第三十一話 冒険者の意地
「『炎神の一撃』!!!」
「ぐっ、良いねぇ。」
「あれでやれないとは…。」
シャーロットは《紅蓮の勇者》の力を目の当たりにしてその圧倒的な魔法の出力にも驚いていたが、その一撃で身体に穴が空いているにも関わらず喋っているルシェという魔族のタフさにも驚いた。
「魔族は核を壊さないと再生されてしまうんだ。確実に核を破壊するか再生できないくらいの攻撃をするしかないんだよ。」
「なるほど。今のユーリならそれができますか?」
「うん。でも魔法を発動するのに少し時間がかかる。」
「では時間稼ぎは私に任せてください。」
「作戦会議は終わったかぁい?」
「ああ。これで決める!」
シャーロットは《魔剣フルンティング》を持っている腕に狙いを定める。剣そのものを破壊すればルシェの身体能力は落ちが武器破壊の難易度は並大抵のことではない、《魔剣》ともなれば尚更だ。それゆえに腕を狙った。
「『疾風の突き』!!!」
「遅いよぉ!腕を狙っているのかなぁ?もっとスピード上げないと当たらないよぉ!」
「まだまだ!『付与魔法・敏捷』!!!」
シャーロットは自身ができる最高速のスピードでルシェの腕を狙う、しかし捉えることができない。
「それが限界かなぁ?それじゃあこれでおしまい!」
「その瞬間を待っていました。」
「何だって!?」
シャーロットは腕を狙っているように見せかけて、ルシェの両足を切断し動きを封じることを狙っていたのだ。
「今です!ユーリ!」
「終わりだ!『煉獄門』!!!」
「何だこの門はぁ!」
「お前の死に場所だ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
門はルシェを《魔剣フルンティング》毎飲み込み消えていった。
「助かったよシャーロット。」
「いえ、こちらこそ助かりました。それにしてもすごい魔法ですね、これが《紅蓮の勇者》の力を借りた《7人目の勇者》の能力ですか。」
「ほとんど俺の力じゃないけどね。それにシャーロットの《剣の勇者》だってもっと凄い力が出るかもしれないし。」
「そうですね。ですがそれには問題があるんです、私おそらく『魔力供給』を使えないので。」
「えっそうなの?」
シャーロットの話によると《剣の勇者》は元々魔力が少ないし、使える魔法が少ないらしい。なのでおそらく『魔力供給』も使えないだろうとのこと。
「うーん、じゃあ《剣の勇者》の力を借りるには何か別の方法を考えないといけないってことだね。」
「そういうことですね。」
「あなた達無事かしら?」
「師匠!」
俺達が話をしていると、師匠が帰ってきた。負傷していたようなので『治癒魔法』で回復させる。そうこうしている内に見覚えのない集団がぞろぞろと入ってきた。どうやら敵ではなさそうだ。
「あなた達は?」
「私は帝国軍副団長のアイデン・バイスだ。君達は一体?」
「私はセルベスタ王国第一王女シャーロット・セルベスタです。エーラ様とバーン様の依頼で魔族との戦いに備え協力しにまいりました。」
「そうでしたか。我々は生き残った兵士や市民達を守っていたのだが、拠点の一つから王が魔族に攫われてしまい捜索してここまで来たのですが…こんなことになっているとは…。」
そこでこれまでの状況を手短に話す。魔族は襲撃予告よりも早くにこの国を襲ってきたこと、すでに魔物がセルベスタ王国に向かって放たれておりアリア、エーラ、バーンの三人が追いかけていること。
「そういうことなので、俺とシャーロットは今すぐアリア達を追いかけます。師匠はここでエレナのこと、他に魔族や魔物が入り込んでいるかもしれないのでそっちの対処をお願いします。もし魔族が居た場合、相手できるのは師匠くらいですから。」
「そうね。気を付けて行くのよ。」
「それとこの国にも《勇者》がいるとお聞きしたのですが?」
「はい。私がそうです。」
そう言って出てきた線の細い男だった。だが俺とシャーロットはすぐに違和感に気付いた。《勇者》特有の感覚が彼からは何も感じなかった。俺は不思議に思い質問を投げかける。
