第四十三話 迷宮の最下層
俺達は一本道をただひたすらに歩いていた。途中で階段もあり、恐らくどんどん下の階層に向かっていることはわかった。最下層に辿り着けなければ、どの道ここから出ることはできないのだから進むしか無い。しかしながらここまで魔物も出なければ他に道もないというこの異様な状況に不安を募らせていた。
「かなり下まで降りてきたと思ったがまだ最下層じゃないのか。」
「そうだね。だけど土人形がいたってことは何かはあると思うけど…。」
「まあ何が待ち受けていようと僕に任せたまえよ!」
こういう状況でもいつもと変わらずいてくれるコータは本当に心強いな。腰が引けているのは見なかったことにしておこう。
「二人共、あそこ光が見えないか?」
「本当だ。とりあえず行ってみよう。」
「ついに僕の出番が来たかな!」
俺達は遠くに見える小さな光を目指して急いで向かっていった。ずっと暗闇だったからその部屋の眩しさにしばらく目を開けることができなかったが、徐々に慣れてきて部屋を見ることができた。中はかなり大きな部屋でその中心に玉座の様なものがあり灰色のローブを被った者が座っていた。顔は見えない。
「あれは…何だ?」
「もう少し近づいてみよう。」
恐る恐る近づく、すると足元に大きな魔法陣が展開される。来た道の扉が閉まる。
「なんだ!どうなっているんだ!?」
「扉が閉まっている。このパターン土人形の時と一緒だ!」
「ということはまた何かと戦うってことかい?」
俺達が動揺していると灰色のローブの者が少し動いた様に感じた。これは一体何なんだ?
「…よくぞここまで来た…土人形は倒せたようだな…。」
「たしかに土人形は戦闘不能にしたがお前は何者だ?」
「この試練を…超えてみせろ…」
灰色ローブの男は玉座から飛び上がり、その下の魔法陣が輝き出した。そこから表れたのは先程の大きな土人形よりも更に大きい鉄人形であった。俺達は後ろへと飛び退く。
「おいおい、試練って…」
「こんなデカいのが相手だっていうのか?」
「ま、まるでビルのようだね…。」
「来るぞ!」
鉄人形は動き出し俺達に向かって拳を振り下ろす。見た目通りそこまでスピードは早くない、これなら当たることはな…
バゴォォォォォォォォォン!!!!!
「な、なんて破壊力なんだ。」
「流石の僕でもこんなの一回でも当たったら体が砕け散っちゃうよ!」
「やられる前に倒そう!『炎の槍・二重』!」
俺が放った炎の槍は真っ直ぐに鉄人形に向かっていく。しかし手を交差しガードされる。鉄でできているだけあって防御はかなりありそうだ、俺の魔法で傷一つ付いていないみたい。鉄人形はそのまま交差していた手をこちらに向ける。
「モゴォォォォォォォォォ!!!」
鉄人形は叫び声を上げると手の先から炎の球を放った。ディランはすかさず前頭に立ち、魔法を発動する。
「『水の壁』!」
「あいつ魔法まで使えるのか!?」
「僕に任せて!」
コータは鉄人形の後ろへ素早いスピードで回り込み剣を振り下ろす。
「『風の牙』!!…何?!」
「コータ離れろ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「『風の壁』!!!」
鉄人形は上半身だけ向きを変え『風の牙』を素早く両手でガード。コータは空中で殴りつけられ部屋の壁までふっ飛ばされた。俺は壁にぶつかる前に魔法を放ち少しでも衝撃を和らげる、急いでコータの元へと向かう。どうやら意識はあるようだ。
「『治療魔法』、大丈夫かコータ。」
「僕としたことが…助かったよユーリ。」
「見た目の割にかなり素早い。それにあの可動域、かなり精巧な作りだ。」
さて、どうやって倒したものか。普通の魔法じゃ弾かれるのは目に見えている。どうする…賭けにはなるがシャーロットからもらった結晶を砕いて《剣の勇者》の力を使うしかないのか…。ディランがこちらに駆け寄ってくる。
「コータ!無事でなによりだ。」
「だけどこのままじゃジリ貧だよ。向こうの攻撃は遅いけど一回でも当たるとかなりのダメージだ。」
「でも僕達の魔法じゃ全然刃が立たないよ。」
「俺に一つ考えがある。」
そういうとディランは俺達に作戦内容を伝える。
「今の俺達ならできると思う。」
「そうだな。やってみよう!いけるかコータ?」
「僕を誰だと思っている…!このくらい平気さ!」
「よし、行くぞ!」
