第四十一話 隠し部屋の番人
俺たちは草原の階層を抜け、背丈よりも高い木が生い茂っている階層に降りてきた。まるで故郷の森のようだな。
「迷宮遺物はこのあたりで探そう。」
「なにか当てがあるんですか?」
「迷宮遺物の多くは5階層おきにある隠し部屋で発見されることが多い。この階ではまだ発見されていないから見つかるかもしれない。これだけ広ければまだ見つかっていない隠し部屋もあるはずだ。」
言われてみれば、洞窟迷宮も隠し部屋があったのは4階から5階の間だったな。5階といっていいのかは微妙だけど。あそこは冒険者狩りがアジトとして使っていたが、元々は迷宮遺物があった場所だったんだろう。
「ここもかなり広い階層だな。」
「そう簡単には見つけられないってことだね。ここからは二手に分かれて探そう。」
「離れたら危険じゃないですか?」
「この階層であれば君達の実力なら大丈夫さ。だがいざというときのために皆これを。」
そういうとイヴァンは懐から赤い玉を取り出した、それを皆に配る。
「これは?」
「これは私が開発した専用の魔法道具でね。持っているもの同士で連絡を取ることができる代物だ。」
「開発した魔法道具?!」
「イヴァンさん凄いですね!」
「宮廷魔道士団は魔法や魔法道具の研究もしている。父は魔法道具の担当でもあるんだ。」
宮廷魔道士団は各国との外交や王都の政治的な統治をしていると以前リリス先生に聞いた覚えがあるが、魔法や魔法道具の研究もしているのか。
「それじゃあイヴァンさん、デリラ、ウールのチームと俺、ディラン、コータのチームに分かれることにしよう。」
「わかった。くれぐれも気をつけてくれ、何かあればすぐに連絡を。」
「わかりました。」
俺達はそれぞれ別の方向に歩いて向かっていった。とはいえどこから探せばいいか検討がつかない、洞窟のときは隠し部屋があるという前提があったし。そういえば以前隠し部屋を発見したときはエレナが魔力の流れが変わっていることに気づいたんだっけ。それなら…
「ディラン、コータ。2人は魔力の探知系の魔法とか《副技能》はある?」
「魔力探知ならできるが…。」
「僕は英雄だからね、そのくらいの魔法軽く使えるさ!といいたいところだけど残念ながら使えない。でもどうしてだい?」
「以前、エレナが隠し部屋を見つけたときは魔力の流れが変わっているから気づいたんだ。だからそれを意識して探すことができれば見つけられるかもしれない。」
「なるほど。そういうことなら『電気探査』!」
ディランは地面に向かって電気を放った。この魔法は電気を地面に流すことで地形を把握することができる魔法だ。これなら隠し部屋を見つけることができるかもしれない。
「…ダメだ。やはりこの木から発せられる魔力のせいか上手く電気が流れず地形が把握できない。」
「そうか…。」
「そういうことなら僕に任せてくたまえ!『突風刃』!早く今のうちにもう一度!」
「あ、ああ。『電気探査』!何か部屋らしき場所がある。」
「おお!二人共流石だね。」
「いや大したことはしてないさ。コータにおかげだ。」
「ふふん。まあ、それほどでもあるかな!」
コータが放った斬撃は空を切り裂いた。最初は木を切り倒すのかと思ったが、おそらくこのあたりに溜まっている魔力を吹き飛ばしたんだろう。それによって電気が流れ上手く地形を把握することができたということだ。
「よし、とりあえずその隠し部屋の場所まで行ってみよう。」
「そうだな。」
「お宝は僕が手に入れる!」
ディランを先頭に隠し部屋がある場所へと進む。ディランが立ち止まったのは大きな木の前だった。
「どうやらここが隠し部屋のようだ。」
「この木がそうなのか。」
「しかしどうやって開けるんだい?」
「それは任せて。こうやって触れて魔力を込めると…」
俺は木の幹に手を触れ魔力を流す、すると扉が浮き上がり静かに開いた。扉の中には通路が広がっており、木の中というよりはどこか別の場所に繋がっているという感じがした。
「えっ?後ろないけど?どうなってるのこれ?」
「落ち着けコータ。とはいえこれは驚きだな、木の中にこんな場所が広がっているとは。」
「さあ、進もう!」
俺達は扉を通り木の中へと進む、通路は外観と同様に作られており遺跡といった感じである。100mほど進むと何もない部屋に辿り着いた。他に道はなくどうやらここが最奥のようだ。
「ここで終わりか…。何もないようだが?」
「もう誰か来てて迷宮遺物取られちゃんたんじゃないの?」
「かもしれないな。仕方ない、別の隠し部屋を探そう。」
俺達が来た道を帰ろうとした瞬間扉が閉まる。そして部屋全体が揺れ出した、俺達は思わず膝を着いてしまう。
「な、何だこれは!?」
「立っていられない!」
「二人共上を!何か来る!」
ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!!