「えっと…失礼ですが貴方がヴェルス帝国の《勇者》ですか?」
「はい。この国の伝説にある《幸運の導き手》の能力者つまり《勇者》が私なのです。」
俺とシャーロットは顔を見合わせる。なるほど、これはつまりコータと同じパターンだ。《勇者》に関する伝説が違うせいなのかヴェルス帝国では《勇者》の名を持つ能力じゃなくて《幸運の導き手》が《勇者》ということになっているわけだ。今まで他国との交流をあまりしてこなかったヴェルス帝国だからこそかもしれないな。詳しい真実は後で教えるとして、今はアリア達のもとに急がないと。
「ではあなた達もここで他に魔物がいるかの確認をお願いできますか?魔族が放った魔物は非常に危険なのは存じていると思います。一般市民の方やケガ人も守らないと。」
「わかりました、我が国のことながら本当にありがとうございます。すぐに馬を用意させます!」
「お願いします。」
俺とシャーロットはヴェルス帝国を師匠達に任せて魔物が向かったというロンド方面へと向かっていった。
◇◆◇◆
ユーリ達が魔族を倒す少し前―――
アリア達は全力で馬を走らせロンドの方面まで戻っていた。途中魔物とは遭遇していない。かなりロンド方面まで魔物は侵攻していると考えた。ヴェルス帝国からロンドまでは3日の距離だが、休むわけはいかないのでアリアは馬に『身体強化』をかけている。これで休憩なしでスピードも上がると考えたのだ。
「そろそろ追いつくことか…?」
「気を引き締めないと!」
「前方に魔物が確認できます!お二人共お気をつけて!」
「「はい!」」
アリアは『魔力探知』によって魔物を確認する。《フレア・ウルフ》、《キラー・エイプ》、《アイアン・ゴーレム》数は全て把握しきれないほどだ。ここからロンドに向かってかなりの数がいる。
「うぉぉぉぉ!!!ふん!!!」
「『魔法弾・二重』!!!」
「『水の弾』!!!」
「くっ、コレではキリがないぞ!」
「このままではジリ貧ですね…。」
「きゃああああ!!!」
「姫様!ぐっ!」
「エーラ様!」
エーラが魔物に囲まれる。しかしエーラと魔物の間に入るように1人の冒険者が飛び込んできた。
「『力の斧』!!!」
「グォォォォォォ!!!」
「大丈夫かお嬢ちゃん!」
「は、はい!ありがとうございます!」
「まだまだ気を抜くな!」
エーラを助けてくれたのは戦いに乗り気ではなかったベテラン冒険者の男だった。すでに冒険者達もこちらまで来ていたのだ。アリアは男にこれまでの状況を簡潔に説明した。
「魔族は《英雄》の兄ちゃんが相手してくれてるのなら俺達はここで魔物を討伐すればいいんだな?」
「はい!他の冒険者の方達は?」
「ここに来るまでに散らばって来た。数が多くてな、だがこのままならなんとかできるだろう。」
「では私達もロンド方面に戻りながら討伐していきましょう!」
「おう!」「はい!」「ああ!」
このままいけばなんとかなりそうだ。皆少し安心をしたその瞬間少し先の空に黒い穴が開く。そこから感じたのは圧倒的な圧力の魔力だった。アリアはこの魔力の圧にどこか既視感があった。そう、あれは聖騎士祭の時と同等いやそれ以上の魔力を感じた、それはつまり四天王クラスであるということ。さらに大きな黒い穴が開きそこから出てきたのは鋭い爪にまるで鉄のような鱗、全身漆黒なドラゴンであった。
「あ、あの時以上の魔力…!!!それにドラゴン!?」
「魔族にドラゴンだと…あそこはまだ冒険者がいるはず、クソ!!!」
ベテラン冒険者が魔族とドラゴンが現れた方に向かって走り出す。エーラとバーンは完全に放心状態になってしまっていた。
「エーラさん、バーンさん!2人はここにいて、もしユーリ達がここを通ったら知らせてください!」
「あ…ああ。」
アリアもベテラン冒険者の背中を追いかけて走り出した。
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