第四十六話 解放
レシア砂漠を抜け森が続いてしばらく経った。もうすぐ王都に着く、ここらへんで降りよう。
「ルミ。このあたりで大丈夫。」
「はい、わかりました。」
森の中に着地するとルミはドラゴンから人型へと戻った。ここでセドリック団長達とは分かれる。
「それでは我々はこのまま城まで行くよ。」
「はい、色々とありがとうございました!」
「こちらの方こそありがとう。本来であれば我々の任務だったが、君達でなければ見つけることが出来なかったようだ。このことは王にも報告しておくから、褒美は何が良いか考えておくといい。」
「いや、褒美だなんて…」
「すぐじゃなくてもいい、何か考えておいてくれ。それでは!」
セドリック団長はそう言い残し、ルミとマークを連れて城の方へと向かっていった。褒美か…うーむ、特に金銭に困っているわけでもないし貰うのであれば何か便利な物がいいな。マルクさんやユキさんにでも聞いてみようかな。
「さあ俺達も帰るとするか。」
「そうですね。」
「早くシロの奴隷紋を消さないとね!」
レシア砂漠の迷宮の最下層で貰った魔法無効の迷宮遺物、ちゃんと効果を発揮してくれるといいが…。俺達は屋敷へと向かった。
「お帰りなさいませ!」
「ユーリ様、アリア様、エレナ様おかえりなさいませ。」
「皆さんお疲れでしょう。すぐにお食事のご用意をします。」
「ありがとうマルクさんその前にちょっと試したいことがあるんだ。」
「目的の物は手に入れることが出来たようですね。」
「うん、上手くいくといいんだけど。」
そう言って俺は抱きつくシロの頭を撫でてやる。奴隷紋を消すことができればシロは本当の意味で自由になることができる。今でもユキさんから離れると自害してしまう危険はあるからな。
「それじゃあシロ手を出して。」
「はい。」
「ユキさんもこちらへ。」
「わかりました。」
シロとユキさんに向かい合って立ってもらい、その間に俺は立つ。魔法袋から魔法無効の短剣を取り出す。これで準備はOKだ。
「ユキさんお願いします。」
「はい、シロいきますよ。」
ユキさんは右手に魔力を込める、すると甲に魔法陣が浮かび上がる。シロの首にも同じ様に魔法陣が浮かび上がる、これが奴隷紋だ。この魔法陣を短剣で切ることができれば奴隷契約から解放されるはずだ。
「いくよ!」
「はい!」
バキン!!!
シロの首にあった魔法陣は短剣によって砕かれた。するとユキさんの右手の甲の魔法陣も同時にに消え去った。成功した…のか?
「やった…のか?シロ体調に変化はない?」
「はい。少し身体が軽くなったくらいです。」
「私の右手の甲にあった魔法陣も消えたように見えましたが…。」
「シロにユキを攻撃してもらえばよろしいのではないですか?奴隷は主人に攻撃することはできませんから。」
たしかに奴隷は主人に攻撃することができない、だがそれをするとどうなるのだろうか。何かペナルティのようなものがあるんだろうか。もしシロに痛みを伴うことがあるのであればあまりやらせたくはないが…。
「ユーリ様が懸念されている部分はおそらく大丈夫かと思われます。攻撃自体できなくて身体が動かなくなるだけで済むと思います。」
「流石ですね。俺が心配していることがわかるなんて。」
「いえ、ユーリ様やアリア様はとても心優しい方ですから。それにそういう点はお二方ともご両親によく似てらっしゃいます。」
「なんだか照れくさいな。」
マルクさんには何でもお見通しのようだ。それに俺達じゃなくてもマルクさんだってシロが傷付くような提案はしないだろうしな。俺は掃除に使っているモップを拾ってシロに渡す。
「じゃあシロ、ユキさんに向かってこのモップで叩いてみて。」
「は、はい。」
「大丈夫。仮に攻撃できてもユキさんなら軽く止められるはずだから。」
「思いっきりやりなさい。」
「…それじゃあいきます。やぁぁぁ!!!」
シロがユキさんに向かってモップを勢いよく振り下ろす。ユキさんはそれを顔に当たるギリギリの所で片手で止める。ここまでモップを振り下ろせるということは攻撃ができるといってもいいだろう。
「これは攻撃できたって思ってもいいよね?」
「はい。いいと思います。」
「ってことは?」
「シロは奴隷から解放されたんだ!やったー!」
