第三十八話 旅立ち
あの後にシャーロットに確認したら全員連れてってもいいとのことなので俺達は全員でレシア砂漠へと向かうことにした。学園の方はいつものことながら補修をするということで大目にみてくれるらしい。毎度のことだがそれでいんだろうか?少し疑問だが、学園長が言うのならいいのだろうと思うことにした。
「皆揃いましたね。それではルミお願いします。」
「わかったよ!『龍化』!!!」
ルミは空高く飛んだかと思うと一気に魔力の量が爆発し、体の大きさも元のドラゴンの大きさへと変化していった。街から少し離れた森の中を選んで正解だったな。いきなりこんなドラゴンが目の前に表れたら街の人が驚いてしまうだろうし。
「さぁ、皆さん背中に乗ってください!」
「私一番乗りー!」
「ちょっと待ってよ〜」
「これがドラゴンかぁ、後でこの姿のまま戦ってもらおう!」
「デリラ、不吉なこと言ってないで早く乗って。」
皆、続々とドラゴン状態のルミの背中に乗っていく。
「それじゃあ行ってくるね。」
「ユーリ君これを。」
そういうとシャーロットがペンダントを俺に渡してきた。あまり派手な装飾ではないが、シンプルで良い造形だ、それに真ん中の紫色の石が薄く輝いていて神秘的な感じがする。
「シャーロットこれは?」
「これは魔力結晶を使ったペンダントです。この結晶には私の魔力を込めておきました。もし何かあったときはこの結晶を砕けば私の魔力、つまり《剣の勇者》の力が使えるというわけです。一度だけですが。」
「そういうことか、ありがとう。これを使うようなことにならないといいんだけどね。」
「そうですね。備えあれば憂いなしと言いますし、今回私はこれくらいしかできませんので。お気をつけてください。」
「うん!行ってくるよ!」
俺はシャーロットに挨拶をしてルミの背中に飛び乗った。
「よし、全員乗ったな。ルミ行ってくれ、目指すはレシア砂漠!」
「OK、皆しっかり捕まっててね!飛ぶよ!」
ルミは羽を大きく羽ばたかせ、空中に浮かんだ。そしてレシア砂漠の方へ向かって飛び立っていった。シャーロットとカルロスは姿が見えなくなるまで見送っていた。
「皆さん、気をつけてくださいね…。」
ルミの背中に乗った俺達は空からの景色に感動をしていた。エレナが以前見せたように空中に浮かぶことは魔法で可能だが、ここまでの高さを飛び続けるのは恐らく魔力が続かない。
「うーん、風が気持ちいいね!」
「そうだね〜。こんな高さまで浮かぶことなんてないし、滅多にない機会だよ。」
「やばい…気持ち悪い…。」
「コータ大丈夫?」
どうやらコータはこの空の旅を楽しめないようだ、乗り物酔いならぬドラゴン酔いだな。
「ところでレシア砂漠ってここからどれくらいかかるんだ?」
「このペースで行けば1時間もかからないんじゃないかな。」
「もっと飛ばすこともできるけどどうする?」
「いやこのままのんびり空の旅を楽しもう。急いでいるわけじゃないし。」
今回の旅はあくまでも個人的な理由ということは忘れちゃいけない、義務でもなんでもないのだ。だからこそめったにないこういう機会を皆で楽しむことも大事である。そんなことを考えながら遠くを眺めていると、何やら黒いモヤのような物がこちらに向かってきているのがわかる。
「ねぇ、あれなんだと思う?」
「煙…なわけないよな。あんなにキレイに纏まっているわけないし。」
「『望遠鏡』、あれ鳥型の魔物だよ!こっちに向かってきてる!」
マークが光魔法による屈折で遠くを見ることができる『望遠鏡』で黒いモヤを見るとそれは鳥型魔物の集団であった。それにどうやらこちらに向かってきているようだ。俺は魔物をよく見てみる、名前は《ブラック・クロウ》。
「どうするユーリ?」
「やるしかないでしょ!皆、戦闘準備!」
「「「「はい!」」」
俺達はそれぞれ構えて魔法陣を展開させる。
「『魔法弾・二重』!」
「『雷撃・二重』!」
「『炎の矢・二重』!」
アリア、ディラン、エレナがそれぞれ多重展開の魔法を飛ばす。ほとんどが撃ち落とされるが一部こちらに向かってスピードを上げて突っ込んでくる。
「任せて!『斬払』!」
「僕はこの程度では止まらないよ『風の刃』!」
「私だって!『風の拳』!」
ドラゴンの上ではあるが、近接戦闘組は素早く対処する。流石だな、というかコータの普通に戦っているところを見るのは初めてだな。ここにいる皆がレベルが高いだけで本来コータは優秀な方だ、よく考えたら聖騎士祭《翠》クラスの代表にも選ばれるくらいなんだから。
「とりあえず周囲に他の魔物はいなさそうだよ。」
「よし、じゃあ解除するぞ。」
マークは光魔法で周囲の索敵をし、ウールは皆やルミのガードをしていた。…あれもしかして俺だけ何もしていないのでは?
