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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百六十八話 精霊召喚

グレモリーとイモータルの魔法は似ているようだが明確な違いがある。グレモリーの場合は意思がある相手でも生きていれば操ることはできるが、イモータルはあくまでも形のある死体を操ることしかできない。ここに両者の違いがある。それに加えてグレモリーの場合は相手の意思の有無によって操作の難易度が変わる。相手の意識があれば全てを操ることは非常に難易度が高いが、意識がなければ簡単に操ることが出来る。グレモリーの魔力は特別で生物に魔力を注入すると一種の催眠状態に陥る。それを見えないほど細くして糸のように身体に結びつかせて相手の身体を操っている。奇しくもクリスとグレモリーは互いに魔力が特別という共通点があるのだ。


「悪趣味な魔法だ。」

「私は素晴らしい魔法だと思うのだけどぉ?」


操られた魔族はクリスに襲い掛かる。一体一体は大した強さではないが、鬱陶しくはある。《聖》属性が使えない場合、魔族を完全に消し去るには核を破壊する必要がある。どんな魔族でもそれは変わらないが、魔族という生物は総じて頑丈である。さらに普通の生物ではありえない再生速度も合わさっている。倒すことに苦労はしなくても面倒ではあるし、こちらの体力も削られる。こういう時に強い魔法が使えれば便利だなとクリスが考えていると覚えのある魔力が沸きあがるのを感じた。クリスは地面を蹴り上げて高く跳躍した。


「『地獄炎の監獄ヘルフレイム・プリズン』!」

「あらぁ?」


先程操られて気絶していたアルフレッドが目を覚まし、クリスを取り囲む魔族を焼き尽くした。アルフレッドは自身の不甲斐なさに怒りを感じていた。以前、四天王の一人であるバリオンと戦った時にも感じていたことだが自分の能力の衰えを感じている。マルクやアルフレッドの様に年齢を重ねれば重ねるほど能力の全盛期も過ぎていく。これは老化と同じように能力も劣化していくからである。二人はどちらかと言えば能力を保てている方だ。だがアルフレッドは現状に納得いっていなかった。ユーリ達が魔族と戦い始めるまでそろそろ自分は引退すると考えていた所に《魔王》との戦いが現実味を帯びてきた。バリオンと戦いセシリア、ブランシェがいなければ倒すことはできないと痛感させられた。


「お嬢さん。ワシの様な年寄りでは役不足かもしれんが、お相手しよう。」

「あら私からみればあなたの方が小坊主なのだけれど?まあいいでしょう。かかってきなさい。」

「『地獄炎の噴火ヘルフレイム・イラプション』!」


地面から湧き上がる高熱の炎がグレモリーを襲い掛かる。が、グレモリーはその場を微動だにしない。むしろ余裕そうな表情を見せている。グレモリーの身体の周りをピンク色の魔力が繭の様になって包んでいる。相手を操作する魔力を活用するために限りなく細く丈夫な魔力の糸を生成するうちにグレモリーはその糸を利用した防御や攻撃も扱えるようになっていった。


「『堅糸縛繭(けんしばくらん)』」

「ならばこれならどうじゃ!『地獄炎の渦ヘルフレイム・ヴォルテックス』!」


アルフレッドは続けてグレモリーを包み込んでいる爆炎を操り炎の渦を作り出す。地面が焼け焦げて並の魔族ならばこれで跡形もなく消えているがグレモリーの繭はまったく傷付いていない。これ以上続けても意味がないと考えたアルフレッドは炎を消した。繭が解けると退屈そうにあくびをしているグレモリーが現れる。クリスはアルフレッドの元へと駆け寄る。


「アルフレッドさん。」

「ワシの魔法は殆ど効いておらんようじゃの。」


クリスはアルフレッドの言葉に何も言えなかった。実際グレモリーの防御を突破することが出来ずダメージを与えることはできていない。魔族は倒せたが、グレモリーには傷一つ付けることができていないのだ。アルフレッドは覚悟を決めたような顔になる。


「クリス、悪いんじゃが少し時間を稼いではもらえまいか?」

「わかりました。」


大剣を振りかざし、クリスはグレモリーの元へと駆ける。そこに魔族を撃退したカルロスも合流する。アルフレッドが何かをしようとしていることを察してクリスの援護をする。膝を突き、《K&C-S MkⅡ》を構えてグレモリーの身体を貫こうとする。しかしこの距離では射線がバレているのでグレモリーにとっては脅威ではなかった。放たれた弾丸は糸によって絡み取られる。だがその背後にクリスはすでに迫っており大剣を振り下ろした。二人が戦って時間を稼いでいる間にアルフレッドは『精霊召喚(スピリット・サモン)』によってサラマンダーを召喚していた。


「ジジイ、今度はあいつを倒せばいいのか?」

「ああ、そうじゃ。」

「ジジイ?」


サラマンダーはいつものように召喚され敵を倒すだけと考えていたのだが、アルフレッドはいつもとどこか様子が違っていた。どこか覚悟を決めたような顔つきになっている。サラマンダーには心当たりがあった。今からアルフレッドが何をしようとしているのか。その結果最後の別れになってしまうということも。


