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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百六十一話 本当の《聖女》

アリアはセドリックに案内をされ《聖女》と呼ばれているクリア・セインズの元へと向かった。彼女はセルベスタ王国の中で最も大きい教会の中で昏睡状態でいる。セドリックが学生の時からなのでもう20年以上もこの状態である。どんな薬や魔法で治療しようと試みても彼女は目覚めなかった。


「彼女がクリア・セインズだ。」

「この方が…。」


彼女を見た時にアリアが驚いたのはまるで繭に閉じ込められているかのように薄っすらと張られた《聖》属性の魔力だった。それにまるで時が止まっているかののように衰えていないように見える。ただの昏睡状態というわけではなさそうだった。アリアは彼女の手をそっと握った。すると意識が遠のいていく。


(これは一体?)

(初めましてといってもここに人が来たのは初めてなのですけれど。)

(あなたがクリアさんでしょうか?)


アリアはたしかにクリアと会話をしている。だがお互いに意識だけの状態であり、姿形が見えているわけではない。クリアはアリアの話を聞いて何か納得したような表情になったことをアリアは感じた。


(私の記憶では最後に魔法の様な力を使ったところで止まっています。アリアの話だとすでに長い時が経っているようなので私はすでに死んでいるのでしょうね。)

(で、でもこうやって意識で会話できていますよ?)

(それも魔法の力なのかもしれません。《聖》属性というのは奇跡を起こす魔法なのではないでしょうか?)

(奇跡を起こす魔法…。)


魔法とはその存在が当たり前になっている。もちろん今のアリアにとってもそうである。だがクリアにとってはそうではなかった。魔力がありながら自身は魔法が使えなかった。しかし死の間際に初めて魔法が使えたのだ。結果、自身を犠牲にして仲間を守ることができた。これを奇跡と言わずしてなんというのかとクリアは考えている。アリアもどこか思うところがあり、クリアの奇跡を起こす魔法という言葉を噛み締めている。


(私はあなたにこれを伝えるために長らく生きていたのかもしれません。)

(ありがとうクリアさん。私何か掴めそうな気がする。)

(私もやっと役目を終えることができました。お礼を言わせてください。)


二人の意識が遠のいていく。アリアは目を覚ますとセドリックは涙を流しながらクリアの手を握っていた。クリアの心臓は止まっていた。彼女を包み込んでいた魔力は消え、安らかな眠りについたのだ。アリアは意識の中でのことをセドリックに話した。


「そうか…クリアは逝ってしまったのか…。」


セドリックはどこか悲しいような喜んでいるようななんとも言えない表情をしていた。アリアはそれをただ黙って見つめることしかできなかった。そしてクリアに教えてもらった魔法を使う上で大事なことそれを深く胸に刻み込んだ。


―――


迫り来る死の圧力がアリア達を押し潰そうとしている。アリアは走馬灯のようにこれまでのことを思い出していた。《大賢者》の能力を与えられ、学園に通い魔族と戦い様々な国へと行き仲間を集めた。そして今こうして魔族との最後の戦いに挑んでいる。イモータルが放った『死者の魂よ永遠なれデッド・ソウル・エターナル』これを防がなければこれまでの全てが無駄になる。何よりここにいる皆んなが確実に死んでしまう。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


奇跡を起こす魔法、それこそが《聖》属性の特徴であり本質である。ここにいる全ての人間を守るためにアリアはこれまでの全てを捧げる覚悟で魔法を放つ。そうでもしなければ奇跡など起こすことはできない。


「『|聖女に選ばれし者の祈り《クリア・セインズ・オラティオ》』!」


アリアが両手を合わせ地面へと座り込む。まるで教会で祈るようなその姿に一瞬その場にいる全員が硬直した。アリアから放たれた魔力はイモータルの魔力を包み込み消し去る。


「?!」


イモータルは表情には出さなかったが驚きを隠せなかった。目の前にいる矮小な人間達は自分の脅威ではなく好奇心すら満たされないそんな存在であった。だが、自分の魔力を相殺した。そしてその魔力はさらに自分の方へと向かってきている。ただの魔力であるが、これをそのまま受けるのはまずいと直感が言っていた。イモータルは足先から魔力を吹き出し空中へと高く舞い上がった。アリアはそっと手を開き立ち上がる。


「アリア君…まさか覚醒したのか…?」


セドリックは先ほどまでとは違うアリアの雰囲気に圧倒されていた。《聖》属性の魔力を全身から溢れさせている。無造作にという感じではなく、自然と呼吸をするように周囲の空気が安らかになっていくのを感じる。そしてアリア自身も不思議と自分が落ち着いているのを感じていた。これまでの《大賢者》の能力に加え、クリアとの邂逅を果たしたことで《聖》属性の使い手つまり《女神の使い》として覚醒していたのだった。


