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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百六十六話 最後の風と慈愛

セシリアの《聖剣ガラティーン》とアッシュの《亜剣レヴナント・ブレード》は激しくぶつかり合い二人の身体は空へと打ち上げられた。どちらも譲らないぶつかり合い、だが《亜剣レヴナント・ブレード》の方が耐え切れず刀身が折れた。セシリアは勝ちを確信した。だがその一瞬の気の緩みがアッシュにとっての勝機になった。


「ぐはぁ!」


アッシュは《亜剣レヴナント・ブレード》を犠牲にセシリアの身体を腕で貫いていた。全力を出し切り勝ったと相手が油断したその一瞬の隙を付きカウンターを入れたのだ。《亜剣レヴナント・ブレード》が折れた時にそれを握っているアッシュの両腕も消し飛んだ。だからこそセシリアは油断してしまっていた。アッシュの再生は普通の魔族よりも遅かった。…はずだった。《亜剣レヴナント・ブレード》と融合するまでのアッシュの身体はたしかに再生するのが遅かったのだが、今のアッシュはそうではなかった。それがセシリアの油断を招いてしまったのだ。実際アッシュは右腕と左足は再生できなかったのだが、それでもセシリアの身体を貫くには十分だった。


「がぁ………。」


《聖剣ガラティーン》の輝きは失われセシリアの手から零れ落ちる。アッシュは貫いたセシリアの身体を地面に投げつけられる。《聖剣ガラティーン》を追い越して地面にぶつかる。アッシュも無理をして力を使いすぎたために重力に任せながら地面に落ちていく。


◇◇◇◇


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


叫び声を上げながら周囲の生命力(プラーナ)を集めては放出し続けるフルー。そんな姿を見てアッシュは後方に引いた。すでにセシリアとの戦いで少ない魔力は完全に尽き、《亜剣レヴナント・ブレード》は刀身が折れてしまっているため沈黙している。この状態では恐らく溜まっている魔力も《亜》属性の魔法も使えないだろう。右腕と左足は使えないが通常の魔族レベルの再生能力、さらには自身の身体能力には問題がない。小娘一人ぐらいどうってことはない。だが目の前の溢れ出る生命力(プラーナ)から驚異的な圧力を感じていた。


「よくも師匠を…セシリアさんを!」


フルーは怒りで今の自身の状態が把握できていなかった。だがたしかに今ならばアッシュを倒せる。そう感じていた。フルーは拳に魔力と生命力(プラーナ)を込めてアッシュへと放つ。アッシュは遠距離の魔法ならば回避するのは容易であると考えた。だがアッシュが避けた瞬間に右足が吹き飛んでいた。フルーの拳から放たれたのは不可視の魔法、否魔法ではあるが魔法ではない何かであった。フルー自身も自分がやったことが理解できずに驚いていた。


「い、今のは…。」


フルーは修行の中で生命力(プラーナ)の使い方を習得した。魔法に生命力(プラーナ)を載せて攻撃をする。これが基本的な使い方ではあるがこの先に何かがあるとフルーは感覚で理解していた。ブランシェは自身の能力に重ね合わせるというスタイルで且つ自分の能力に関する奥の手があったが、フルーだけが何もなかった。このままではいけないと思いがむしゃらに修行に取り組んでいたがとうとうその何かを見つけ出すことはできず魔族との戦いに入ってしまった。しかし今のフルーの状態はこれまでとは明らかに何かが違うと感じていた。


「もう一度!はぁ!」


フルーは『風の拳(エア・フィスト)生命力(プラーナ)』を放つ。アッシュは今度こそ大きく回避する。するとアッシュが立っていた地面は何の前触れもなく穴が開いた。フルーは今ので理解できた。自身の『生命力(プラーナ)』が活性化している。意識をして取り込んでいるわけではなく、この場に存在する全ての『生命力(プラーナ)』がフルーに力をい与えているのだ。セシリアが、ブランシェが騎士団の皆がフルーに全てを託している。フルーはそれを理解し、自分が成すべきことそれはアッシュを倒すことであると再認識した。


「『風の拳(エア・フィスト)生命力魂(プラーナアニマ)』!」

「グワァァァァァ!!!!!」


生命力(プラーナ)』の力は魔法的な効果を強める。フルーの風を纏った拳はアッシュには認識できない速度で身体を貫く。アッシュは《亜剣レヴナント・ブレード》を前に掲げ防御の体制を取ったが、『風の拳(エア・フィスト)』によって放たれた不可視の風はそれを躱してアッシュの身体を貫いた。爆発的な『生命力(プラーナ)』を込めることで魔法に魂が宿り、まるで生物のように自ら考えて動く風になったのだ。


「これで終わらせる。」


アッシュは死が近づいて来るのを感じた。この戦いですでに二度目となるが先程よりもより現実的な死だ。《亜剣レヴナント・ブレード》はもう答えない。魔力が付き刀身が折れ剣としての機能を失っている。だがすでに自身の身体に交じっている要素を重ね合わせればどうにかなるのではないか、そう考えたのは確信があったからではない。だがこのままやられて死ぬよりはそれに賭けようと思ったのだ。アッシュは折れた刀身を身体に突き刺した。


