第四十話 探索者達
俺達迷宮探索組はイヴァンに連れられ再び砂漠の地へと足を踏み入れようとしていた。
「そうだ、君達にはまだ教えていなかったが、よそ者が砂漠に入っても迷わないようにするためには入る前に自身を魔力で覆う必要があるんだ。」
「魔力で覆うですか?」
「そうこんな感じだ。ハッ!」
イヴァンは魔力を自分の体に纏うように流した。まるで服を着ているようだそれにかなり小さい魔力である。
「防御魔法で閉じ籠もるのもいいんだが、常時発動させると魔力が早く尽きてしまうからな。このように魔力を全身から少しだけ放出するんだ。」
俺は見様見真似でやってみる。…イヴァンより魔力の放出量は多いができた。他の皆も多少放出量の違いはあれど魔力を纏うことには成功したようだ。
「心配はしていなかったが、君達はかなりセンスがいい。これで準備は完了だ、さあ行こう。」
「はい!」
俺達は砂漠へと足を踏み入れていく、来たときと違って気温の上昇は感じないし街が遠くなっていくところをみると惑わされてもいないようだ。これなら迷宮まで無事に辿り着けるだろう。
「イヴァンさん、レシア砂漠の迷宮はどんなところなんですか?」
「ここはかなり規模の大きいダンジョンでね。現在最高到達階層が50なんだが、未だに最下層に辿り着いていない。」
「ご、50階もあるのか!」
ウールが驚くのも無理はない。以前俺とエレナ、アリアの3人でいった洞窟迷宮は5階層までだった。いくら広さがあるとはいえ5と50では比べ物にならないくらい違う。だからこそ魔法無効の迷宮遺物への期待も高まる。
「深く潜れば潜るほど難易度も上がると聞くが…50階ともなると想像もつかないな。」
「大丈夫だ。お前たちの目標物である魔法無効の迷宮遺物は低階層でも見つかる物だ心配する必要はない。」
ディランの疑問にイヴァンが答える。そういえばこの2人あの事件以来会うの始めてなんだよな。まだ少しぎこちない感じはする、ここに滞在している間に親子らしく振る舞えるようになるといいが…。
「えー、強いやつと戦いたいー!」
「僕の英雄譚のためには全ての階層を制覇する必要がある!」
「はいはい、デリラもコータも黙って歩こうねー。」
こっちも2人も今回の旅で団体行動というのをぜひ覚えて帰って欲しいものだ。そうこうしている内に迷宮が見えてきた。石で出来た遺跡のような見た目をしている、周辺には多くの冒険者と思われる人だかりができていた。
「凄い活気ですね。」
「少し前まではそうでもなかったんだが、やはり《勇者》に関する迷宮遺物の情報が出回ってからだね。」
「それって本当のことなんですか?」
「あぁ。実は低階層で発見された迷宮遺物に記述されていたんだよ。“これより深き階層にて《勇者の秘密》を暴かれたし”と。」
「《勇者の秘密》?」
「詳細はわからないがね。見つかったのは5階層なんだが、50階層に至るまでまだ発見はできていない。」
《勇者の秘密》?とは一体何なんだろうか。もしかして俺の《7人目の勇者》のついて何かわかるかもしれない…。まあ俺が探す必要もないか。誰が見つけたところでセルベスタの領地である以上見つかった物は国が買い取るわけだろうしシャーロットの耳にも入る、遅かれ早かれわかることだ。
「さて、私達も迷宮に入るとしよう。」
俺達は砂漠の迷宮へと入っていく。…これは驚いた。見た目は遺跡のようだったが、中にはいると一面に草原が広がっていた。迷宮とはいえ砂漠の中にこんな場所があるなんて、以前の洞窟迷宮は見た目通り中身も洞窟だったから想像以上に凄い。
「うわぁー!中はこんな風になってるなんて凄いね!」
「たしかにこれは凄いや。」
「どうして周りは砂漠なのにこの中は草原になっているんだ?」
「この光景を見ると古代魔法にも興味が出てくるだろう?しばらくは草原だが別の階層に行くとまた違う景色が広がっているんだ。」
たしかにこんな不思議な空間を維持している古代魔法に少し興味はあるな。魔法無効はもちろんだが、遥か昔の伝説を現代に伝える刻印魔法なんて今の魔法じゃ絶対に無理だろう。刻印魔法は詳しくはないが、日常で使えるライトや武器にも簡易的に属性を持たせたりといったことができる。だがどちらも効果が永遠なわけではない。一回使ったら効果がなくなってしまったり、よくても一年くらいで改めて魔法を刻印しなければいけない。これだけでも古代魔法の異常さがわかる。
「アリア達大丈夫かな。」
「俺達にできることをやろう。」
「そうだな。ありがとうディラン。」
俺はアリアたちが心配だったが、ディランに励まされ草原の奥へと進んでいくことにした。
◇◆◇◆
「さて、始めましょうか。アリア君の《大賢者》はどの程度理解すれば魔法を使用できるようになるんですか?」
