第三話 《光を導く者》
《迷い人》とは別の世界からこちらの世界に迷い込んだ人間族のことである。
彼らはこちらの世界とは異なる言語や技術を習得していて、今の発展した世の中はそういった人々からもたらされた物であると言われている。まあ実際に会ったことはないのだが…
「父さんが《迷い人》だったなんて…。」
「父さんの能力は《光を導く者》能力の詳細は正直良くわからない部分も多かった、色々な技能の習得がとても早かったわ。剣を握らせても魔法を使わせてもすぐにできた。当時は《迷い人》だから珍しい能力なのだと思っていたけれど、あなたの能力を聞いて確信したわ。光というのはユーリあなたのことじゃないかしら?」
「俺が光…。」
「きっとあなたに色々教えるためだったのね。」
どうやら俺の父親がそうだったらしい。俺の能力の詳細がわかったわけではないけど、何か手がかりにはなるかもしれない。
「母さん。話してくれてありがとう。」
「私も初めて両親のこと知れてよかった。ありがとうおばさん。」
「今まで黙っててごめんなさいね。二人が儀式をしてから話そうと思ってたの。」
母さんとの話し合いが終わった後、自分の部屋のベットに飛び込んだ。
今日は本当に色々あった。アリアが《大賢者》だったこと。父さんのこと。そして俺の能力《7人目の勇者》のこと。
これからどうすればいいのか…と考えている内に俺は眠りについていた。
次の日から王都からの迎えが来るまで、一週間俺は毎日アリアと森に行って魔法を覚えることに集中していた。
「大分魔法も覚えたしこれならアリアと一緒に王都に行くことができるかもしれない。」
「うん!やっぱりユーリは凄いね!」
「いやこれも能力のおかげさ。これなら《魔法剣士》って言ってもおかしくないはず。」
剣士や闘拳士くらいの能力じゃ王都の学園に呼ばれることはない。せいぜい村の衛兵くらいだろう。
だから俺は魔法を覚えるのと同時に村の衛兵の訓練を盗み見ることで剣技も磨いた。本職には敵わないだろうが何もしないよりはマシだろう。剣技というのは能力に関係なく、技術も大事だとは思うがこの村にはそんな剣技を持った人物はいない。いつか指南を受けてみたいものだ。
「問題はどうやって俺の能力を見てもらうかというところだね。」
「うーん、思い切って迎えに来た人に勝負を挑んで見るとかはどう?」
「子供の戯言だと思って相手にしてもらえないよ。」
「そっかぁ。いくら能力を持っている子供だからってそう簡単には相手にしてくれないよね。」
こればっかりは仕方のないことだ。行き当たりばったりだがその時に何か考えよう…。と考えたいたが、あっという間に当日になってしまった。アリアは出発のために朝から準備をしている。付いていけるかわからないが俺は昨日の内に準備を済ませてある。そして朝から森で魔法の練習をしている。使者が来たタイミングで魔法を派手にぶっ放すかと危なげなことを考えていると後ろから不意に声をかけられた。
「すまないが少年。このあたりに村はないか?」
声をかけられた方に振り返ってみるとそこには騎士が立っていた。兜で顔は隠れているが声と身体付きを見ると女性であることがわかった。俺がその姿を見て黙り込んでいると騎士の方から喋りかけてきた。
「失礼した。顔を見せないのはいくら子供相手とは言え失礼だったかな。」
そう言うと彼女は兜を外した。透き通るような白い肌に青色の髪を整える仕草がとても美しかった。子供の俺から見ても容姿端麗ということがはっきりとわかる。
「ん?…どうした?何か私の顔に付いているか?」
「いえ、思っていたよりも美人な方だったので驚いただけですよ。」
「ふふふ、ありがとう。」
「それと村でしたね。この辺りの村は俺の住んでるところだけなので案内しますよ。」
「そうかそれは助かるよ。自己紹介がまだだったね、私の名前はセシリア・グランベール。」
「俺はユーリ・ヴァイオレットです。」
俺はセシリアさんと軽く自己紹介をして村に向かって、歩きだした。この人どこからどう見ても騎士だよな?何で森にいたんだろうか。それにこの人から漂う雰囲気が一般の騎士という感じではなさそうだ。特に何もないどこにでもある森なのだが…思い切って聞いてみるか。
「グランベールさんはどうして森にいたんですか?」
「セシリアで構わないよ。ユーリの村に向かっている道中にこの森から嫌な感じがしてね、だから来てみたのだが今はまったく何も感じない。気のせいだったかな。」
なるほど。ここ最近ずっと森の通っているが特に違和感はなかった。今日だって朝からずっと森にいるがいつもと変わらないように思える。