「うん、いい感じのチームだね!」
「そうだね。結構バランスが取れてると思う。」
「これなら砂漠の魔物も余裕だよ。」
「………。」
「ユーリ君どうかした?」
「い、いや?べ、別に?本当ベストチームだよねーハハハ!」
「ならいんだけど…。」
「ルミ、少し急ごうかここから離れよう。」
「はい!」
よし、どうやら俺だけ何もしていないのはバレていないようだ。俺は誤魔化すようにルミにスピードを上げるように促したのであった。
「そろそろじゃないですか?」
「そうだね、あっ見えてきたよ!」
下を見てみると森が終わりそこには砂漠が広がっていた。ここがレシア砂漠である。俺達はイヴァンがいるというレシア砂漠の迷宮街イシュカに向かっている。セルベスタから砂漠に入ってから一番近い街らしい。
「あれ、イシュカじゃない?」
「そうみたいだね。ルミここらへんで降りよう。ドラゴンが急に行ったら街の人達が驚いちゃうだろうし。」
「わかりました!皆さん捕まっててくださいね!」
そう言うとルミは街から少し離れたところで下に降り、人型に戻る。魔力も荒々しさがなくなり小さくなった。魔力を押さえるという技術とは少し違うようだ。魔力そのものの質が変わったような感じだ、でもルミの魔力であるとは認識ができるのが不思議だな。
「さあ、イシュカまではすぐそこだ行こう!」
「うん!」
俺達はイシュカを目指し歩き始めた。…しかし何か違和感を感じていた。それは俺だけではなく皆も同じ様に違和感を感じていた。
「あのさ…気のせいかもって思ってたんだけど…」
「フルーもそう思う?実は私もなんだよね。」
「ユーリ君、これは…。」
「うん、さっきから全然進んでない気がする。」
目の前にイシュカは見えている。歩いても10分もかからない距離だ、なのに先程から歩いても歩いても近づいている感じがしない。それになんだか気温も上がっているのか暑くなってきた。
「何かだんだん暑くなってない?」
「私、倒れちゃいそう。」
「流石の僕でも…これはきついよ。」
たしかにこのままでは皆ダウンしてしまう。仕方がない行きと同じ様にルミの背中に乗って空から行くことにしよう。
「ルミ、もう一回ドラゴンの姿になってくれ。空から行くことにしよう。」
「わかりました!『龍化』!…あれ?!『龍化』!…元の姿に戻れません…。」
「何だって?」
「『水の膜』…ホントだ魔法が発動できない!これじゃあ温度が下げれない!」
まさかこれもこの砂漠のせいなんだろうか?しかし魔法も使えない、イシュタルにも辿りつけないとなるとヤバいな。どうするかと考えている合間に一人また一人と倒れていく。俺も意識を保ちながら立っているのがやっとだ。
「み、皆…。」
「ユーリ君…。」
「私…もうだめ…。」
「エレナ!アリア!うっ…こんな…とこで…。」
アリアやエレナそして俺もついに倒れてしまった。俺は薄れゆく意識の中で、人影を見たような気がした。
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