「なっ…?!」

「ウォォォォォ!!!!!」


身体の中に入りこんでいる《亜剣レヴナント・ブレード》の一部と突き刺した《亜剣レヴナント・ブレード》が混じりあう。《亜剣レヴナント・ブレード》はアッシュの身体の中に完全に取り込まれていく。身体は大きく膨張し白髪の隙間から赤黒く鋭い角が生えてくる。意識は失われ大気が震えるほどの咆哮をあげている。


「魔獣ベヒーモス…?」


魔獣ベヒーモス、この世界ではおとぎ話に出てくる架空の魔物である。頭上には白毛が生えており、赤黒い角が生え紫の毛皮で覆われた巨躯を持つ魔物でその恐ろしい姿から魔獣と恐れられたとされている。実際にはこれはおとぎ話ではなく《亜剣レヴナント・ブレード》の本来の姿である。ある冒険者がこの魔獣ベヒーモスを倒し切れずに封印することになってしまった。それが《亜剣レヴナント・ブレード》になった。だがそれがどこかに消えてしまいおとぎ話になってしまったとういうのが経緯である。


「ブワァァァァァ!!!!」


理性を失っているアッシュは真っすぐにフルーの方へと向かってくる。フルーはそれを真正面から立ち向かう。だがそれを邪魔するようにフルーの脳内に声が響いた。


(回避して!)

「えっ?」


フルーは咄嗟の事で脳内の指示に従いベヒーモスの攻撃を回避した。小細工はなくただ突っ込んでくるだけのそれを避けるのは容易であった。だが意識を失っているアッシュは暴れている。このままでは治療中の騎士団員やセシリア、ブランシェは無事では済まない。再びフルーの脳内に声が響き渡る。


(私はパティ・テイクス《慈愛の勇者》よ。)

(《慈愛の勇者》様!?どうして私の脳内に?)

(私はここに眠っているの。そしたらこんなことになっていたわ。とにかく真正面から彼を倒してはダメよ。今の彼の身体には魔力はないけど『生命力(プラーナ)』が詰まっている。これが溢れだせばここにいる人々の生命力が奪われてしまうことになる。つまり死にます。)


パティは偶然にもアッシュと戦っていたここに封印されている。《慈愛の勇者》であるパティはありとあらゆる生物と心を通わせることが出来る。魔物であろうと魔獣であろうと。初めて対面する生物であってもその生態を分析することが出来る。


(一体どうすれば?)

(あなたの風の力を使えばあの魔族の身体を上空に持ち上げることがでる。そこで『生命力(プラーナ)』を打ち込み発散させれば皆助かるわ!)

(わかりました!やってみます!)


フルーは両腕に魔力と『生命力(プラーナ)』を込める。ベヒーモスは暴れまわっているが魔力と『生命力(プラーナ)』を込めたフルーの方へと向かってくる。フルーは再び正面から迎え撃とうとする。ベヒーモスは一段と迫力を増しながら突進してくる。


(フルー!)

(任せてください!)


フルーは突っ込んでくるベヒーモスを横に躱しながら尻尾を掴んだ。その勢いに腕が引きちぎれそうになる。だが魔力と『生命力(プラーナ)』を全て注ぎ込み両腕を補強する。それでも腕に走る激痛は抑えきれなかった。


「ぐっ!『北風神の嵐両腕ボレアス・テンペスト・ブラキウム』!」


ベヒーモスの尻尾を完全に掴んだフルーは両腕に纏った嵐の風でベヒーモスを浮かせて回転を始めた。遠心力で激しく回転していきその巨体を空中へと投げた。自身も地面を蹴り上げて風に乗り空に浮いたベヒーモスの前まで飛び上がった。すでに腕は限界を迎えているが今度こそ最後の魔法になる、魔力と『生命力(プラーナ)』を全て使い最後脳一撃を絞り出す。


「『北風神の嵐風極拳ボレアス・テンペスト・ウルティ・フィスト』!」


フルーはベヒーモスの横腹にひたすら拳を叩きこむ。溢れ出る『生命力(プラーナ)』を感じながら止まることなく何度も何度も何度も拳を叩きこむ。ベヒーモスの身体は『生命力(プラーナ)』に耐え切ることができなくなり爆散した。そのままフルーの身体に溢れんばかりの『生命力(プラーナ)』が襲い掛かる。特に人体に害はないが、『生命力(プラーナ)』を感じ取ることが出来るフルーにとっては雑音のように感じる。フルーはそのまま地面へと落下した。すでに使い物にならない両腕では受け身を取ることもできないし、魔力もない状態では魔法を使う事も出来ない。このままでは地面にぶつかるかに思われたが不思議な光に包まれたフルーは地面にぶつかることなく着地した。


(間に合ってよかったわ。よくやったわね。)


フルーは姿が見えなくなったパティの賞賛の言葉に笑顔を浮かべるとそのまま気絶した。‘’絶魔‘’のアッシュはセシリア、ブランシェ、フルーの三人によって倒されたのだった。



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