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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百六十五話 猫妖精

セシリアは胸元に忍ばせておいた《治療薬(ポーション)》を一気に飲み干した。先程の攻撃によるダメージは回復したが《亜》属性の効果が少しずつ現れている。魔力が失われているのだ。セシリアは相反する《聖》属性を《聖剣ガラティーン》のおかげで使用できるため《亜》属性を消し去った。今のアッシュはこれまでと違い明らかにスペックが上がっている。こちらも出し惜しみをしている場合ではないとセシリアが思った時、ブランシェの魔力が跳ね上がるのを感じた。


本気(マジ)でいかせてもらうにゃ!」


蹴り飛ばされたブランシェは受け身でダメージを回避した。しかし《亜剣レヴナント・ブレード》を拳で挟んだことにより《亜》属性の効果で魔力が失われつつあった。ブランシェは魔力が少ない方であり、このまま戦っていても長くは持たないと思い覚悟を決めた。ブランシェの能力である《猫妖精(ケットシー)の加護》は猫のような体躯のしなやかさと直感的な型に囚われない自由な動きなど『身体向上(フィジカル・ブースト)』のような効果が発動する能力である。だがブランシェは誰にも言っていない能力の秘密があった。猫妖精(ケットシー)という存在は一般的に知られていない。ブランシェも見たこともなければ会ったこともないが能力から何となくその存在を捉えている。猫妖精(ケットシー)というのはその名の通り猫の姿形をした妖精の一種であり、火精霊(サラマンダー)風精霊(シルフ)のような精霊ではないため属性は司っていない。とはいえ妖精もまたこの世界とは異なる世界に存在する物である。シャーロットの《魔眼》であれば観測することはできるだろう。


「はぁぁぁ!!!」


ブランシェは地面が割れるほどの魔力が溢れ出している。猫妖精(ケットシー)がもっとも優れている点はその身体能力にある。人間では持ち得ない俊敏性や跳躍力、それらを操る術がブランシェの能力である。そして魔力を解放することで一時的に能力を向上させることができるのだ。これまで秘密にしていたのはそれが諸刃の剣であり発動する機会がそもそもなかったということもある。魔力を解放するとそれまでセーブしていたリミッターが外れるため人間には本来できない動きが可能となる。当然、脳への負担も大きいため長くは持たない。ブランシェはあまり後先を考える性格ではないが、今ここでそれを使わなければアッシュには勝てないと悟ったのだ。


「『影斬り』」

「見えてるにゃ!」


ブランシェの表現は的確ではない。アッシュの動きは肉眼で追えていない。だが攻撃は当たっていない。それはブランシェが感覚で回避しているからである。現在のアッシュの動きは《亜剣レヴナント・ブレード》とが体内に混ざり込んだ影響で魔族の中でも最速といっていい。ブランシェもまた今が最も感覚が鋭くなっている。相手の動きに合わせて考えるよりも先に身体が動くようになっているのだ。


「『猫妖精(ケットシー)の爪斬り』!」

「『影斬り・裏刃』」


アッシュの正面からブランシェの爪が襲い掛かる。爪というのは魔力によって模られたものでブランシェの本当の爪というわけではない。アッシュはそれを身体を回転させながら迎え撃つ。《亜剣レヴナント・ブレード》を振り回しながら回転斬りの要領でブランシェの胴体を狙ったがブランシェはそれを爪で掴み取った。アッシュがそれを振り払おうとするがびくともしない。そして顔面に衝撃を受けた。


「ガァ!」

「『肉球の二重衝撃パッド・ダブル・インパクト生命力(プラーナ)』!」


フルーはレベルの違う二人の戦いをただ見ていることしかできなかった。ブランシェを師として鍛えてきたものの現在目の前で繰り広げられている光景は自分では到底及ばない。足手まといにならないようにこうして見ているしかなかった。一方でセシリアはブランシェが戦っている間に自身の魔力を練り続けていた。本気で戦う状態にするにはセシリアの場合、時間がかかる。《聖剣ガラティーン》の真なる力を引き出すには魔力を込めて対話することが必要である。セシリアが辿り着いた境地はそうすることでしか扉を開くことができないのだ。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!!!!」

「ウォォォォォ!!!!!」


ブランシェとアッシュのぶつかり合いは止まらない。ほぼ互角、ややブランシェの方が勝っているが、先に限界が来たのはブランシェの方であった。ブランシェの解放していた魔力が完全に尽きた。《猫妖精(ケットシー)の加護》による身体能力向上はその能力の性質上一芸特化というわけではない。本人の魔力量という弱点もあるが、一撃の強さというのも弱点の一つである。相手にダメージを与え続けるという攻撃回数は増やせるが相手も同じように身体能力の向上の能力だった場合最後は気力の勝負になる。だがそれはあくまでも一般的な話であり、魔族である場合こちらの魔力が尽きてしまえばやられてしまうだろう。ブランシェの鈍った動きをアッシュは見逃さなかった。