地震と共に大きな爆音を鳴らしながら上空から降ってきたのは、巨大な土人形だった。以前聖騎士祭で見た競技用の土人形の三倍は大きい。俺達は一気に戦闘態勢へと入る。
「どうやらコイツを倒さないとこの部屋からは出られないようだね。」
「このくらいの土人形僕が一捻りさ!」
「油断するなよ。ここは迷宮なんだからな。来るぞ!」
「モゴォォォ!!!」
土人形は真っ直ぐにこちらに突っ込んでくる。この狭い部屋では逃げ場がない…と思うだろうが舐めてもらっては困る。俺は地面に向かって手を向ける。
「二人共、近くに寄ってくれ!『上昇気流』!」
俺は『上昇気流』によって地面から浮き上がり、土人形の頭上を飛び越えた。そのまま土人形に対し魔法を放つ。
「『雷の剣』!」
「『風の牙』!」
「モゴ…ゴォ…」
土人形はディランとコータの魔法により粉々に砕かれた。図体は大きかったが案外脆かったようだ。俺達はそのまま地面に着地する。しかし扉は開かない、何かが出てくるわけでもない。どういうことなのだろうか?
「土人形は倒したのに扉開かないよ?」
「まだ何かあるのか?」
「うーん…。」
ここから出る方法を考えていると、背後で粉々に砕いた破片が集まり再度土人形になった。先程の攻撃によるダメージはないようだ。
「ただ砕くだけじゃダメってことか、厄介だな…。」
「この僕でも一筋縄ではいかないってことだね。」
ただ土人形を破壊するだけではまた復活してしまうだろう。復活しなくなるまで倒すというのもなくはないが、どれだけ復活するかわからない以上長期戦は避けるべきだろう。それならば…
「二人共、もう一度破壊できるかな?」
「何か策があるようだな、任せろ。」
「僕は心が広いから君の策に乗ろうじゃないか。」
「ありがとう。それじゃあ頼んだ!」
ディランとコータは再度土人形に魔法を叩き込んだ。魔法を叩き込まれた土人形は粉々になる。そして復活しようとまた動き出した。ここがチャンスだ。
「『粘着網』!」
『粘着網』というのはその名の通り粘着性のある網である。これによって破片同士をくっつけないようにすることで土人形にならにようにした、これで復活することはできないだろう。
「なるほど。考えたな、これで奴は復活できない。本当にユーリは色々な魔法が使えるな、俺もまだまだ修行が足りないな。」
「そうでもないさ。どんな魔法も使い方次第だ、ディランも得意な雷魔法を伸ばせばきっと何か見えてくるさ。」
「まあ今回はユーリに手柄を譲ろう。」
「ありがとうコータ。さて後はどうやってここから出るかだけど…」
俺が言葉を言いかけると同時に先程土人形が表れたのと同等、いやそれ以上の大きな地震が起きる。このままではこの部屋が崩れてしまいそうな勢いだ。
「また、何か来るのか!?」
「見て地面にヒビが!」
「とにかく部屋の中心に集まろう!」
急いで部屋の中心に集まる。しかし更に揺れは大きくなり、立てなくなったかと思うと地面のヒビは床から部屋全体ヘと広がりとうとう部屋そのものが崩れてしまった。
「「「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
俺達は下の暗闇へと落ちていくのだった…。
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