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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百六十七話 操り人形

クリス、アルフレッド、カルロスは一の扉へと入っていく。“信仰”グレモリー、この扉の先で待っているであろう魔族との戦いに最も燃えているのはクリスだった。以前グレモリーとクリスが戦った時には引き分けになったと皆は言うが、クリス自身は完全な敗北だと思っている。退けたとはいいきれず、片腕を落とされた上に逃げられたというのが正しい。騎士団の中で最強の男だと言われている彼だが、自らそう名乗っているわけではない。セシリア、ブランシェ、オリバーは自分よりも若いしこれから伸びるだろう。セドリックは身体能力では自分に分があるが魔法では敵わないだろうと思っている。アルフレッドも今はともかく、若い時であれば確実に自分よりも上だったとわかる。なぜ自分が最強と言われるのか、それは今のメンバーの中で最も貢献度が高いからそう呼ばれてるに過ぎないのだ。


「あら、久しぶりねぇ。いつかの騎士さぁん。」

「ああ、久しいな。」

「あら?以前のように熱い想いはないのかしら?」


クリスは自身の性格を熱くなりやすいと分析している。これまでの彼ならば宿敵を目の前にしているこの状況であれば飛び掛かっているだろう。だが不思議と自分の気持ちが落ち着いていた。クリスが修行の中で学んだこと、それは新たな力を手に入れることではなかった。がむしゃらに修行をしても今の自分が強くなることはないというのを直感で理解していた。今の自分は恐らく最も全盛期であるということ、どんな魔族にだって負ける気はしなかった。だがグレモリーにはしてやられてしまった。それはなぜか?未知の相手に対する驕りである。自分が苦手とする相手に真正面からぶつかっていく必要はないし、敵を倒すことを思えば無理をする必要も全てを自分でする必要もないのだ。それをユーリ達の様な若い衆から学んだ。


「そうだな。自分でも不思議なくらい落ち着いている。今までの俺ならお前を前にして冷静さを失っていたかもな。別に熱くなってないわけではないさ。ただ…」

「?」

「俺だけがお前を倒したいというわけではないということだ。」


グレモリーがクリスの発言の意図を理解できずに首をかしげている。その瞬間にグレモリーの右腕が吹き飛んでいた。何の魔法も発動していないということを感じているし、油断をしていわけでもなかった。にも拘らずグレモリーの右腕は吹き飛んでいたのだ。その時に気付いた。クリスと一緒に歩いていた一番若い男の姿が見えないことに。それを探そうと意識を集中させる。だがグレモリーへの攻撃は止まなかった。


「『地獄炎の斧ヘルフレイム・アックス』!」


グレモリーの両サイドに炎でできた大斧が現れ、襲い掛かる。グレモリーは上空へと飛び上がる。しかしクリスがいつの間にか背後に移動していた。その大剣に込められた魔力は大地を穿つ程の魔力であるにも関わらず、クリスの魔力に答えている。クリスの大剣は特別な物ではないが、クリスの魔力は特別である。龍の鱗を纏うように大剣は守られている。だからこそ彼の大剣はそこらの剣よりも強固になっている。


「『赫灼・龍滅レディアント・ドラゴンデストロイ』!」


クリスはグレモリーの身体を大剣で切り裂いた。グレモリーはそれを両手を交差させて防ごうとしたが意味を成していなかった。そのまま地面へと叩きつけられその場には何も残っていなかった。グレモリーを最初に攻撃し、腕を吹き飛ばしたのはカルロスである。カルロスにしか使えない専用の武器である《K&C-S》さらにそれを改良した《K&C-S MkⅡ》である。魔力によって放つことのできる弾と鉛で作られた実弾の両方を切り替えて打つことのできる物でどちらにも照準のアシスト、最小限の魔力で放つことが出来る様にあらかじめ刻印魔法が刻まれている。グレモリーには気付かれないように実弾の方で腕を吹き飛ばした。その後、アルフレッドとクリスによる猛攻をカルロスは《K&C-S MkⅡ》のスコープ越しに眺めていた。だからこそもっとも早くその異変に気付くことが出来た。


「もう終わりかしらぁ?」


クリスは背後から聞こえたその声に驚いた。今のでグレモリーを倒せたとは思っていない、しかし気付かずに背後に周られていたという事実に。…だが冷静に分析を行えたことが彼にとってもよかった。振り返っても背後にグレモリーはいない。幻惑の魔法か何かにかけられていた。しかしアルフレッドはその声にまんまと耳を傾けてしまった。一緒に連れてきた騎士団員達に向けて魔法を放った。


「アルフレッド様!」

「おやめください!」

「ワシの魔法はそう甘くはないぞ!」


アルフレッドの魔法は騎士団員達を吹き飛ばす。魔法道具のおかげで致命傷は避けられているが二撃目を耐えるほどの余力は残っていない。しかしアルフレッドが魔法を放つ前に目のまで何かがはじけた。そこから出た煙を吸い込んだアルフレッドはその場に眠るように倒れこんだ。カルロスによる《催眠弾》である。


