第四話 騎士団長の実力
「も、もう一体の《フレア・ウルフ》だって!?」
俺の魔力は先程の戦いでもうほとんど残っていない。アリアは完全に萎縮してしまっていて戦えるような状態ではない。このままでは全員やられてしまう、二人を抱えて逃げるしかない。そう決意した瞬間…
「『雷撃一閃』!」
目の前が一瞬光輝いた。眩しくて目を開けていられなかった。ゆっくりと瞼を開くと《フレア・ウルフ》が真っ二つに斬られていた。
「大丈夫か、ユーリ。」
「セ、セシリアさん。助かった…。」
「ああ、間に合ってよかったよ。」
あんなに苦戦した《フレア・ウルフ》をたった一撃で屠ったセシリアさんの実力に驚いたのもあるが、俺は危機が去って安心してしまったこともあり完全に気が抜けてしまいその場でへたり込んだ。とりあえず安心だ。それにしても何でこんなに魔物が出現したんだろうか…。
「《フレア・ウルフ》の討伐ありがとう。騎士団長として感謝する。」
「はい、ってえ?セシリアさんって騎士団長だったんですか!?っていうかなんで俺が《フレア・ウルフ》を討伐したって知ってるんですか?」
「あはは、まあそう慌てるな。質問には答えるがまずは傷の治療をしてからだ。」
そう言われた俺は修道女と共にセシリアさんと一緒に駆けつけてくれた騎士団の人に治療魔法をかけてもらった。傷が塞がれていく、騎士団の人が言うには失った血や魔力は戻らないようだから無理をしないようにと言われた。できるなら治療魔法も覚えておこう、便利な魔法であるし覚えて損はないだろう。
「さて、先程の質問に答えさせてもらおう。まずは改めて私の自己紹介から、私は王都直下である青薔薇聖騎士団、団長のセシリア・グランベールだ。」
「団長さんだったんですね。それであの実力ということですか、納得です。」
年齢的にもかなり若そうなのに騎士団長ということはよほどの実力者であるということだろう。それにあの剣からただよう魔力…ただの剣じゃないと詳しくない俺にもわかるくらいだ。並大抵の剣であれば魔法力に耐えきれず折れてしまうと聞く。おそらくだがあれが《聖剣》と呼ばれる物なんじゃないだろうか。
「それと2つ目の質問の回答だが、私の部下に遠くを観測できる者がいてね。私が森で感じた嫌な雰囲気が教会の近くからしてね。教会の辺りを観測してもらったら君が魔物と戦っていたというわけだ。駆けつけるのが遅れてしまって申し訳ない。」
「いえ。ギリギリでしたけど、助けていただいたのでよかったです。」
「さて、君の疑問に答えたところで私からも聞きたいことがあるのだがいいかな?」
「はい。大丈夫です。」
「君が《大賢者》の能力を持っているのか?村の子供とは聞いていたのだが、詳細は聞いていなくてね。」
「いえ。それはアリアの方ですね。俺は《大賢者》ではありません。」
「そうだったのか。では君は《大賢者》ではないのに一人で《フレア・ウルフ》を倒したということか。相当な優秀な能力を持っているのかな。」
「いえ…。」
「いえ、そうでもないですよ」と言いかけて口を閉じる。待てよ、よく考えたらセシリアさん達は《大賢者》であるアリアを迎えに来た王都からの使者だ。まさか騎士団長直々に来るとは思わなかったが、これはある意味チャンスなのではないだろうか?先程の戦いのことも知っているようだし、俺の実力は充分に見せることが出来た。であるならば、ここは一か八か賭けてみるのもいいかもしれない。
「俺の能力は…《魔剣士》です。」
「なるほど、バランスの取れた中々いい能力だ。だが《魔剣士》なのであれば報告が上がるはずだと思うが?」
「それは俺が儀式の最中に気絶してしまったからです。後で自分で確認したら《魔剣士》の能力でした。」
「修道女が確認できなかったということか。《女神の天恵》の最中に気絶することは珍しくないからな、ふむ納得したよ。」
少し疑われてしまったが、なんとか誤魔化すことには成功した。とりあえず能力の方は納得してもらえたようだが、問題はここからだ。
「一つお願いがあるんですがよろしいですか?」
「なんだ?」
「セシリアさん達は《大賢者》であるアリアを王都の学園に連れて行くために来られたと思います。俺も一緒に学園に通わせてもらえないでしょうか?」
「そういうことか。たしかに君の能力は優秀であるし、学園に通ってさらに磨きをかけるべきだろう。しかし今すぐ私の一存で決めることはできないんだ。」
