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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
冒険者騒乱編

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第三十三話 《剣の勇者》

アリア達は目を覚ましたドラゴンと対峙する。ドラゴンは翼を動かそうとしているが上手く飛び立つことができないようだ。どうやらクリスの攻撃で背中の翼に傷が付いているようだ。ドラゴンは上手く飛べないジレンマからかその場で暴れ出す。


「飛行能力がなくなったからマシになったかと思ったが、暴れられると近づけないな。それにあの団長さんが付けた傷でも致命傷にはなってないって相当だな。」

「そうですね。あの堅い鱗に傷を付けるのは中々骨が折れそうです。」

「傷の付いている背中を攻撃しましょう。そこからならダメージを与えることができるかもしれません。」

「なるほど、やってみよう。」


騎士団は暴れるドラゴンに対して陣形を崩さないように『防御(プロテクション)』を発動させ攻撃を仕掛けている。だがその攻撃では鱗に傷は付いていない。ドラゴンの意識が正面に向いている間にベテラン冒険者とアリア、カルロスの三人はドラゴンの背中側に回り込みっ魔法を発動させる。


「『炎の矢(ファイア・アロー)三重(トリプル)』!!!」

「『魔法弾(マジック・ショット)貫通(ペネトレイト)』」

「うぉぉぉぉぉぉ!!!おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「グォォォォォォォォォ!!!」


背中の傷口に魔法が当たる。さらにそこに剣撃を叩き込む。ドラゴンは仰け反り叫び声を上げている。どうやら聞いているようだ。


「よし!どうやら効いているようだぞ!」

「このまま攻めます!」


再び三人が攻撃を仕掛けようとした瞬間、ドラゴンが口から炎を噴いた。その炎で騎士団の防御魔法は砕け散り陣形はバラバラに崩れてしまった。


「なんて炎を噴きやがる!」

「あれじゃまた魔法を当てるのは難しくなってしまいましたね。」

「どうしよう…」


アリア達がどうやって攻撃をドラゴンに当てるか考えていると、そこに向かって馬に乗って駆けてくる二人組がいた。アリアはその二人組の姿に見覚えがあった。


「ユーリ!シャーロットさん!」

「アリア!皆も無事でよかった!」

「カルロス報告を。」

「はっ。数十分前に魔族の女がドラゴンを引き連れここに出現。アリア様、冒険者達との交戦中に私を含め紫龍聖騎士団が合流。団長クリス・ドラグニス様がドラゴンにダメージを与えた後、周りを巻き込まないようにと離れた場所で魔族の女と交戦中です。」

「それで現在は?」

「ドラゴンは大人しくしていたのですが突如激しく暴れだし、騎士団や冒険者、私達で討伐を試みるも中々攻撃が通らず苦戦しています。」

「大体状況は把握できました。」


魔族の方は紫龍聖騎士団長が相手をしているのか、1人で大丈夫なんだろうか。相手はおそらくあのバリオンと同等クラス、バリオンだって騎士団長3人で倒したくらいだ。俺が不安そうなのがわかったのかシャーロットが口を開く。


「心配かもしれませんが、彼を信じましょう。彼は我が国が誇る最も強い騎士団長ですから。」

「そうだったんだ。じゃあこっちのドラゴンをなんとかしよう。」

「でもどうやって倒すの?生半可な攻撃は効かないし、それに足止めもしないと…。」

「まだ希望はありますよ。私とユーリ君の力を合わせるんです。」


シャーロットは《紅蓮の勇者》の力を目の当たりにして、その凄さに圧倒されたと同時に自分の《剣の勇者》の力をユーリに合わせた時どれほどの力を発揮できるようになるのか試してみたい気持ちがあったのだ。しかしそれには問題がある。


「でもシャーロット、さっきも話したけど魔力をどうやって供給するの?」

「どういうこと?」


俺がアリアにシャーロットは魔力が少なく、『魔力供給(マジック・フィード)』が使えずにエレナのように《勇者》の力を受け渡せないことを説明する。それを聞いたアリアは何かを思いついたような顔をする。


「それだったら、私が考えてみるのはどうかな?」

「そうか、アリアだったらもしかして!」


よく考えてみればアリアは《大賢者》で『魔力供給(マジック・フィード)』という方法を考え、実行してくれたのもアリアだったな。アリアなら何か他の魔法を使えるようにしてくれるかもしれない。


「うん、なんとかできそうだよ!」

「ではカルロス、ドラゴンの注意を引き付けてください。」

「お任せください。」

「何だかよくわからねぇが、俺も手を貸すぜ。《英雄》の兄ちゃんが最後を決めてくれ!」

「はい!必ず!」


作戦内容はまとまった、あとは実行するだけだ。カルロス、ベテラン冒険者の2人はドラゴンへと向かっていく。俺とシャーロットはアリアの指示にしたがい向かい合わせになる。


