれてしまったんだ。」
「クソ!なんてタイミングの悪い!」
「私は急いでシャーロット様、セドリック団長達に連絡を取ります。」
「わかった!俺達は急いでレシア砂漠に戻るよ!」
「でもどうやって砂漠を越えるの?」
「時間はかかるけど『身体強化』を連続し発動し続けてて走るしかない。」
「それしかないですね。イシュカまで辿り着く頃には魔力がなくなるかも知れませんが…。」
ルミの背中に乗っていたときはそこまで遠い感じはしなかったが、歩いて砂漠を越えるとなると話は別だろう。それに『身体強化』を発動してもそれと砂漠の魔力にやられてしまわないようにするために魔力の放出もしなければならない。俺達の中で一番魔力量が多いアリアでも、厳しいだろう。だがそうも言っていられない。事は緊急を要するのだ。
「砂漠を越える方法なら砂竜を使うという方法があります。」
「砂竜?」
「聞いたことがあります。砂の中を泳ぐことができる魔物で、竜という名前ですが羽ではなく魚の様にヒレが付いていると。ですが砂竜は繁殖力が弱く、そのほとんどが絶滅したと聞きましたが…。」
「そうです。なので数少ない生き残りを国で保護しているんです。今回は緊急なので利用させてもらいましょう、三匹ならすぐに用意できると思います。少しここで待っていてください。」
そう言うとカルロスはどこかに走っていった。砂竜そんな魔物がいたんだな、知らなかった。数も少ないようだし、保護の観点からもあまり公にはしないほうがいいことなんだろう。今回はありがたく利用させてもらうけど。しばらくしてカルロスはすぐに手紙のような物を持って戻ってきた。
「森と砂漠の間にジンタという老人がいます、砂竜の管理・育成・調教を国から任されている人物です。その人にこの手紙を渡してください、そうすれば砂竜を借りることができるはずです。」
「わかった。ありがとうカルロス!二人共急いで行こう!」
「はい!」
「うん!」
俺達は急いで王都から森の方に向かって馬を走らせる。
◇◆◇◆
時は少し遡りユーリ達がレシア砂漠を出発して後のこと―――。
「さて、私達も修行と行きますか!」
「そうだね。迷宮に向かおう。」
「俺は砂漠の方で修行する。」
「私も砂漠の方で魔力調整を覚えたいかな。」
「それじゃあ皆にもこれを渡しておこう。」
イヴァンは迷宮に向かうウール、デリラペアと砂漠に行くフルー、ディランペアにそれぞれ連絡用の魔道具を渡す。
「何かあればこれですぐに連絡をしてくれ。私はコータ君の様子を見てるよ。わかっているとは思うがあんなことがあったばかりだ、あまり無茶はするんじゃないよ。」
「はーい!」
「デリラが一番わかってなさそうなタイプなんだよなぁ。」
「ディラン私達も行こう。」
「ああ。」
それぞれのペアは修行を開始した。迷宮にきたデリラとウールは低階層で魔物を狩っていた。ユーリ達の捜索隊で参加した報酬に満足し、《勇者》に関する迷宮遺物を捜索する冒険者はかなり減っていた。まだ熱心に探している冒険者はいるがすでにユーリ達が見つけてしまっているので無駄足である。ユーリ達が《勇者》に関する迷宮遺物を見つけたことはまだ公開されていない、その場で公にしなかったのも内容が内容だからだ。
「僕、最近気づいたんだけど《戦闘狂》の能力って魔物相手と対人相手だと能力の上がり方に違いがあるんだよね。」
「ふーん、どう違うのさ?」
「まだ上手く言えないんだけど対人戦闘だと力とかスピードよりも集中力とか反応速度が上がる方が早い気がする。魔物はその反対って感じかなぁ。」
「デリラがそんなこと意識してたことの方が僕には驚きだよ。」
「失礼な!僕だって少しは考えてるんだよ。ユーリはもちろんエレナちゃんやアリアちゃんはやっぱり私達とは違うもん。」
「そのための修行だろ?僕もちょっと試したいことがあるから付き合ってもらうよ。」
「もちろん!」
ディランとフルーは砂漠にて魔力調整の修行をしていた。砂漠では身体から常に魔力を放出していないと方向感覚を失ったり、幻覚を見てしまうことがある。だからこそ魔力調整の修行になる。効率よく魔法を使うことができれば魔力が少なくてもたくさんの魔法を使うことができるからだ。