「そうですか…。」
やはりそう簡単にはいかないか。顔を下げた俺にセシリアさんは言葉を続ける。
「まあ気を落とすな、君の実力は確かな物だ。それは確認している。私からも掛け合っておこう。それに君のような有能をここで遊ばせておく方がもったいないだろうしな。」
「あ、ありがとうございます!」
とりあえず上手くいったかな。これでできることはやりきった、今はゆっくり休むことにしよう。
◇◆◇◆
ユーリ達が《フレア・ウルフ》を倒した直後、村近くの森の奥深くにて―――。
「《大賢者》の排除には失敗しましたか…。まあいいでしょう、チャンスはいくらでもあります。」
「しかし、ユーリ・ヴァイオレット、奴には何かを感じる。」
「たしかに能力を覚えたての子供にしては中々やりますねぇ、一応バリオン様に報告をしておきましょう。」
「そうだな。」
森の奥深くで全身から黒いオーラを纏った人型の生物は裏で暗躍を進めていたのだった。
◇◆◇◆
次の日、俺はセシリアさんにアリアと一緒に教会に来るように言われていた。おそらく学園のことだろう。
しかし昨日お願いして今日返事が来るとは通信系の能力者でもいるんだろうか…?なんて考えていると教会に着いたようだ。
「やあ。ユーリ、それにアリア待っていたよ。」
「おまたせしました。セシリアさん。」
「まずはアリア、君には私と一緒に王都に来てもらう。そして能力者の学園に通ってもらうことになる。」
「はい!」
「そしてユーリ。昨日のお願いだが…許可が降りたよ。君もアリアと一緒に学園に通ってもらう。」
「やったね!ユーリ!」
「ありがとうございます。」
とりあえず上手くいってよかった。これでアリアと一緒に学園に通うことができる。アリアはとても喜んでいた、これで一安心だ。
「なので説明をするために君とアリアの両親と話をしたいのだがいいかな?」
「私の両親は亡くなってて、今はユーリのお母さんにお世話になってるんです。」
「そうだったのか。申し訳ない。」
「いえ、大丈夫です。ユーリも一緒ですし。」
「ではユーリの母親に会わせてもらえるかな?」
「わかりました。それでは家に行きましょう。」
俺はセシリアさんと騎士団の人を家まで案内した。
「母さん。俺とアリアのことで騎士団長のセシリアさんがお話をしたいって。」
「あら。あなたセシリアじゃない!久しぶりね!」
「お久しぶりです。ソフィア様。」
「嫌だわソフィア様だなんて。もうただの母親よ。」
うん?随分とフランクに話をしているが、母さんとセシリアさんは知り合いなのか?
「えっと二人はどういう関係で?」
「昔、私が学園に通っていたときの後輩よ。それにしても騎士団長なんて出世したわね〜。」
「ありがとうございます。それでユーリとアリアのことなんですが…。」
「大丈夫よ。いつかこうなる日が来ると思ってたし覚悟はできてるから。」
「わかりました。では出発の準備ができ次第ここを出ます。ユーリ、アリア二人共別れを今のうちに済ませておきなさい。」
「「わかりました。」」
セシリアさん達は準備のために一旦別れることになった。俺もきちんと準備をしなくては。元々一緒に行く予定だったから軽く準備はしていたが正式に行くことになったのだ、忘れ物がないか確認しないと。それに母さんにはきちんと挨拶をしておかなければいけないな。
「アリアちゃん、ユーリ二人共気をつけるのよ。」
「うん。母さんここまで育ててくれてありがとう。定期的に手紙を送るよ。」
「おばさん。今まで本当にありがとうございました。私にとってはもう一人のお母さんだと思っています。」
「私にとってもアリアちゃんはもう一人の子供よ…なんだか涙が出ちゃうわ。」
「ありがとう…お母さん。」
そういって二人は抱き合いながら涙を流していた。なんだかその光景に当てられて俺も涙ぐんでいた。俺達は母さんとの別れを済ませてセシリアさん達と合流した。
「準備は大丈夫か?」
「大丈夫です。」
「では王都に向かおうか。」
「「はい!」」
俺とアリアは馬車に乗り込み王都に向かった。これから先どんなことが待ち受けているのかアリアを守るために俺はもっと強くならなければいけない。学園はどんなところだろうか、俺は不安と期待を抱きながらと馬車の揺れに身を任せることにした。
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