「ところでユーリはどうして森にいたんだ?」
「最近《女神の天恵》で能力を貰いまして、少しばかり鍛錬と魔法の練習を。」
「ほう。能力を過信することなく己を鍛えるということは大事だ、それに授かったばかりの年でできるのは中々大したものだな。」
「ありがとうございます。」
褒められるのは素直に嬉しい。たしかに多くの人間は能力を過信して自らの鍛錬を行わない者がいると聞いたことがある。でももしかしたら能力が使えなくなることもあるかもしれない。何が起こるかわからない以上、非常事態に備えて鍛錬をしておくのが当然ではないかと俺は思う。そうこう考えている内にそろそろ村が見える頃だ。
「ここをまっすぐいけば村に着きます。」
「そうかここまでの案内ありがとう。ではまた会おうユーリ。」
「はい、セシリアさん。」
俺はセシリアさんと別れた後、家に戻り準備を終えたアリアと一緒に教会に向かった。
「王都からの使者はまだ来ていないみたいだね。」
「うぅ…。緊張する…。」
「大丈夫だよ。俺もいるしそんなに悪い人じゃなさそうだったよ。」
「え?ユーリ使者の人に会ったの?」
「うん。多分だけど。」
俺は森で会ったセシリアさんのことをアリアに話した。この村に騎士が用があるなんてことはないだろう、そう考えるとセシリアさんはアリアを迎えに来た王都からの使者であると思った。
「ふーん。ユーリは美人な騎士様と話せてよかったね。」
「そうだね、なんでちょっと怒ってるの?」
「別に!」
「変なアリ「きゃあー!!」…何だ今の悲鳴!?」
「教会の裏の方から聞こえたよね?」
「行ってみよう!」
俺はアリアと一緒に教会の裏側に急いで向かった。するとそこには禍々しいオーラをまとった魔物がいた。見た目は狼のようだが普通の狼よりも一回りも二回りも大きい。
「どうしてこんなところに魔物が…」
「わからないけど逃してくれる感じじゃなさそうだ。ここはやるしかない!アリアは修道女の手当を!」
「わかった!ユーリ気をつけて…。」
魔物と戦うのは始めてだが覚悟を決めるしかない。倒せなくても衛兵が来るまでの時間くらいは稼がなくては。せめて何か能力や弱点が見えればいいのだろうが。俺は魔物の方に集中する。
「名前は《フレア・ウルフ》なんだコイツ能力が見えない…?」
「グルルルル!!ガァァァァァァ!」
名前は見ることができた《フレア・ウルフ》、しかし能力まではわからない。叫びながらこちらに向かって走ってくる《フレア・ウルフ》に向けて俺は手を出し魔法陣を展開する。覚えたばかりの魔法だが試してみるしかない。
「『炎の矢』!」
「ガァァァ!!!」
止まることなくこちらに向かって突進してくる。俺はそれを横に飛びギリギリのところで回避した。どうやらまるで効いていないようだ。炎に耐性があるのだろうか?そうなると今の俺には炎以外の属性で威力のある魔法を使うことはできない。仕方がないここは接近戦でいこう。
「『創造・剣』それと『身体強化』!」
俺はシンプルな剣を作り出す『創造・剣』という魔法と、自分の身体能力を全体的に強化する『身体強化』という魔法を使った。
「うぉぉぉ!!!」
「ガァァァ!!!」
《フレア・ウルフ》の身体に剣が刺さった。しかし剣は刺さったまま抜けない、どうなっているんだ!?俺は剣を手放し、《フレア・ウルフ》から離れた。どうすればいいのか俺は考える。これならもしかしたら…?俺はもう一度剣を作り奴に突き刺す。それをひたすら繰り返した。《フレア・ウルフ》の身体には無数の剣が突き刺さっている。
「はぁ…はぁ…大分動きが鈍くなってきたな…。」
「ガァ、ガァァァ!!!」
「これで最後だ!『雷撃』!」
俺が放った『雷撃』は《フレア・ウルフ》の身体に刺さった剣を通して内部に電気を流した。小さい電気だが無数に剣を刺したことで全体的にダメージを与えることだろう。
「グ…ガァ…。」
《フレア・ウルフ》は全身黒焦げになりその場で倒れた。
「やった…倒したぞ…。」
しかしなぜこんなところに魔物が出たんだろうか…。これも《魔王》の復活が近い影響が関係しているのか?
「きゃぁぁぁ!!!」
「今の叫び声はアリアか!?」
アリアの叫び声が聞こえた。少し離れた場所で修道女の治療をしていたはず。俺は急いでアリアの元に向かった。
「アリア!大丈夫か!」
「ユーリ!アレ!」
「なっ…!?」
そこには先程同様に禍々しいオーラを纏った《フレア・ウルフ》がいた。
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