アリアはシロを抱きかかえ回りながら大喜びした、その目には少し涙が滲んでいる。俺も嬉しさから少し涙ぐんでしまった。そんな光景を見てマルクさんとユキさんは微笑んでいる。シロが奴隷から解放されて本当によかった。これで自由の身だ、一人でどこへでも行ける。
「よかったなシロ!」
「…あ、ありがとうございます。」
「本当によかった…」
「シロはこれからどうするんだ?もう自由の身なんだどこへ行ってもいいし、もし必要な物があればできる限り用意させてもらうよ。」
「はい、わたしずっと考えていたんです。皆さんに恩返しをする方法。」
シロは今まで凄く酷い環境で生きてきたんだ。これからは幸せな人生を送って欲しい、そのためにもサポートを惜しむつもりはない。
「わたし、このままここで働きたいんです!そして大きくなったら冒険者になって皆さんに恩返ししたいんです!」
「ここで働くのは構わないけど…冒険者だって?」
「はい。冒険者になってお金をたくさん稼いでお世話になった分をお返ししたいんです!」
「そんなこと気にしなくていいのに…」
「ユーリ様、シロが自分で決めた決断なのです。尊重してあげてはもらえませんか?」
「ユキさん…」
シロは自分なりに考えて俺達に世話になった分を返したいと思ってくれたんだ。ユキさんの言う通り彼女の選択を尊重しよう。成長してまた別のことをしたいと考えた時はそれでいいのだから。
「わかったよ。それじゃあこれからもお出迎えよろしくね!」
「はい!お任せください!」
「さぁ、夕食にいたしましょう。」
俺達はマルクさんの夕食を堪能した後、すぐに眠ってしまった。次の日俺達はシャーロットにレシア砂漠での出来事を報告するために城へと向かっていた。まあ俺達がわざわざ報告しなくてもすでにセドリック団長が概要は説明していると思うけどな。
「しかしブリジットさんの話で謎は深まるばかりだな。」
「そうですね。《魔王》が元《勇者》というのも気になりますが、《迷い人》というのも私には何かひっかかるところがあります。」
「ユーリもお父さんは《迷い人》何だもんね。何か関係があるのかな?」
たしかに俺は《迷い人》とこの世界の住人である母さんのハーフである。そんな俺が《7人目の勇者》というのは何か関係がある…気がしないでもない、直感だけど。本当は女神様に聞くのが一番早いのはわかってるけど、俺とエレナの共通点から察するに、死にかけないとあの女神と会話ができる不思議な空間というか感覚にはならない。だからといって積極的に死にかけるというのもちょっとなぁ、できるだけこの方法は取りたくない。好きで死にかける奴なんていないだろう。
「もしかしたらシャーロットが何か知ってることあるかもしれないし、とりあえず行こう。」
「そうですね。彼女は色々な情報を持っていますから。それに他の《勇者》について何かわかったことがあるかもしれませんし。」
「情報交換会だね!」
そんな話をしながら城へと向かっていると何か声が聞こえる気がした。
「ねぇ、今何か聞こえなかった?」
「いえ。」
「何も聞こえなかったよ?」
「おかしいな。」
たしかに微かな声の様なものが聞こえたと思ったが…。やはり聞こえるこれは俺のポケットから聞こえている。ポケットに手を入れると赤い玉が出てきた。
「何ですかそれ?」
「これはイヴァンさんが開発した連絡用の魔道具だよ。持っているもの同士で連絡を取ることができるんだ。小さいけど声はここから聞こえてる。まさかレシア砂漠からここまでの距離連絡できるとは思ってなかったけど。」
「でも小さくてよく聞こえませんね。」
「もう少しレシア砂漠側に行こう。」
俺達は城へ行くのを後にして、レシア砂漠がある東の方へと移動する。魔道具から聞こえる声は徐々に大きくなっている。だがノイズが酷く何を言っているかよく聞こえない。
「―リ君!助けて―れ!」
「イヴァンさん!どうしたんですか!」
「このままでは―――ヤマトまで―――。」
「イヴァンさん!よく聞こえません!イヴァンさん!」
「助けてくれって何かあったのでしょうか!?」
「それにヤマトって聞こえたよ!」
魔道具からの連絡は途絶えてしまった。一体レシア砂漠で何が起こっているんだ。
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