「発動している魔法を見ればある程度練習はいりますが使えるようになります。」
「改めて聞くと流石というか凄い能力だよね〜。」
「はい…とても凄いです…!」
「なるほど。ではまず古代魔法についてお話しましょう。」
セドリックは古代魔法について話した。古代魔法とは主に迷宮や迷宮遺物に使われており、その構造は未だにわからないことが多くある。古代魔法とは言っているが現在に至るまで発見された物は全て刻印魔法であることだけであるということを解説した。
「うーん、結局のところよくわかってないってことだよね?」
「まあそういうことだね、ハハハ。」
「これは中々手強そうですね…。」
「実際に見てみようか。おもちゃの様なものだが…」
セドリックは懐から魔法袋を取り出し、その中から本くらいの大きさの真っ白な石版を取り出した。
「これが迷宮遺物さ。」
「ただの石版みたいですね。」
「誰かそこに手を置いて魔力を流してごらん。」
「はいはい!私やる!いくよ!」
立候補したフルーが石版に手を置き魔力を流す。すると真っ白だった石版は翠色に輝き文字が浮かび上がってくる。しかし、書いてある文字は読めなかった。
「これなんて書いてあるんですか?」
「“汝、司るは風”と古代の文字で書いてある。この石版は魔力を込めるとその者の適正魔法がわかるという物なんだ。」
「適正魔法ですか?」
「フルー君は風魔法が得意なんだろう?」
「はい、そうです。」
「石版の色によって何の属性が適正魔法なのかがわかる。フルー君の場合は翠色だから風が適正ということさ。ちなみに火は赤、水は青、土は黄、雷は紫、闇は黒、光は白のままだ。だがこれは能力者には必要ないだろうから10歳未満の子供にしか使えないだろうね。」
おもちゃというセドリックの言葉も頷ける。適正魔法は調べる必要がない、そもそも魔法は自分の特性があるものしか使用できないからだ。だから能力者のは必要がないということである。仮に能力者になる前の10歳未満に調べたところで魔法が使えるようになるわけではないし、少し早く使えるかもしれない魔法がわかるだけだ。しかも魔法系の能力じゃなければ使うことはできない、まさしくおもちゃである。
「ちなみに無属性の場合どうなるんですか?」
「適正魔法が無である者は出たことがないからわからないんだ。」
「へぇ〜じゃあルミやってみたら?」
「私ですか?」
「ルミって変身する魔法しか使えないでしょ?だったら無属性が適正かもしれないよ!」
「ではいきます。ほっ!」
ルミが石版に手を置き魔力を込めると古代文字が浮かび上がった。セドリックはそれを読み首をかしげる。
「これは一体…?」
「セドリック団長、石版には何と書いてあるのですか?」
「“古き友よ、生きていたことを嬉しく思う。我ら種族は違えど同志であることは変わらない。友の幸福を願いここに記す。《クロノス・メイカー》”」
「クロノス・メイカー?誰でしょうか。ルミわかりますか?」
「いえ、始めて聞く名前です。」
「これは、クロノス・メイカーという人物が友に残した手紙だったということだ。種族は違えどという一文、それにルミ君の魔力に反応したということは、もしかしたら君の先祖のドラゴンに向けて書いた手紙なんじゃないだろうか。」
「結構大発見なんじゃないですかこれ?」
ルミの言うとおりだ。今までの迷宮遺物で人物の名前が出てきたことはない。それに少なくともこのクロノス・メイカーさんが古代魔法を使ってこの石版を作ったのは間違いない。それがわかっただけでも大発見だろう。もしかしたら他の迷宮遺物にもまだ隠された物があるかもしれないということだ。
「今私が持っている迷宮遺物はこれだけだから、王都に戻ったらルミ君に協力してもらおう。」
「わかりました!」
「ですが古代魔法の手がかりはありませんでしたね。」
「いや、そうでもないかも…」
「マーク、どうしてそう思うの?」
エレナの言葉に少し皆が暗くなるが、マークが咳払いをして意見を言う。
「この手紙は遥か昔ルミさんの先祖に向けてクロノスさんが残したってことだよね…?でもルミさんの魔力に反応したってことはドラゴンの使う魔法や魔力は今も変わってないかもしれない。」
「なるほど、つまりルミは古代魔法に近い魔力や魔法かもしれないってことだね。」
「たしかにそうかもしれない。まずはルミ君の魔法を詳しく調べることから始めよう。」
「マーク君さすがですね。」
「頼りになる!」
「全然そんなことないよ…でも役に立ててよかった。」
古代魔法についてわからないことは多いが、マークのおかげで少し可能性が見えてきた。これで魔法無効について何かわかるかもしれないとアリア達は安堵したのであった。
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