「あらあら『人形幻惑(パペットダズル)美媚愛(ビビアイ)』で全員倒せるかと思ったけど、思ったよりも早く気付かれてしまったわねぇ。」

「相変わらず不快な魔法を使う女だ。」

「これが私の真骨頂だものぉ。」


グレモリーは姿を現す。初めに立っていた場所から殆ど動いていなかった。自らを人形とし、相手を幻惑に誘い込む魔法『人形幻惑(パペットダズル)美媚愛(ビビアイ)』。グレモリーを視認した時からすでに魔法をかけられていた。カルロスはクリス達が戦っている場所からおよそ100m程度しか離れていない。グレモリーの魔法の有効の範囲は1km程度である。その区間にいる者で魔法を発動した時点でグレモリーの姿を確認すると幻覚にかかってしまう。だからカルロスがグレモリーを狙撃した時点ではすでに魔法はかけられていた。


「さて今度はこういうのでどうかしらぁ?」


倒れこんでいる騎士団員の身体が不意に立ち上がる。そしてクリスの方へと走ってくる。カルロスもスコープ越しに騎士団員達が向かってくるのを確認した。カルロスはすぐに移動を開始する。対してクリスは受かってくる騎士団員達に圧力をかける。魔力を込めた殺気のようなものである。グレモリーの魔法は目には見えない他人を操る糸のようなものが付着され自分の意思に関わらず操られてしまう。この程度の情報しかわかっていないが、クリスは一度操られたことがあるからこそどのような物か理解できていた。クリスが圧力をかけた騎士団員達は意識を飛ばしその瞬間、頭上の辺りに大剣を振りかざした。騎士団員達はその場に倒れこんだ。


「あら…私の糸の謎は解けたのねぇ。」

「一度操られているからな。お前の魔力の糸は意識がある物しか操れないといったところだろう。目には見えない魔力の糸だが切れないわけではない。」

「ご名答。私の魔法を2回で見破るなんて大したものね。それならこれはどうかしら?」


グレモリーが片手に魔力を込めて円を描くように回した。するとクリスの左腕が自分の意思とは別に首を絞め始めた。グレモリーはそれを嬉しそうに眺めている。だがクリスは慌てることなくわかっていた魔法への対処をする。クリスの身体から紫色の魔力が目視できるくらいに溢れだす。すると首を絞めていた手が解放され大剣を握りなおした。グレモリーはそれを不思議そうな顔をして眺めている。


「何が起きたかわからないか?」

「そうねぇ。あなたのその姿が何か関係あるのかしらぁ?」

「これは『龍の魔肌(ドラゴン・スキン)』だ。」


龍の魔肌(ドラゴン・スキン)、身体から魔力を溢れ出させて龍の鱗を再現する。ただそれだけのまほうなのだがクリスが使用すればそれは少し意味が変わる。クリスの能力である《龍の騎士》はデリラのルーツが龍にあるのとは違い龍殺しの技を使用できるというものである。龍の能力を再現できるデリラとは違う。だからこの『龍の魔肌(ドラゴン・スキン)』という技は龍と入っているが厳密に言えば少し違う。クリスの魔力は普通の魔力よりも濃いのである。濃いというのは濃度という意味で濃度が濃いから魔法に必要な魔力が変わるわけではないし威力が特別上がるわけでもない。ただ魔力探知にはかかりやすく存在感を示しやすいという利点がある。先程騎士団に向けて放った圧もこの魔力の濃さが成せる技である。


「『龍の魔肌(ドラゴン・スキン)』は俺の濃い魔力を身体から放ち纏わせることで他の魔力の影響を受けなくなるという俺が作った魔法だ。固有魔法とも言うらしいがな。」


クリスは修行の中でグレモリーの魔力の糸対策をずっと考えていた。自分の魔力が濃いということを知っていたがそれを活かそうと考え付いたのはデリラのおかげである。彼女の龍の力を見て存在感を放つ魔力の使い方を思いついた。濃い魔力はその場に留まろうとする力が強いために纏わせるには好都合である。魔力を纏っているだけなので『身体強化(フィジカル・ブースト)』の様な効果はない。ただグレモリーに操られることはない。


「ふーん。それなら『人形操作パペット・コントロール魔族(デーモン)』」


グレモリーは黒い穴を出現させると穴の中から無数の魔族が現れる。魔族達はどこか心ここにあらずという感じで恐らくグレモリーによって操られているのだろうとクリスは考えた。魔族に騎士団に向けた物と同じように魔力を込めた圧を放つ。しかし魔族は微動だにしていない。


「無駄よぉ。この魔族達は魔力の糸で操っているわけじゃあないの。あなたの魔力には驚かされたけどそれくらいじゃ解放できないわよぉ。」


魔族はクリスに向かって飛び掛かる。クリスはそれを迎え撃つのだった。

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