第三十九話 砂漠の謎
なんだか体がひんやりと冷たい。先程までの暑さとは打って変わってとても心地が良い。俺はゆっくりと目を開けると一面に白い天井が広がっていた、どうやらここは砂漠ではないらしい。俺は体を起こし周りを見渡すと皆がベットで寝ていた。よかった、皆無事みたいだ。すると扉が開き見覚えのある顔の人物が部屋に入ってきた。
「よかった。気がついたようだね。」
「あなたは…イヴァン・アレストール。」
「そうだ。そういう君はユーリ・ヴァイオレット君だね。」
「ここはどこですか?俺達レシア砂漠にいたはずじゃ…?」
「う…ユーリ?」
「アリア!よかった気がついて。」
アリアが目を覚ましたのと同時に他の皆も続々と目を覚ましたようだ。
「皆目を覚ましたようですし、場所を変えて説明しよう。」
「ち、父上…?」
そういうとイヴァンは俺達を連れて、広い部屋に通してくれた。俺達は椅子に座ると
「さて、皆無事でよかった。あと少し遅かったらどうなっていたことか。」
「俺達、レシア砂漠にいたと思うんですけどここは?」
「ここはイシュカの私達が拠点にしている屋敷だ。君達は私に会いにここに来たんだろう?少し前に連絡があってね。そろそろ来る頃だろうと思って砂漠の方の魔力に気を使っていたんだが、急に爆発的な魔力が表れたと思ったら小さくなったのを感じてね。その場所に向かったら君達が倒れていたというわけだ。」
「そういうことでしたか。助かりました。」
恐らくドラゴン状態のルミが降下したことでイヴァンの探知に引っかかったということなんだろう。人間状態に戻ったのもよかったな。
「俺達ここまでここにいるドラゴンのルミの背中に乗って砂漠を超えてきたんです。それでイシュカが見えたので降下したんですが、いつまで経っても辿り着かないし急に気温は上がるしで何がなんだかわからず。その内に倒れてしまいました。」
俺はここまでの経緯をイヴァンに話す。するとイヴァンは少し考え込んだ後口を開いた。
「なるほど、魔力の変化はドラゴンだったというわけか。それと君達が倒れた原因だがレシア砂漠はその魔力で天然の幻影魔法とでも言うべき物を発動している。それは砂漠に足を踏み入れたよそ者に幻影を見せる効果がある。だから君達が砂漠に降りて見たイシュタルは幻影で気温が上がったと感じたのも幻影だったというわけだ。」
なるほど砂漠が魔法を発動しているということか。いやそんなことありえるのか?でも実際発動しているからそうなんだろう。
「気温もなんですか?本当に暑くなったように感じたんですけど。」
「私もです。」
「そう思わされるということだ。実際に君達は暑くなったと感じているが、砂漠自体は気温が上がったわけではないんだ。幻影魔法とはただ単に見ている物を惑わせるだけではないんだよ。」
なんだかわかるようなわからないような感じだ。つまり魔法の影響で俺達はそれぞれが気温が上がったいや体温が上がったと感じていたわけか。幻影魔法についてあまり詳しくはないが今度詳しく調べてみよう。そう考えているとアリアが俺に耳打ちしてきた。
「ユーリ、そろそろ本題に。」
「そうだね。イヴァンさん奴隷紋について聞きたいのですが…。」
「あの少女のことかな。今はユーリ君のところで世話になっているようだね、息子とのことも含めて色々と迷惑をかけてすまない。」
「いえそれは構わないのですが、奴隷紋の契約者を殺す以外に契約を解除したいんです。イヴァンさんは無理やり奴隷紋の契約者を書き換えたんですよね?」
「そうだ。あれは契約して間もない時期だったからこそできた方法でね、まだ契約者と彼女との間の繋がりが馴染んでいなかっただから書き換えることができたんだ。それと解除する方法だが…私ではできない。」
「そう…ですか…。」
シロの奴隷紋をなんとかして自由にしてあげたくてここまで来たが、一番の頼みの綱だっただけに少しショックがあった。これで手がかりはなくなってしまった。俺が落ち込んでいるとイヴァンは口を開く。
「できないが、だがどうにかできる可能性はある。」
「本当ですか!それは…一体?」
「魔法を無効化することができれば契約魔法といえど解除されすはずだ。方法は2つ魔法を無効化する《迷宮遺物》を使用する、または魔法無効化できる能力者か魔法を見つけることだ。」
なるほど。つまり魔法そのものを無効化することができれば契約をなかったことにできるということか。しかしそんな《迷宮遺物》にも能力者や魔法にも心当たりがないというか聞いたことがない。
「どちらにも心当たりがありません…。」
「《迷宮遺物》の方には心当たりがある。」
「本当ですか!それはどこに?」
「ここレシア砂漠の迷宮さ。我々が本来探しにきた《勇者》に関する物はまだ発見されていないが、魔法無効に関する《迷宮遺物》というのは実は迷宮内では結構見つかることがあるんだよ。」