「どうだフルー。」
「うん、なんとなく掴めてきたよ。私の風魔法は自分の身体に纏うことが多いから魔力調整ができればかなり持続時間を伸ばせるかも。」
「たしかにそれはあるな。俺も何かに応用できそうな気がする。」
「ディランの得意な雷魔法って種類少ないよね?」
「他の属性に比べて使い手が少ないというのはあるだろうな。ユーリやアリアは例外にしても父や青薔薇聖騎士団長くらいしか聞いたことがないからな。それに二人共自分オリジナルの魔法を作っている。」
「じゃあディランも何か自分にあった魔法を作らないとね、私も協力するよ!」
「すまない。」
デリラ、ウール、ディラン、フルーはそれぞれ強くなるための課題を見つけている。これを乗り越えることが出来た時彼らはまた一つ強くなれるだろう。どちらのペアも日が暮れたので、今日は引き上げようとイシュカの屋敷まで戻ってくる。すると出迎えてくれたのはコータだった。
「やぁ、皆心配かけたね!」
「コータ、身体はもう大丈夫なのか?」
「もうこの通りピンピンしてるよ!僕にかかればこのくらいどうってことはないさ!」
コータは昨日から今日まで寝ていた一日だけで全快していた。普通ならありえないがコータはそうなのだと誰も疑問に思わなかった。修行の疲労からそこにツッコミを入れる力が残ってなかっただけかもしれないが。食事をしながら明日の予定について話していた。
「明日はどうする?」
「そうだな。明日はお互いに模擬戦でもしてみないか?」
「そんな提案するってことは何か掴んだんだね?ウールにしては珍しいもん。」
「バレたか。ちょっと実戦で試したくてね。」
「デリラの《戦闘狂》が移ったのかと思ったよ。」
「人の能力を病気みたいに!」
「「「ハハハ!!!」」」
そんな和気藹々とした雰囲気で夜は更けていった。翌日、真っ先に異変に気づいたのはイヴァンだった。身体がじんわりと痺れていくような感覚。寝起きだからというわけではない、確実に何か薬物か魔法の類である。魔力を上手く操作できず、魔法を発動することができない。だがイヴァンは焦らなかった、流石宮廷魔道士団副団長である、こういった状況には慣れている。かろうじて動く右手を動かしポケットから、《麻痺回復薬》を飲む。
「これで少しは動けるな。侵入者なのか?皆の無事を確認しなければ。」
イヴァンは皆が寝ている部屋に向かう。だが部屋を覗くとそこには誰もいなかった。
「どういうことだ!?」
するとイヴァンの首元にナイフのような物が突きつけられる。特殊な形状をしていたがこれはクナイと呼ばれる東の国ヤマトの武器である。だがヤマト国が何の目的でこんなことをしているかイヴァンには検討も着かなかった。
「貴様ヤマト国の者だな?皆をどこにやった!」
「ほぅ。詳しいな、だが目的は言えない。他の奴らに危害を加えたくなければ大人しく付いてこい。」
「くっ…。」
男はイヴァンを脅しながら、移動すると空の木箱に入るように指示をした。イヴァンは素直にそれに従う。そして蓋を閉められたところでポケットから連絡用の魔道具を取り出し、皆に呼びかける。
「皆!無事か?聞こえていたら返事をしてくれ!」
だが誰からも返事はない。もしかしたら自分の様に麻痺によって身動きが取れないのかもしれない。しかしイヴァンは諦めずに声をかけ続けた。すると微かに無効から話し声が聞こえた。ユーリ達であった。ここから王都まで聞こえるとは思っていなかったが、これはチャンスだと思ったイヴァンはユーリに向かって助けを求めた。
「ユーリ君!助けてくれ!」
「イヴァ―さ―!どう――すか!」
ユーリの声はノイズが酷く聞き取れないがイヴァンは一方的に喋り続ける。
「このままでは東の国、ヤマトまで連れて行かれしまう。」
「うるさいぞ!小賢しい真似を!」
「ぐっ…。」
イヴァンは連絡を取っていることがばれ、男に気絶させられてしまうのであった…。
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