「これが新たな力…『大賢者・聖女(セイント)』あなたの卑劣な魔法には負けません。私が必ずあなたを倒します。」

「ほぉ…小娘が少々できるようになったか。面白い、ならばワシの相手してみせろ!」


イモータルは再び地面から死体を復活させる。アリアはそれを魔力だけで消し去る。一見お互いに押し合っているように見られるが、イモータルは死体から魔力を回収することで自身の魔力を増やすことができ、さらには先程の大魔法に繋げることが出来る。アリアの方が不利である…かと思われた。イモータルが異変に気付いたのはすぐだった。先程から倒された死体の魔力が自身の元へと戻ってきていないのだ。


「小娘…ワシの魔力を…!」

「今の私の攻撃は《聖》属性を極めています。《女神様》に最も近い魔法とも言えます。あなたのその『死霊魔術(ネクロマンシー)』はもう私には通用しません。」


死体をどれだけだしても『死霊魔術(ネクロマンシー)』そのものを解放されてしまうためイモータルは魔力の供給を止める。これまでに自身の魔法を止められるという経験をしたことがなかったために危機を迎えている。だがそんな状況にも関わらずイモータルは笑みを浮かべると大きく高笑いをしだした。


「ハーッハッハ、まさかこんな小娘にワシの魔法を攻略されるとはな。長生きはするものだ。」

「これでお前を倒すことが出来る。」

「元気がいいの若造が。だがお前はここまでだ。」


瞬間、オリバーの胸の辺りを黒い魔力が貫いた。オリバーは時が止まったかのようにその場に倒れこむ。セドリックは急いでオリバーの元へと駆け寄る。息はしている、心臓も動いている。なのにオリバーの身体は冷たくなっており、胸の辺りには邪悪な文様が浮かび上がっている。セドリックは『治療魔法(ヒール)』などの様々な回復魔法をオリバーの施すが効果は得られなかった。アリアも駆け寄り《聖》属性の魔力でオリバーを包み込むがオリバーの意識は失われたままだった。


「それはワシのもう一つの魔法。『老古(ウェートゥス)』だ。」

「『老古(ウェートゥス)』?」

「『老古(ウェートゥス)』はありとあらゆる物の老いさせる魔法。その若造は『老古(ウェートゥス)』によって精神を老いさせた。死んではおらんがまともに生きることもままならないだろう。ワシを倒す以外にその状態から戻す方法はない。」

「き、貴様!」


老古(ウェートゥス)』、イモータルが長年『死霊魔術(ネクロマンシー)』の魔法を使用することで死に触れすぎた結果発現した魔法である。現在の魔族の中で最も古くからいる魔族はヴァイスが倒された今イモータルだけになる。ヴァイスは初めて魔族になったが、イモータルは初めて魔族同士から産まれた魔族である。魔族は不老であるが、不死なわけではない。魔族にも寿命は存在するのだ。イモータルは死にゆく仲間を見て自らの魔法で死体を操っていく中で老いという概念について深く考えた。魔族はなぜ不老なのに不死ではないのか、そしてわかったことが魔族は年月が経つにつれて魔力が失われていく、それと同時に身体は若いままなので自身の老いに気付かず魔力を酷使してしまう。そのために寿命が来るのだと結論づけた。その考察は半分合っていて半分間違っていた。たしかに魔力を酷使してしまうが、その時期を過ぎればより大きくなる。そして身体もそれに適応して老化していくのである。それが旧種魔族と呼ばれる魔族が魔法を発現する理由でもあったのである。イモータルはこの事実を公にはしていない。この情報を話さないことで自身がもっとも古く最も強い魔族になれると考えたためである。


「この魔法に視覚はない。どんな生物も老いから逃れることはできないのだから。」


セドリックは冷静さを失っていた。まったく太刀打ちすることができない魔法であり、イモータルが言うように老いには逆らうことができないのだ。普段は落ち着いて判断できたはずなのにオリバーが倒されてしまったことでそれができなくなってしまっていた。イモータルを囲むように現れた魔法陣、その数1000。


「『炎の矢(フレイム・アロー)千重(ミル―プレ)』!!!!!!!!!!」


イモータルは炎の中に包み込まれる。しばらくして『炎の矢(フレイム・アロー)』がやむと中から黒い魔力によって包み込まれたイモータルが出てきた。そしてオリバーと同じように胸を貫かれてその場に倒れこんでしまうのだった。

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