第三十四話 龍の騎士と“信仰”
クリス・ドラグニスは苦戦していた。目の前の魔族の女は自分より弱いだろう、だがどうしても攻めきれず戦いが長引いていた。
「次から次へと鬱陶しいな!」
「まだまだ出てくるわよぉ。」
魔族の女は次々と魔物を出現させる。どれもそれほど強いわけではなく、騎士団長のクリスにとってはそれこそ驚異ではない。だが拉致があかない、ここで仕掛ける。
「『龍の爪』!!!」
「『糸操り人形』」
クリスの技は魔族の女の真横を通り抜ける。この至近距離で外した…?いや、これは外されたのか。
「変わった魔法を使うな。魔族は魔法は使えないと思っていたが。」
「そうねぇ、魔族の使う魔法は他の種族とは少し違うのよぉ。それよりあなた、名前は?」
「紫龍騎士団長クリス・ドラグニス。お前は?」
「魔王軍四天王“信仰”のグレモリー。」
「四天王…!」
クリスと戦っていた魔族の女は魔王軍四天王“信仰”のグレモリーと名乗った。四天王といえば記憶に新しいのは聖騎士祭襲撃事件だ。あのときはセシリア、ブランシェ、アルフレッドの騎士団長3人掛かりで倒すことができた。ここには自分しかいないが不思議とクリスは負ける気がしなかった。それは自分こそが騎士団長最強という自信とそれだけの能力が彼にはあったからだ。
「お前はここで俺が倒す。」
「あなた1人で何ができるのかしらぁ?」
「俺はセルベスタ王国が誇る騎士団長最強の男だからな。」
「随分と自信があるのねぇ。ならその実力を見せてもらおうかしらぁ!!!」
グレモリーは新たに魔物を出現させる。クリスは次々と倒していく。
「その程度じゃ俺には通用しないぞ!」
「それはどうかしら?『人形爆弾』」
「ぐっ!」
倒した魔物の死骸が背後で爆発する。不意を突かれたクリスはダメージを受ける。
「魔物とはいえ死骸を弄ぶのは気持ちの良いもんじゃねぇな。」
「あらぁ、熱いのねぇ。」
「お前ら魔族はどうしてそんなことができる?」
「そういう種族だから、かしらねぇ!『人形爆弾』」
「だったら滅ぼしてやる!『龍の鱗』!」
クリスはドラゴンの鱗の様な魔力を纏い爆発を防ぐ。そのままグレモリーに向かって突っ込む。
「『龍の鉤爪』!!!」
「届いてないわよぉ。」
『龍の爪』よりも射程距離が伸びた『龍の鉤爪』でさえグレモリーには届かない。確実に当てたはずなのに。最初に外された時も何か違和感があったが、魔法のせいだろうがその正体がわからない。
「不思議でしょう?自分の体なのに違和感があるのはどういう気持かしらぁ?」
「ちっ!よくわからねぇことをしやがる。」
クリスはあまり頭が回る方ではない。それもそのはず今まで彼が相手にしてきたのは騎士団員と魔物くらいなものだからだ。騎士団員はあくまでも訓練であるから命の取り合いはしたことがない。魔物は深く考えずとも自分の《能力》であれば遅れを取ることがないからだ。
「それにしてもあなたドラゴンの魔法を使うのねぇ。だからドラゴンも一撃で気絶させられたのかしら?」
「気絶だと?」
「えぇ。今はすでに起きて向こうで暴れているわよぉ。」
一撃で仕留めたつもりだったが…ドラゴンという生物は思っているよりもタフなようだ。何しろ《龍の騎士》などという能力ではあるが、実際にドラゴンと相対したのはこれが初めてだからだ。なおさらこちらを早く片付けてドラゴン退治に向かいたいところではあるが…。考えていても仕方がない、より素早く広く攻撃を叩き込むだけだ。
「だったら尚更早めに決着を付ける!『龍の鉤爪』!!!」
「『糸操り人形』」
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!だが、ただではやられない!!!『龍の飛翔』!!!」
グレモリーの魔法により、クリスの腕は操られ、剣はグレモリーではなく自分の腕を切り落としていた。だがクリスは冷静であった。落ちた自分の腕は気にもせず、グレモリーに向かって剣を振り上げた。
「私の美しい顔によくも傷を付けたわねぇぇぇぇぇぇ!!!」
クリスの攻撃はギリギリのところで避けられたが、顔にかすり傷を付けることができた。顔を傷つけられたグレモリーは激昂し今にも襲いかかってきそうであった。しかし突如動きを止め、クリスたちが元いた場所の方角を見つめる。
「っ!…あらぁ?ドラゴンがやられちゃったみたいねぇ。ふぅ…腕も一本貰えたし今日は撤退することにするわぁ。この借りはまた返すわねぇ。」
「ぐっ!待て!」
クリスは腕を抑えながら必死に叫ぶが、グレモリーは来たときと同様に空間に穴を開け帰っていった。
「魔王軍四天王“信仰”のグレモリーか、厄介な能力を持ってやがる…。」
クリスは切られた、否自分で切断した腕を止血する。治療をすれば腕はくっつくだろうが、以前のように動かせるかはわからない。クリスは『治療魔法』が使えないので騎士団のいるドラゴンと戦闘をしていた場所まで腕を抱えて戻るのだった。
「で、ドラゴンが人間の女になっただ?全く理解できんぞ。」
「いやそうなんだけどよ…。」
「現に目の前にいるこの方は本当にドラゴンなんですよ。」
皆と合流したクリスは腕の治療をされながら、人間の女性に変わったドラゴンに困惑していた。それをベテラン冒険者とシャーロットが説明する。
「それで姫様、コイツどうする?」
「敵意はないようですし、処分は保留にして一度国へ連れて帰りましょう。」
「危険じゃないのか?」
「俺がいれば大丈夫だろ。なんてったって《龍の騎士》だからな、龍と戦ったのはさっきが初めてだけど。」
クリスが自信たっぷりに言うが、腕が一本取れたにも関わらず何を言っているんだとベテラン冒険者は思った。
「ではカルロス悪いですが、私達はこのままケガ人を連れてロンドへと帰ります。あなたは途中でエーラ達を拾ってヴェルスにいるディアナ様とエレナに今回のことを伝えてきてください。」
「はっ。」
カルロスは馬に乗りヴェルス方面へと走っていった。シャーロット達はロンドへと向かうのであった。
◇◆◇◆
セルベスタ王国よりさらに東にある国にて―――。
「各国に魔族が出現しておるようじゃの。この国もいずれ襲われることじゃろう、いやすでに入りこんであるかもしれぬ。」
「殿、いかがいたしましょう。」
「奴を出せ。」
「もしかして“人斬り乱麻”をですか?ですが彼女は…。」
「やむを得まい。実際奴に実力があるのも確かなことじゃ。」
「承知いたしました。」
老人は部下を下がらせる。1人になったことを確認すると机の引き出しから酒を出し、それ一口で飲む。外を見ると闇夜に白く輝く美しい満月が浮かんでいた。
「この国に《勇者》がおればいいんじゃがのぉ…。」
老人はポツリと呟いた。《勇者》がすでに6名が揃っていると言う情報は耳にしている。だがこの国には《勇者》はいない。それにこの国は長く他国との外交をしていなかったのでまだまだ協力体制が整っていないヴェルス帝国と似ているのだ。だが泣き言を言っていても仕方がない、魔王復活はもうすぐなのだから…。
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