「随分長い間世話になったな。」

「ああ。お前がまだガキだった時からの付き合いだからな。」


アルフレッドがやろうとしているのはサラマンダーの完全召喚である。この世界に召喚しているサラマンダーは完全に召喚されているわけではない。一部をこことは異なる世界に残している状態である。コータやシャーロットの《魔眼》はこちらから向こうの世界へのアプローチであるがアルフレッドが行おうとしているのはその反対である。だがそれを使用するには大きな代償を払う必要がある。それは召喚術者の命である。厳密に言えば精霊を召喚し続ける魔力が必要でありそのためには命を懸ける必要があるということだ。


「では始める。」


アルフレッドは静かに魔力を蓄える。地面にはアルフレッドの魔力が自然と広がっていき、魔法陣の様な物を描いている。精霊をこちらの世界に呼び寄せるために扉が必要である。その扉は術者の魔力によって描かれ精霊自身の手によって開かれる。そのため『精霊召喚(スピリット・サモン)』によって精霊を召喚できる者でなければこの魔法を使う事はできない。アルフレッドはこの最後の戦いに備えてこの魔法を覚えるということに留めた。自身がこれ以上強くはなれないということを理解しこの魔法を使う事を自分に許可を出した。


「灼熱を司る、古き盟約の下に。世界を焦がす、紅蓮の息吹よ。我が魂に宿る、火の魔脈を辿り。地底に眠る、炎の王に呼びかける。千の薪を喰らいし、不滅の精霊よ。契約の鎖、今こそ解き放たれん!焔の中より、真紅の姿を現せ。敵を穿つ、純粋なる力となれ。我が命に従い、万物を焼き尽くせ!顕現せよ、サラマンダー!」


アルフレッドの足元の魔法陣から大量の炎が噴き出しアルフレッド自身を包み込みながらサラマンダーとぶつかり混ざり合っていく。炎の中から現れたのは20代前半くらいの男。肌の色は浅黒く、その身体は燃え盛っており何者をも寄せ付けない圧倒的な魔力の圧力を放っていた。グレモリーと戦っているクリスとカルロスもグレモリーでさえもがその姿から目を離すことができなかった。


「「こっちの世界に完全顕現するのは随分と久しいな。」「俺の身体も若返っている。まるで全盛期の様だな。」」

「アルフレッドさん…なのか?」


精霊がこちらの世界に来るにはこちらの人間の身体を借りる必要がある。異なる世界の生物はこちらの世界に存在することはできない。これはどの精霊であっても破ることのできない世界の理である。つまり完全な召喚とは人間の身体を使った召喚術とも言える。意識も二人分の状態である。だが人間の身体はこれに長く耐えられなく常に魔力を消費し続けている状態だ。ゆっくりしている時間はないのだ。


「クリス!カルロス!巻き込まれるなよ!」

「何を言って…」


アルフレッドが手を叩く。するとグレモリーの身体が一瞬にして黒焦げになった。だがそれはグレモリーが糸で作った分身であった。グレモリーはすでに身を隠している。アルフレッドの今の姿を見せた瞬間に姿を隠したのだ。つまり脅威に感じているということである。だがアルフレッドは分身を操っている糸から本体の位置を特定しすでにそちらにも炎を発生させていた。


「グワァァァァァ!!!!!」

「この程度では終わらない!」


すでにクリスとカルロスは巻き込まれないように遠くに退避していた。アルフレッドが何をするかはわからなかったが、距離を取らなければ巻き込まれるということをアルフレッドに言われるまでもなく二人は理解していた。燃え盛る業火はこれまでに見たことがないほど圧倒的で一瞬であった。周囲の温度は一気に上昇し、大地が乾燥しきっている。まるで太陽の様であるとクリスは感じていた。グレモリーは身体が焼けるそばから回復している。そうしなければ身体が消し飛んでしまう程の炎であったからだ。先程までのアルフレッドの魔法とは天と地ほどの差がありこのままではやられてしまう。


「このまま貴様の回復が終わるまで永遠に燃やし続けてやる!『天太陽炎アイテール・フレア』!」


グレモリーのそばに小さな光球が発生する。それ自体が小さな太陽のようで近くに存在している物を跡形もなく消し飛ばす。ついにグレモリーの回復は追いつかなくなり次第に身体が崩れていく。アルフレッドは目を閉じ指を鳴らすとただ静かに光球は収束した。その場には地面に空いた穴以外の物は何も残っていなかった。


「「これで終わりだな。」「ああ、俺の命はもうすぐ尽きるだろうが後のことは若い者に任せることにしよう。」」


アルフレッドは気を抜いていたわけではない。ただそれに気付かなかっただけだ。アルフレッドの胸の中心から鮮血が溢れだしていた。その背後にはグレモリーが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

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