「二人共手を出して。いくよ!『魔力流失(マジック・ドレイン)』!!!」

「こ、これは私の魔力がどんどん吸い取られていく…。」

「そしてこのまま『魔力供給(マジック・フィード)』!!!」

「どんどんシャーロットの魔力が流れ込んで来てる…!」


俺の体にシャーロットの魔力が流れ込んでくる。髪の色が淡紫に変わり、魔力は鋭く突き刺さるようにアリアは感じた。


「ユーリ、後は頼みます…。」

「任せて。アリアはシャーロットを頼む。」

「うん。気を付けてね。」


俺は魔力切れで倒れたシャーロットをアリアに任せてドラゴンの元へ向かったカルロス達の後を追う。


「2人共、おまたせ。」

「《英雄》の兄ちゃん…なのか?」

「姿だけでなくその魔力…凄いですね。」

「最後は俺が決めます。2人はできるだけ注意を引き付けてください。」

「ああ、行くぞ!」


ベテラン冒険者はドラゴンの目線に入ると素早い動きで撹乱する。ドラゴンはベテラン冒険者の動きに惑わされている。カルロスはその隙に魔法を展開する。


「『魔法弾(マジック・ショット)拘束(バインド)』!!!」


カルロスの指先から放たれた『魔法弾(マジック・ショット)』はドラゴンの真上で弾け、魔力の糸がドラゴンを縛り付ける。不意を突かれたドラゴンは魔力の糸を解けずもがいている。チャンスはここしかない。


「『召喚(サモン)巨人の剣(ギガント・ソード)』!!!」


俺は空に大きな魔法陣を展開し、そこからドラゴンの大きさくらいの魔力剣を出す。


「くらえ!『断罪する巨人の剣ジャッジメント・ギガント・ソード』!!!」

「グギャァァァァァァァァァ!!!!!」


ドラゴンに大きな魔力の剣が背中に突き刺さる。どれだけ攻撃しても傷つかなかった鱗を貫通し、一撃で仕留めることができた。だが想像していたよりも魔力の消耗が激しかったようで、俺はその場で意識を失い倒れ込んでしまった。


「…リ、ユーリ!よかった、皆ユーリが目を覚ましたよ!」

「おう兄ちゃん、無事でよかったぞ!」

「倒れたときはどうなるかと思いましたよ。」


ベテラン冒険者とカルロスが駆け寄ってくる。二人とも元気そうで何よりだ。


「シャーロットは?」

「あちらで休んでおられます。魔力が回復すれば目も覚めるでしょう。」

「それはよかった。」


《剣の勇者》の魔力を借りてわかったことがある。最大出力だけで言えば《紅蓮の勇者》以上かもしれないが魔力の消耗はかなり激しい。シャーロットの元々の魔力量が少なく魔法を使えないということも関係しているのかもしれない。自分の能力ながら《7人目の勇者》にはまだまだ謎が多い、だがドラゴンを一撃で倒せるような力だ。この調子で《勇者》の力を集めることができれば魔族だけじゃない、魔王にだって届きうるのではないだろうか…。


「でも1つ問題がありまして。」

「どうしたの?」

「おい、こっちにこい!」

「……ぐすっ。」


ベテラン冒険者が呼び出すと、涙目の女性が出てきた。よく見ると頭に二本あり、お腹のあたりを手で抑えている。


「この女性は一体…?」

「信じられないかもしれないが…あの黒いドラゴンだ。」

「…うん?」

「だから、あの黒いドラゴンだ。」


あの黒いドラゴン?先程まで戦って俺が背中から腹に向けて剣を突き刺したドラゴンだって?そんなまさかと思うが、たしかに先程まで戦っていたドラゴンと同じ魔力を感じる。俺は頭が混乱していた。


「君、ドラゴンなの?」

「はい…。」

「どこから聞いていいか、まずどうして人間の姿に?」

「私達、ドラゴンは変身魔法が使えます。普段は人の姿に紛れて生活をして暮らしているんです。それがある時あの魔族の女に操られてずっと自我を失っていました。気がついた時にはお腹に穴が空いているしびっくりしました。」

「そ、そうなんだ。」


つまりドラゴンはあの魔族に操られていて、今までのことはまったく覚えていないということか。そこは理解できるんだが…。


「どうしてお腹に穴が空いていて、生きているの?」

「ドラゴンは核を破壊されない限り死ぬことがありません。」

「ドラゴンにも核があるのか。」


人間の姿にもなれて、魔族のように核がある。ドラゴンという生物はまだまだわからないことが本当に多いな。俺はそこまでの話を聞いて再度眠りに落ちてしまったのだった。

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