「そうなんですか。でもあまりそういった話を聞かないのですが?」
エレナの言う通りだ。魔法無効化なんて物があるならもっと周知されるのではないだろうかと思う。戦闘面で優位性が覆るだろうし、魔法系がメインの能力者にとってかなり驚異になる。
「それはその《迷宮遺物》の特性によるものだよ。魔法無効の効果を持つ物は時間制限があってね、すぐに使わないとただの置物に変わってしまう、形状は様々だがね。」
「じゃあそれを見つけても、本人を連れてこないと意味がないってことなのか?」
ディランが口を挟んだ。たしかにその通りだ。時間制限があるのならばシロ本人を連れてくる必要が出てきてしまう。
「実は時間制限を伸ばす方法がある。誰でもできるが、必要な物があってね。だがユーリ君はそれを持っている。」
「俺が持っている物?そうか魔法袋!」
「そうだ。詳しい理由はわかっていないが魔法袋の中に入れておけば時間は進まなくなる。この方法はあまり知られていない、そもそも魔法袋を持っている人物が少ないのもあるがね。あとは狙った物が出るかどうかだ。いくら魔法無効の《迷宮遺物》が出るといっても、そもそも《迷宮遺物》自体探すのは難しいのだから。」
「でも…可能性があるのなら俺は探します!」
少しでも可能性があるのなら俺はそれに賭けたい。皆もうなずいてくれている。
「それでもう一つの魔法無効化できる能力者か魔法を見つける方は?」
「能力者の方は諦めた方がいいだろう。私も君達より長く生きているがそんな能力者は聞いたことがないし、これから生まれるまで待つというならありえなくはないが。」
「魔法の方はどうなんだ?」
「魔法の方は…」
イヴァンが喋ろうとしたその時、部屋の扉が開いた。そこには髪が長く美形の男が立っていた。年は30代前半くらいだろうか。
「そこからは私が説明しましょう。」
「団長!」
団長…ということはこの人が宮廷魔道士団長《魔の叡智》セドリック・モルガンか。思っていたよりも若いんだな。もっと年上かと思ったが。
「セドリック・モルガン団長ですね。思っていたよりもお若いので驚きました。」
「ははは。これでも50は超えているよ。」
「えぇ!若!」
「こらデリラ!すみません。」
「いいんだ、よく言われることさ。魔法無効の魔法については私から解説しよう。ずばりそんな現代魔法はないが、ないなら作ればいいという話だ。」
たしかにそれができれば苦労はしない。実際にアリアだっていくつも魔法を思い描いて使っているが、どんな魔法もベースは必ずある。今回の場合は何もないゼロの状態から考えなければいけない、その難易度は途方もないだろう。
「そこの彼女《大賢者》なんだろう?君が鍵を握っている。」
「たしかに私は《大賢者》ですが、何もわからない状態からでは魔法は作れないんです。」
「私はそんな魔法はないと言ったが、どうして魔法無効の《迷宮遺物》はあるかわかるかい?」
「たしかに、そうですよね。」
「それは《迷宮遺物》に刻印されている魔法は現代魔法ではないからだ。先程も言ってが現代魔法には魔法無効はない。だが古代魔法には存在するんだよ。」
「古代魔法?」
俺達の頭に疑問符が浮かぶ。古代魔法という存在は今始めて聞いたのだ。
「君達はどうして《迷宮遺物》が現在に至るまで存在するか考えたことはあるかい?不思議だと思わないか、《6人の勇者伝説》なんて遥か昔のことを記録した物があるなんて。それに迷宮という構造物だってそうだ。あんな規模の物自然にできたと思うかい?あり得ないな。それらは全て古代魔法と呼ばれる魔法によってもたらされた物だ。」
「言われてみればそうですね。じゃあ古代魔法に魔法無効のヒントがあるってことか!」
「でも私、古代魔法なんて今始めて聞いたし何もわかりません。」
「そこは大丈夫、私は長年古代魔法の研究をしてきた。もちろん力添えをさせていただくよ。部下が迷惑をかけたしね。」
セドリック団長はイヴァンをちらっと見る。イヴァンは申し訳無さそうな顔をして軽く頭を下げた。
「さて、大体の方針は決まったところで君達には二手に分かれてもらおう。大勢で迷宮に入るわけにはいかないし、古代魔法の解明も手伝いが欲しいのでね。」
「私迷宮行きたい!」
「僕は古代魔法に興味あるかな…。」
「まてまて順番に要望聞くから…」
俺はとりあえず皆の意見を聞きつつバランスのよい編成を考えた。
迷宮組 俺、ディラン、デリラ、ウール、コータ
古代魔法組 アリア、エレナ、マーク、フルー、ルミ
「よし、これで行こう。」
「それじゃあ皆、迷宮で魔法無効の《迷宮遺物》も魔法無効の古代魔法も両方狙っていくぐらいの気持ちでいくぞ!」
「「「おー!!!」」」
俺達はそれぞれの役割を全うするための準備に取り掛かるのであった。
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