「『無影無踪』」


ブランシェの身体かから鮮血が溢れだす。薄れゆく意識の中で、ブランシェはセシリアの方を見た。続いてフルーの方へ目を向ける。短い時間ではあるが、師弟関係であったのだ。無事を確認して安心した。そしてセシリアの姿を見て彼女がアッシュを倒せるだろうと確信したためそのまま意識を失った。フルーは涙を流しながら急いでブランシェの方へと向かって行く。アッシュは何の感情もなく、向かってくるフルーへと刃を振るう。フルーが倒れこむブランシェを抱えた、その瞬間《亜剣レヴナント・ブレード》がフルーの首元へと振り下ろされた…はずだった。


「何!?」


アッシュは思わず声を上げた。なぜか自分は黒い魔力に守られており、天を仰いでいた。ゆっくりと立ち上がるとそこには斬り伏せたブランシェを抱えるフルーがいるだけだった。もう一人の気配が無くなっている。それに自分は今何をされたのかまったくわからなかった。


(《聖剣》の女は…)


再びアッシュは吹き飛ばされる。今度は吹き飛ばされるその瞬間に自身を包み込む光を捕えていた。そしてその光の中には《聖剣》を手にしているセシリアの姿があった。セシリアは《聖剣ガラティーン》の真なる力を解放させた。《聖剣》にはそれぞれ固有の能力がある。セシリアはこれまで《聖剣ガラティーン》がどのような能力を秘めているのか考えたことがない。なぜならばそこまでの力を引き出すほどの強敵に会ったことがないというのもある。セシリア自身そこまで《聖剣》について知っていることはないお。まだ聖騎士団が一つしかない頃に団長のローランが使用していたということは知っているがその程度だ。だからこそセシリアは《聖剣ガラティーン》と向き合うことにした。


「『聖剣(ガラティーン)暁耀光(アウルム)』!」

「『無影無踪』」


セシリアは全身を《聖》属性の魔法で包み込んでいる。《聖剣ガラティーン》はその魔力を使用することで高速移動と光線による遠距離魔法を発することができる。アッシュはセシリアの高速移動の動きを《聖》属性であるために観測できず、あまりの速さの魔法を観測できなかった。並の魔族であれば早々に消し飛んでいるが《亜剣レヴナント・ブレード》が《亜》属性の魔力で守っていた。二つの魔法がぶつかり合い周囲は爆風に包み込まれる。


「…なるほどな。」


アッシュは何度も攻撃を受けるうちにセシリアの高速移動に慣れてきていた。セシリアが高速移動をするには剣を鞘に納めている状態でなければならない。アッシュはこれ以上移動をさせないために《聖剣ガラティーン》と《亜剣レヴナント・ブレード》を重ね合わせる。セシリアは距離を取ろうとするがアッシュの黒い魔力がセシリアの魔力毎掴んでいる。


「おかげで近づく必要がなくなった。」

「…俺の射程だ。」


アッシュとセシリアはお互いに睨みあっている。フルーは致命傷を負ったブランシェを『治療薬(ポーション)』を使い治療を試みる。傷は治ったが目は覚めていない。フルーはセシリアとアッシュを見つめていた。二人の間には魔力だけが溢れ出ている。先に動いたのはアッシュだった。


「『無影無踪・零式』」

「『聖剣(ガラティーン)雷撃一閃ライトニング・ストラッシュ耀耀(ルミナ)』!」


二人の魔力がぶつかり合う。大きな爆発が起こり二人は爆風に包まれた。フルーはその爆発から思わず目を背ける。二人の存在は感じ取れなくなった。アッシュの圧力も感じなければセシリアの魔力も感じられなかった。爆発の後には何ものこっておらず、フルーはその場に立ち尽くしてしまった。


「一体どこに…」


瞬間、二人のいた場所に空から高速で何かが降って来た。それが何かはわからなかったが、その後にもまた空から落ちてくる物があった。《聖剣ガラティーン》であった。そしてすぐに黒い塊が空から降ってくる。刀身が折れた《亜剣レヴナント・ブレード》を手にするアッシュだった。右腕と左足が欠損している状態だった。つまり先に空から落ちてきたのはセシリアであるとフルーはすぐに理解することが出来た。


「セシリアさん!」

「残るはお前だけだな。」


アッシュは刀身の折れた《亜剣レヴナント・ブレード》をフルーへと向ける。その時フルーの体内から生命力(プラーナ)が大量にあふれ出した。フルーは無意識で周囲の生命力(プラーナ)を集めてその体を通し外に溢れださせている。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


アッシュはその勢いに驚き、後方へと距離を取った。


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