俺達は鉄人形の元に向かって走り出す。まずは俺が先頭に立ち魔法を放つ。続いてコータも魔法を放つ。
「『煙幕』!」
「『風の壁』!」
俺は魔法で部屋全体に黒い煙を蔓延させる。しかし、この密閉空間ではこちらの視界まで奪われてしまう、そこでコータの魔法により鉄人形の周りだけに煙を集める。
「よし、準備はできた!いくぞ!『五角・鎖』!」
「モグ…ググ…」
ディランは鉄人形の視界が奪われている間に聖騎士祭で俺が使った『三角・鎖』の上位互換である『五角・鎖』を発動し動きを止める。
「いくぞユーリ!『岩突風』!」
「『炎の槍・三重』!」
「『合体魔法・溶岩流』!!!」
「モゴォォォォォォォォォ!!!」
ディランが放った岩石に炎を纏わせる。超高温になった岩石は溶け出し、溶岩へと変わった。鉄人形は溶岩に巻き込まれ、鉄の体が崩れだす。破壊できないのであれば溶かしてしまえばいいというのがディランの作戦だった、どうやらその考えは正解だったようだ。
「よし、このまま溶かせれば…」
「モゴォォォォォォォ!!」
「何!?」
鉄人形はドロドロに溶けた体こちらに向かって突っ込んでくる。最後のあがきだろうか、だが少し遅かったな。
「僕を忘れてもらっちゃ困るな!『風の刃』!」
「モゴ…ォォォ……」
コータが『風の刃』により鉄人形の体を真っ二つに引き裂く。溶けた体は脆くなっており簡単に裂くことができた。体は完全にドロドロになったので、上で戦った土人形の様に復活することもないだろう。
「ふぅ…なんとかなったな。」
「二人のおかげだよ。ディランの提案があったから倒せたし、コータの援護も完璧だった。」
「まあね!でも今回は君達もよく頑張ったと思うよ、うん!」
「ははは、ありがとう。」
「調子のいい奴だ。」
俺達がお互いを労い合っていると、灰色ローブの男は空中から降りてきて、俺達の目の前に立った。
「よくぞ…試練を突破した…お前たちにはこの先に行く権利がある…進むが良い…」
灰色ローブの男はそう言うと姿を消した。部屋の奥に扉が出現し、開かれる。先に進めと言っていたが一体何があるんだろうか。
「あの先には一体何があるんだろうか?」
「できたらもう戦闘は辞めてほしいね。」
「何が来ても僕に任せたまえ!」
「コータ、『治療魔法』したとはいえ、結構ダメージ受けてるんだから無理しちゃダメだよ。」
「とにかく進んでみよう。」
俺達は部屋に出現した扉の中に入っていく。進んでいくとまた扉があり、俺はドアノブに手をかけて開けてみる。するとそこは家のリビングのようになっていた。魔道具のライトには明かりがついており、果物などがテーブルには置かれている。かなり生活感のある部屋だった。
「ここは…家なのか?」
「家…だよねどうみても。しかも明かりや果物もある。まるで誰かが生活していいるみたいだ。」
「うん、美味い!」
「ちょっとコータ!?」
コータは机に置いてあった果物を食べる。見た目は悪くないが食べて大丈夫なんだろうか?美味そうに食べてはいるが…
「大丈夫、普通に食べられるよ!」
「そういうことじゃなくてだな…もう少し警戒しろってこと。」
「他にも部屋があるようだ。順番に見てみよう。」
俺達は順番に部屋を開けていく。トイレ、風呂場、倉庫、寝室まである。誰かがここに住んでいるということなのか?だとしたらなぜこんな迷宮の奥深くで生活をしているのだろうか。扉は大体開け終わり、残りは装飾が施され少し豪華な感じの扉だけだ。
「ここが最後の部屋みたいだな。」
「僕が思うにここだけ雰囲気が違うから、何か重大な物があるに違いない。」
「開けてみよう。」
俺が扉を開けるとそこは他の部屋とは違う大きな部屋だった。たくさんの本があり、そこの中心には机と椅子があった。
「ここは書斎か何かなのか?」
「そう見えるけど…ここだけ部屋の大きさおかしくない?」
「お宝がありそうな雰囲気じゃないか!」
「よく来たね。」
俺達は急に声がして驚く。すると部屋の中心にある椅子から先程の灰色ローブが出てくる。だが少し違和感があった。
「ここに来たってことは試練を突破してきたのか!素晴らしい人材だね!」
「えっと…あなたは?」
「僕はブリジット・ヒストリク!迷宮の…亡霊さ。」
灰色ローブはフードを取ると俺達に笑顔を向けて自己紹介をしてきた。
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